健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第48話 取り戻した絆

気が付くと、俺は撃ちぬかれた壁の前に立っていた。
横を見ると、驚いた表情を浮かべるなのはの姿があった。

「ああああっ!」

何が何だかわからない俺の耳に、ヴィヴィオの叫び声が聞こえた。
ヴィヴィオのいるであろう方向には、苦しそうに頭を抱えるヴィヴィオが立っていた。

「「ヴィヴィオ!?」」

俺達は急いでヴィヴィオの元に駆け寄ろうとする。

「なのはママ………真人パパ」

ヴィヴィオは駆け寄る俺達に気付いたのか名前を読んだ。

(良かった元に戻ったのか)

俺は、安心しながら駆け寄る。
だが………

「駄目! 逃げて!」
「……くっ!?」

ヴィヴィオの悲鳴と共に、鈍い衝撃が走った。
ようやく、攻撃されたことに気付いた。

『大丈夫ですか。マスター!』
「ああ、大丈夫…だ」

どうやらクリエイトが防御障壁を張ってくれたらしい。
だが、この時、俺はまるで魔法弾を食らった時のような痛みを感じていた。

「駄目なの……ヴィヴィオ、もう帰れないの」

その瞬間、玉座の間が揺れだし、周囲は灰色の何かに覆われた。
さらに、サイレンが鳴りだす。
その次の瞬間

【真人! 来るぞ!!】
「ッく!!」

執行人の警告に、俺はその場を離れた。
すると、今まで俺が立っていた場所に虹色の砲撃が着弾していた。

「なのは、戦えそうか?」

俺は相手から視線をそらさずに、なのはに確認を取る

「うん。大丈夫」
「よし、それじゃ行くぞ!」

そして俺達は再び戦い始める。










あれからどれぐらい経ったのだろうか?
俺達は何回武器を交合わせたのだろうか?
もはやそれは記憶にも残っていない。
それほど、俺達の戦いは激しかった。

「拘束! なのは!」
「うん! ヴィヴィオ、今助けるから!」

俺はバインドでヴィヴィオの動きを封じ、その隙を狙ってなのはが攻撃を加える。
だが、すぐにヴィヴィオはバインドを破り同じく虹色の砲撃を放とうとする。

「駄目なの! 止められない!」
「駄目じゃない!!」

二人の砲撃は拮抗しているが、なのはの砲撃の威力が勝ったため、うち破った。
しかし……

「きゃああ!?」

後ろに回り込まれたなのはは、ヴィヴィオに殴り飛ばされて地面にたたき落とされた。

「なのは!! 【真人、よそ見するな!!】ぐはッ!?」

なのはの安否を心配する俺に執行人が檄を飛ばす。
その次の瞬間、俺もなのはと同じく殴り飛ばされ、壁に叩き付けられた。

「逃げて!!」
「ッ!?」

さらに追い打ちをかけるようにヴィヴィオは、砲撃を放とうとする。

「シール・プロテクション!」

俺は何とか防御魔法を張ることに成功したが、衝撃を防ぐことが出来ずに地面に叩き付けられた。

「もう来ないで……」

ふらつきながらも立ち上がる俺達に、ヴィヴィオがそう声を上げた。

「分かったの私。もうずっと昔の人のコピーで、なのはマ……なのはさんも、フェイトさんも、真人さんも……本当のパパやママじゃないんだよね」

ヴィヴィオは涙を流しながら話す。
その表情は、とても悲しみに満ちていた。

「この船を飛ばすための只の鍵で……玉座を守る、生きた兵器」
「違うよ」

なのはは否定の声を上げるが、ヴィヴィオの言葉は止まらない

「本当のママなんて、元からいないの! 守ってくれて……魔法のデータ収集させてくれる人を探してただけ……」
「違うよ!!」
「違わないよ!! 悲しいのも痛いのも、全部偽物の作り物……私は! この世界には居ちゃいけない子なんだよ!」

なのはの言葉を否定し、ヴィヴィオは自分を否定する言葉を紡ぐ。

「それは違うよ……生まれ方は違っても、今のヴィヴィオは……そうやって泣いてるヴィヴィオは、偽物でも作り物でもない! 甘えん坊で、すぐ泣くのも、転んでも1人で起きられないのも、ピーマン嫌いなのも……私が寂しいときにいい子ってしてくれるのも、私の大事なヴィヴィオだよ・・・」
「もし仮に、ヴィヴィオの事を悪く言う奴が出てきても、ヴィヴィオが鬼や悪魔だったとしても、俺達はヴィヴィオの味方だ」

