健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第7話 講義

昼休みも終わり、俺は授業を受けていた。
科目は算数だ。

「三角形の内角の和は180度です。よってこの角度は――――」

その授業を聞きながら、俺は昼休みに師匠が話した魔法講義の事を思い出した。










【魔法と言うのは俗にいう、奇跡を起こす力だ】

最初の出だしはそれだった。
魔法使いともなれば、俺の友人たちの間では一種の夢物語な内容だ。
大人になって行くにつれて、そんなものは存在しないと考えるようになってしまう。
でも、俺は言い続けるだろうし、信じる。
魔法使いは実際にいるんだ、と。

【もちろん一般人には使うことはできず、この力が使える者は絶大な力とそれ相応の責任が追い求められる】
【責任?】

突然出てきた思い言葉に、俺は聞き返してしまった。

【そう、責任だ】

師匠は頷くように答えると言葉を続けた。

【魔法は人を幸せにしたりすることもできる反面、人を殺したり傷つけたりする武器にもなる】

それは、とても重い言葉だった。
”魔法”という漠然とした理想像に隠された思い言葉だった。

【だから魔法と言う力を使うのであれば、覚悟を決めることだ。これからもお前は人を傷つけたり殺めることがあるだろうからな】

まさかと思いたかったが、それはできなかった。
なぜなら昨日、俺はすでにその兆しを見たからだ。

(もし、師匠たちが来るのが遅れていたら……)

考えただけでも俺はぞっとした。

【そうだ。そのように力の恐ろしさを認識できただけで、お前は少し強くなった】

師匠はそんな俺にどういう威とかは分からないけど、声をかけてくれた。

【少しでも強くなれるように……自分の身を自分で守ることが出来るようにするために、今日の放課後から本格的に特訓を始めるぞ】
【はい!!】

俺は師匠の宣言に返事を返す。
かくして、俺の魔法の特訓はこの後から本格的になるのであった。

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第5話 思わぬ出会い

師匠の特訓という出来事を除けば、いつも通りと思われた一日は、先生の一言で変わり始めた。

「さて皆さん。実は先週急に決まったんですが、今日から新しいお友達がこのクラスにやってきます。海外からの留学生さんです。フェイトさん、どうぞ」
「し、失礼します」

教室に入ってきたのは、金髪のツインテールで目の色が赤い少女だった。

「あの、フェイト・テスタロッサと言います よろしくお願いします」
その少女がお辞儀をすると、クラス中から拍手が沸き起こった。
近くの人が『あの子、かわいい』と言っている声が聞こえた。

(あれ、あの子は)

その少女と、前に会っていた。
少女は俺の顔を見ると、一瞬目を見開かせるが、すぐに元に戻った。

(………まあ、いいか)

俺は出会った経緯を思い起こそうとするのを止めると、先生からの連絡事項を聞くのであった。










「ねえ、向こうの学校ってどんな感じ」
「あ、あの私、学校には――」

休み時間、テスタロッタさんの周りにクラスメイトたちが質問を投げかけていた。
俺はと言えば、特に興味もないので、遠くで静観している。

「すっげえ急な転校だよね、なんで?」
「そのっ、色々あって―」
「日本語上手だね、どこで覚えたの?」
「どこに住んでたの?」

どうでもいいが、彼女は困っているようだった。
いい加減に止めようとした時だった。

「テメェ、俺のフェイトに手を出すんじゃねえよ!」

あー、視界の片隅で阿久津が怒鳴りながらクラスメイトを脅している。
脅されているクラスメイトは、手が震えていた。
さすがにかわいそうだろと思い、俺は阿久津の元に向かおうとした時だった。

「はいはい、転入初日の編入生をそんなにみんなでわやくちゃにしないの」
「アリサ」
「それに質問は順番に、フェイト困ってるでしょ」

アリサによってその場はなんとか鎮静化したのだった。

「さすがは俺のアリサ!」

阿久津の方も、クラスメイトのことなど気にしたことのない様子で称賛の声を上げていた。
その隙に脅されていたクラスメイトは逃げて行った。

(……まあ、いいか)

