健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第47話 聖王との戦い/変えられしもの

俺は執行人とユニゾンをして、ゆりかごへと向かっていた。

【転生者は、ちまちまなことはやらない。もし各地で手を加えても、ゆりかごを落とされればすべては水の泡だ】
「ならば、ゆりかごに全力で手を加えた方が確実……そういう事か」

執行人の話に続くように、俺は考えを口にした。
それに対して、執行人は”正解”と告げた。
何だか、小馬鹿にされているような気分だ。

【小馬鹿にはしてないのだが……見えたぞ】

執行人の言葉に、前方を見ると、そこにはいまだ浮上を続けるゆりかごがあった。

「どうやって中に入る?」
【先行して入っているのだとすれば、入口がある。そこから入ろう】
「了解!」

俺の問いかけに、執行人が答え、俺はその答え通りに動くことにした。
その間俺はなのはが無事な事を願っていた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


ゆりかご内の、玉座の間。
そこには二人の女性が立っていた。
一人はグレーの甲冑に、金色の髪をするオッドアイの少女……ヴィヴィオと、傷だらけで何とか立っていられる状態の高町なのはだった。
ヴィヴィオは、クアットロによって精神干渉されなのはの事を”敵”とみなしている。
お互いに膠着状態が続く。

「はああああ!!」

それを断ち切ったのは、ヴィヴィオだった。

「ッく!!」
『ラウンドシールド!!』

目にもとまらぬ速度で迫る彼女に、なのはは防御障壁を展開する。

「かはッ!?」
「はぁあああ!!」

防御障壁ごと壁に吹き飛ばされたなのはは、肺にたまった息を吐き出す。
そんな彼女をに止めを刺すにして、ヴィヴィオは虹色の魔法弾をなのはに向けて放った。
なのはは、目を閉じて来るであろう痛みに備えた。

(真人君!!)

そんな時、なのはは心の中で無意識に大切な人の名を呟く。
なぜそうしたのかは分からない、もしかしたら奇跡を願ったのか、それ以外の理由があるのか。
そして、魔法弾がなのはに命中した。
………はずだった。
魔法弾によって発生した爆煙が晴れた時、そこにいたのは

「ふう、間一髪」
「真人……君」

いつもの黒いマントのバリアジャケットに身を包み背中には黒い翼が生えている、真人の姿だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


【真人、ここを突っ切れ!!】
「了解!」

ゆりかご内に侵入した俺は、執行人の指示の元、飛んでいた。

【そこの角を曲がったら目的地だ!】

俺はその言葉を聞いて、さらに速度を上げた。
それは、なのはの事の身に何かが起こるような予感がしたからだ。
そして、玉座の間と思わしき場所に突入した俺が見たのは、グレーの甲冑に金色の髪をした少女と、壁に打ち付けられたなのはの姿だった。
そしてなのはの状態にお構いなしとばかりに、少女は虹色の魔法弾を放った。

(間に合え!!)

俺はいてもたってもいられなくなり、なのはを守るように彼女の前に移動した。

「ッ!!」

何の準備もしていない俺は、来るであろう衝撃に耐えるように目を閉じた。

【これだから未熟なんだ。プロテクション!!】

だが、それは何とか執行人のバックグラウンド詠唱によって防がれた。

「ふう、間一髪」
「真人……君」

俺の呟きに、なのはが信じられないと言った様子で声を上げた。

「悪いなのは。遅れたが助太刀に来た」
「ううん……無事で良かった」

なのはの方に視線を向けると、なのはは目に涙を浮かべていた。

【真人、どうやら敵さんは待ってくれないみたいだぜ】
「っと!?」

執行人の言葉のおかげで、俺は少女からの攻撃を紙一重で交わした。

「なのは、この中にいて」
「うん」

俺は壁に叩き付けられているなのはを地面に降ろすと、フィールド系の結界をなのはを囲むように展開した。
そして、俺は目の前にいる少女と相対する。
向こうは動く気配がない。
おそらくは、初動のタイミングを計っているのか、俺というイレギュラーの登場に様子をうかがっているかのどちらかだろう。
その隙を狙って、俺はなのはに念話を飛ばす。

【なのは、彼女を止める方法は?】
【ちょっと、待って! まさか戦う気なの!?】

俺の問いかけに答えながら、なのはは驚いた様子で声を上げた。

【ああ】
【駄目だよ!! 真人君はまだ病み上がりで戦うのは危険――【だからなんだ!!】――真人君?】

俺は、なのはの言葉を遮った。

【肝心な時に何もできないぐらいなら、死んだ方がましだ。俺はまだ動ける。だから、俺を信じてくれ! なのは!!】

俺の心からの叫びに、なのはは何も答えなかった。

【あと少しで止められるかもしれない………だからそれまでは時間を稼いで】
【分かった】

なのはの心から心配する声色に、俺は”大丈夫”と言う意味を込めて答えた。
そして、再び意識を、目の前の敵に向ける。

(この戦いの勝利条件は、なのはの言う策が成り立つまで)

それまで、彼女の注意を引き付けておかなければならない。

(どうするか)

