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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第8話 世の中、不思議がいっぱい

10月26日

この日、僕はこう問いかけたくなった。
なぜこうなった?

「本日、ここのウエイトレスとして働く、西田神楽です。よろしくお願いします」

ここはプリエ。
朝の挨拶の時に、現れたのが神楽だった。

【どうしてお前がここにいる!!】
【知らないわよ。私も、今朝になってヘレナさんにここで働いてほしいって言われたんだから】

僕の念話に、神楽が呆れた様子で答えた。
どうやら、あの人の仕業の様だ。
本当に世の中不思議がいっぱいだ。
さて、今日はきらふぇすとやらの学校行事の前日らしい。

「いい? 放課後も手を抜いてはダメよ。放課後もまた地獄なのだから」

それが主任の言葉だった。
何時ものように昼のお弁当&昼食ラッシュを切り抜けた僕は、急ピッチで放課後になったら作るように言われたメニューの、下準備を澄ましていく。
昼休みの時に大勢来た生徒を裁き切って、疲労困ぱいしている神楽はへとへとになりながら、目まぐるしく動いていた。

【浩ちゃん~、地獄よ……ここは地獄よ~】
【僕が夜に学園内を見に行けない理由が、よく分かっただろう?】

神楽の叫びに、僕はそれだけ告げた。
この忙しさは、僕達でさえも初めてでなければ余裕でこなせるが、初めてだとかなりきつい。
こうなることを、一体誰が予想できるであろうか?

「すみません、お水下さい」
「ポテトまだですか?」
「はい、ただいま!」

お客からの言葉に、神楽は半ば投げやりに返事をしていた。
気持ちは分からなくはないが、それだと主任に怒られるぞ?
ここの主任は、とにかく厳しい。
業務態度が悪いウエイトレスには、容赦なく鉄槌を下す。
あ、神楽が捕まった。

「ぎにゃあああああああ!!!」

そして、鉄槌をもろに受けた。
その悲鳴は、とても悲痛な物だった。

(神楽、今日はお前にとって最悪な日になってしまったな)

心の中で、軽く同情をしながら、俺はオーダーされたメニューの料理を作って行くのであった。










お客の流れも一通り落ち着いた頃、僕はあるものを探すため厨房内を歩いていた。

「どうしたの? 浩介さん」
「ああ、神楽か。ちょうどいい、この辺にケーキはなかったか?」

ちょうど厨房に入ってきた神楽に、僕は問いかけた。
僕が捜しているのは、贅沢イチゴケーキだ。
なぜ、それを探しているのか。
それは、約3時間ほど前にさかのぼる









主任に呼ばれて伝えられた話では、どうも今回のキラフェスとやらで、プリエの料理を学生に知ってもらうために料理を賄うことになっている。
そして、そこで新作を出そうということで、僕に白羽の矢が立ったのだ。
新作の料理を一品作り、それを主任に食べて貰ってOKをもらう。
それが出来なかった場合は、僕は徹夜で働くことになる。
なので、当然僕は本気で新作料理の製作に当たった。
そして完成したのが、贅沢イチゴケーキだった。
もはや僕の十八番と化している、このデザートにすべてをかけたのだ。
お客のオーダーした料理と並行して作り、完成させるのに3時間ほどかかって完成させたこのケーキを食べて貰おうと、主任を探しに厨房を離れた。
その時間はわずか10分だ。
そして主任を連れて戻った時、ケーキはまるで最初から無かったかのように消えていたのだ。
そして今に至る。










「あー、あのケーキだったら私が食べちゃった」
「…………は?」

神楽の言葉に、僕はそれしか口に出せなかった。

「イヤー忙しかったから疲れちゃって、景気づけにと一口ね。とってもおいしかったな~」
「……」

神楽の言葉を聞いて、僕は妙に冷静になった。
冷静なのに体中が温かくなってくる。

「神楽」
「何? 浩ちゃん」

何故か巣に戻っている神楽だが、そんなことは僕には気にもならなかった。

「覚悟は、出来ているだろうな?」
「へ?」

僕の問いかけに、首を傾げる神楽だが。
僕はちょうど右手に持っていたフライパンを振り上げた。

「その腐りきった性根、叩き直してくれるわ!!」
「え? ちょっとま―「聞く耳持たぬ!!」―きゃあああ!!?」

僕の豹変ぶりに驚く神楽目がけて、フライパンを振り下ろす。
だが、神楽はそれを得意の身体能力で交わすと、一気に駆け出した。

「待て! このケーキ泥棒!!」

僕は、その後を追いかける。
こうして、僕と神楽の果てしない追いかけっこが幕を開けた。

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第7話 プリエの新人料理人生誕?

