「ん……」
気が付くと俺はどこかの部屋に寝かされていた。
そこがすぐにアースラであることに気付く。
「目が覚めたか」
「し、執行人!?」
俺に声をかけたのは、執行人だった。
その表情はいつにも増して厳しいものだった。
「闇の書の意志は!?」
「落ち着け、順を追って説明する」
起き上がろうとする俺を抑え、執行人は説明を始めた。
まず、俺と対峙していた闇の書の意志はいつまでたっても戻らないのを不審に思った真人が駆けつけた際には、弱ってはいたが動いていたらしい。
そして執行人に倒れている俺を、安全な場所まで避難させるように指示を出したらしい。
そして闇の書の意志に真人が止めを刺したと言う事だ。
何だか良いとこ取りをされた気分だ。
「お前は今回の敗因を何だと考えている」
「………」
執行人の問いかけに答えることが出来なかった。
覚悟はできたし、固有結界だってちゃんと展開出来た。
問題はないはずだ。
「中身がないくせに固有結界とかを使ったからだ」
「……どういう事だよ」
俺は執行人に問いただした。
そんな俺の様子に執行人は呆れた風にため息をつく。
「固有結界の中で、お前の使うタイプの物は心象世界を映し出すもののはずだ。違いはないな?」
執行人の言葉に、俺は無言で頷いた。
「しかし、お前は中身が空っぽだったために心象世界を形成するほどの物がなかった。なのに強引に展開させたから暴走を起こして結界の影響を受けて倒れたんだ」
「一体俺はどうすればいいんだよ」
もう何が何だかが分からなくなってしまった。
もうこれ以上出来る事は、俺にはない。
「お前はようやく中身に具材が入り始めたのだ。鍛錬と実践を欠かさなければ満足に使えるようになるだろう」
「………理不尽だ」
俺は気が付くとそう呟いていた。
「あいつは俺と同じ素人のはずなのに、俺以上の強さを持っている。こんなの不公平だ!」
「何時だって世の中は不公平で理不尽さ。だがしかし、それを受け入れる者と受け入れない者とでは大きな差がある」
俺の嫉妬に近い言葉に、執行人は諭すような口調で答えた。
「さらに言えば、あいつには魔法を始めた当初から”覚悟”があった。だからこそ魔法をどんどん習得することが出来、強くなれたのだ」
「………」
俺は何も言えなかった。
あいつと俺の”差”。
今まで全く考えたことがなかった。
俺は転生してチートな能力を手にしたことに浮かれてただけ。
だが、真人は何かしらかの大きな選択をしたのだろう。
だからこそ俺達の力には差があるのだろう。
「まあ、そう言うところだ。覚悟がしっかりと定着するまではあまり使わない方がいいな。何度も言うがお前には中身がない。そんな状態で固有結界を使うなど、命取りもいいところだ」
執行人はそう告げると、部屋を後にした。
(俺自身の覚悟、か……)
俺はそのことだけを頭の中で考えていた。
この後、この事件は闇の書残滓事件と名付けられたらしい。
この事件は俺にとってレベルと、新たな課題を知らしめるものとなった。
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