健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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後書き

お久しぶりです。
TRです。


この度は、『魔法少女リリカルなのはstrikers~失った力~』をお読みいただき、ありがとうございました。
これにて、本作は完結いたしました。
ですが、まだ話は続きます。
外伝を1つ残っております。
もうしばらくは、駄作ですがお付き合いいただけると幸いです。
今回のエンディングには、賛否両論になるかと思われます。


それでは、本作を最後まで読んでくださった皆様に、最高の感謝の気持ちを込めて、これにて失礼いたします。

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第51話 終焉

「ん……ぅ」

俺はいつものように目を開ける。
何故か視力が戻っていた。
だが、なんだか違和感を感じる。

(ここは……病院か)

「真人君ッ!!」

俺が今いる場所を認識したのと同時に、なのはの声とともに、体に衝撃を感じた。

「良かった……良かったよぅ!!」

涙を流しながら喜んでいるなのはを見て、申し訳なく思いその頭を撫でようと右手を動かそうとした。
しかし、右手が動くことはなかった。

(あれ?)

ようやく違和感の正体が分かった。
それを確認するように、左腕や足を動かそうとするが、まったく動かなかった。
どうやら、俺は全身を動かすことが出来なくなってしまったようだ。

「なのは」
「……グス、何かな? 真人君」

涙ぐむなのはに、俺はお願いをすることにした。

「体を起こしてもらっていいかな? 俺か体が動かなくなっちゃったから」
「ッ!!」

それを聞いたなのはは、息をのんだ。

「嘘……だよね?」
「こんな時に冗談何て言わないさ」

信じられないと言った表情を浮かべるなのはだが、俺の背中に手を回すと、起き上がらせてくれた。

「サンキュ」
「どういたしまして」

なのははそう告げると、”お医者さんを呼んでくる”と言って病室を後にした。
誰もいなくなった病室を見渡すと、そこはどうやら個室の様だ。
横には点滴がある。

「………」

部屋の中を見終えた俺は、窓を見た。
そこは、青い空が広がっていた。
だが、俺の心はさえない。
自分でもわかっていた。
もう俺に残された時間が少ないことが。
その後、医者の検診を受けた俺はお見舞いに来たはやて達と話をした。
その話から分かったことは、事件の聴取に非協力的だったスカリエッティ達は軌道拘置所で勾留されることとなったらしい。
事件に協力的な姿勢を見せた戦闘機人たちは更生施設で何とかと言うプログラムを受けているらしい。
ちなみに、俺が倒した転生者の及川さんも、更生施設に収容されたらしい。










「真人」

はやて達が帰ってからしばらくして、真剣な面持ちで俺に話し掛けてきたのは執行人だった。
俺は、唯一動く顔を横に動かして執行人の方を見た。

「何だ?」
「今からでも遅くはない。代償転換をやるんだ」

開口一番がそれだった。

「やらないよ」
「真人! お前の覚悟は僕にも十分伝わった。このままだとお前が―――」

俺の言葉を聞いた執行人が、声を荒げた。

「落ち着けよ。いつものお前らしくない」
「そんなの知った事か! こういう時の為の僕だ、僕を使え。お前に使われれば僕も本望だ」

俺が落ち着かせようとするが、執行人は落ち着くどころかさらに声を荒げた。

「はは、やっと執行人から認められたような気がする」
「ッ!? 茶化すな!」
「俺はやる気はないよ。それにこうなることは覚悟の内……うまく言えないけど、達成感で十分満足だよ」

俺はそう言うと、執行人から視線を逸らした。

「真人……お前は理解していない。お前に万が一のことがあったら悲しむ奴がいるんだぞ」
「それは執行人もだ。あんたがいなくなったら、はやてが悲しむ」

俺の言葉に、執行人が息をのんだ。
と言うより、まさか知らないと思ってたのか?