人助けをするタイミングがおかしいの何ていつもの事だと思いながら、俺は自分の席に戻るのであった。










そして昼休み。

「ささ、あんたも座って座って」
「あ~誰かさんに引きずられたせいで、腰が痛い」

俺はアリサに(半強制的に)屋上に連れてこられていた。

「はいはい。へんなこと言ってないで自己紹介」
「……山本 真人です。よろしく」
「わ、私は……フェイト・テスタロッサ。よろしく、ね?」

いや、なんで疑問形?
取りあえず、自己紹介は無事に(?)終わった。

「それじゃ、お昼を食べるわよ!!」

と言うことで昼食となったのだが……。

「あ、真人君のお弁当おいしそうだね」
「ほんとね~、これと交換でいい?」
「いや、聞いておきながら、もう交換してるし」
「良いじゃない! あんたはあたしたちのお弁当が食べられるんだから! ……おいし」

とまあこんな感じで、お弁当の中身はどんどんと変わっていく。
ちなみに、母さん作だ。

【ふむ……女子とのおかず交換か……中々にしてモテモテのようで何よりだ】
「っ!!?」

俺は突然頭の中に響くような感じで聞こえてきた声に、思わずベンチから立ち上がってしまった。

「ど、どうしたのよ? いきなり立ち上がったりなんかして?」
「あ、いや、なんでもない」

俺は怪訝そうな様子で聞いてくるアリサにそう答えると、再びベンチに腰かけた。

【思念通話だ。心の中で喋ればいい】

その声は、ため息交じりにそう呟いた。

【一体なんですか?】
【何、お前さんに魔法について色々と知っておいて貰おうと思ってな】

師匠の答えに僕はどうしてだろうと内心で疑問を感じた。

【時間の関係上だ。これをすれば放課後の鍛錬の方も少しは効率がよくなる】

思わずなるほどと頷きそうになる。
でも大丈夫なのだろうか?

【安心しろ。学業に支障が出ないレベルで話していく】

俺の疑問が分かったのか師匠はそう答える。

その答えを聞きながら、俺は横目で今日転校してきた女子の方を見る。
やはり間違いない。
彼女だ。
あの時・・・の少女だ。

【では、始めるぞ】

師匠のその言葉を聞きながら、俺はあの時のことを思い起こすのであった。

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第49話 黒幕と戦い

大きなクレーターからヴィヴィオを抱えて這い上がった時、サイレンの音が響き渡った

『聖王陛下、反応ロスト、システムダウン』
「なのはちゃん! 真人君!」
「はやてちゃん!」
「はやて!」

アナウンスが流れる中、玉座の間にやってきたのは、ユニゾンしているはやてだった。

『艦内復旧のため、全ての魔力リンクを解除します』

はやてがやってきた瞬間、アナウンスが再び流れAMF濃度が一気に高まったため、はやてのユニゾンやなのはのアクセルフィンが解けてしまった。
俺の場合は、ユニゾンは解けなかったが、魔法を使うには少々厳しい状態だ。

『艦内の乗員は、休眠モードに入ってください』

その後、はやては急いで撃ちぬかれた壁の中に入り、戦闘機人を連れて行くために向かった。

「駄目です! 魔力結合できません! 通信も!!」
「しゃあない、歩いて脱出や」

リインの言葉に、はやてはそう指示を出した。

「でも、なのはさんが」

リインの言葉に、なのはを見ると息が切れていて、立っているのがやっとの状態だった。

「大丈夫、歩けるよ」

しかし、すぐに息を整えると、俺達を安心させるように言った。

『乗員は、所定の位置に移動してください………繰り返します、乗員は所定の位置に移動してください』

そんな時、再びアナウンスが流れ始めた。

『これより、破損内壁の応急処置を開始します。破損内壁・および非常隔壁から離れてください』
「出口へ急ぐんや!!」

アナウンスが流れるのと同時に、通路がふさがり始めたのを見て、はやては俺達に声をかけると、玉座の間への入口へと走った。
だが、そこも固く塞がれてしまう。
どうしようかとはやて達が慌てていると、何処からともなくバイクの音が聞こえた。