「皆さんに紹介する人がいます。本日、急きょ来ることになった方です」
「大森浩介です。ここでは料理人として、皆さんのお力になれればと思います。よろしくお願いします」

プリエの責任者の言葉に続いて、僕は自己紹介すると、お辞儀した。
すると、静かではあるが拍手が湧き上がった。
午前10時ごろ、理事長でもあるヘレナの指示で、僕はここの料理人として働くことになった。

「それじゃ、これからすぐにこのメニューを50個ずつ作ってくれるかしら? 出来るだけ早めに」
「分かりました」

僕は、厨房の主任の指示に頷くと、渡されたメニュー表の料理を作る。
そのメニューはすべてお弁当ものだった。
おそらく休み時間に買いに来る生徒たちの為だろう。
それから完成したのはチャイムが鳴った時とほぼ同時だった。
そして、間に合ってよかったと悟った。

「すみません! カツ弁当を一つ」
「あのー、日替わり弁当を下さい」

休み時間になるのと同時に、殺到する注文の嵐。
そして、ものすごい速度で減って行くお弁当の山。

(これはもしかして、追加を頼まれるかな?)

そう思いながら、僕はお弁当の追加を作る準備を始めた。

「大森さん、お弁当メニュー全品10個ずつ追加!」
「分かりました」

準備が終わるのと同時に、追加の指示が入り僕は素早く調理に移った。
この10分間の休み時間が終わった時には、総勢180個のお弁当のうち、30個ずつ残った。

「助かったわ、大森さん。でも、お昼休みの時が一番混むから気を付けて」
「わ、分かりました」

主任の忠告に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。
それから後、下準備などを済ませてお昼休みを迎えた。
その時点でも、やはりと言ってはあれだが、注文は殺到し、大忙しとなった。










夜、家に戻りすぐさま、九条家の料理人としての仕事を果たした僕は、宛がわれた部屋で、神楽と今後の事について話をしていた。

「それじゃ、あまりの忙しさに疲れ果てて、学園内をうろつけなかったって言うの?」
「まあ、そういう事になるな」

今日の成果を聞いた神楽は、呆れた様子でため息をつく。

「それって本末転倒でしょ? 私たちは、料理人の修行をするために来たわけじゃないのよ?」
「分かってるさ。だから明日からは気合を入れていくとする。僕も大勢向けの料理を短時間で作ることに慣れていなかったこともあるし。明日は大丈夫だろう」

僕の言葉に、神楽は『だったらいいんだけど』と不安そうにつぶやいた。

「ッと、明日の下ごしらえをしなければいけなかった。ということで、今日はお開きでいいかな?」
「うん、いいよ。本業の方を優先しすぎても、怪しまれれば本末転倒だからね」

神楽のお許しが出たところで、僕は部屋を後にして厨房へと向かう。

「こんばんは」
「ん?」

突然後ろから掛けられた声に、僕はその方向を見ると、寝着を着ているヘレナさんの妹であるリアさんが立っていた。

「これはリアさん。こんばんは」
「どこに行くんですか?」
「ああ、明日の朝食の下ごしらえをしようと思いまして」

リアさんの問いかけに、僕は敬語を使いながら丁寧に答えた。

「あ、そうなんですか。真面目ですね」
「いえいえ、これも仕事何で」

リアさんの心遣いが、ものすごく僕の癒しになる。
彼女の何かが、僕を癒してくれる。
これが彼女の力なのだろうか。

「それでは、失礼」
「あ、待ってください」

歩き出そうとした僕を、リアさんが呼び止める。

「ごめんね、お姉ちゃんが色々と無理をさせちゃって」
「いえ、慣れてみればかなり楽しいですよ。それと………」

僕は、そこまで言うといったん区切った。

「私はこう見えて貴方と同い年です。なので、敬語は不要ですよ?」
「え、えぇ!? 同い年だったの!?」

僕の言葉に、驚きながら言うリアさん。

(僕は、そんなに老けてるか?)