「あれだけ分かりやすくいちゃいちゃしていたら、誰だってわかるさ。はやてと執行人が恋仲だっていうことぐらい」
「………」

何時かは分からないが、はやてと執行人は恋人同士で結婚を前提に付き合っている。
という話を聞いたことがある。
普段、俺の中にいる時以外にもはやてと楽しそうにしているのも見たこともあった。

「だが―――」
「もうこの話はこれでおしまい! 今後は取り合わないからな」

執行人は、俺の言葉に諦めたのかそのまま立ち去って行った。

(これでいいのさ。これで)

俺の心はとても爽やかだった。










あれから3日経った。
体調はすこぶる悪い。

「真人君、リンゴ向いてきたよ~」

なのはがいつものように笑顔で病室を訪れた。
だが、本当は泣きたいのだと言うことは分かっていた。

【いつも悪いな。なのは】
「ううん、気にしないで。これも恋人の役目だから」

俺の念話に、なのはは笑顔で言った。
そしておもむろにリンゴを爪楊枝で刺すと、俺の口元に近づけた。

「はい、真人君。あーん♪」

手が使えないため、俺はなのはに食べさせてもらっている。
恥ずかしい気持ち反面、なんだか役得したな~と思うのが反面と複雑な心境だった。

「どう? おいしい?」
【ああ、おいしいよ】

なのはの問いかけに、俺は念話で答える。
どうして話さないのか?
それは、話したく・・・ないからではなく、話せない・・・からだ。
どうやら、着実にカウントダウンは続いているようだ。
そう、俺と言う存在が無くなる・・・・までの。










そして、病院に来てから6日経った夜。

(持たないものだな)

俺は心の中でつぶやいた。
昼間は目を覚まして回復に向かっている健司がお見舞いに来てくれた。
そのことにほっと胸を撫で下ろした。
だが、もう限界だった。
俺の命はもう持たない。
不思議と俺の心に死への恐怖はなかった

(ああ………今思えば、楽しい時だったな)

俺は、今までの楽しかったこと、つらかったことを思い出した。
どれもが懐かしく感じられた。

(皆ありがとう)

俺は、誰にも聞くことが出来ないお礼を呟いた。

(なのは……俺がいなくなっても幸せ………に)

そこで俺の意識は、まるでテレビを切ったように途切れた。

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第36.5話 恐怖をなくすために~執行人の奮闘記~

僕はこの前、非常に不快な思いをした。

『パパ……この人たち、怖い』

それは、この間六課にやってきたオッドアイの少女に言われた一言だった。
小さな子供に言われたからか、もしくは一番同類にされたくない人物と同じにされたからなのか、僕は非常に傷ついた。

「このままでは、ダメだ……なんとかしなければ!!」

誰もいない真人の部屋で、僕はそう決心するのであった。

「思い立ったら即行動!」

そして僕は真人の部屋を後にした。










僕が向かった先は部隊長室だ。

「――――というわけなんだ」
「つまり、保護した女の子に怖がられないようにすればええんやな?」

僕の話を聞いたはやては、簡潔にまとめた。
なぜここに来たのかというと、思い立ったは良いものの、何をすればいいかが分からなかったからだ。

「分かるか?」
「もちろんや! 私に任せてくれれば問題なしや!!」

僕の言葉に、はやては胸を叩いて自信が満ちた表情で宣言する。
一体どこにそんな自信があるのかが気になるが、まあ深く考えないようにしよう。

「そうや! 私が徹底的に付きおうたるさかい、ロビーで待っててくれる?」
「……? わかった」

はやての指示に、僕は首を傾げながら頷くと部隊長室を後にした。










「お待たせ」
「やっと来たか。一体何をして―――」

ロビーでしばらく待つと、背後からはやての声がした。
振り返った僕は、あまりの驚きに言葉を失った
なぜならば、はやての服装が、管理局の服ではなく水色のロングスカートに、白と黒の色の縞模様のシャツの上に灰色のジャケットを羽織っているという完全な私服姿だったからだ。