俺は、なのはに続くように数歩前に歩きながら、話しかけた。

「ヴィヴィオ、俺達はまだ父親らしくないかもしれない。だけど、これから頑張って父親になれるように努力する」
「だからいちゃいけない子なんて言わないで。ママに教えて……ヴィヴィオの、本当の気持ち」

俺の言葉に続くように、なのはがヴィヴィオに聞いた。

「私は……私は……なのはママと真人パパの事が大好き……ママ達とずっと一緒にいたい……ママ……パパ……助けて……!」

ヴィヴィオの本心を聞いた俺達は、大きく頷いた。

「助けるよ」

なのはは、レイジングハートを横に振り魔方陣を展開する。

「いつだって、どんなときだって!!」

その次の瞬間、ヴィヴィオが動き出した。
だが、俺はすぐになのはの前に出ると、突き出された拳を受け止めた。
その隙を狙い、ヴィヴィオに桜色の、ひも状のバインドが掛けられた。

「なのは!」
「うん!!」

そして俺となのはは宙に浮かんだ。

【本当にお前は口先だけはいいことを言う】
「……ヴィヴィオ、少しだけ痛いけど……我慢、できるね?」
「……うん」

なのはの言葉を聞きながら、俺は念話でからかうように話しかけてきた執行人に文句を言う。

【いけないか?】
【いけなくはない。そろそろ頃合いだ。お前に新たなら力を与える】

執行人の言葉に、俺は何のことか理解できなかった。

【これから僕の使っていた魔法の全データ・知識・能力を送る】
【それはッ!!!】

俺の言葉を遮るようにして、頭の中に、色々な物が入り込んでくる。
それはほんの一瞬の事だった。

【お前は十分に戦った。その経験値やスキルがあれば、僕の魔法を活かせられる】
【執行人】

執行人のそれは、俺をマスターとして認めた事と同じような物だった。
なぜならば、執行人は「僕の魔法を与える時、その時こそ、お前は僕の真のマスターとして認められることを意味する」と前に言っていたからだ。
俺は、それが嬉しくて、泣きそうになった。

【おいおい、泣くな。まだ戦いは終わってはいない。それよりも、お前に与えた魔法を使えば、高町のような砲撃を放つことが出来る】
【え……】

執行人の言葉に俺は固まった。

【お前も高町のサポートをしたい……そうだろ?】

執行人には俺の事はすべてお見通しの様だ。

【僕の言うとおりに動け】
【分かった】
「なのは、俺もサポートする」
「………うん。防御を抜いて、魔力ダメージでノックアウト……いけるね、レイジングハート」

俺の言葉に、なのはは少しだけ戸惑った表情を浮かべたが、すぐに頷くと相気に問いかけた。た。

『いけます!』
「クリエイト、杖形態」
『了解です』

俺は執行人に言われるとおりに、クリエイトの形態を変化させる。
その形態は、今まであまり使わなかったものだった。
俺の戦闘フォームは中距離型だ、だからこそ遠距離型の戦闘フォームを誇る、杖形態は使わなかったのだ。

「ブレイク系魔法、始動!」
『了解です。魔力収束、開始』

俺の指示を聞いたクリエイトは瞬時に魔力を収束させる。
すると、ものすごい速度で俺の前方に大きな魔法球が現れた。

「早っ!?」
【それが、僕のレアスキルの一つ、高速ロードだ。魔力の集束を普通の魔導師の2~3倍の速さで行うことが出来るやつだ】

執行人の説明を聞きながら、俺はタイミングを見計らう。
横を見れば、レイジングハートから桜色の翼が展開され大量の魔力が収束していた。
さらに周りにある”ブラスタービット”にも魔力が収束され、巨大な魔力球を生成していた。

「全力全開!!」
「貫け」

そして、俺達は、おそらく最強の魔法を放つ。

「スターライト……ブレイカー!!」
「ブレイク……レーザー!!!」

桜色と白銀の砲撃が、ヴィヴィオを貫く。
ヴィヴィオが苦しげに声を上げる。
だが、それと同時に、俺の方にも言葉には言い表せないほどの圧力が襲ってくる。

「ああ……ああああああ!!」

だが、ヴィヴィオの胸元からレリックが姿を現した。

(あと少し!)