【お前は本当に口だけはいっちょ前だな】
【うるさいよ!】

考え込む俺に、執行人が念話でからかってくる。

【あいつの正体………気付いてるだろ?】
【ああ。彼女は、ヴィヴィオだ】

執行人の確かめるような声に、俺は目の前にいる少女の名前を口にした。
ヴィヴィオは、聖王のクローンらしい。

【そこまでわかってるなら上出来だ。聖王、オリヴィエの戦法は近中距離だ。無暗に近づくと返り討ちを食らう】
【と言うことは、中遠距離で攻めた方が良いな】

執行人からの有難い情報に、俺は戦法を決めた。
とはいっても、近距離の攻撃魔法はそれほど多くはない。
どちらかといえば、中距離タイプだ。

【そこまで導き出せるようになったのなら、半人前になったと言うことだな。では、始めよう】
【OK!】

執行人の言葉にそう返すと、俺はクリエイトを剣形態に変えた。

「プラズマアーム!!」

最初に動いたのはヴィヴィオだ。
ものすごい速さでこっちに向かってくるヴィヴィオの両腕は、電気変換された魔力を纏っているのが分かった。
あれをもろに食らったら、無傷では済まない

「甘い! ミラーインケルト!!」

俺はそのヴィヴィオの攻撃に、反射魔法を使うことで応戦した。

「くぅ!?」

ヴィヴィオは、自身にダメージが入った事に驚きながら、バックステップで俺から距離を取った。

「刃呪縛!!」

俺はそこにすかさず魔力刃を放つ。
だが、ヴィヴィオはそれをいとも容易くかわすと、こっちに向かってきた。、

「ッと!?」

俺は何とか上空に退避することで、事なきを得た。

だが、俺が今まで立っていた地面は、軽くえぐれていた。
もし少しでも回避が遅れていたら、ただでは済まなかっただろう。
俺は、クリエイトを弓形態にすると、ヴィヴィオに向けて矢を構えた。

「ライトフレイヤー、ファイア!!」

俺は一気に5本の矢を射る。

「こんなもの!!」
「おいおい……」

ヴィヴィオは、向ってくる矢を叩き落としていた。
そのあまりの行動に、俺は茫然としていた。

【バースト・インテグラント!!】
「あああ!!?」

執行人の追加詠唱によって、最後の一本の矢が爆発を起こした。
”バースト”は、俺や執行人が放った魔法を強制的に爆発させることによって、相手を吹き飛ばす魔法だ。
それに手を加えたのが”インテグラント”であり、これは吹き飛ばすのと同時にダメージを与えたりする。

【真人君! 準備できたよ!!】
「了解!!」

なのはからの合図があった。
それは、俺にとっては勝利のコールだった。
俺は、すかさずヴィヴィオにバインドをかける。

「ロック!」
【その力、少しだけ封印させてもらうよ】
「ぐぅぅ!!」

さらに執行人の補助によって、何とか強固なバインドになった。
そして、俺がなのはのいる方向に向いた瞬間だった。

「ディバイン……バスター!!!」

なのはは、壁に向けて―――おそらく、その方向にヴィヴィオを操った黒幕がいるのだろうが―――十八番である砲撃を放った。
それは、黒幕を倒す一撃必殺の技になるはずだった。

『ふふふふ。おバカな小悪魔さん』
「えっ!?」

女性の小馬鹿にするような声に、なのはは目を見開いた。

「ど、どうして……」
『こういう事もあろうかと”あのお方”が特性の結界を渡してくれたんですよ~。貴方のそんな砲撃、目でもありませんわ!』
「くッ!!」

女性の言葉に、悔しさからかなのはが顔をゆがめた。

(やっぱり、転生者の仕業か)

俺は、これが転生者の仕業だと悟った。
やはり、執行人の読み通りここに仕掛けてきたようだ。

【………真人、少し体を借りるぞ】

そんな事を理解していると、執行人が唐突に告げた。

【は? それってどういう――――】

俺の意識は、そこで途切れた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


許せなかった。
それが一番に思った感情だ。
それを思うと、僕の心の中に、今まで抑えてきた感情がどっと湧き上がる。
――――誰かが耳元で、殺せと囁く
――――誰かが耳元で暴れろと囁く
――――誰かが僕の体を操る。

【………真人、少し体を借りるぞ】

気づいた時には、僕はそう口に出していた。
そして僕は強制権を使い、強引に前に出た。
体が動く。
この一時の時間でもいい、僕の黒い部分を……――――として暴れよう。

「黙れ、屑」
「ま、真人……君?」

高町が僕を見る。
申し訳ない。
すぐに終わらせてこの体を返す。

「貴様の戯れごとは聞き飽きた。とっとと塵になるがいい」
『あら~、お馬鹿さんがもう一人いました~。貴方、今自分の置かれている状況が分かってるんですか~?』

僕の言葉に、モニターに映っている女性は、小馬鹿にするように声をかけてくる。

「それはこちらのセリフだ。塵芥」
『塵………その生意気な態度、二度と取れないようにしてやりましょう!!』

女性が何かをしようとするが、関係はない。
逆に止められるのなら止めてみろ。
僕は高町が突き破った壁の位置に立つと、女性がいるであろう方向に向けて手をかざす。

「我が秘めし闇よ、我が前に集え」
『し、収束砲!? だ、だけど私にはすべてを防ぐ結界がありますから、無意味ですよ~』

僕の右手に集う黒い球体を見て一瞬怯えた様子だったが、すぐに余裕を取り戻した。

「永遠の闇の中で、もがき苦しめ………ダーク・ラスト・ジャッジメント!!」

その言葉が合図だった。
僕の前方に収束していた黒い球体は、一直線に女性の元へと迫る。

『ふふふ、無駄で――――――』

そこで、女性の声は聞こえなくなった。
なぜなら、そこを映していたモニターにノイズが走ったからだ。
どうやら僕の高濃度の闇に耐えきれなかったらしい。

「雑魚が」

僕はそう吐き捨てると、真人に体を返すべく目を閉じた。

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