「ん?」
「この音……」
「まさか!」

はやて達の言葉の次の瞬間、頭上の壁が吹き飛んだ。
そして、そこから現れたのは………

「お待たせしました!」
「助けに来ました!」

スバルとティアナの二人だった。

「真人さん、目が覚めたんですね!」
「ああ、心配かけた」

安心した様子のスバル達に、俺はそう答えた。
そして、なのは達はスバルによって、吹き飛んだ壁の方向へと運ばれていく。

「真人さんも急いでください」
「………」

スバルの言葉に、俺は首を静かに横に振った。

「お前達だけで脱出しろ。俺には、まだ成すべきことがある」
「真人君!」

なのはが俺の名前を呼ぶ。
それだけで、何と言いたいのかが分かったような気がした。

「必ず戻るから。だから、早く行け」
「………行くわよ、スバル」
「………うん」

言っても無駄だと悟ったのか、それとも、俺の言葉を信じてくれたのか、ティアナはスバルに声をかけると、そのままなのは達を抱えて去って行った。

「ふぅ……」

俺は一息ついて気持ちを入れ替える。

【執行人、転生者は?】
【………もう目の前にいるぞ】

俺の問いかけに、執行人は静かに答えた。
目の前には誰もいない。
おそらく姿を消しているのだろう。
だからこそ、俺は大きな声でそこにいるであろう人物に呼びかけた。

「そこにいるのは分かっている………出て来い!!」

俺の呼びかけに応えるように何もない空間がぶれるように揺らぐと、そいつは姿を現した

「何だ、死んだかと思ったのに……まあ、死んだも同然だがな」

そして姿を現したのは黒づくめの男だった。

「お生憎様、俺の取柄はあきらめの悪さなもんでな」
「その余裕そうな表情……ムカつく」

俺の言葉に、男は不快感をあらわにする。

「良いことを教えてあげる。お前が貫いたガジェットは、この俺が作った物さ。良い子ちゃんブルお前が傑作だったぜ」
「………貴様の目的は何だ? ハーレムでも作る気か? それとも世界征服か?」

俺は、男の挑発に乗らないように堪えた。

「ああそうさ。俺はこの世のすべてを支配する! スカリエッティのようなちっぽけな奴じゃつまらない。もっと大きな花火を上げるんだ! そしてこの世の人間どもを俺の思い通りに動かしてくれる!! 絶望と混沌のせかいに彩ってやるさ。ふはははは!!!」

男は俺の問いかけに一気に野望を話すと、高らかに笑い始めた。
その時、俺は疑問を感じた。

【ふざけるな!!】
「あん?」

そんな時、突然声を上げたのは、執行人だった。

【絶望と混沌の真の恐ろしさを知らぬ餓鬼が、偉そうに口にするんじゃねえ!!】
「ははっ! 本当に君は愉快だな」

執行人の言葉を聞いた男は、腹を抱えて笑う。

【もう良い、真人、こいつを消せ。真っ二つに切り刻め!!】
【落ち着けよ! お前らしくないぞ】

物騒な事を迫ってくる執行人に、俺は落ち着くように促した。
執行人が頭に血が上る様子は、初めて見たような気がした。

【悪い】
【正気に戻ったところで、聞きたいことがある】

そして俺は、執行人に今まで疑問に思っていたことを、問いかけることにした。

【前に話していたよな、転生するときに性格とかが180度変わる症状の事】
【ああ、”転生酔い”の事か? それがどうした】

――――転生酔い
それは、転生する際に何らかの原因で性格や精神面に異常が発生して、180度異なる性格になってしまう症状。
執行人曰く、こういった状態の転生者はまず、精神などを修復してから消すかどうかの判断をするらしい。