「というわけで、レッツゴーや!」
「あ、おい、引っ張るなって!」

僕ははやてに引きずられるような形で、六課を後にした。
そしてやってきたのは、服屋だった。

「君に一番足りないのは、ズバリ意外性や! いつも黒い服ばかり着とるから怖がられるんや」
「なるほど」

はやての言う事も一理ある。
確かに、僕を見る殆どの人が怖がった表情だった。
きっと僕が黒い服ばかりを着ているからに違いない。

「というわけで、服を漁るで!」

ということで、僕の服選びが始まったわけだが……。

「これはどうや?」
「………僕に女になれと?」

はやてが最初に持ってきたのは少女のイラストが描かれたシャツだった。
とてもではないが、着たくはない。

「む……せやったら、これならどうや!!」

そう言って自信満々に出したのは、アロハシャツだった。

「…………はやて、もういいよ」

僕が言えたのは、その一言だった。










それから1時間後、僕たちは機動六課に戻った。

「今日は楽しかったよ、本当にありがとな~」
「どういたしまして………それにしても、たくさん買ったものだな」

僕の視線の先にあるのは、たくさんの紙袋。
ちなみにこれ全て、はやての(・・・・)洋服だ。
何だか、はやてが楽しむために、付き合わされたような気がしてきた。

「とても楽しかったで~、やっぱり後先考えずに買い物するんもええな~」
「そうだな」

そんなはやての嬉しそうな表情を見ていると、自然とそう口にすることが出来た。
その後、はやてと別れると、僕は再び歩き出した。

「む~」

そしてまた振り出しに戻った。
問題の方はちっとも解決していないのだ。

(どうしたものか)

そうやって、悩んでいた時だった。

「あの、大丈夫ですか?」
「ん? なんだ、フェイトか」

声をかけてきたのは、フェイトだった。
どことなく心配そうな表情で僕を見ていた。

「何か悩み事ですか?」
「まあ、そんなところだ」
「もし私がお役にたてるようだったら答えますので、悩みを言ってくれませんか?」

フェイトのその言葉に、僕は彼女の環境を思い出した。
そう言えば、彼女にはエリオとキャロの二人がいた。
もしかしたら、はやてより的確なアドバイスが、もらえるのではないだろうか?
その希望を抱きつつ、僕はフェイトに事の次第を話した。

「なるほど……」

僕の話を聞いたフェイトは顎に手を添えてしばらく考え込む。
すると、答えが分かったのか僕の方を見た。

「もしかして、笑顔じゃないですか?」
「笑顔?」

これまたあれな方向だなと思いつつ、僕はフェイトに先を促す。

「執行人さんは、いつもしかめっ面というか無表情ですよね? 子供って言うのは表情とかでも人を見たりしますから、いつもその表情でいると怖がるのも無理はないなと思います」
「なるほど………」

フェイトの言葉に、僕はなぜか納得できた。
そう言えば僕は今まで、人前で笑顔を浮かべたことがないような気がする。

「ありがとう。助かった」
「いいえ、お役にたてたのならうれしい限りです」

僕のお礼に、フェイトはそう答えると、頭を下げて再び歩いて行った。

「笑顔か………やってみよう」

僕はそう決心した。










そのチャンスは、翌日の昼ごろに訪れた。

「ん? あれは」

何時ものようにぶらぶらと散歩をしていると、前にきょろきょろと辺りを見ながら歩く金髪の少女がいた。
彼女は、明らかにこの間ここにやってきた”ヴィヴィオ”という少女だ。
僕は彼女に近づいて

