健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第36話 正直な心

今俺は、背中に生えた大きな翼と霊力で空を飛んでいる。
俺の両手に握られている四本のひもの先には……。

「うっひょ~、見晴らしが良いな~」
「だが、少々不安定でござるな」
「ここでまさかお茶を飲めるとは、思ってもいなかったでござるよ」

大きなかごの中で、まったりと和んでいるユキカゼやダルキアン卿、ジェノワーズやガウル、シンクに姫君、そしてエクレとリコッタにレオ閣下がいた。
なぜ、こうなっているのかと言うと今から10分くらい前にさかのぼる。









魔物を無事に倒すことのできた俺達は、俺の霊力を使い怪我をした者達に治癒を施してた。
そのおかげか、怪我を指摘を失っていた人たちは意識を取り戻したのだ。
だが、そこで一つだけ大きな問題が生じた。
それは、疲労と怪我でフラフラ状態になった人たちをどうやって連れて行くかだ。
歩いて行かせると言うのは残酷すぎたので、俺が出したのはひもがついた大きなかごだった。
ゴドウィンは歩けるとのことで、かごに乗ったのはそれ以外のユキカゼやダルキアン卿、ジェノワーズの三人にガウルと、シンクに姫君、エクレとリコッタにレオ閣下の11人と言う大人数だ。
そして今に至る。

「貴様ら! 人が苦労している中、何まったりと和んでるんだ!!」
「お前は怪我をして疲れている姫様に、歩けと言う気か!」

エクレの的を得た反論に、俺はそれ以上何も言えなくなった。

「って、そこの三馬鹿! 暴れるな!!」
「馬鹿って言う方が馬鹿」
「そうやそうや!」
「……はぁ」

俺の注意に反論するジェノワーズの三人に、俺は思わずため息が出た。
エクレの気持ちがとても分かったような気がした。

「しかし、空を飛べるとはすごいでござるな渉殿は」
「それはどうも」

ダルキアン卿の感嘆の言葉に、俺は愛想なくお礼を言う。
どうして俺がここまでごねているのか、それはかごの重さだ。
どんなに軽い人が乗っても、それが11人となればかなりの重さだ。
しかもその重みは俺の手にずっしりと来ているのだ。
もし一本でも紐を離せばかごは不安定となり、乗っている人たちを危険にさらすことになる。
俺達が向かっているのはフィリアンノ城。
そこまであともう少しと言うところまで来ていた。
だが実際問題俺の意識はもうろう状態だった。
霊力を大量に使ったのもあるが、神格を失ったのもまた大きな要因の一つでもあった。

「大丈夫か? さっきから微妙に揺れているが」
「………大丈夫だ」

俺の身を案じてくれるエクレに感謝しながら、俺は最後の力を振り絞る。
今ここで俺が意識を失ったら全員が怪我では済まなくなる。
そしてようやくフィリアンノ城に到着した俺は敷地内でゆっくりと下降して行く。
急下降すると危険だ。

「はい、到着だ」
「お疲れでござる、渉殿」
「ありがとう、わた―――――」

(ッく、もうダメ……だ)

俺は誰かのお礼の言葉を聞きながら、その場で意識を手放した。










「ん……」

次に俺が目を覚ますと、そこはフィリアンノ城の俺に割り当てられた部屋だった。
窓から差し込むオレンジ色の光が、今の時刻が夕方であることを告げていた。

「目が覚めたか」
「……エクレか」

声のした方……俺のすぐ横を見ると、椅子に腰かけたエクレの姿があった。

「何だ、私では不満か?」
「いや、そう言うわけではないが……」

エクレの様子に違和感を感じつつも、俺は聞きたいことを尋ねた。

「俺、あの後どうなったんだ?」
「あの後、倒れた渉を私とスットコ勇者で部屋まで運んだ。それと……」

エクレの答えによれば、意識を失った俺をシンクと一緒にエクレが運んでくれたようだ。
そしてその間姫君とレオ閣下による謝罪会見のようなものがあったらしい。

「しかし、ここは何だか雰囲気が違うな」
「そうか?」
「そうに決まっている。何だか外と世界が違うような気がする」

俺はエクレの感受性の豊かさに、驚きを隠せなかった。
世界が違うと言うのは紛れもない事実だ。
なぜなら、俺が回復しやすいようにこの部屋を、簡易的に天界化させてあるからだ。
それが分かるにはかなりの感受性が必要だ。
理由は分からないが、そうらしい。

