健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第52話 決断

「はぁ……」

僕は、ため息をつく。
空は僕たちをあざ笑うように、清々しい青空。
それでもなお、僕の気分は落ち込んだままだ。
いや、僕よりも高町の方がひどい。
真人マスターが死んだ。
予期していたとはいえ、何とも言い難い。
それは、約一週間ほど前……真人が目を覚ます前日の事だ。










「嘘だよね? ………執行人さん」

僕に、嘘だと言って欲しいという表情で言葉を投げかける高町。
だが、僕は首を横に振ると、再び同じことを口にした。

「真人は約一週間で確実に死ぬ」
「そんな……どうして」
「それは真人が最後に使った能力……ファイナルオーバードライブによるものだ」

フェイトの問いかけに、僕はその原因を口にした。

「ファイナルオーバードライブ?」
「高町のブラスターシステムを応用したモードで、代償を掛けることで膨大な力を手にすることが出来る」
「代償って………まさか!!」

僕の説明に、はやてはいち早く代償が何なのかを悟ったようだ。

「そう、代償は執行者の未来……分かりやすく言えば寿命だ」
「寿命……」
「代償を大きくすればするほど、膨大な力を得ることが出来る。そして、その代償はどんなに大きな数字でも可能だ。普通の人では、到底生きられないであろうと……ね」

僕の言葉に、誰かが息をのんだ。
実は、そのことを思いついたのは、真人だ。
寿命全てしか賭けられないのか……そんな疑問から、真人は自分で答えを導いてしまった。
寿命で定められた年数よりも、さらに上に出来るのだということに。

「真人君は………どのぐらいの長さを代償にしたの?」
「………500年だ」

高町の問いかけに、言っていいか悩んだが、僕は言うことにした。

「なのは!?」

高町は、ショックを受けたように崩れ落ちた。
そんな彼女に、フェイトは心配そうに駆け寄る。

「ねえ、自分の寿命以上の代償をかけた真人君は、苦しみながら死んでいくの?」
「………」
「答えてよ!!」

高町の問いかけに、答えない僕をしびれを切らしたのか、いつもの彼女からは考えられないような力で揺さぶってきた。
それをフェイトたちが引きはがした。

「真人はこの一週間で、じわじわと代償を支払う。その過程で体の自由が無くなる……つまり体が動かなくなる。そしてさらに進めば話すことも出来なくなって、最終的には命を落とす」

正直言って、これが早まる可能性だってある。

「これだけならまだいい方だ」
「どういう事や?」

僕の呟きに、はやてが先を促す。

「言ったはず。寿命をオーバーしている年数を真人が代償に提示したと。そんな事をして、死ぬだけですむはずがない。まだ先がある」
「………先って、何ですか?」
「まず、死後12時間後に肉体が消滅する」
『ッ!?』

僕の言葉に、その場にいた三人が息をのんだ。

「そして、その次の日には真人の存在自体が記憶から抹消される。そうなれば、もう山本真人と言う人物がいたことは、誰も思い出すことはない」
「そんな………こんなのって、あんまりだよ」
「どうして止めなかったの?」

僕の言葉に高町は泣き崩れ、フェイトは問い詰めるような目で聴いてくる。

「僕は止めようとはした。だが、奴の決意は固く、いくら僕が言っても変えるような状態ではなかった。それに僕は何だかんだ言ってもただの従者。マスターの意志にはそむけない」
「真人君を救う方法はあるん?」
「あるにはある」

だが、それは僕が……真人も絶対に断る手段だ。

「代償転換をすればいい」
「代償……転換?」

僕の口にした単語が分からなかったのか、はやて達は首を傾げた。

「執行者の代償を、第三者が代わりに支払う儀式さ。これをやれば、真人は助かる。ただし、それをやった瞬間その人物は代償を一気に支払うことになるから、消えることになるが」
「それでも、真人君が助かるなら、私がやる!」
「私もだよ」
「うちもや!」

僕の言葉に、三人は一斉に名乗りを上げた。
彼女たちの心の優しさに喜びながら、僕はつらい現実を突きつけた。

「悪いが、それは不可能だ。代償転換には、お互いの合意がなければ行うことが出来ない。おそらく真人はこれを拒否するはずだ。だから、無理だ」
「…………」
「だが、出来る限り説得をしてみる。だから、待っていてほしい。僕としても、真人を死なせるのは嫌だからな」










「あんなことを宣言しておいてこの体たらくか」

もう一度僕はため息をついた。
医者の話では、息を引き取ったのは、夜の12時を超えたころだという。
今の時刻は、午前8時。
死後8時間は経過している。

(僕は、また・・何も守れないのか)

「……また?」

その時、僕は自分の思考に、おかしなところを見つけた。
なぜ、僕は”また”と心の中でつぶやいたのだろうか?
僕の記憶では、今回の事が初めてだったはずだ。
それでは、真人が落ちた日の事か?
でも、あれではないような気がする。