一瞬落ち込みかけたが、必死に耐えた。

「ええ、なので、敬語ではなく自然に話してください」
「うん、分かったよ。それじゃ、私も浩介君って呼んだ方がいいかな?」
「ご髄に」

リアさんの問いかけに、僕はあいまいな答え方だが、そう答えた。

「それじゃ、浩介君。おやすみなさい」
「はい、お休み」

リアさんはそのまま後ろを向いて歩いて行く。

「………ヘレナさんの無茶ぶり、そんな嫌いではないしね。それに、彼女のような破天荒な人は、嫌いではない」

誰もいない通路で、僕はそう呟いた。
そして、今度こそ僕は下ごしらえをするために厨房へと向かうのであった。
ちなみに、その日の夜は、疲労ですぐさま眠りにつくことが出来た。

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第6話 急転直下の展開

10月25日

朝僕はいつものように料理を作る。
九条家に料理人として来てから三日、少しは慣れてきたようにも感じた。

「お、もう出来上がってるな。さすがは元シェフと言う事か」
「ありがとうございます」

突然背後に現れた倉松さんにお礼を言いつつ、料理をトレーに乗せていく。
今度はそれを台車で運ばなければならない。
運ぶのは下っ端である僕の役目だ。
さすがは九条家、食材の質が違う。
殆どが高級食材だ。
………今度普通の食材を買おう。

「それでは、行ってまいります」
「頼んだぞ」

そして僕は、料理の配膳をしに行くのであった。










「お待たせしました。どうぞ」

アンティーク調の家具がある、大食堂についた僕は、早速料理を配膳する。
九条家の旦那様と奥様、そして娘のヘレナさんにその妹のリアさんの前に料理を配る。

「それでは、ごゆっくりと」
「待ちなさい」

一礼してから、台車を押して厨房へと向かおうとする僕を止めたのは、旦那様だった。

「ここに来てから三日は経つが、なかなか板についてきたようだな。これからも頑張ってくれたまえ」
「ありがとうございます。それでは」

旦那様のお褒めの言葉に、僕はお礼を言うと今度こそ大食堂を後にした。










その後、僕達も食事を済ませ、旦那様方の食べた食器を片付け終えた時だった。

「浩ちゃ……浩介さん、お電話です」
「僕に? ………すみません熊松さん。少し抜けます」

突然厨房にやってきたメイド服を着る神楽の呼び出しに、僕は後ろにいた倉松さんに声をかけた。

「おう、行って来い!」

倉松さんの許可を得た所で、僕は神楽と共に厨房を後にした。

「どう? そっちの状況は」
「こっちは順調だ」

しばらく歩いたところで、横を歩く神楽が聞いてくる。
それに対してそう答えると、神楽はため息をこぼした。

「良いな~、浩ちゃんは。私なんてメイド長の人に毎日怒られてるんだよ? 『敬語を話しなさい』って」
「いや、簡単なこと………でもなかったな、お前には」

神楽の性格を考えると、かなり難しいだろう。
神楽は縛り付けられるようなことは苦手なのだ。
いや、嫌いと言うべきかもしれないな。
だからこそ、今のこの場所は彼女にとってはここは苦痛なのかもしれない。

「はい到着。それじゃあね」
「頑張れよ」

足早に去って行く神楽の背中に声をかけると、受話器を手にする。

「はい、お電話変わりました大森でございます」
『あ、浩介ちゃん。これからちょっと理事長室に来てもらえないかしら?』

電話に出るなり、唐突にそう言ってくるのはヘレナさんだった。

「理事長室ってどこですか?」
『そうよね………分かったわ、今案内する人を向かわせたわ。その人に案内してもらいなさい』
「………了解」

さすがヘレナさんだ。
拒否権をさりげなく奪ってきている。

『それでは、健闘を祈る』

そう告げて電話は切られた。

「はぁ……」

もはや僕には溜息しか出なかった。










倉松さんに事情を説明して、出掛ける許可を貰い僕は、九条家の前に立っていた。

「大森 浩介さんですね?」

僕に掛けられた声、その声を僕は前に二回ほど聞いていた。
声のする方を見れば、やはりそこには紫色の髪に修道服のようなものを着ていて、その手には分厚い本があった。

「あ、はい。そうです」
「理事長であるヘレナから、あなたを理事長室まで連れてくるようにと言われてきました。メリロットです」

目の前の女性……メリロットさんは、事情を説明した。

「高月 浩介です。一応ここの料理人をやっています」
「ええ、存じ上げておりますよ。それでは行きましょうか」

そう告げると、メリロットさんはゆっくりと歩き出した。
そして辿り着いたのは、流星学園の校舎内にある場所だった。

「ヘレナ、連れてきましたよ」
「うむ、出かしたぞ」

ノックもなしに理事長室のドアを開ける彼女は、やはりヘレナさんの親友の様だ。
それにしても、時代劇風な事をちらちらと混ぜるのは、一体なんなんだ?