「その……悪かった」
「ん? 何がだ」

突然下を向いて俯いたエクレに、俺は上半身を起こした。

「渉の胸を貫いたことだ」
「あぁ~、あれか。それなら別に何にも思ってない。逆に感謝してるぐらいだ」

エクレの口から出た言葉に、俺は思い出しながら言うと、最後にそう言った。

「もしエクレがやらなかったら、全員は助かってもなかったし、俺もこうして話すこともできなかっただろう」
「……お前は本当に馬鹿だ」

俺の言葉に、絞り出すようにして呟いたエクレの言葉に、俺は思わずこけた。

「言うに事欠いて馬鹿かい」
「馬鹿も馬鹿、大馬鹿だ! 自分を犠牲にして何になると言うんだ!!」

俺の胸ぐらをつかんで叫ぶエクレ。
だが、すぐにハッとすると、手を離してばつが悪そうに後ろを向いた。

「犠牲失くして事は成し遂げられない。であればその犠牲は俺が最適だ」
「……それは、お前が世界の意志とか言う神だからか?」

エクレの言葉に、俺は息が止まりそうになった。

「どうして、俺の真名をエクレが」

俺が世界の意志であることは、レオ閣下にしか言ってないはずだ。

「レオ姫から聞いた。お前が何者であるかを」
「そうか」

なぜか俺は心がすっきりとしていた。
今までにないほどの清々しい気分だ。

「一つ訂正、俺が自分を犠牲にするのは神だからと言うのもあるが、俺自身の償いだ」
「償い?」

エクレの言葉に、俺は無言で頷いた。

「昔の俺……神になる前だが、極悪非道の事をしたんだ。それの償いだ」
「………」

俺の言葉に、エクレは何も言わない。

「それにしてもエクレは信じるんだな、俺が神であると言う事」
「信じるも何も、あの姿を見れば納得がいく。それに渉るが規格外であったことにも納得できる」

やはり、神様=白い翼と言う図式は、全世界共通らしい。

「ありがとな、エクレ」
「え?」

突然の俺のお礼に、エクレが声を上げた。

「エクレのおかげで、俺を束縛していたものが無くなった。自由になれたんだ」
「………」
「それと、それに伴って一つ重要な事をエクレに言わなければいけない」

俺は無言のエクレに、そう声をかける。

「俺は今まで自分の気持ちに背を向けて生きてきた。俺自身にある責務を理由にしてな。だが、その責務もなくなった今から、俺は自分の気持ちに素直になって生きて行こうと思うんだ」
「そうか。それで、それが私に言いたい事と、どういう関係がある?」

俺の前置きに、エクレが首を傾げながら問いかけてきた。

「そうだな。……エクレ」
「な、何だ?」

訝しげに返事をするエクレの顔を真正面から見て、俺は自分の素直な気持ちを告げた。

「俺は、エクレの事が好きだ」
「……………え?」

俺の気持ちに、エクレはすっとんきょな声を上げた。

「勿論、一人の女性としてだ」
「………!!!」

俺の言葉の意味を理解したエクレは、顔を赤くした。

「あー、悪い。俺って不器用だからあまり気の利いた言葉が言えないんだ」
「あ………その……」

ここまで顔を赤くして狼狽えている彼女を見るのは、初めてのような気がする。

「まあ、嫌なら忘れてくれ」
「いや……ではない」

エクレは小さな声だが、呟いた。

「え?」
「そ、その私も……お、お前の事が、す、すすす好きだ!」

今度は俺が驚く番だった。
まさか、俺の一方的な気持ちが受け取られるとは、思っても視なかったからだ。

「そうか………」
「~~~ッ!!」

エクレは恥ずかしさのあまり、顔を赤くしていた
そんなエクレに俺はベッドから起き上がると、彼女の前まで移動した。

「エクレ」
「な、何だ!」

俺はエクレにすっと右手を差し出した。

「色々と問題もあるかもしれないが、これからも宜しくな、エクレ」
「……ああ」

エクレはそう答えながら俺の右手を握った。
それは、俺とエクレが恋人と言う関係になったと言う意味でもあった。

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