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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第22話 覚悟

俺は大きなホールの階段のある場所で、外を見ていた。

「あれがワルプルギスの夜か。何ともまあ凄まじいものだ」

俺は一人でつぶやいていた。
他のみんなは外にいて貰っている。
それは、ある目的のためだ。

「………」

俺は左手を見る。
その手はかすかにではあるが、”薄く”なっていた。

「もう時間がない。せめて、この世界を……まどか達を救うことが出来るまでは、持ってほしいものだな」

俺は静かに呟いた。
俺自体が、この世界に留まれるほどの力が無くなり始めている証拠でもあった。
そんな時、足音がしたので、俺はそっと物陰に隠れた。
やってきたのは、まどかとキュウベぇだった。

「ほむらちゃんが一人でも勝てるっていうのは、ホント?」
「それを否定したとして、君は僕の言葉を信じるかい? 今更言葉にして説くまでもない。その目で見届けてあげるといい。ワルプルギスを前にして、暁美ほむらがどこまでやれるか」

まどかの言葉に、キュウベぇが答えた。

「どうしてそうまでして戦うの?」
「彼女がまだ、希望を求めているからさ。いざとなれば、この時間軸もまた無為にして、ほむらは戦い続けるだろう。何度でも性懲りもなく、この無意味な連鎖を繰り返すんだろうね。最早今の彼女にとって、立ち止まることと、諦めることは同義だ」

キュウベぇの言葉を聞いたまどかは悲しげな表情を浮かべていた。

「何もかもが無駄だった、と………決してまどかの運命を変えられないと確信したその瞬間に、暁美ほむらは絶望に負けて、グリーフシードへと変わるだろう。彼女自身も分かってるんだ、だから選択肢なんてない。勝ち目のあるなしにかかわらず、ほむらは戦うしかないんだよ」
「希望を持つ限り、救われないって言うの?」

キュウベぇにまどかは問いただす。

(どうあがいても報われない。それが運命だと言ってしまえば簡単に終わるだろうけど)

俺としては、それはかなり残酷でひどい言葉だと思った。

「そうさ。過去の全ての魔法少女たちと同じだよ。まどか、君だって一緒に視(み)ただろう?」
「うぅ……」

何を見たのかは分からない。
だが、まどかはそれを思い出したのか口元を押さえた。

「……でも、でも。でも!」

まどかは涙をぬぐいながらそう言うと、、階段を降りようとする。
しかし、それを止める者がいた。

「どこ行こうってんだ? オイ」
「ママ……私、友達を助けに行かないと」

それはまどかの母親だった。
目元が細まっていて、どことなく怖い雰囲気がした。

「消防署に任せろ。素人が動くな」
「私でなきゃダメなの!」

まどかがそう叫んだ瞬間、乾いた音が響いた。
まどかの母親がまどかを引っ叩いたのだ。

「テメェ一人のための命じゃねぇんだ! あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ――」
「わかってる。私にもよくわかる。私だってママのことパパのこと、大好きだから。どんなに大切にしてもらってるか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの、わかる。だから違うの。みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。そのためにも、私今すぐ行かなきゃいけないところがあるの!」