【もしかしたら、あいつがその”転生者酔い”かもしれないんだ】
【それはありえない。言ったはずだ。転生酔いの可能性は1%にも満たないと】

執行人の言うとおりだ。
転生酔いと遭遇したことは、今まで一度もなかった。
それこそが確率が非常に少ないことを示すものでもあった。

【例え1%未満の確率でも可能性があるのであれば、俺はその可能性に賭ける】
【………ッ!!】

俺の言葉に、執行人は息をのんだ。

【良いだろう。ならばその可能性に賭けてみよう。転生酔いを治す方法を教える】

しばらくして、執行人は同意すると、俺に転生酔いを治す方法を教えてくれた。
その方法は、魔力ダメージでノックダウンと言うものだった。
シンプルなようで難しい。
なぜなら、今の俺は少し前の俺よりも弱っている。
もし一撃でも入れられれば、もう後が無くなってしまう。

「転生者、貴様を排除する」
「やれるものならやってみるのだ、な!!」

俺の宣言に、男はいきなり剣を放ってきた。
俺はそれを難なく避ける。

「導!」
「ッ!? はぁ!」

男の一言で、剣の動きが変わり、俺にめがけて放たれたのだ。
俺は瞬時にクリエイトを振りかぶることで難を逃れた。

【真人!】
「ッ! プロテクション!!」

執行人の声に、俺は障壁を張った。
次の瞬間、俺は素様じい衝撃に襲われた。

「ほぅ、やはり死角を攻めても防ぐか。だが……」
「ッく!!」

俺は急いでその場を離れた。

「これで終わりだ!! 滅閃、鳳来合」
「がああ!!?」

飛び退いて離れたはずなのに、なぜか俺は吹き飛ばされて、壁に叩き付けられた。

【おい! 大丈夫か!!】

中にいるため、ダメージが伝わっていない執行人が、心配そうに声をかけてきた。
普通はダメージが入るものだが、なぜだろう?

【大じょう……ぶ】

俺はふらつきながらも立ち上がると、男を睨みつける。

「やっぱりすばらしい。だが、どうもおかしいな。もしかして君弱ってる?」
「うるさい!!」

俺は男の言葉に、そう答えた。
男の言うとおりだった。
俺はかなり弱っている。
今の攻撃を食らっただけで、もう倒れそうなぐらいなのだから。

「そうだよな~、ならば、これで終わりだ」
「ッやば――――」

俺は、男の動きからその後何が起こるかを理解して、回避しようとする。
だが、それは遅すぎた。

「さよなら」
「がッ!!」

俺は、男の放った魔法弾に貫かれ、そのまま吹き飛ばされた。

「う………ぐッ!!」

起き上がろうとするが、体に力が入らない。

(ここまで……なのか?)

俺は、一瞬だがすべてを諦めかけそうになった。
何もかもを諦めた方が楽になると思ってしまった。
だが、そんな時に俺は自分の言葉を思い出した。

『必ず戻るから。だから、早く行け』

それはスバル達に掛けた声。

(そうだ、ここで倒れてたら約束が守れない)

それだけは嫌だ。
だからこそ、俺は最後の悪あがきをするのだ。

【執行人。”アレ”を使うぞ】
【………どのくらい使う?】

俺の言葉に、執行人は何も言わずにそう問いかけてきた。

【500だ】

だからこそ、俺も静かに答えた。

【ッ!? 了解だ。準備完了……何時でも】

そして俺は最後の切り札を使う。

「おや? まだ立てるのか?」
「ク……リエイ……ト、ファイナルオーバードライブ……始動!」
『ファイナルオーバードライブモード、スタート!!』

次の瞬間、俺は白銀の光に飲み込まれた。

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第36.5話 恐怖をなくすために~執行人の奮闘記~

僕はこの前、非常に不快な思いをした。

『パパ……この人たち、怖い』

それは、この間六課にやってきたオッドアイの少女に言われた一言だった。
小さな子供に言われたからか、もしくは一番同類にされたくない人物と同じにされたからなのか、僕は非常に傷ついた。