「ブレイク……シュート(インパルス)!!」
「あああああっ!!」

止めとばかりに、追加詠唱を行うと、レリックが砕けた。
その次の瞬間、爆発が起こりヴィヴィオのいた場所には大きなクレーターが出来ていた。

「「ヴィヴィオ……!」」
「来ないで……」

急いで駆け寄ろうとする俺達を、ヴィヴィオの声が止めた。

「一人で……立てるよ」

何度も転びそうになりながら、ヴィヴィオは自分の力で立とうとし、俺達に頼ろうとはしなかった。
それは、前にヴィヴィオが転んだ時の事を思い出させた。

「強くなるって……約束したから」

そしてヴィヴィオが立ち上がり、なのはは涙を流しながらヴィヴィオに駆け寄り、抱き着いた。
俺はなのはの横に立つと、それを静かに見守るのであった。

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第46話 再び広がる翼

俺は夢を見ていた。
そこは、一面真っ赤な炎。
聞こえるのは燃え滾る炎の音、人々の悲鳴。

「■■■、準備はいいか?」
「ああ」

声がした方を見ると、そこには一人の男性と、俺と同い年ぐらいの青年が立っていた。

「これで、この世界は滅び、オーバーテクノロジーは闇に沈む」
「世界の平和のために、罪もない人々を殺すと言うのは、いかがなものかと思うが?」

青年の言葉に、男性は咎めるように青年に声を上げる。

「彼らの死は必要な犠牲だ。それに、僕自身もこの責を取ると言っているだろ?」
「永久封印だったよな。よくそれを自分で口に出せる」
「そりゃ当然さ。僕は目覚めてはいけない存在なのだから」

男の言葉に、青年は静かに呟いた。

「この魔力は、死者の元に成り立った醜きエネルギー、この力は人々を呪い、殺す恐ろしい力だ。だからこそ、僕はその道を選んだ」

青年の声には、どこか悲しさを感じた。
その次の瞬間、視界がぶれた。

「それでは、■■■の永久封印を開始する」
「ああ、よろしく頼むよ」

男性の宣言に、青年はそう答えると、静かに大きな扉を潜って行く。
そして男性は扉を閉めた。

(一体、これは………)

俺はその夢の内容に、首を傾げるしかなかった。
そんな中、俺は白い光に飲み込まれていった。










「ん……ぅ」
「ッ!? 真人!」

僕が目を覚ますと、そこには驚いたような表情を浮かべる執行人の姿があった。

(ここは、一体………)

最初は、何が何だかわからなかったが、俺はすぐに何があったのかを思い出した。
あの時、ナカジマさんを助けようとしたが、突然現れた転生者にやられたんだ。

「良かった。あのまま目が覚めないかと思った」
「悪い」

本当に心配していたであろう執行人に、俺は謝った。

「いや、謝るのはこっちだ。何時もお前の危ない場面で助けてやれない。こんな出来損ないの従者ですまない」
「執行人は、出来損ないじゃない。ちゃんと俺を助けてくれてるじゃないか。執行人に、そんな表情は似合わないぞ」

俺の言葉に、執行人は驚いたような表情を浮かべると、小さく息を吐いて、いつもの自信に満ちた表情になった。

「さて、現状を説明する。今、事態がひっ迫している故、簡潔に話す」
「分かった」

そして、執行人は俺が眠ってからのことを話してくれた。
機動六課の被害と、スカリエッティ一味によって『聖王のゆりかご』が打ち上げられたこと。
それに対処をするため、六課の隊員全員が向かっていること。

「健司の容態は、今ようやく安定している。このままでいけば、明日には目を覚ますとの事だ」
「そうか。よかった」

俺は、健司の容態を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
だが、まだすべてが解決したわけではない。

「なあ、執行人はどう考える?」
「あの転生者の性格上、ちまちまと罠は貼らない。それは健司にしても然り、お前も然りだ。となれば、あいつのいる所は限られる」

俺の言葉に、すぐにその意図を把握した執行人が答える。

「「聖王のゆりかご!!」」

俺と執行人の息がぴったりと合う。

「執行人、ゆりかごに行こう」
「御意」

俺の提案に、執行人はそう答えると、服を横に置いた。
俺は、今まで来ていた水色の検査をするときに斬るような服を脱ぎ、その服に着替えた。

「それと、執行人に頼みがある」
「何だ?」
「”あれ”を使いたい。許可、出してくれるか?」

俺の言葉を聞いた瞬間、執行人の表情が、驚きに満ちた。

「お前正気か!? あれを使ったら、お前の命は」
「分かってる。それでもだ。何も守れないんなら、こんな命と力何て、ない方がましだ」

慌てたような表情で、叫ぶ執行人に、俺は静かにそう告げた。

「………分かった。許可する」

俺の表情から何かを感じ取った執行人は、渋々と言った様子で、認めてくれた。
俺は、執行人に”サンキュー”と告げると右手を執行人の方に掲げる。
執行人も俺の右手に重ねるように左手を掲げた。