「よく来てくれたわね。さっそく本題に入らせてもらうわ」

ヘレナさんは、唐突にそう告げると、話を切りだした。

「実は、プリエ……ああ、よく言う食堂の事ね。そこの厨房で欠員が出たのよ」
「まさか……」

僕は、そこまでの説明で、今後告げられるであろう言葉を予想した。

「私が何を言いたいのかが分かるなんて、さすが浩介ちゃんね。そうよ。君にはプリエの厨房のシェフの役目を任命する」
「ちなみに拒否権は―「そんなものはない」―ですよね」

もう分かり切っていたことだ。
この人に常識は通じない。
良い人には違いないのだが、やってることが時々無茶苦茶になる。

「一つだけ質問を良いですか?」
「どうぞ」

僕は、聞きたかった疑問をぶつけることにした。

「何の目的で、私たちをここ九条家に呼んだのですか?」
「………あなた達が、九条家に来ることがふさわしいと思ったからよ」

僕は、何となくではあるがそれは建前であるような気がした。
そうでなければ、わざわざ店を潰す必要はない。
九条家ほどの力をもってすれば、潰すことが可能なのだと、この三日間で僕は思い知ることになった。
だからこその、考えだ。

「分かりました。では、あと一つだけ」

僕は、納得しておくことにした。
時が満ちればすべてが分かるからだ。

「あなたは、私達の敵ですか? それとも味方ですか?」
「………それはあなた次第よ」

僕の問いかけに、ヘレナさんは真剣な表情で答えた。
この時、僕は二人が味方であると微かに期待していた。

「プリエの厨房のシェフの件ですが、ありがたく拝命します」
「そう……それじゃ、よろしくね」
「失礼しました」

話もまとまり、僕は理事長室を後にしたのだった。

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第5話 なぜこうなった?

喫茶店にお客さんがたくさん来てくれるようになった。
これからも順風満帆にうまくいくであろうと、僕と神楽は思っていた。
だがそれは、開店から四日経った日に起こった。










僕はとある家の厨房にいた。

「新しく来た大森浩介です。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「うむ、私は料理長の倉松だ。ビシバシと行くから気を抜かないように」

僕の前に立っているコック服を着込んでいる40代の男性が、簡潔に自己紹介をすると、そう言ってきた。

「はい、よろしくお願いします!」
「よし、ではまずは料理の下ごしらえからだ。あれを1時間ですべて皮を向け」

倉松さんの指示のもと僕は山積みされていたジャガイモの前に行く。
そして僕は皮をむいて行く。
ちなみに神楽はメイドの仕事をしていた。
だが、僕はぽつりとつぶやいた。