「このままでは、ダメだ……なんとかしなければ!!」

誰もいない真人の部屋で、僕はそう決心するのであった。

「思い立ったら即行動!」

そして僕は真人の部屋を後にした。










僕が向かった先は部隊長室だ。

「――――というわけなんだ」
「つまり、保護した女の子に怖がられないようにすればええんやな?」

僕の話を聞いたはやては、簡潔にまとめた。
なぜここに来たのかというと、思い立ったは良いものの、何をすればいいかが分からなかったからだ。

「分かるか?」
「もちろんや! 私に任せてくれれば問題なしや!!」

僕の言葉に、はやては胸を叩いて自信が満ちた表情で宣言する。
一体どこにそんな自信があるのかが気になるが、まあ深く考えないようにしよう。

「そうや! 私が徹底的に付きおうたるさかい、ロビーで待っててくれる?」
「……? わかった」

はやての指示に、僕は首を傾げながら頷くと部隊長室を後にした。










「お待たせ」
「やっと来たか。一体何をして―――」

ロビーでしばらく待つと、背後からはやての声がした。
振り返った僕は、あまりの驚きに言葉を失った
なぜならば、はやての服装が、管理局の服ではなく水色のロングスカートに、白と黒の色の縞模様のシャツの上に灰色のジャケットを羽織っているという完全な私服姿だったからだ。

「というわけで、レッツゴーや!」
「あ、おい、引っ張るなって!」

僕ははやてに引きずられるような形で、六課を後にした。
そしてやってきたのは、服屋だった。

「君に一番足りないのは、ズバリ意外性や! いつも黒い服ばかり着とるから怖がられるんや」
「なるほど」

はやての言う事も一理ある。
確かに、僕を見る殆どの人が怖がった表情だった。
きっと僕が黒い服ばかりを着ているからに違いない。

「というわけで、服を漁るで!」

ということで、僕の服選びが始まったわけだが……。

「これはどうや?」
「………僕に女になれと?」

はやてが最初に持ってきたのは少女のイラストが描かれたシャツだった。
とてもではないが、着たくはない。

「む……せやったら、これならどうや!!」

そう言って自信満々に出したのは、アロハシャツだった。

「…………はやて、もういいよ」

僕が言えたのは、その一言だった。










それから1時間後、僕たちは機動六課に戻った。

「今日は楽しかったよ、本当にありがとな~」
「どういたしまして………それにしても、たくさん買ったものだな」

僕の視線の先にあるのは、たくさんの紙袋。
ちなみにこれ全て、はやての(・・・・)洋服だ。
何だか、はやてが楽しむために、付き合わされたような気がしてきた。

「とても楽しかったで~、やっぱり後先考えずに買い物するんもええな~」
「そうだな」

そんなはやての嬉しそうな表情を見ていると、自然とそう口にすることが出来た。
その後、はやてと別れると、僕は再び歩き出した。

「む~」

そしてまた振り出しに戻った。
問題の方はちっとも解決していないのだ。

(どうしたものか)

そうやって、悩んでいた時だった。

「あの、大丈夫ですか?」
「ん? なんだ、フェイトか」

声をかけてきたのは、フェイトだった。
どことなく心配そうな表情で僕を見ていた。

「何か悩み事ですか?」
「まあ、そんなところだ」
「もし私がお役にたてるようだったら答えますので、悩みを言ってくれませんか?」

フェイトのその言葉に、僕は彼女の環境を思い出した。
そう言えば、彼女にはエリオとキャロの二人がいた。
もしかしたら、はやてより的確なアドバイスが、もらえるのではないだろうか?
その希望を抱きつつ、僕はフェイトに事の次第を話した。

「なるほど……」

僕の話を聞いたフェイトは顎に手を添えてしばらく考え込む。
すると、答えが分かったのか僕の方を見た。

「もしかして、笑顔じゃないですか?」
「笑顔?」

これまたあれな方向だなと思いつつ、僕はフェイトに先を促す。

「執行人さんは、いつもしかめっ面というか無表情ですよね? 子供って言うのは表情とかでも人を見たりしますから、いつもその表情でいると怖がるのも無理はないなと思います」
「なるほど………」