「「ユニゾン・イン!!」」

そして、俺と執行人は融合した。

「クリエイト、セットアップ!」
『了解です。マスター』

そして、俺はクリエイトをセットアップさせ、病室の窓を開けると、外に飛びだった。
向かうは、『聖王のゆりかご』だ。

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第47話 聖王との戦い/変えられしもの

俺は執行人とユニゾンをして、ゆりかごへと向かっていた。

【転生者は、ちまちまなことはやらない。もし各地で手を加えても、ゆりかごを落とされればすべては水の泡だ】
「ならば、ゆりかごに全力で手を加えた方が確実……そういう事か」

執行人の話に続くように、俺は考えを口にした。
それに対して、執行人は”正解”と告げた。
何だか、小馬鹿にされているような気分だ。

【小馬鹿にはしてないのだが……見えたぞ】

執行人の言葉に、前方を見ると、そこにはいまだ浮上を続けるゆりかごがあった。

「どうやって中に入る?」
【先行して入っているのだとすれば、入口がある。そこから入ろう】
「了解!」

俺の問いかけに、執行人が答え、俺はその答え通りに動くことにした。
その間俺はなのはが無事な事を願っていた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


ゆりかご内の、玉座の間。
そこには二人の女性が立っていた。
一人はグレーの甲冑に、金色の髪をするオッドアイの少女……ヴィヴィオと、傷だらけで何とか立っていられる状態の高町なのはだった。
ヴィヴィオは、クアットロによって精神干渉されなのはの事を”敵”とみなしている。
お互いに膠着状態が続く。

「はああああ!!」

それを断ち切ったのは、ヴィヴィオだった。

「ッく!!」
『ラウンドシールド!!』

目にもとまらぬ速度で迫る彼女に、なのはは防御障壁を展開する。

「かはッ!?」
「はぁあああ!!」

防御障壁ごと壁に吹き飛ばされたなのはは、肺にたまった息を吐き出す。
そんな彼女をに止めを刺すにして、ヴィヴィオは虹色の魔法弾をなのはに向けて放った。
なのはは、目を閉じて来るであろう痛みに備えた。

(真人君!!)

そんな時、なのはは心の中で無意識に大切な人の名を呟く。
なぜそうしたのかは分からない、もしかしたら奇跡を願ったのか、それ以外の理由があるのか。
そして、魔法弾がなのはに命中した。
………はずだった。
魔法弾によって発生した爆煙が晴れた時、そこにいたのは

「ふう、間一髪」
「真人……君」

いつもの黒いマントのバリアジャケットに身を包み背中には黒い翼が生えている、真人の姿だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


【真人、ここを突っ切れ!!】
「了解!」

ゆりかご内に侵入した俺は、執行人の指示の元、飛んでいた。

【そこの角を曲がったら目的地だ!】

俺はその言葉を聞いて、さらに速度を上げた。
それは、なのはの事の身に何かが起こるような予感がしたからだ。
そして、玉座の間と思わしき場所に突入した俺が見たのは、グレーの甲冑に金色の髪をした少女と、壁に打ち付けられたなのはの姿だった。
そしてなのはの状態にお構いなしとばかりに、少女は虹色の魔法弾を放った。

(間に合え!!)

俺はいてもたってもいられなくなり、なのはを守るように彼女の前に移動した。

「ッ!!」

何の準備もしていない俺は、来るであろう衝撃に耐えるように目を閉じた。

【これだから未熟なんだ。プロテクション!!】

だが、それは何とか執行人のバックグラウンド詠唱によって防がれた。

「ふう、間一髪」
「真人……君」

俺の呟きに、なのはが信じられないと言った様子で声を上げた。

「悪いなのは。遅れたが助太刀に来た」
「ううん……無事で良かった」

なのはの方に視線を向けると、なのはは目に涙を浮かべていた。

【真人、どうやら敵さんは待ってくれないみたいだぜ】
「っと!?」

執行人の言葉のおかげで、俺は少女からの攻撃を紙一重で交わした。

「なのは、この中にいて」
「うん」

俺は壁に叩き付けられているなのはを地面に降ろすと、フィールド系の結界をなのはを囲むように展開した。
そして、俺は目の前にいる少女と相対する。
向こうは動く気配がない。
おそらくは、初動のタイミングを計っているのか、俺というイレギュラーの登場に様子をうかがっているかのどちらかだろう。
その隙を狙って、俺はなのはに念話を飛ばす。