「どうしてこうなったんだ?」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、なにも」

僕のボヤキに反応した倉松さんに、そう答えると、僕はじゃがいもの皮をむいて行く。
どうしてこうなったのか、それは今から三日ほど前にさかのぼる。















それは21日の午後の事だ。

「いらっしゃいませ」

一人の女性がお店を訪れた。
その女性は青色の髪をした女性だった。

「そうね、このティーセットを頂こうかしら」
「かしこまりました」

ケーキと紅茶のセットをこしらえて、女性の前にそれを出した。

「お待たせしました。ティーセットでございます」

女性は、紅茶を一口すする。

「うん、おいしいわ。上出来よ、マスター」
「ありがとうございます」

女性の評価に、僕はお礼を言った。
やはり褒められるのは嬉しくないわけがない。

「こっちもおいしい紅茶を飲ませて貰って嬉しいわ。また来るわね」

紅茶を飲み終えケーキを食べ終えた女性はそう告げると、代金をカウンターにおいて去って行った。

「何だかどこかのお嬢様のような感じだったね」
「ああ、さて、次のお客さんが来ている。てきぱきと動く」

そして、僕たちは再び注文された料理を作って行く。















さらに22日の午後。
ようやくお客の数も安定してきたときのこと。

「こんにちは」
「いらっしゃいま……っ!?」

お店を訪れたお客さんの接客していた神楽が固まった。

「どうした、神楽……っ!」

僕はそのお客を見た時、息をのんだ。
そのお客は………ここに来たときに会った学園の教師の女性だったのだ。

「私に何か?」
「あ、いえ。申し訳ありません。こちらへどうぞ」

いち早く我に返った僕は、女性をカウンター席に案内する。
神楽も続く様にしてカウンター内に入った。

「ご注文はいかがしましょうか?」
「そうですね………では、ティーセットをお願いします」
「かしこまりました」

今巷ではティーセットが流行っているのか? と考えながら、僕はケーキ(今日はショートケーキ)と紅茶を女性の前に差し出した。

「ティーセットでございます」

女性は、上品なしぐさでティーカップを持つと、紅茶を一口啜った。

「おいしいです」
「ありがとうございます」
「紅茶の淹れ方は誰かに教わったのでしょうか?」

女性は、僕に聞いてきた。

「ええ、私も紅茶はよく飲むので、母が淹れているのを見ていたら自然と覚えてしまいました」
「そうですか、とてもよく淹れられていますよ」

女性は柔らかく微笑みながら、そう言うと、代金を支払ってお店を後にした。

「………何か嫌な予感しない?」
「ああ、今晩は厳重に警戒しよう」

女性が去ったのを見て神楽が耳打ちするので、僕はそう告げた。
女性は、自然な様子で店内を見回していたが、あれは明らかに何かを調べているような動きだった。
結局その夜、予想していた襲撃はなかった。
だが、翌日僕が予想が現実のものになってしまった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


そこは『私立流星学園』のとある一室。
そこで二人の女性が、真剣な面持ちで話をしていた。

「やっぱり間違いないのね?」
「ええ、あのお店は外部から切り離されています。おそらくは外敵から身を守るための防衛手段でしょう」

青い髪の女性の問いかけに、紫色の髪をした女性が見解と共に答えた。

「それで、あの二人がメリロットが言っていた侵入者?」
「ええ、間違いありません」

青い髪の女性の問いかけに、紫色の髪の女性、メリロットと呼ばれた女性は断言する。

「それで、はっきりと聞くわ。あの二人はもしかして……」
「ええ、その可能性が高いと思われます」
「だとすると、目的はこのリ・クリエか、もしくはただの気まぐれか……」

メリロットの答えに、青い髪の女性は顎に手を添えて考え込む。

「どちらにしても、あの二人をこのままあそこに置いておくのは危険ね……なんとしてでも監視下に置かないと」
「そうですね。私の予想が正しければ、あのお二人は放置しておくのは危険だと思われます」

メリロットの答えに、青い髪の女性はしばらく考え込むと、どこかに電話をかけ始める。
その電話は割と早く終わった。

「これで良し、と」
「ヘレナ、あまり変なことはしないでくださいね」

ため息交じりにメリロットは、青い髪をした女性……ヘレナに忠告をした。

「分かってるわよ……ふふふ、明日が楽しみね」
「はぁ~」

どう見ても分かっていない様子のヘレナに、メリロットは再びため息をこぼした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「あの………もう一度言ってくれますか?」
「ですから、ここから退去してください」

結局昨晩は何の奇襲もなく、僕の取り越し苦労かと思って店を開けると、黒服の人達がたくさん店の前に立っていたのだ。
そして言われた言葉が先ほどの言葉だったりする。

「なぜ私たちが退去をしなければならないのですか? それ相応の理由をお教え願いますか?」
「も、申し訳ありません。守秘義務でお教えすることはできません。とにかくここは退去していただきます」

僕の殺気を放ちながらの疑問に答えようともせず、黒服たちは僕を追いだした。
家財道具すべてはあの人たちが処分するとのことだ。

(これって人権問題だろ?)