「どうしたんだ?」

声をかけた。

「ふぇ?」

僕の声に気付いたヴィヴィオが僕を見上げる。
そして僕は屈んでヴィヴィオに目を合わせ、もう一度聞いた。
勿論、ぎこちなくではあるが出来る限り自然に笑顔を浮かべて。

「こんなところでどうしたのかな?」
「え、えっと………パパがいないの」

若干怯えられているようだが、なんとか会話が成り立った。

「あ~、あいつだったら今訓練場かな。お兄さんと一緒に行こうか?」
「うん」

僕の言葉に、ヴィヴィオは静かに頷いたのを確認して僕はゆっくりと歩き出した。
そしてしばらく歩いた時だった。

「ん?」

何かが手を掴んだので、僕は右手に視線を向けた。
そこにはおっかなびっくりと言った様子で手を掴むヴィヴィオがいた。

「……?」

僕が見ていることに気付いたのか、ヴィヴィオは”何?”と言いたげな目で見てくる。

「大丈夫。すぐにつくからね」
「うん!」

僕はもう一度笑顔でヴィヴィオに言葉をかけた。
この時、なぜか僕は自然に笑顔を浮かべることが出来た。
そして、それにヴィヴィオも万弁の笑顔で答えてくれた。
それを見た僕は、喜びをかみしめつつ、真人たちのいる訓練スペースへと歩き出す。
結局、一番重要だったのは笑顔だったということだ。
その後、それを見た真人にはかなり驚かれた。
あいつは、僕をどのような目で見ているのだ?

(今度問い詰めてやるか)

そんな事を考えながら、僕は真人に声をかけるのであった。
それが、いつもの日常なのだから。

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第52話 決断

「はぁ……」

僕は、ため息をつく。
空は僕たちをあざ笑うように、清々しい青空。
それでもなお、僕の気分は落ち込んだままだ。
いや、僕よりも高町の方がひどい。
真人マスターが死んだ。
予期していたとはいえ、何とも言い難い。
それは、約一週間ほど前……真人が目を覚ます前日の事だ。










「嘘だよね? ………執行人さん」

僕に、嘘だと言って欲しいという表情で言葉を投げかける高町。
だが、僕は首を横に振ると、再び同じことを口にした。

「真人は約一週間で確実に死ぬ」
「そんな……どうして」
「それは真人が最後に使った能力……ファイナルオーバードライブによるものだ」

フェイトの問いかけに、僕はその原因を口にした。

「ファイナルオーバードライブ?」
「高町のブラスターシステムを応用したモードで、代償を掛けることで膨大な力を手にすることが出来る」
「代償って………まさか!!」

僕の説明に、はやてはいち早く代償が何なのかを悟ったようだ。

「そう、代償は執行者の未来……分かりやすく言えば寿命だ」
「寿命……」
「代償を大きくすればするほど、膨大な力を得ることが出来る。そして、その代償はどんなに大きな数字でも可能だ。普通の人では、到底生きられないであろうと……ね」

僕の言葉に、誰かが息をのんだ。
実は、そのことを思いついたのは、真人だ。
寿命全てしか賭けられないのか……そんな疑問から、真人は自分で答えを導いてしまった。
寿命で定められた年数よりも、さらに上に出来るのだということに。

「真人君は………どのぐらいの長さを代償にしたの?」
「………500年だ」

高町の問いかけに、言っていいか悩んだが、僕は言うことにした。

「なのは!?」

高町は、ショックを受けたように崩れ落ちた。
そんな彼女に、フェイトは心配そうに駆け寄る。

「ねえ、自分の寿命以上の代償をかけた真人君は、苦しみながら死んでいくの?」
「………」
「答えてよ!!」

高町の問いかけに、答えない僕をしびれを切らしたのか、いつもの彼女からは考えられないような力で揺さぶってきた。
それをフェイトたちが引きはがした。

「真人はこの一週間で、じわじわと代償を支払う。その過程で体の自由が無くなる……つまり体が動かなくなる。そしてさらに進めば話すことも出来なくなって、最終的には命を落とす」

正直言って、これが早まる可能性だってある。

「これだけならまだいい方だ」
「どういう事や?」

僕の呟きに、はやてが先を促す。

「言ったはず。寿命をオーバーしている年数を真人が代償に提示したと。そんな事をして、死ぬだけですむはずがない。まだ先がある」
「………先って、何ですか?」
「まず、死後12時間後に肉体が消滅する」
『ッ!?』