【なのは、彼女を止める方法は?】
【ちょっと、待って! まさか戦う気なの!?】

俺の問いかけに答えながら、なのはは驚いた様子で声を上げた。

【ああ】
【駄目だよ!! 真人君はまだ病み上がりで戦うのは危険――【だからなんだ!!】――真人君?】

俺は、なのはの言葉を遮った。

【肝心な時に何もできないぐらいなら、死んだ方がましだ。俺はまだ動ける。だから、俺を信じてくれ! なのは!!】

俺の心からの叫びに、なのはは何も答えなかった。

【あと少しで止められるかもしれない………だからそれまでは時間を稼いで】
【分かった】

なのはの心から心配する声色に、俺は”大丈夫”と言う意味を込めて答えた。
そして、再び意識を、目の前の敵に向ける。

(この戦いの勝利条件は、なのはの言う策が成り立つまで)

それまで、彼女の注意を引き付けておかなければならない。

(どうするか)

【お前は本当に口だけはいっちょ前だな】
【うるさいよ!】

考え込む俺に、執行人が念話でからかってくる。

【あいつの正体………気付いてるだろ?】
【ああ。彼女は、ヴィヴィオだ】

執行人の確かめるような声に、俺は目の前にいる少女の名前を口にした。
ヴィヴィオは、聖王のクローンらしい。

【そこまでわかってるなら上出来だ。聖王、オリヴィエの戦法は近中距離だ。無暗に近づくと返り討ちを食らう】
【と言うことは、中遠距離で攻めた方が良いな】

執行人からの有難い情報に、俺は戦法を決めた。
とはいっても、近距離の攻撃魔法はそれほど多くはない。
どちらかといえば、中距離タイプだ。

【そこまで導き出せるようになったのなら、半人前になったと言うことだな。では、始めよう】
【OK!】

執行人の言葉にそう返すと、俺はクリエイトを剣形態に変えた。

「プラズマアーム!!」

最初に動いたのはヴィヴィオだ。
ものすごい速さでこっちに向かってくるヴィヴィオの両腕は、電気変換された魔力を纏っているのが分かった。
あれをもろに食らったら、無傷では済まない

「甘い! ミラーインケルト!!」

俺はそのヴィヴィオの攻撃に、反射魔法を使うことで応戦した。

「くぅ!?」

ヴィヴィオは、自身にダメージが入った事に驚きながら、バックステップで俺から距離を取った。

「刃呪縛!!」

俺はそこにすかさず魔力刃を放つ。
だが、ヴィヴィオはそれをいとも容易くかわすと、こっちに向かってきた。、

「ッと!?」

俺は何とか上空に退避することで、事なきを得た。

だが、俺が今まで立っていた地面は、軽くえぐれていた。
もし少しでも回避が遅れていたら、ただでは済まなかっただろう。
俺は、クリエイトを弓形態にすると、ヴィヴィオに向けて矢を構えた。

「ライトフレイヤー、ファイア!!」

俺は一気に5本の矢を射る。

「こんなもの!!」
「おいおい……」

ヴィヴィオは、向ってくる矢を叩き落としていた。
そのあまりの行動に、俺は茫然としていた。

【バースト・インテグラント!!】
「あああ!!?」

執行人の追加詠唱によって、最後の一本の矢が爆発を起こした。
”バースト”は、俺や執行人が放った魔法を強制的に爆発させることによって、相手を吹き飛ばす魔法だ。
それに手を加えたのが”インテグラント”であり、これは吹き飛ばすのと同時にダメージを与えたりする。

【真人君! 準備できたよ!!】
「了解!!」

なのはからの合図があった。
それは、俺にとっては勝利のコールだった。
俺は、すかさずヴィヴィオにバインドをかける。

「ロック!」
【その力、少しだけ封印させてもらうよ】
「ぐぅぅ!!」

さらに執行人の補助によって、何とか強固なバインドになった。
そして、俺がなのはのいる方向に向いた瞬間だった。

「ディバイン……バスター!!!」

なのはは、壁に向けて―――おそらく、その方向にヴィヴィオを操った黒幕がいるのだろうが―――十八番である砲撃を放った。
それは、黒幕を倒す一撃必殺の技になるはずだった。

