「貴様あの時の!」
俺の前に立ちふさがった男を見た阿久津が声を荒げる。
「ふん。半年もたてば少し腕がつくかとは思ったが思い込みだったようだな。貴様のような外道、この僕には雑魚としれ」
「ふざけるな! オリ主の俺様が負けるわけ―――」
「はぁぁぁ!!」
阿久津の声を遮るように、上空から何かが降ってきた。
「ちぃっ!」
「隙だらけだ」
「ぐあぁッ!?」
上空からの奇襲に横に飛んで躱した阿久津を、男の人が攻撃を加える。
阿久津は後方に吹き飛ばされはしたが、すぐに立て直した。
「この俺様に二人掛かりとは……はっ! 所詮は根暗だな」
「その言葉、お前にそっくりそのまま返そう。二人掛かりでやられるようなものに、最強を名乗る資格などない。名乗りたいのであれば500人程度の魔法使いを一瞬で倒してからにしろ」
小馬鹿にした阿久津の言葉に動じず、男の人はそう言い返すと最後に”まあ、お前のような外道には無理かもしれぬが”と嘲笑いながら付け加えた。
「テメェ、ここでそのモブキャラと共に葬ってやろうか?」
「それもお前にそのまま返そう。とっとと失せろ。でなければお前は今ここで死ぬ」
「ッ!?」
言い切るのと同時に男の人から発せられた殺気は、関係ないはずの俺すらも震え上がらせた
「今日は見逃してやる」
そう告げると、阿久津は一瞬でその場から姿を消した。
助けられた俺の口から出たのは、お礼ではなく……
「ひいおじいちゃんに、お母さん?」
だった。
いったん自宅に戻った俺達は、リビングの椅子に腰かけていた。
「改めて、話をしよう」
俺の前に座っていたひいおじいちゃんが口を開いた。
何時もかけている黒いサングラスは、今は外されている。
「僕の名前は、高月浩介。そこにいる美智子の叔父にあたる」
「叔父でもあり、師匠でもある、ですよ」
長い髪を後ろに束ね、巫女装束に身を包む母さんがひいおじいちゃんに言った。
ひいおじいちゃんは『知らん』と一刀両断する。
「さて、遠まわしに言うのは苦手だから、簡潔に説明しよう。まずお前は人間ではない」
「………はい?」
ひいおじいちゃんの口から出た言葉の意味が、俺には理解できなかった。
「真人、お前も不思議に思わないか? ひいおじいちゃんと言う割には、年取ってないだろ」
「そ、そう言えば……」
言われてみればそうだった。
”ひいおじいちゃん”という割には年老いて見えない。
仮に”高校生”だと名乗っても十分通る容姿だ。
「真人は、魔力を糧にして生きる”魔族”とそれに対極に位置する”神族”の混合の存在だ」
「おじ様!」
ひいおじいちゃんの宣言に、母さんが声を上げるがひいおじいちゃんは無言でそれを制した。
「ちなみに不老不死ではない。僕もそうだしお前もそうだ。ただ、老いる速度が緩やかなだけ」
「それは俺も?」
俺の問いにひいおじいちゃんは無言で頷いた。
「とは言ったものの、真人の場合はこれからどうなるかは一切不明。先祖から遺伝した神族と魔族の混合など、今までに例はないからな」
「それって、自分が魔族と神族の混合だって言ってると思うんだけ、どぉッ!?」
ひいおじいちゃんの言葉に、思わず突っ込むと拳骨が降ってきた。
地味に痛い。
どうやら、野暮なことは言わない方がいいらしい。
「まあ、自分が何者なのかは今考える事ではない。それよりも重要な事がある」
そう言って俺を見るひいおじいちゃんの目は、何かを試すような眼差しだった。
「真人、お前はこれからどうしたい」
「どういう、意味?」
「このまま日常で暮らしていくのか。それとも自分の身を”魔法”という戦いの道に投じるのか」
ひいおじいちゃんの口から告げられたのは、究極の二択だった。
「小学生に聞くことじゃないよね?」
「そりゃそうだ。だが、僕の話に頭の中が付いて来ているのであれば、十分だ」
俺の言葉に、ひいおじいちゃんは肩をすくめながら返す。
「もし魔法を使うって言いたら、ひいおじいちゃんはどうするの?」
「魔法についての勉強とトレーニングをして、戦場に出せるほどのレベルに育てる」
何となく、地獄の日々が続きそうだなと思ったのは、気のせいだと思いたい。
そして俺は、選んだ。
「俺は、師匠って呼んだ方がいい?」
魔法という力を代償に、戦いという名の道を。
「好きにしろ。……ひいおじいちゃんよりはましか」
腕組みをして答えるひいおじいちゃん……ではなく、師匠は最後にぽつりとつぶやいた。
よっぽど”ひいおじいちゃん”という呼ばれ方に抵抗があったんだなと思った。
「さあ、夕食でも食べて寝ろ。明日は早いんだ。朝五時にここに来い、特訓をする」
師匠が伝えたスケジュールに、俺は思わず呆然としてしまった。
そう言えば師匠の性格は”一度始めたらとことんやる”事なのを忘れていた。
「では、夕食にしましょうか。お義父さん」
「だから、僕はお前の父親になったつもりはないッ!」
おそらくは、俺が師匠が認めるラインまで行くまでこれは続くんだろうなと思いながら俺は父さんと師匠のやり取りを見ているのであった。
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