契約作業中、周りが白一色に覆われる所で、俺とまどかは話をしていた。
「にしても、本当にすごいことを願うものだ」
「だ、ダメだったかな?」
まどかが上目づかいに聞いてくる。
「ダメではないさ、逆に愉快なだけだよ。普通は金銀財宝不老不死なんて言う不埒な願いをする奴が多いからな」
もちろんそう言った願いをする奴は、代償をかなり多めに取っておくが。
何も努力せずに楽をしようとするのは、あまり許せるものではない。
「あ、あははは」
まどかは俺の言葉に苦笑いを浮かべた。
「まじめな話だけど、一つだけ忠告」
俺は真剣な面持ちでまどかに話し掛けた。
「強大な力は自らを滅ぼすものとなる。特に、まどかの願いは世界の書き換えに値し、それは創造の神の役割に抵触する。やりすぎると、世界から排除されることになるだろう」
俺はまどかの力の膨大さを危険視していた。
なぜなら、まどかの力はやろうと思えば世界自体をなかったことに出来るほどだ。
それほどの強大な力ならば世界の防衛能力が発動してまどかを排除しようとする。
それから守るのが俺の役割だ。
「だから、使うのであれば気を付けて使うんだぞ」
「う、うん」
俺の言葉に、真剣な面持ちで頷くまどか。
「どうして渉君は、ここまで私に優しくしてくれるの?」
「そうだな……」
まどかの問いかけに俺は、しばらく考え込んだ。
やっぱり答えと言えばあれしかない。
「神様と言うのは、利口な奴の願い事ならば聞いてくれるものさ」
「…??」
俺の言葉に納得できないのか、まどかは首を傾げていた。
「さあ、始まりだ。少々頭痛がすると思うが、それは因果をまどかに収束させるためのものだから、つらいだろうが辛抱してくれ。では、健闘を祈る」
そして、俺は空間から脱出をした。
「よっと」
「まどかは!?」
空間を出ると、さやかがものすごい勢いで訪ねてきた。
「契約は成功だ。あと数分で完了する」
俺はさやかにそう答えた。
俺とさやかは光の柱を見る。
今、因果は少しずつ収束を始めている。
数分もすれば因果が収束され、その力を振るうだろう。
「私は、あなたを許さないわ」
「ん?」
冷たい声に、俺は振り返ると、暁美さんがものすごい形相で睨みつけていた。
「まどかを魔法少女にすればどうなるかを知っていたのに、まどかを魔法少女にするなんて……あなたこそ、殺人者よ!!」
「殺人者か………それを否定する気ではないが、俺は世界のためにまどかの命を犠牲にさせるようなことはしないさ」
暁美さんの言葉に、俺はそう答えた。
「俺はただ、彼女の命を借りているだけ。事が済み次第、彼女に返還する」
「一体何をする気?」
「そうだな………まどかに集まっている変な因果を消去して、世界の状態を元に戻して世界を安定化させる………それが俺の最終目標だ」
俺の言葉に、暁美さんは目を見開いてこっちを見据える。
「さあ、見るがいい。世界と化した少女が繰り出す一撃を!」
俺の言葉が言い終えた瞬間、光の柱は一気にはじけると、そこには白いドレスのような恰好をしたまどかの姿があった。
その手には上側に花のようなものがついた、弓があった。
そして目は金色となっていた。
「さて、まどか。気分はどうだ?」
「ちょっと頭が痛いけど、大丈夫!」
様子を見ても顔色はよさそうなので一応は大丈夫と言った所か。
「すまないな本当であれば、戦い方を手取り足取り教えようと思ったのだが、時間の関係上一発勝負になる」
「大丈夫。なんとかなりそうな予感がするの」
俺はまどかの言葉を聞いて思わず笑いそうになったが、必死に抑えた。
「まどか、最後に確認だ。お前の力は強大過ぎる、そのため魔法は1回のみだ。これ以上はまどかの生存にかかわるため、俺の方で使えないようにしてある」
「つまり、実質一回のチャンスだね」
俺は無言で頷いた。
「まずは、俺があいつを弱らす。そしたらその後にまどかの”想い”を乗せて魔法を使うんだ。分かったな?」
「うん!」
俺はまどかが頷いたのを確認して、全員に聞こえるくらいの声を上げた。
「みんな、そこまでだ! 安全地帯まで撤退!!」
俺の声が聞こえたのか、全員が暁美さんの近くまで下がった。
「まどか、そこでじっとしていて」
「う、うん!」
俺はまどかに告げると一歩前に出て片手を前に掲げた。
「リミットブレイク・真名解放!」
俺の言葉と同時に、俺の体中に力が満ち溢れる。
「わ、渉……君?」
「これはまた……」
「まるで天使みたいだ」
俺の真の姿を見た全員がそう感想を述べる。
だが、どうにも恥ずかしい。
「さて、この毒を排除するのに反対する人は?」
「いません」
さやかが全員の言葉を代弁して、答えた。
俺は毒でもある、キュウベぇを上空に浮かべた。
「な、何を――――――」
「貴様をこの世界の毒とみなし、排除する。因果情報、削除」
俺はこの世界から、キュウベぇの因果情報を文字通り消した。
この世界の因果情報には、人々が存在を保つための情報がある。
それが因果情報だ。
これをいじれば、この世界に存在する物を関連するのを含めてすべて消し去ってしまうのだ。
そして消えたものは、絶対に元には戻らない。
「さて、キュウベぇの消去が終わったところで、こいつをどうにかするか」
俺はワルプルギスの夜を見る。
未だに、不気味に浮かび上がっていた。
「神剣の吉宗、正宗に次ぐ新たなる姿」
俺は二本の神剣を頭上で重ねた。
その次の瞬間、俺の手には白い弓があった。
それを俺は構えてワルプルギスの夜に向ける。
「布石を打たせて貰おう。その因果、喰らい尽くす! 秘奥、因縁食い!!」
霊力で生成した矢はまっすぐ魔女まで飛んでいくと命中した。
「因果律90%まで減少………まどか、やれ!」
そして俺は、まどかに指示を出した。
「うん!」
まどかは大きく頷くと、弓を上空に向けて構えた。
それと同時に、まどかの頭上に円型の陣が形成される。
それには見向きもせず、まどかは魔力で生成された矢を放った。
その矢は灰色の空を一気に青空に変えると、分割したのか無数の矢が色々な場所に向かって行った。
「因果律減少……70,50,30!」
俺は情報を伝えながら、そのあまりの力に驚きを隠せなかった。
(この力、世界の意志の俺に匹敵するほどだ)
そして、しばらくするとワルプルギスの夜は、断末魔を上げながら消滅した。
その際、数人の魔法少女の姿が見えたような気がした。
それはともかく、こうして最大の脅威でもある”ワルプルギスの夜”は幕を閉じたと思っていた。
この後、さらなる脅威が俺達を襲うことになるとも知らずに。
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