しばらく進むと、結界のようなものを感じた。
「この魔力反応……どこかにいるな」
「上だ!!」
執行人の声に、俺は上空を見上げた。
そこにいたのは、はやての姿をした”マテリアル”だった。
いや、髪の色が銀色なのが本物(はやて)との違いだ。
「ふふ……あはははッ!! 力が……魔導が漲る」
ちなみに言葉づかいもだが。
「集え、闇の欠片よ。我が身に捧げる贄(にえ)となれ!」
離れていても感じるほどの膨大な魔力量。
それは、目の前にいる人物が強敵であることを告げていた。
「……まずいな」
それを見ていた執行人が舌打ちをしながら呟く。
「真人、ここは引き返し応援を呼ぶぞ」
「なんでだよ!」
俺は執行人の退却の指示に反発した。
「見てわからないか? こいつはお前一人が倒せる相手ではない! ここは一旦逃げて応援を呼ぶべきだ」
確かに執行人のいう事は正しい。
勝てる見込みがない敵だ。
だが!!
「だけど! 俺だって男だ。だから戦う………俺は今まで色々な困難を乗り越えた、それを俺は無駄にはしたくないんだ。それに強敵だからって逃げたら男が廃るしね」
「真人……」
それは俺の決意だった。
俺が今まで遭遇したピンチや、戦いはすべて無意味なものではなかった。
それを証明したいのだ。
「と、ここで逃げたら執行人のマスターとして失格だし!」
最後にそう付け加えた。
そんな俺の言葉を聞いていた執行人はフッと笑った。
「たく、お前は本当に最高の奴だ。今まで秘密にしていた究極の方法がある」
「それを使えば、あいつに勝てるのか?」
俺の問いかけに、執行人は”おそらくだがな”と呟きながら頷いた。
「何なんだ? その方法って」
「ユニゾンだ」
「ユニゾンって、あの融合機と合体するみたいなやつか?」
俺の言葉に、執行人は苦笑いを浮かべながら頷く。
「詳しい説明は省くが、これを使えば、真人の能力に俺の能力が追加されて、異論上では勝てる可能性がある」
「だったらそれで――――」
俺の言葉を執行人が遮った。
「しかし、その分だけリスクがある。もしこの融合が失敗すれば、お前は僕と共に死ぬことになる。それでもやると言うのか?」
執行人の”死ぬ”と言う言葉を聞いたら、昔の俺であればすぐにやめていただろう。
しかし、今の俺は違う。
「ああ、俺は昔の俺ではない。それに俺は執行人を信じている。だって、俺をここまで導いてくれたんだ。失敗なんてものはないよ」
「………では、やり方を説明しよう。まずは片手を前に出して」
執行人に言われた通りに、左手を前に突き出すように掲げた。
「その手に僕の手を重ねる」
「………その次は?」
俺は執行人の手を初めて握って感じた。
とてつもなく冷たい。
それはまるで氷点下の冷血な人物のような印象を持った。
「一斉にこう言うんだ。”ユニゾン・イン”と」
「分かった」
俺はそこまで言うと、一旦深呼吸をした。
「では、行くぞ。準備は良いな、マスター?」
「ッ!? ああ、大丈夫だ」
俺は執行人が初めてマスターと呼んでくれたことに、嬉しさがこみ上げた。
なぜなら、今まで俺を呼ぶときは名前だったからだ。
それだけ、俺は執行人に認められたという事だろう。
「それでは、行くぞ」
「「ユニゾン・イン!」」
そして、俺と執行人はユニゾンした。
「どうだ? 不具合とかは出てないか?」
「ああ、それどころか力が漲ってくる」
ユニゾンした俺は、その感覚に酔いしれていた。
体の中から温められているような感じがして、両手両足には力が漲ってくる。
さらには、体が馴染んでいるのだ。
その体は、俺を動かそうとする。
おそらく、執行人の経験値が反映されているのだろう。
とにかく快適だった。
「融合率、95%を超えたか………なるほど、彼こそこの僕にふさわしいマスターであったのか」
俺の頭に、執行人の声が響いて聞こえた。
「さあ、行こう! すべての戦いを終わらせるために」
「了解だ、我が主」
そして俺は……いや、俺達は強敵の前に躍り出た。
「珍しい贄が迷いこんだものだ」
「軽口を叩けるのもそこまでだ!」
『貴様は、ここで消える運命だ』
目の前にいる少女に、俺と執行人は挑発する。
「ふん、穢れた器と塵芥に何が出来よう?」
「出来るではなく、やるんだよ。そんな事も分からないのか? 馬鹿者」
俺は少女にそう言い返してやった。
すると、俺の言葉を聞いて怒り心頭に言い返してきた。
「貴様、我が王たる力を持つ、”闇統べる王”を馬鹿呼ばわりするとは……覚悟はできておるのだろうな?」
『それはこっちのセリフだ。お前は言ってはならぬことを口にした。その言葉を、僕らの力の前で後悔させてくれる!』
闇統べる王に、執行人が言い放つ。
と言うより、かなり怒りが含まれている。
「なんとでも言うがよい。我は貴様らを倒し、それを糧に心地よい暗黒で永遠に生きるのだ!」
闇統べる王の目的は、おそらくこの世界を闇で覆い尽くすことだ。
「そんなことは、この俺達がさせない」
『さあ、行こう我がマスターよ』
そして、俺と執行人の決戦が始まった。
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