神である僕たちが、人権問題を訴えることが出来るかどうかは定かではないが、神楽は怒りをこらえるのに必死な様子だった。

「これは、マスターさんではないか」

呆然と荷物を運び出される光景を見ながら立っていると、突然横から声を掛けられた。

「貴女は一昨日のお客様ですね」

その女性は、一昨日お店を訪れた青い髪の女性だった。

「そうよ。ところで、お店は潰れてしまったのねぇ。残念だわ」
「申し訳ありませ――「しかし、そんなあなた達に朗報よ!」――え?」

お客さんをがっかりさせたことを、謝ろうとした僕たちに、女性はそう言い放った。

「あなた達にふさわしい仕事があるわ。料理もふるまえて、しかも住む場所も用意されるし、衣食住には不自由しない仕事場が!」
「え、えっと………その仕事ってなんですか?」

女性のテンションの高さに、僕は少しばかり引きながら尋ねた。

「それはね~、私に付いて来れば分かるわよん♪」

そう言うと、女性は僕達に背を向けて歩き出した。
まるでついて来いと言わんばかりに。

「ねえ浩ちゃん。どうする?」
「そうだな………話位は聞いてみるか」

神楽の問いかけに、僕はそう答えると、女性の後を急いで追った。










「ここよ!」
「これは……」
「何ともまあ……」

女性に連れられて辿り着いた場所は、今まで入ることが出来なかった流星学園の敷地内にある、大きなお屋敷だった。
表札には『九浄家』と書かれていた。

「おめでとう! 君達には料理人とメイドの仕事が与えられた!」
「「………」」

女性の言葉に、僕達は言葉も出なかった。

「何よ―、ちょっとはリアクションをしてくれてもいいじゃない~」

そんな僕たちに、女性は頬を膨らませながら抗議をしてきた。

「それで、どう? やってみない。二人にとっては、これ以上にない条件だと思うわよ」
【どうする? 浩ちゃん】
【何か狙いがあるような気もするが、このままだと住む場所がない。ここは言葉に甘えておくしかないだろ】

神楽からの思念通話に、僕はそう答えると、目の前の女性に返答を出した。

「宜しくお願いします」
「……お願いします」
「うむ、いい返事よ! あ、私の名前は九浄 ヘレナよ。流星学園の理事長だ、よろしくね」

目の前の女性……ヘレナさんはここのお屋敷の人だった。
そして、時より映画の軍曹のセリフっぽい口調になるのは、一体なんなんだろうか?
そんな疑問を胸に、僕は屋敷内に招き入れられた。
こうして、僕は九浄家の料理人に、神楽はメイドとなった。





本当に、どうしてこうなったんだ?

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第4話 開店/訪れし審査員?

とうとう訪れた開店日。
お客さんもたくさん来て、僕たちは大忙し………のはずだったのだが。

「来ないね。お客さん」
「言うな……神楽」

お客さんが誰もいない。
朝からずっとこうだ。
何がいけないのだろうか?
まさか、立地条件!?
もしくは、誰かの陰謀か!?
僕は必死に頭をひねる。

(……あ)

そして、一つの推測が頭をよぎった。

「神楽、ここを守るための結界レベルは、いくつになっている?」
「4よ」

神楽の答えですべてが氷解した。

「神楽、すぐに1まで下げろ」
「でも、そんな事をしたら脅威から守られなく――「さ・げ・ろ!」――わ、分かったわ」

僕は、強引に神楽に結界レベルを引かせた。
この結界レベル、4までされるとほとんどの人が中に入ることが出来なくなってしまうのだ。
拠点地を守るために掛けた結界が、お客が来ない要因になっていたとは………
僕は、ショックのあまり、少しだけかたまっていた。
そんな時……

「うわー、お客さん誰もいない」
「さっちん先輩、大きな声で言うのは失礼っすよ」

お店にやってきた第一号のお客の姿が、そこにはあった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「これで、キラフェスのケーキバイキングの出店のお願いは出せたかな」

流星町の商店街で、栗色の髪をした女顔の男子、咲良 シンとその横を歩くピンク色の髪をした女子の夕霧 ナナカ、そしてそのすぐ後ろを歩く銀色の髪をした女子のロロット・ローゼンクロイツの三人はスイーツ同好会のメンバー二人を引き連れて、資料を手に歩いていた。

「そだねー、でもちょっと早く終わったからどこかで休憩でもしない?」
「えっと……いいのかな、生徒会の活動中に」

ナナカの提案に、シンは不安げに聞く。
そう、この二人は流星学園の生徒会のメンバーなのだ。
ちなみにシンが生徒会長で、横を歩くナナカが会計、そしてすぐ後ろのロロットが書記である。