フェイトの言葉に、僕はなぜか納得できた。
そう言えば僕は今まで、人前で笑顔を浮かべたことがないような気がする。

「ありがとう。助かった」
「いいえ、お役にたてたのならうれしい限りです」

僕のお礼に、フェイトはそう答えると、頭を下げて再び歩いて行った。

「笑顔か………やってみよう」

僕はそう決心した。










そのチャンスは、翌日の昼ごろに訪れた。

「ん? あれは」

何時ものようにぶらぶらと散歩をしていると、前にきょろきょろと辺りを見ながら歩く金髪の少女がいた。
彼女は、明らかにこの間ここにやってきた”ヴィヴィオ”という少女だ。
僕は彼女に近づいて

「どうしたんだ?」

声をかけた。

「ふぇ?」

僕の声に気付いたヴィヴィオが僕を見上げる。
そして僕は屈んでヴィヴィオに目を合わせ、もう一度聞いた。
勿論、ぎこちなくではあるが出来る限り自然に笑顔を浮かべて。

「こんなところでどうしたのかな?」
「え、えっと………パパがいないの」

若干怯えられているようだが、なんとか会話が成り立った。

「あ~、あいつだったら今訓練場かな。お兄さんと一緒に行こうか?」
「うん」

僕の言葉に、ヴィヴィオは静かに頷いたのを確認して僕はゆっくりと歩き出した。
そしてしばらく歩いた時だった。

「ん?」

何かが手を掴んだので、僕は右手に視線を向けた。
そこにはおっかなびっくりと言った様子で手を掴むヴィヴィオがいた。

「……?」

僕が見ていることに気付いたのか、ヴィヴィオは”何?”と言いたげな目で見てくる。

「大丈夫。すぐにつくからね」
「うん!」

僕はもう一度笑顔でヴィヴィオに言葉をかけた。
この時、なぜか僕は自然に笑顔を浮かべることが出来た。
そして、それにヴィヴィオも万弁の笑顔で答えてくれた。
それを見た僕は、喜びをかみしめつつ、真人たちのいる訓練スペースへと歩き出す。
結局、一番重要だったのは笑顔だったということだ。
その後、それを見た真人にはかなり驚かれた。
あいつは、僕をどのような目で見ているのだ?

(今度問い詰めてやるか)

そんな事を考えながら、僕は真人に声をかけるのであった。
それが、いつもの日常なのだから。

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第51話 終焉

「ん……ぅ」

俺はいつものように目を開ける。
何故か視力が戻っていた。
だが、なんだか違和感を感じる。

(ここは……病院か)

「真人君ッ!!」

俺が今いる場所を認識したのと同時に、なのはの声とともに、体に衝撃を感じた。

「良かった……良かったよぅ!!」

涙を流しながら喜んでいるなのはを見て、申し訳なく思いその頭を撫でようと右手を動かそうとした。
しかし、右手が動くことはなかった。

(あれ?)

ようやく違和感の正体が分かった。
それを確認するように、左腕や足を動かそうとするが、まったく動かなかった。
どうやら、俺は全身を動かすことが出来なくなってしまったようだ。

「なのは」
「……グス、何かな? 真人君」

涙ぐむなのはに、俺はお願いをすることにした。

「体を起こしてもらっていいかな? 俺か体が動かなくなっちゃったから」
「ッ!!」

それを聞いたなのはは、息をのんだ。

「嘘……だよね?」
「こんな時に冗談何て言わないさ」

信じられないと言った表情を浮かべるなのはだが、俺の背中に手を回すと、起き上がらせてくれた。

「サンキュ」
「どういたしまして」

なのははそう告げると、”お医者さんを呼んでくる”と言って病室を後にした。
誰もいなくなった病室を見渡すと、そこはどうやら個室の様だ。
横には点滴がある。

「………」

部屋の中を見終えた俺は、窓を見た。
そこは、青い空が広がっていた。
だが、俺の心はさえない。
自分でもわかっていた。
もう俺に残された時間が少ないことが。
その後、医者の検診を受けた俺はお見舞いに来たはやて達と話をした。
その話から分かったことは、事件の聴取に非協力的だったスカリエッティ達は軌道拘置所で勾留されることとなったらしい。
事件に協力的な姿勢を見せた戦闘機人たちは更生施設で何とかと言うプログラムを受けているらしい。
ちなみに、俺が倒した転生者の及川さんも、更生施設に収容されたらしい。










