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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第27話 サヨウナラ

「………意外に早かったな」
「お、おい! 一体どうなってんだよ!!」

杏子が俺に問いただしてくる。
俺は彼女たちに背を向けたまま、口を開いた。

「悪いことをしたから、強制的に帰還させられるのさ」
「そんな! 渉は何も悪いことなんてしてないじゃない!!」

俺の言葉にさやかが反論した。
俺に若干内心で嬉しく思いながら答える。

「したさ。本来死すべき運命の者を何の対価もなしに、生き返らせてしまったのだからな」
「それは――――」

俺はマミさんの言葉を遮った。

「奇跡を起こすのはそれ相応の対価が必要になる。それをしなければ世界のバランスが崩れるからだ。そして俺は世界のバランスを崩してしまった。それはどう言い繕うと変わらない事だ」
「あなたは一体、この後どうなるの?」

暁美さんが静かに問いかけてくる。
それに俺は答えた。

「そうだな……一度元の世界に戻ってそこで処罰が決まるだろう。まあ、決して生易しい処罰ではないことぐらい予想は出来るが」

そうでなければ、強制帰還はされないはずだ。
そうこうしているうちに、俺の体の感覚が消えかかっている。
これが体が消えるという感覚らしい。

「まあ、このことに懲りたら無用な奇跡は望まないことだ。奇跡と言うのは何かしらかの代償があるのだからな」

俺は今後の事を考え、そう忠告することにした。

「良かったな暁美さんよ。まどかを救うことが出来て」
「………ありがとう」

俺の言葉に、暁美さんの感謝の言葉が返ってきた。

(こりゃ、明日は雨かな?)

「お礼などいいさ。俺がやりたいからやったまでだ」

内心ではそう言いながら、そう言い返す。
その後、誰も何も言いださなかった。
気まずい雰囲気が漂う。

「さて、いつまでも死者を見てないで、明日の方向を見ろ」
「渉君は死んでなんかないよ!!」
「死んでるんだよ。世界の意志になった時点で俺は一度死んで、再び蘇った」

まどかの叫びに俺は反論する。

「行こう、まどか」
「ッ!! さやかちゃん?!」

俺の気持ちをくんでくれたのか、さやかはそう言ってまどかの手を掴んだ。

「この世界で、俺は色々な事を学んだ。非常に有意義な時間だった」

全員が去っていく背中に向けて俺は静かに呟く。
俺の脳裏によみがえるのは、今までの生活だった。
それは、普通の人間と同じような物であった。
そんな暮らしが出来たことのおかげで、俺の未練はもうない。

「だから、心置きなく帰れるよ」

体の感覚がほとんど消えているさなか、俺は最後に口を開く。

「この人間界では、別れの言葉はさようなら、らしいな。だったら、ありがとう……そしてさようなら」

その瞬間、俺の体の感覚は完全に消えた。

「渉君!!!」

誰かが俺を呼ぶ声を聞きながら。

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