(もしかして、これが僕の失われた過去に関係があるのかもしれない)

僕には、真人を魔法の世界に導く試練の前の記憶がない。
気づいたら、執行人と言う名前になっており、転生者殺しの役割を継承する者の役割を持っていたのだ。
僕は、過去の事を思い出そうと必死に念じ続けた。

「ッ!?」

その瞬間、僕の頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。
そのあまりの量に、僕はその場にうずくまった。

「…………そういう事か」

僕は、すべてを理解した。
そして、何もかもを思い出した。
自分の”本当の名前”も、僕の居場所も。

「………行こう」

僕は今までたっていた屋上を後にした。
この仮初の世界での生活を終わらせるために……。










向かった先は”霊安室”
そこには、真人の遺体が収められている。
中に入ると、横たわる真人の亡骸、そしてそれに寄り添うように座っている高町だった。

「高町」
「………何ですか、執行人さん」

冷たいとげのような言葉が僕に掛けられる。

「真人を生き返らせる」
「ッ!? 出来るん……ですか?」

僕の言葉に、半信半疑の様子で聞いてくる。

「ああ、出来る。前に話した代償転換を行う」
「え? でも、あれはお互いの合意がないといけないのでは」

僕の宣言に、高町が疑問を投げかけてきた。
確かに、普通ならばそうだ。

「その条件には、唯一の例外がある。それが僕さ。僕ならば、その条件を無視して強制的に行うことが出来る。これでも従者なのでね、この身を挺して守るために……という理由かららしいけど」

僕は、苦笑いを浮かべながら答えた。
もし真人が説得に応じたら、この僕が行うつもりだった。
絶対にあの三人にはやらせない。
それは、僕のプライドだったからなのかもしれない。

「でも、それだと執行人さんが――――」
「異論は認めない。時間がないのだ。高町はここを出てくれ、10分したら入ってくると良い。その時には大切な人が戻ってきているはずだ」

僕は高町の言葉を遮って、一方的に告げた。
これ以上彼女と論議をして痛くはなかった。
怖くないのかと言われれば嘘になる。
本当は怖い。
だが、この偽物が少しでも役に立つのであれば、その方法をやるまでだ。

「………わかりました」

そして、高町も僕の決意が固いと悟ったのか、素直に頷くと出口である扉の方に歩いて行く。

「ああ、それと二つほどお願い事をしておこう」

僕は、今思い出したことを口にした。
うっかり忘れる所だった。

「真人が目を覚ましても、僕の名前や存在が分かるようなことは口にしないで。僕の寿命と肉体の消滅だけで、記憶までは消去されないんだ。一応彼には記憶操作の魔法は掛けるけど、あくまでそれは記憶に鍵をかけたようなものだから、ちょっとしたはずみで思い出すから」

思い出せば、きっと真人は自分を責める。
それが分かっていたからこそのお願いだ。

「それと、はやてにすまないと伝えておいてくれ」
「分かりました……執行人さん」

扉を開けた高町は、出際に僕の名前を呼ぶ。

「何だ?」
「ありがとうございます」

高町からのお礼に、僕は思わずその場で固まってしまった。
そんな僕をよそに、彼女は霊安室を後にした。
残されたのは、亡骸と僕の二人だけ。

「はぁ………まさかお前に僕の心配をされるとは。なんともまぁ」

僕は誰も答えることが出来ないのにもかかわらず、呟いた。

「命の支払いに、肉体や記憶の抹消。それを合わせても足りない際には、僕の方に代償が来る。そのことを考えた上で、あの年数を言ったのか?」

僕の問いかけに、自分で否定した。
ありえないのだ。
記憶や肉体の抹消が、何年分の代償なのかが分かるわけがない。

「僕は、ようやく本当の名前を取り戻せた。自分の悪行全てもね。だからこそ、今だけは、正義のヒーローでいさせてくれ」

僕はそう生きると、深呼吸をする。
そして………

「代償支払いネットワークにアクセス。代償転換を開始。転換者は執行人……いや、―――――」

僕は淡々と代償転換の儀式を進めていく。

「代償転換……スタート」

その言葉と同時に、僕は突然体に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちた。
それは紛れもなく、真人の代償支払がキャンセルされ、代わりに僕の命で支払い始めていることを示していた。
これで真人は再び息を吹き返す。
魔力回路の損傷などの諸問題は解決していないが、生きてれば何とかなる。

「真……人、僕の……命……を差し出し……たのだ。人生を……全うしなければ……許さ……ない、ぞ」

声を出すことも苦になってきた。
だが、どうしてもこれだけは言っておきたかった。
だから僕は、最後の力を振り絞って、その言葉を紡いだ。

「あり……がとう……マスター」

そして、僕の意識……存在はそこで消えた。

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