僕の言葉に、その場にいた三人が息をのんだ。

「そして、その次の日には真人の存在自体が記憶から抹消される。そうなれば、もう山本真人と言う人物がいたことは、誰も思い出すことはない」
「そんな………こんなのって、あんまりだよ」
「どうして止めなかったの?」

僕の言葉に高町は泣き崩れ、フェイトは問い詰めるような目で聴いてくる。

「僕は止めようとはした。だが、奴の決意は固く、いくら僕が言っても変えるような状態ではなかった。それに僕は何だかんだ言ってもただの従者。マスターの意志にはそむけない」
「真人君を救う方法はあるん?」
「あるにはある」

だが、それは僕が……真人も絶対に断る手段だ。

「代償転換をすればいい」
「代償……転換?」

僕の口にした単語が分からなかったのか、はやて達は首を傾げた。

「執行者の代償を、第三者が代わりに支払う儀式さ。これをやれば、真人は助かる。ただし、それをやった瞬間その人物は代償を一気に支払うことになるから、消えることになるが」
「それでも、真人君が助かるなら、私がやる!」
「私もだよ」
「うちもや!」

僕の言葉に、三人は一斉に名乗りを上げた。
彼女たちの心の優しさに喜びながら、僕はつらい現実を突きつけた。

「悪いが、それは不可能だ。代償転換には、お互いの合意がなければ行うことが出来ない。おそらく真人はこれを拒否するはずだ。だから、無理だ」
「…………」
「だが、出来る限り説得をしてみる。だから、待っていてほしい。僕としても、真人を死なせるのは嫌だからな」










「あんなことを宣言しておいてこの体たらくか」

もう一度僕はため息をついた。
医者の話では、息を引き取ったのは、夜の12時を超えたころだという。
今の時刻は、午前8時。
死後8時間は経過している。

(僕は、また・・何も守れないのか)

「……また?」

その時、僕は自分の思考に、おかしなところを見つけた。
なぜ、僕は”また”と心の中でつぶやいたのだろうか?
僕の記憶では、今回の事が初めてだったはずだ。
それでは、真人が落ちた日の事か?
でも、あれではないような気がする。

(もしかして、これが僕の失われた過去に関係があるのかもしれない)

僕には、真人を魔法の世界に導く試練の前の記憶がない。
気づいたら、執行人と言う名前になっており、転生者殺しの役割を継承する者の役割を持っていたのだ。
僕は、過去の事を思い出そうと必死に念じ続けた。

「ッ!?」

その瞬間、僕の頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。
そのあまりの量に、僕はその場にうずくまった。

「…………そういう事か」

僕は、すべてを理解した。
そして、何もかもを思い出した。
自分の”本当の名前”も、僕の居場所も。

「………行こう」

僕は今までたっていた屋上を後にした。
この仮初の世界での生活を終わらせるために……。










向かった先は”霊安室”
そこには、真人の遺体が収められている。
中に入ると、横たわる真人の亡骸、そしてそれに寄り添うように座っている高町だった。

「高町」
「………何ですか、執行人さん」

冷たいとげのような言葉が僕に掛けられる。

「真人を生き返らせる」
「ッ!? 出来るん……ですか?」

僕の言葉に、半信半疑の様子で聞いてくる。

「ああ、出来る。前に話した代償転換を行う」
「え? でも、あれはお互いの合意がないといけないのでは」

僕の宣言に、高町が疑問を投げかけてきた。
確かに、普通ならばそうだ。

「その条件には、唯一の例外がある。それが僕さ。僕ならば、その条件を無視して強制的に行うことが出来る。これでも従者なのでね、この身を挺して守るために……という理由かららしいけど」

