「………意外に早かったな」
「お、おい! 一体どうなってんだよ!!」
杏子が俺に問いただしてくる。
俺は彼女たちに背を向けたまま、口を開いた。
「悪いことをしたから、強制的に帰還させられるのさ」
「そんな! 渉は何も悪いことなんてしてないじゃない!!」
俺の言葉にさやかが反論した。
俺に若干内心で嬉しく思いながら答える。
「したさ。本来死すべき運命の者を何の対価もなしに、生き返らせてしまったのだからな」
「それは――――」
俺はマミさんの言葉を遮った。
「奇跡を起こすのはそれ相応の対価が必要になる。それをしなければ世界のバランスが崩れるからだ。そして俺は世界のバランスを崩してしまった。それはどう言い繕うと変わらない事だ」
「あなたは一体、この後どうなるの?」
暁美さんが静かに問いかけてくる。
それに俺は答えた。
「そうだな……一度元の世界に戻ってそこで処罰が決まるだろう。まあ、決して生易しい処罰ではないことぐらい予想は出来るが」
そうでなければ、強制帰還はされないはずだ。
そうこうしているうちに、俺の体の感覚が消えかかっている。
これが体が消えるという感覚らしい。
「まあ、このことに懲りたら無用な奇跡は望まないことだ。奇跡と言うのは何かしらかの代償があるのだからな」
俺は今後の事を考え、そう忠告することにした。
「良かったな暁美さんよ。まどかを救うことが出来て」
「………ありがとう」
俺の言葉に、暁美さんの感謝の言葉が返ってきた。
(こりゃ、明日は雨かな?)
「お礼などいいさ。俺がやりたいからやったまでだ」
内心ではそう言いながら、そう言い返す。
その後、誰も何も言いださなかった。
気まずい雰囲気が漂う。
「さて、いつまでも死者を見てないで、明日の方向を見ろ」
「渉君は死んでなんかないよ!!」
「死んでるんだよ。世界の意志になった時点で俺は一度死んで、再び蘇った」
まどかの叫びに俺は反論する。
「行こう、まどか」
「ッ!! さやかちゃん?!」
俺の気持ちをくんでくれたのか、さやかはそう言ってまどかの手を掴んだ。
「この世界で、俺は色々な事を学んだ。非常に有意義な時間だった」
全員が去っていく背中に向けて俺は静かに呟く。
俺の脳裏によみがえるのは、今までの生活だった。
それは、普通の人間と同じような物であった。
そんな暮らしが出来たことのおかげで、俺の未練はもうない。
「だから、心置きなく帰れるよ」
体の感覚がほとんど消えているさなか、俺は最後に口を開く。
「この人間界では、別れの言葉はさようなら、らしいな。だったら、ありがとう……そしてさようなら」
その瞬間、俺の体の感覚は完全に消えた。
「渉君!!!」
誰かが俺を呼ぶ声を聞きながら。
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