「真人」

はやて達が帰ってからしばらくして、真剣な面持ちで俺に話し掛けてきたのは執行人だった。
俺は、唯一動く顔を横に動かして執行人の方を見た。

「何だ?」
「今からでも遅くはない。代償転換をやるんだ」

開口一番がそれだった。

「やらないよ」
「真人! お前の覚悟は僕にも十分伝わった。このままだとお前が―――」

俺の言葉を聞いた執行人が、声を荒げた。

「落ち着けよ。いつものお前らしくない」
「そんなの知った事か! こういう時の為の僕だ、僕を使え。お前に使われれば僕も本望だ」

俺が落ち着かせようとするが、執行人は落ち着くどころかさらに声を荒げた。

「はは、やっと執行人から認められたような気がする」
「ッ!? 茶化すな!」
「俺はやる気はないよ。それにこうなることは覚悟の内……うまく言えないけど、達成感で十分満足だよ」

俺はそう言うと、執行人から視線を逸らした。

「真人……お前は理解していない。お前に万が一のことがあったら悲しむ奴がいるんだぞ」
「それは執行人もだ。あんたがいなくなったら、はやてが悲しむ」

俺の言葉に、執行人が息をのんだ。
と言うより、まさか知らないと思ってたのか?

「あれだけ分かりやすくいちゃいちゃしていたら、誰だってわかるさ。はやてと執行人が恋仲だっていうことぐらい」
「………」

何時かは分からないが、はやてと執行人は恋人同士で結婚を前提に付き合っている。
という話を聞いたことがある。
普段、俺の中にいる時以外にもはやてと楽しそうにしているのも見たこともあった。

「だが―――」
「もうこの話はこれでおしまい! 今後は取り合わないからな」

執行人は、俺の言葉に諦めたのかそのまま立ち去って行った。

(これでいいのさ。これで)

俺の心はとても爽やかだった。










あれから3日経った。
体調はすこぶる悪い。

「真人君、リンゴ向いてきたよ~」

なのはがいつものように笑顔で病室を訪れた。
だが、本当は泣きたいのだと言うことは分かっていた。

【いつも悪いな。なのは】
「ううん、気にしないで。これも恋人の役目だから」

俺の念話に、なのはは笑顔で言った。
そしておもむろにリンゴを爪楊枝で刺すと、俺の口元に近づけた。

「はい、真人君。あーん♪」

手が使えないため、俺はなのはに食べさせてもらっている。
恥ずかしい気持ち反面、なんだか役得したな~と思うのが反面と複雑な心境だった。

「どう? おいしい?」
【ああ、おいしいよ】

なのはの問いかけに、俺は念話で答える。
どうして話さないのか?
それは、話したく・・・ないからではなく、話せない・・・からだ。
どうやら、着実にカウントダウンは続いているようだ。
そう、俺と言う存在が無くなる・・・・までの。










そして、病院に来てから6日経った夜。

(持たないものだな)

俺は心の中でつぶやいた。
昼間は目を覚まして回復に向かっている健司がお見舞いに来てくれた。
そのことにほっと胸を撫で下ろした。
だが、もう限界だった。
俺の命はもう持たない。
不思議と俺の心に死への恐怖はなかった

(ああ………今思えば、楽しい時だったな)

俺は、今までの楽しかったこと、つらかったことを思い出した。
どれもが懐かしく感じられた。

(皆ありがとう)

俺は、誰にも聞くことが出来ないお礼を呟いた。

(なのは……俺がいなくなっても幸せ………に)

そこで俺の意識は、まるでテレビを切ったように途切れた。

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