僕は、苦笑いを浮かべながら答えた。
もし真人が説得に応じたら、この僕が行うつもりだった。
絶対にあの三人にはやらせない。
それは、僕のプライドだったからなのかもしれない。

「でも、それだと執行人さんが――――」
「異論は認めない。時間がないのだ。高町はここを出てくれ、10分したら入ってくると良い。その時には大切な人が戻ってきているはずだ」

僕は高町の言葉を遮って、一方的に告げた。
これ以上彼女と論議をして痛くはなかった。
怖くないのかと言われれば嘘になる。
本当は怖い。
だが、この偽物が少しでも役に立つのであれば、その方法をやるまでだ。

「………わかりました」

そして、高町も僕の決意が固いと悟ったのか、素直に頷くと出口である扉の方に歩いて行く。

「ああ、それと二つほどお願い事をしておこう」

僕は、今思い出したことを口にした。
うっかり忘れる所だった。

「真人が目を覚ましても、僕の名前や存在が分かるようなことは口にしないで。僕の寿命と肉体の消滅だけで、記憶までは消去されないんだ。一応彼には記憶操作の魔法は掛けるけど、あくまでそれは記憶に鍵をかけたようなものだから、ちょっとしたはずみで思い出すから」

思い出せば、きっと真人は自分を責める。
それが分かっていたからこそのお願いだ。

「それと、はやてにすまないと伝えておいてくれ」
「分かりました……執行人さん」

扉を開けた高町は、出際に僕の名前を呼ぶ。

「何だ?」
「ありがとうございます」

高町からのお礼に、僕は思わずその場で固まってしまった。
そんな僕をよそに、彼女は霊安室を後にした。
残されたのは、亡骸と僕の二人だけ。

「はぁ………まさかお前に僕の心配をされるとは。なんともまぁ」

僕は誰も答えることが出来ないのにもかかわらず、呟いた。

「命の支払いに、肉体や記憶の抹消。それを合わせても足りない際には、僕の方に代償が来る。そのことを考えた上で、あの年数を言ったのか?」

僕の問いかけに、自分で否定した。
ありえないのだ。
記憶や肉体の抹消が、何年分の代償なのかが分かるわけがない。

「僕は、ようやく本当の名前を取り戻せた。自分の悪行全てもね。だからこそ、今だけは、正義のヒーローでいさせてくれ」

僕はそう生きると、深呼吸をする。
そして………

「代償支払いネットワークにアクセス。代償転換を開始。転換者は執行人……いや、―――――」

僕は淡々と代償転換の儀式を進めていく。

「代償転換……スタート」

その言葉と同時に、僕は突然体に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちた。
それは紛れもなく、真人の代償支払がキャンセルされ、代わりに僕の命で支払い始めていることを示していた。
これで真人は再び息を吹き返す。
魔力回路の損傷などの諸問題は解決していないが、生きてれば何とかなる。

「真……人、僕の……命……を差し出し……たのだ。人生を……全うしなければ……許さ……ない、ぞ」

声を出すことも苦になってきた。
だが、どうしてもこれだけは言っておきたかった。
だから僕は、最後の力を振り絞って、その言葉を紡いだ。

「あり……がとう……マスター」

そして、僕の意識……存在はそこで消えた。

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第4話 特訓

「いつッ!?」

俺の目覚めは鋭い頭の痛みだった。

「何だよ……」

寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、時間を確認する。
時刻は朝の5時20分。

「何時もより早く起きちゃった」

何時も起きる時間の40分前に起きた俺は、もう一度眠りにつくべくベッドに横にな――――

「いったぁ!?」

――れなかった。
再び頭に鋭い痛みが走る。
しかもさっきよりも痛い。
ふと気になった俺は、気配のする方へと視線を向けた。
辺りは真っ暗で何も見えなかったが、俺には分かった。
俺が横になっているベッドのすぐ横にいる人物の存在を。