『ふふふふ。おバカな小悪魔さん』
「えっ!?」

女性の小馬鹿にするような声に、なのはは目を見開いた。

「ど、どうして……」
『こういう事もあろうかと”あのお方”が特性の結界を渡してくれたんですよ~。貴方のそんな砲撃、目でもありませんわ!』
「くッ!!」

女性の言葉に、悔しさからかなのはが顔をゆがめた。

(やっぱり、転生者の仕業か)

俺は、これが転生者の仕業だと悟った。
やはり、執行人の読み通りここに仕掛けてきたようだ。

【………真人、少し体を借りるぞ】

そんな事を理解していると、執行人が唐突に告げた。

【は? それってどういう――――】

俺の意識は、そこで途切れた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


許せなかった。
それが一番に思った感情だ。
それを思うと、僕の心の中に、今まで抑えてきた感情がどっと湧き上がる。
――――誰かが耳元で、殺せと囁く
――――誰かが耳元で暴れろと囁く
――――誰かが僕の体を操る。

【………真人、少し体を借りるぞ】

気づいた時には、僕はそう口に出していた。
そして僕は強制権を使い、強引に前に出た。
体が動く。
この一時の時間でもいい、僕の黒い部分を……――――として暴れよう。

「黙れ、屑」
「ま、真人……君?」

高町が僕を見る。
申し訳ない。
すぐに終わらせてこの体を返す。

「貴様の戯れごとは聞き飽きた。とっとと塵になるがいい」
『あら~、お馬鹿さんがもう一人いました~。貴方、今自分の置かれている状況が分かってるんですか~?』

僕の言葉に、モニターに映っている女性は、小馬鹿にするように声をかけてくる。

「それはこちらのセリフだ。塵芥」
『塵………その生意気な態度、二度と取れないようにしてやりましょう!!』

女性が何かをしようとするが、関係はない。
逆に止められるのなら止めてみろ。
僕は高町が突き破った壁の位置に立つと、女性がいるであろう方向に向けて手をかざす。

「我が秘めし闇よ、我が前に集え」
『し、収束砲!? だ、だけど私にはすべてを防ぐ結界がありますから、無意味ですよ~』

僕の右手に集う黒い球体を見て一瞬怯えた様子だったが、すぐに余裕を取り戻した。

「永遠の闇の中で、もがき苦しめ………ダーク・ラスト・ジャッジメント!!」

その言葉が合図だった。
僕の前方に収束していた黒い球体は、一直線に女性の元へと迫る。

『ふふふ、無駄で――――――』

そこで、女性の声は聞こえなくなった。
なぜなら、そこを映していたモニターにノイズが走ったからだ。
どうやら僕の高濃度の闇に耐えきれなかったらしい。

「雑魚が」

僕はそう吐き捨てると、真人に体を返すべく目を閉じた。

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第3話 選択

「貴様あの時の!」

俺の前に立ちふさがった男を見た阿久津が声を荒げる。

「ふん。半年もたてば少し腕がつくかとは思ったが思い込みだったようだな。貴様のような外道、この僕には雑魚としれ」
「ふざけるな! オリ主の俺様が負けるわけ―――」
「はぁぁぁ!!」

阿久津の声を遮るように、上空から何かが降ってきた。

「ちぃっ!」
「隙だらけだ」
「ぐあぁッ!?」

上空からの奇襲に横に飛んで躱した阿久津を、男の人が攻撃を加える。
阿久津は後方に吹き飛ばされはしたが、すぐに立て直した。

「この俺様に二人掛かりとは……はっ! 所詮は根暗だな」
「その言葉、お前にそっくりそのまま返そう。二人掛かりでやられるようなものに、最強を名乗る資格などない。名乗りたいのであれば500人程度の魔法使いを一瞬で倒してからにしろ」