母親の言葉を遮ってまどかはそう言い放つ。
その眼には、確実な決意がうかがえた。

「理由は説明できねぇってか。なら、アタシも連れていけ」
「ダメ。ママはパパやタツヤの傍にいて、二人を安心させてあげて」

まどかは首を振って拒否した。

「ママはさ、私がいい子に育ったって、言ってくれたよね。嘘もつかない、悪いこともしないって。今でもそう信じてくれる?私を正しいと思ってくれる?」

まどかの言葉に、思わず差し出しかけた手を引っ込めた。

「絶対に下手打ったりしないな? 誰かの嘘に踊らされてねぇな?」
「うん」

まどかの答えを聞いた母親は、まどかの背中を強めに押した。

「ありがとう、ママ」

そう言ってまどかは階段を下りて行った。

「………これでよかったんだよな?」
「ええ、完璧ですよ」

母親の言葉に、俺は姿を見せた。

「一体何が目的だ?」
「言ったじゃないですか。彼女の覚悟を見たい、と。それ以上は申し訳ないですが」
「いえないってことか」

僕は少し前に、この母親にまどかのやろうとしていることを話していたのだ。
その上で、彼女に協力をして貰ったのだ。
それが、さっきのやり取りだ。

「あれは私の本心だ。それよりも」
「ええ、分かってます。約束はしっかりと守らせてもらいます」

僕は協力をしてもらう代わりに、まどかの安全を守るようにと言う約束をしていたのだ。

「しかし、あんたは何者なんだ? 普通の中学生には到底見えない。それにこのことはおめえのご両親は知っているのか?」
「ふふ……俺はしがない占い師ですよ」

俺は笑顔で母親に答えた。

「俺には両親と言う概念は存在しませんしね。昔っからやれ戦だ、やれ暗殺だの毎日でしたからね」
「………」

俺はそう言うと、階段を下り始めた。

「俺は、行きますよ……ご安心ください。あなたの娘さんは必ず無事に戻れるようにしますから」

俺は心配そうな表情を浮かべる母親にそう告げた。
あれが、母親と言うものなのだろうか?

(やっぱり分からないな)

俺はそんな自分に苦笑いを浮かべた。

「もう、あなたとは二度と会うことはないでしょう。なので、失礼ながら一つだけ忠告を」

俺はそこで区切ると、母親と向き合った。

「子どもと言うのはたとえ思春期を超えても子供のまま。20歳までは最低でも娘さんの道しるべでいることだ。でなければ、俺のような殺人鬼になってしまう」

俺はそう告げて、今度こそはと階段を下る。

「では、よいペアレンツライフを」

俺はそう言って階段から飛び降り、走って外に向かった。

『まどかを見つけたよ。今、ワルプルギスの方向に走ってる。キュウベぇと一緒に』
『了解。そのまま姿を消した状態で尾行を続行だ』

外で待機していたさやかから連絡が入った。
そう、全員にはまどかの尾行と言う役割があったのだ。
そして俺はまどかの元へと向かった。










「まどか!!」
「渉君!?」

俺が射ることに驚いたまどかは目を見開きながら俺を見る。
だが、その足はいまだに止まることを知らない。

『どうやら、覚悟はできたようだな』
『うん』

俺のテレパシーにまどかは頷いて答えた。

『だったらその命、少しの間、俺に預けてはくれないか?』
『え?!』

俺の言葉に、まどかは驚いた様子で俺を見た。

『何も魔法少女になるのがキュウベぇと契約をしなければいけないのではない。俺ならば、魂を分断することも、まどかが消えることもない。まあ、願い事はかなわないけど』
『渉君って一体……』
『どうするの? このままキュウベぇと契約して消えるのと、俺と契約して願い事はかなわないだろうが消えはしない方を選ぶのとどちらを選ぶ』

俺はまどかに有無を言わせずに、選択肢を突き付けた。
まどかはしばらく考え込みそして、決意が出たのか俺の方を見た。

『渉君、信じていいんだよね?』
『当り前だ。俺は人の命に関わる様な嘘は利口者には付かないさ』

まどかの問いかけに、俺は笑いながら答えた。
まあ、これが馬鹿だったら保証はしかねるが。

『それじゃ、渉君お願い』
『了解。その選択はのちに、正しいと思うはずだ』

そうこうしているうちに、暁美さんの元へとたどり着いた。
彼女は足ががれきに挟まれ、頭からは血が流れていた。

「……!?」

まどかがしゃがみこんで、暁美さんの手を握ると暁美さんは突然目を開けてまどかを見た。

「もういい。もういいんだよ、ほむらちゃん」
「まどか……?」

暁美さんは俺とキュウベぇの顔を見て目を見開いた。

「まどか……まさか!?」
「ほむらちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる」

そしてまどかは、暁美さんにそう告げたのであった。

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