「いいのいいの、少しぐらい休んでもばちは当たらないって」

そう言う彼女の本心は、シンと少しでも一緒にいたいというのも少しではあるが含まれていたりする。

「あれー? ナナちゃん、こんなところに喫茶店が出来てるよ?」

そんな時、先行していた高橋サチホ……通称さっちんが、一点のお店に目を止めた。

「どれどれ……確かに見たことがないね『喫茶ムーントラフト』っていうお店は」
「新しくオープンしたのかな?」

そこは、浩介が経営しているお店であった。

「ねえねえ、ここに入ってみようよ」
「どうせここの『レアチーズケーキ』が目当てでしょ」

積極的に中に入ろうとさせるさっちんに、ナナカがため息交じりに呟くと、彼女はあからさまに固まった。
どうやら図星の様だ。

「おぉー! ハンバーグ定食があります~! これは入らずにはいられませんね!」
「分かったからロロちゃん少し落ち着こうね」

ハンバーグ定食を見て嬉しそうにはしゃぐろろっとを、ナナカは苦笑いを浮かべながら落ち着かせた。
そして、彼女たちは喫茶店の中に足を踏み入れた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


そのお客はさっちんと呼ばれた少女に、その奥にピンク色の髪をした少女、その横には銀色の長髪の少女、そして栗色の髪をした女顔の男子が立っていた。
服装からして、全員流星学園の生徒だろう。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

いつの間にかフロントに出ていた神楽が接客をしていた。

「あ、えっと……」
「5人です」

良い忍んでいる男子に代わってピンク色の髪をした少女が答えた。

「それでは、こちらへどうぞ」

神楽はそう言うと、彼女たちをカウンター席へと案内した。

「うわぁ、結構本格的なんだねぇ」

ピンク色の髪をした少女が、感心したようにつぶやいた。

「ご注文がお決まりでしたら、何なりとお申し付けください」
「はいはいはーい! ハンバーグ定食を下さい!」

僕がそう言うのと同時に、銀色の髪をした少女がものすごい勢いでオーダーをしてきた。

「ロ、ロロちゃん、そんなにあわてなくても分かってるって」
「あはは……ハンバーグ定食ですね。かしこまりました」

僕は苦笑いを浮かべながら、ハンバーグ定食の準備をする。
下ごしらえを済ませたお肉を、フライパンで焼く。
そして、しっかりと焼き色が付いたらお皿に盛りつけ、特性のソースをハンバーグに掛ける。
お膳の上にハンバーグの乗ったお皿を置き、さらにお吸い物やお漬物、ライスを置いて行く。
そしてハンバーグ定食は出来上がった。

「はい、お待たせしました。ハンバーグ定食です」
「おぉ~!」

ハンバーグ定食を見た瞬間、銀色の髪の少女が感嘆の声を上げた。

「頂きます~! あむ……おいしいです~、この味は一度覚えると病みつきになります!!」
「あはは、気に入って頂けて光栄です」

まるで子供のように喜ぶ少女に、僕は苦笑いを浮かべながら、しかし嬉しさをかみしめながら答えた。

(彼女………間違いなく天使族だな)

そんな事を考えながら。

「あ、私達はレアチーズケーキで」
「ぼ、僕お金持ってないよ!?」

ピンク色の髪をした少女の注文に、栗色の髪の男子が慌てた。

(無銭飲食か?)

そんな事を考えながらも、僕は、あらかじめ作っておいたレアチーズケーキをお皿に乗せて4人の前に出した。

「はい、レアチーズケーキです」
「いただきます」
「「「いただきます」」」」

ピンク色の髪の少女は礼儀正しくケーキを食べていく。

「こ、浩ちゃん」

小声で神楽が慌てた様子で表の方を見ながら声をかけてきた。
何だと思いながらその方向を見ると、視線が集まっていた。
僕達ではなく、今ケーキを食べているピンク色の髪の少女に。

「御馳走様でした」

そんな時、食べ終えたのか、ピンク色の髪をした少女は礼儀正しく呟いた。

「ねー、ナナちゃん。おいしかったねー。何点ぐらいかなー?」

すると、橙色の髪をした少女が唐突にピンク色の髪をした少女に囁いた。

「……69点」
「へ?」
「なッ!?」

突然告げられた言葉に僕は固まり、神楽は目を見開いた。
今、彼女点数を言ったような……素人なのに、本格派だなーと感心していると……

「ちょっとあなた! ど素人のくせに料理に点数をつけるなんて何様のつもりよ!!」

神楽がピンク色の髪の少女に向かって声を荒げた。

「料理の”り”の字も知らない小娘風嬢が、偉そうに――「うるさい」――ペプシ!?」

僕はとりあえず、大声で罵声を浴びせる神楽をメニュー表を振り下ろして黙せた。

「店の者が多大なるご無礼をおかけしました。本当に申し訳ございません」
「あ、いえ。その本当の事ですから」

何度も何度も深々と頭を下げる僕に、少女は優しく許してくれた。

「彼女は、ちょっとばかし気性が荒いことがありましてね、時たまこうなるんです。皆様も申し訳ありませんでした」
「び、びっくりしたよー」
「これがいわゆる、鬼に金づちですね」