「し、師匠!?」
「20分も寝坊して、挙句の果てには二度寝をしようとは……これは少しばかり痛い目を見て貰わないといけないようだなぁ?」

今辺りが暗くて助かった。
もし明るかったら、師匠の怒りに染まった顔を見たことになっただろう。
声を聴いただけでも卒倒するのに、顔まで見たらどうなるかと思うと、俺は震えあがった。

「ご、ごめんなさい! すぐに着替えて下に降ります!!」
「魔法を使ったりする際の服を机の上に置いておいた。5分以内に着込んでリビングに来い」

俺の必死の謝罪に、師匠はため息を漏らすとそう告げて部屋から去って行った。

「服?」

俺は部屋の明かりをつけると、机の方に目を向けた。
そこには黒ずくめの洋服が一式用意されていた。
丁寧に畳まれていた服を広げてみる。
パッと見スーツのようにも見えるそれは、とにかく”黒”だった。
蝶ネクタイのようなものだけが赤色と言う服装で、さらにマントまで用意されていた。
まるでどこかの魔王が着るような服だ。

「っと、早くしないと」

既に2分が経過しているのに気づいた俺は、慌てて用意された服に身を包んだ。

(意外にサイズはぴったりだな)

どこで調べたのかは分からないが、袖口などのサイズがぴったりだったことに、俺はこの服を仕立てた人の事が気になった。

「って、やば?!」

あと1分という残り時間に、俺は慌てて自室を後にするのであった。










「5分以内にとは言ったが、誰も5分ちょうどに来いとは言ってないぞ?」
「す、すみませんでした!」

呆れたような眼差しで俺に声をかける師匠に、俺は慌てて頭を下げた。

「まあいい」

ため息を漏らしながら師匠は俺に何かを投げ渡してきた。

「これは?」

投げ渡された物をうまくキャッチしながら、その物が意図することを聞いた。

「木刀だが?」
「いや、それは分かってます。これを渡した理由が知りたいだけです」

『何を聞いているんだ?』と言いたげな表情で答える師匠に、俺は更に詳しく聞くことにした。

「理由って……素振りをするために決まってるじゃないか」
「ええっと……魔法の練習をするんじゃなかったのか?」
「なに甘っちょろいことを言ってる。そんなものお前にはまだ早い」

師匠の言葉に、思わず口から出た言葉を、師匠は一刀両断で切り捨てた。

「どういう事です?」
「魔法等を使う際の反動はかなりのものだ。それ故、足腰がある程度しっかりしてなければ魔法を撃った瞬間、自分が吹き飛ばされる」

俺の疑問に、浩介は説明を始めた。

「魔法の反動は、発射速度、威力、魔法の種類に応じて高まっていく。今のままでは、自爆して赤っ恥をかくことになるぞ?」

俺は、想像してみた。
攻撃魔法を使ったが、その反動で吹き飛ばされて、俺は気絶していたとする。
阿久津はどう反応するだろうか?

「クハハハッ! モブ野郎自爆しやがった! はっ! かわいそうだから止めは刺さないでやるぜ? 感謝するんだな」
「………」

阿久津の小馬鹿にした笑い声を想像した俺は、はらわたが煮えくり返りそうになった。

「……筋力を高めることは非常に効果がある。攻撃パフォーマンスの向上や攻撃力の上昇、さらには移動速度のアップやノックバックの耐性がついたり等々、きりがないほどの恩益がある。今日は時間がないから素振りを、明日はランニング明後日はボクシング……といった感じでやって行く」
「…………」

師匠の口から出た特訓メニューに改めて、先は長いなと思った瞬間だった。

(まるでスポーツ選手みたい)

心の中でそう呟くのも、仕方がないだろう。

「それでは、今から朝食まで休まず素振りだ。これから基本の型を教えていくから、まずはそれに馴染め」
「はいっ!」

その後、俺は師匠に素振りで使う剣道の基本の型を教えてもらい、朝食までの数十分俺は素ぶりをするのであった。

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