「いつッ!?」
俺の目覚めは鋭い頭の痛みだった。
「何だよ……」
寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、時間を確認する。
時刻は朝の5時20分。
「何時もより早く起きちゃった」
何時も起きる時間の40分前に起きた俺は、もう一度眠りにつくべくベッドに横にな――――
「いったぁ!?」
――れなかった。
再び頭に鋭い痛みが走る。
しかもさっきよりも痛い。
ふと気になった俺は、気配のする方へと視線を向けた。
辺りは真っ暗で何も見えなかったが、俺には分かった。
俺が横になっているベッドのすぐ横にいる人物の存在を。
「し、師匠!?」
「20分も寝坊して、挙句の果てには二度寝をしようとは……これは少しばかり痛い目を見て貰わないといけないようだなぁ?」
今辺りが暗くて助かった。
もし明るかったら、師匠の怒りに染まった顔を見たことになっただろう。
声を聴いただけでも卒倒するのに、顔まで見たらどうなるかと思うと、俺は震えあがった。
「ご、ごめんなさい! すぐに着替えて下に降ります!!」
「魔法を使ったりする際の服を机の上に置いておいた。5分以内に着込んでリビングに来い」
俺の必死の謝罪に、師匠はため息を漏らすとそう告げて部屋から去って行った。
「服?」
俺は部屋の明かりをつけると、机の方に目を向けた。
そこには黒ずくめの洋服が一式用意されていた。
丁寧に畳まれていた服を広げてみる。
パッと見スーツのようにも見えるそれは、とにかく”黒”だった。
蝶ネクタイのようなものだけが赤色と言う服装で、さらにマントまで用意されていた。
まるでどこかの魔王が着るような服だ。
「っと、早くしないと」
既に2分が経過しているのに気づいた俺は、慌てて用意された服に身を包んだ。
(意外にサイズはぴったりだな)
どこで調べたのかは分からないが、袖口などのサイズがぴったりだったことに、俺はこの服を仕立てた人の事が気になった。
「って、やば?!」
あと1分という残り時間に、俺は慌てて自室を後にするのであった。
「5分以内にとは言ったが、誰も5分ちょうどに来いとは言ってないぞ?」
「す、すみませんでした!」
呆れたような眼差しで俺に声をかける師匠に、俺は慌てて頭を下げた。
「まあいい」
ため息を漏らしながら師匠は俺に何かを投げ渡してきた。
「これは?」
投げ渡された物をうまくキャッチしながら、その物が意図することを聞いた。
「木刀だが?」
「いや、それは分かってます。これを渡した理由が知りたいだけです」
『何を聞いているんだ?』と言いたげな表情で答える師匠に、俺は更に詳しく聞くことにした。
「理由って……素振りをするために決まってるじゃないか」
「ええっと……魔法の練習をするんじゃなかったのか?」
「なに甘っちょろいことを言ってる。そんなものお前にはまだ早い」
師匠の言葉に、思わず口から出た言葉を、師匠は一刀両断で切り捨てた。
「どういう事です?」
「魔法等を使う際の反動はかなりのものだ。それ故、足腰がある程度しっかりしてなければ魔法を撃った瞬間、自分が吹き飛ばされる」
俺の疑問に、浩介は説明を始めた。
「魔法の反動は、発射速度、威力、魔法の種類に応じて高まっていく。今のままでは、自爆して赤っ恥をかくことになるぞ?」
俺は、想像してみた。
攻撃魔法を使ったが、その反動で吹き飛ばされて、俺は気絶していたとする。
阿久津はどう反応するだろうか?
「クハハハッ! モブ野郎自爆しやがった! はっ! かわいそうだから止めは刺さないでやるぜ? 感謝するんだな」
「………」
阿久津の小馬鹿にした笑い声を想像した俺は、はらわたが煮えくり返りそうになった。
「……筋力を高めることは非常に効果がある。攻撃パフォーマンスの向上や攻撃力の上昇、さらには移動速度のアップやノックバックの耐性がついたり等々、きりがないほどの恩益がある。今日は時間がないから素振りを、明日はランニング明後日はボクシング……といった感じでやって行く」
「…………」
師匠の口から出た特訓メニューに改めて、先は長いなと思った瞬間だった。
(まるでスポーツ選手みたい)
心の中でそう呟くのも、仕方がないだろう。
「それでは、今から朝食まで休まず素振りだ。これから基本の型を教えていくから、まずはそれに馴染め」
「はいっ!」
その後、俺は師匠に素振りで使う剣道の基本の型を教えてもらい、朝食までの数十分俺は素ぶりをするのであった。
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