小馬鹿にした阿久津の言葉に動じず、男の人はそう言い返すと最後に”まあ、お前のような外道には無理かもしれぬが”と嘲笑いながら付け加えた。

「テメェ、ここでそのモブキャラと共に葬ってやろうか?」
「それもお前にそのまま返そう。とっとと失せろ。でなければお前は今ここで死ぬ」
「ッ!?」

言い切るのと同時に男の人から発せられた殺気は、関係ないはずの俺すらも震え上がらせた

「今日は見逃してやる」

そう告げると、阿久津は一瞬でその場から姿を消した。
助けられた俺の口から出たのは、お礼ではなく……

「ひいおじいちゃんに、お母さん?」

だった。










いったん自宅に戻った俺達は、リビングの椅子に腰かけていた。

「改めて、話をしよう」

俺の前に座っていたひいおじいちゃんが口を開いた。
何時もかけている黒いサングラスは、今は外されている。

「僕の名前は、高月浩介。そこにいる美智子の叔父にあたる」
「叔父でもあり、師匠でもある、ですよ」

長い髪を後ろに束ね、巫女装束に身を包む母さんがひいおじいちゃんに言った。
ひいおじいちゃんは『知らん』と一刀両断する。

「さて、遠まわしに言うのは苦手だから、簡潔に説明しよう。まずお前は人間ではない」
「………はい?」

ひいおじいちゃんの口から出た言葉の意味が、俺には理解できなかった。

「真人、お前も不思議に思わないか? ひいおじいちゃんと言う割には、年取ってないだろ」
「そ、そう言えば……」

言われてみればそうだった。
”ひいおじいちゃん”という割には年老いて見えない。
仮に”高校生”だと名乗っても十分通る容姿だ。

「真人は、魔力を糧にして生きる”魔族”とそれに対極に位置する”神族”の混合の存在だ」
「おじ様!」

ひいおじいちゃんの宣言に、母さんが声を上げるがひいおじいちゃんは無言でそれを制した。

「ちなみに不老不死ではない。僕もそうだしお前もそうだ。ただ、老いる速度が緩やかなだけ」
「それは俺も?」

俺の問いにひいおじいちゃんは無言で頷いた。

「とは言ったものの、真人の場合はこれからどうなるかは一切不明。先祖から遺伝した神族と魔族の混合など、今までに例はないからな」
「それって、自分が魔族と神族の混合だって言ってると思うんだけ、どぉッ!?」

ひいおじいちゃんの言葉に、思わず突っ込むと拳骨が降ってきた。
地味に痛い。
どうやら、野暮なことは言わない方がいいらしい。

「まあ、自分が何者なのかは今考える事ではない。それよりも重要な事がある」

そう言って俺を見るひいおじいちゃんの目は、何かを試すような眼差しだった。

「真人、お前はこれからどうしたい」
「どういう、意味?」
「このまま日常で暮らしていくのか。それとも自分の身を”魔法”という戦いの道に投じるのか」

ひいおじいちゃんの口から告げられたのは、究極の二択だった。

「小学生に聞くことじゃないよね?」
「そりゃそうだ。だが、僕の話に頭の中が付いて来ているのであれば、十分だ」

俺の言葉に、ひいおじいちゃんは肩をすくめながら返す。

「もし魔法を使うって言いたら、ひいおじいちゃんはどうするの?」
「魔法についての勉強とトレーニングをして、戦場に出せるほどのレベルに育てる」

何となく、地獄の日々が続きそうだなと思ったのは、気のせいだと思いたい。
そして俺は、選んだ。

「俺は、師匠って呼んだ方がいい?」

魔法という力を代償に、戦いという名の道を。

「好きにしろ。……ひいおじいちゃんよりはましか」

腕組みをして答えるひいおじいちゃん……ではなく、師匠は最後にぽつりとつぶやいた。
よっぽど”ひいおじいちゃん”という呼ばれ方に抵抗があったんだなと思った。

「さあ、夕食でも食べて寝ろ。明日は早いんだ。朝五時にここに来い、特訓をする」

師匠が伝えたスケジュールに、俺は思わず呆然としてしまった。
そう言えば師匠の性格は”一度始めたらとことんやる”事なのを忘れていた。

「では、夕食にしましょうか。お義父さん」
「だから、僕はお前の父親になったつもりはないッ!」

おそらくは、俺が師匠が認めるラインまで行くまでこれは続くんだろうなと思いながら俺は父さんと師匠のやり取りを見ているのであった。

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第37話 臨時査察

ヴィヴィオが管理局に来てから少し経ったある日。
部隊長室内は緊張に包まれていた。

「いよいよ今日が臨時査察の日や」

はやてが、静かに切り出す。
そう、地上本部の臨時査察の日がやってきたのだ。

「とはいっても、いつも通りにすればいい。後は俺が何とかするから」
「……本当に大丈夫なのやな?」

はやての”大丈夫”は部隊の事ではないことは俺でもわかった。
はやては腹黒いが根は優しい。
おそらく俺の立場を案じてくれているのであろう。
地上本部のスパイの俺が、六課に肩入れする。
それの意味が分かっているからこその心配だろう。

