ある日、俺は親のお使いで翠屋と言う喫茶店でケーキを買うように言われた。
「いらっしゃいませー、て、真人君!?」
「どうも」
翠屋に入ると、そこにはなのはがいた。
(そう言えば、なのはの両親は喫茶店を経営してるって言ってたっけ)
俺はそれを思い出しながらなのはに挨拶を返した。
「どうしたの?」
「いや、ケーキを買いに来たんだ」
不思議そうな表情を浮かべて聞いてくるなのはに、俺はそのまま答えた。
「あ、それと俺あまりケーキに関して詳しくないから、なのはのおすすめする物を適当に選んでくれるか?」
「う、うん」
なのはは、次々とケーキを選んでいく。
ケーキの名前を見ても、どういう意味なのかがさっぱり分からない。
「そう言えば、お兄さんは?」
「お兄ちゃんなら、今お出かけ中だよ」
俺はなのはの言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
前に一度なのはの家に来たことがあったが、その時にお兄さんから猛攻撃されたからだ。
「お前か! なのはにちょっかいを出す輩は!!」などと叫ばれながらだ。
それ以来すっかり苦手になってしまった。
「あれ? 君は真人君じゃない!」
「へ?」
突然声に、俺は思わず身構えた。
出てきたのは、母親に見えないくらいに和解、なのはの母親だった。
確か桃子さんだったっけ?
俺の2番目に苦手な人だ。
「ご、ご無沙汰しています」
「そうよ~。あ、そうだまたあれ、やってくれないかな?」
「お断りします!!」
俺は必死に拒否した。
これが苦手な理由だ。
桃子さんはよく俺に女装をさせるのだ。
それはもう、俺の中では一生のトラウマものだ。
「そう、残念」
本当に残念そうにつぶやく桃子さんに、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ところで、二人に頼みたいことがあるのよ」
「頼みたい……」
「事、ですか?」
そう、それはある意味天国と地獄のチケットだった。
「ご、ごめんね真人君。私のお使いに付き合わせちゃって」
「いや、気にしないでいいよ」
俺達への頼みごとと言うのは、お使いだった。
それはあくまで、なのはへのお使いであり俺は荷物持ちだった。
桃子さん曰く、「男の子だから女の子をエスコートしなくちゃ♪」とのこと。
「そう言えば、執行人さんはどうしてるの?」
「ああ、あいつならたぶんどこかで見えないのをいいことに、自由気ままに飛んでいたり驚かせて遊んでいたりするかもな」
しかも執行人ならやっていそうで怖い。
「あ、あはは……」
さすがのなのはも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ねえ、真人君は管理局には入らないの?」
「管理局か………今考えてるところなんだよな」
そう、俺は今早すぎる人生の転機を迎えていた。
俺の持つ人ならざる力”魔法”……
これを生かすには、管理局と言う警察のような組織に入らなければならない。
もちろん、管理局には入らずに普通の人として過ごすことも選択肢だ。
これに対して執行人は『全てを決めるのはお前自身だ。僕はただマスターの決めた通りに従っていくだけだ』と答えるだけだった。
要するに、俺自身で決めろと言う事だ。
「魔法の力を使っていたのだって、生きるためだし、管理局に入りたいというほどの理由にもならないもんな」
それが、俺が一番頭を抱える理由だった。
きっと執行人が聞いたらくだらないと言われそうだが。
「でも、私は真人君が管理局に入ってくれるとうれしいかな」
「なのは……」
この時、俺はなぜか自分の悩み事がまるで水が流れるように解消していくような気がした。
「あ、もしかしたらフェイトちゃんに相談してみるといいかも。フェイトちゃんはね、管理局のリンディさんとクロノ君と一緒に住んでいるから」
「ありがとう」
俺はなのはにお礼を言った。
「………あの、なのは」
「何かな? 真人君」
俺は、なのはに自分の想いを打ち明けようとした。
「………何でもない」
「え~!? 何それ」
俺の言葉に、なのはが不満そうな表情を浮かべる
(ダメダメだな、俺は)
俺は心の中で自分の度胸のなさに呆れてしまった。
だが、自分の気持ちは分かったのだ。
あとはそれを切り出せる日が来るようにするだけだ。
こうして俺のダブルお使いは終わったわけだが……。
「高町恭介、推して参る!!」
「ノォォォォ!!!」
翠屋に見事に鉢合わせになったなのはのお兄さんに、決闘を申し込まれる羽目になってしまった。
まさに天国と地獄だった。
と言うより、桃子さんこれを狙っていたような気が……。
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