僕の謝罪に、橙色の髪の少女は肩を落としながら呟いた。
どうやら本当に驚いたらしい。
それにしても、銀色の髪の少女の慣用句、微妙に間違ってないか?

「ところで、どうして69点なのか……説明していただいてもよろしいでしょうか? 今後の参考にしたいので」
「えっと………レアチーズケーキのチーズに混ぜてある牛乳が、チーズの甘みをうまく出しています。ですが、少々後味が悪く感じます」

少女の言葉は意外にも非常に役に立った。

「なるほど………おそらくはチーズケーキの甘みをうまく引き出す牛乳の量が多すぎたんですね。今度は量を減らしてみますね。ご意見ありがとうございます」

僕は、もう一度少女にお礼を言った。

「ところで、あなた方は生徒会の方ですか?」
「え!? どうして分かったんですか!?」

僕の問いかけに、男子が驚いた様子で聴いてきた。

「勘です」

本当は、銀色の髪の少女の情報を調べたからとは言えない。

「その生徒会のメンバーは、何人でしょうか?」
「えっと………5人です」
「そうですか………ちょっと待っててくださいね」

僕は、そう告げると、フライパンで牛肉を焼く。
その牛肉をお持ち帰り用の使い捨て容器に入っているご飯の上に盛り付ける。
そして、レアチーズケーキを取り出して牛丼と一緒に袋に入れると、また使い捨て容器に入っているご飯の上に牛肉を盛り付ける。
それを何度も繰り返して、大きな袋の中に15個分のそれを入れると、彼女たちの前に差し出した。

「あの、これは?」
「これは当店自慢のスペシャル定食のお持ち帰り用です。これを生徒会の皆様と、ご両親の方と食べてください」

栗色の髪の男子の問いかけに、僕は丁寧に答えた

「でも、これは頼んでいませんが………」
「あ、それは先ほどのお詫びとご意見のお礼のしるしです。なので、料金は結構です」

僕の言葉に、5人が驚いた様子で僕を見てきた。

「ですが、それ以外のご注文に関しては料金は支払っていただきますので」
「あ、はい。えっと………」

男子は、何故か戸惑った様子で言葉を詰まらせた。

「あ、申し遅れました。私、当店ムーントラフトのマスターの、大森 浩介と申します。そして、そこに転がっているのはウェイトレスの西田さんです。今後もどうかご贔屓に」
「咲良シンです」
「夕霧ナナカです」
「ロロット・ローゼンクロイツです」

僕が名前を名乗ると、男子…咲良君とピンク色の髪の少女、夕霧さん、そして銀色の髪の少女のローゼストイツさんが名前を名乗った。
ちなみに、他の二人はすでに外に出ていた。

「「「ありがとうございます」」」
「いえいえ、こちらこそ」

そして、彼女たちはお店から去って行った。

「何とも異色な奴らだな」

僕はボソッと呟いた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「お、おいしい!」
「うん、とてもまろやか~」
「わーい、牛丼だ―!!」

おいしそうにシンたちが持ってきた牛丼を食べている副会長である、金色の髪の少女、聖沙・ブリジッタ・クリステレスと、生徒会相談係で青色の髪をしている少女、九浄 リア、そして魔族のサリーちゃんの三人を見ているシンたちの姿があったとかなかったとか。
そして、このスペシャルランチが、浩介達の運命を大きく変えることになることに、まだ誰も気づいてなかった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


開店から翌日。
今僕達は、非常にあせっていた。
なぜならば……

「お客さんがたくさん来てるよ!?」
「しかも、来ている人全員レアチーズケーキを頼んでいるし?!」

お店にお客さんがたくさん来るようになったからだ。
しかも、今お店は満席状態だ。

(一体何が起こったというんだ?)

僕は、恐ろしいまでの代わり様に、混乱しながら料理を作って行くのであった。

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