「大丈夫だ。なんとかなるさ」

俺ははやてにそう答えるしかなかった。










機動六課のエントランス。
俺は査察団の人物たちを出迎え、査察の手伝いをする。
それがはやてから言い渡された俺の役割だった。
健司はと言えば、その間の俺の分のデスクワークを代わりにしてくれるとのこと。

(まるで足腰が弱いみたいだ)

ふと、今の自分の姿を見てそう感じてしまう。
一番の原因は、右手にあるステッキだが。
そんな時、ついにオーリス三佐を引き連れた査察団が姿を現した。

「ご苦労様です!」
「………これより、機動六課の臨時査察を始めます」

俺の姿を見ると、先頭に立っていたオーリス三佐はいつもの表情で淡々と事務的に告げると、後ろにいた人たちに指示を出す。
次々と査察団の人が奥の方に入って行く中、オーリス三佐は俺の前に立ったまま動かない。

「場所を移しましょうか?」

その意図を組んだ俺の提案に、オーリス三佐は無言で頷くと俺は人気のない場所へと向かった。










「それで、話は何ですか?」
「山本二等空佐の任務遂行の放棄に関することです」

人気のない場所に移動した俺の切り出しに、オーリス三佐は鋭い視線を送りながら答えた。

「自分も人間です。感情くらいはあります」
「………何が言いたいのですか?」
「つまり、自分の友人を蹴落とすようなことを、俺は平然とするなんてことは出来ないと言う事です」

俺は屁理屈かもしれない意見をオーリス三佐にぶつける。

「なるほど………よく分かりました。ですが私たちは組織です」
「ええ、個人個人で勝手に動いたら組織としては成り立たなくなる。オーリス三佐の仰るとおりです」

人としては正しくとも組織の人間としては、俺のやっていることは間違いだ。
そのことは重々承知だ。
と、その時だった。

「いい加減にしたらどうだ? オーリス・ゲイズ」
「あ、あなたは!?」
「執行人!」

突然出てきた執行人にオーリス三佐は一歩後ずさる。
どうでもいいことだが、彼女は執行人の事が苦手とのこと。

「何だかんだまともな事を言っているようだが、スパイもどきの事をさせるのが任務だとでも言うのか? スパイをすることでこの世界が平和になるとでも言うつもりか?」
「そ、それは……」

執行人の鋭いツッコミに、オーリス三佐は言い返すことが出来ない。
執行人の視線はさらに厳しくなっていく。

「部隊を蹴落とす蹴落とさないも結構。だが、それに真人を……マスターを巻き込むな! マスターは貴様らのくだらない茶番の小道具ではない!!」
「執行人!!」

俺は今にも掴み掛らんとする形相の執行人を止めた。
執行人が俺の事を、マスターと呼んでくれたことにも気づかずに。

「執行人がご無礼を……すみません」
「あ、いえ」

いつもの、彼女からは予想もできないほどに怯えているオーリス三佐に、俺は頭を下げた。

「山本二等空佐の件に関しては、不問といたします。そして新たな任を与えます」
「白々しい、今度は何を――――」

再び忌々しげに口を開く執行人に、俺は鋭くにらみつける。
それを見た執行人は何も言わずに一歩下がった。

「山本二等空佐は、この部隊が解散する時まで、出向を続行する。それが新たな任務です」

オーリス三佐のその任務に、俺は驚きを隠せなかった。
出向の続行、それはつまりスパイ活動はせずにここにいてもいいと言う彼女なりの言葉だった。

「山本二等空佐、この命を賭けてでも任務に当たります」
「私からは以上です」

オーリス三佐は俺の返事を聞くと踵を返す。

「オーリス三佐!」

俺の呼びかけに、オーリス三佐は反応しない。

「ありがとうございます!」
「………」

俺の言葉に、一瞬足を止めるが、すぐに歩き出した。

「本当にお人好しだ。お前は」

執行人は吐き捨てるように言うと、俺に背を向けて歩き出す。










その後、臨時査察は滞りなく終了し、問題点も特に見つからなかったとのこと。
これで、機動六課に訪れた小さい危機は去った。

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