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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第37話 臨時査察

ヴィヴィオが管理局に来てから少し経ったある日。
部隊長室内は緊張に包まれていた。

「いよいよ今日が臨時査察の日や」

はやてが、静かに切り出す。
そう、地上本部の臨時査察の日がやってきたのだ。

「とはいっても、いつも通りにすればいい。後は俺が何とかするから」
「……本当に大丈夫なのやな?」

はやての”大丈夫”は部隊の事ではないことは俺でもわかった。
はやては腹黒いが根は優しい。
おそらく俺の立場を案じてくれているのであろう。
地上本部のスパイの俺が、六課に肩入れする。
それの意味が分かっているからこその心配だろう。

「大丈夫だ。なんとかなるさ」

俺ははやてにそう答えるしかなかった。










機動六課のエントランス。
俺は査察団の人物たちを出迎え、査察の手伝いをする。
それがはやてから言い渡された俺の役割だった。
健司はと言えば、その間の俺の分のデスクワークを代わりにしてくれるとのこと。

(まるで足腰が弱いみたいだ)

ふと、今の自分の姿を見てそう感じてしまう。
一番の原因は、右手にあるステッキだが。
そんな時、ついにオーリス三佐を引き連れた査察団が姿を現した。

「ご苦労様です!」
「………これより、機動六課の臨時査察を始めます」

俺の姿を見ると、先頭に立っていたオーリス三佐はいつもの表情で淡々と事務的に告げると、後ろにいた人たちに指示を出す。
次々と査察団の人が奥の方に入って行く中、オーリス三佐は俺の前に立ったまま動かない。

「場所を移しましょうか?」

その意図を組んだ俺の提案に、オーリス三佐は無言で頷くと俺は人気のない場所へと向かった。










「それで、話は何ですか?」
「山本二等空佐の任務遂行の放棄に関することです」

人気のない場所に移動した俺の切り出しに、オーリス三佐は鋭い視線を送りながら答えた。

「自分も人間です。感情くらいはあります」
「………何が言いたいのですか?」
「つまり、自分の友人を蹴落とすようなことを、俺は平然とするなんてことは出来ないと言う事です」

俺は屁理屈かもしれない意見をオーリス三佐にぶつける。

「なるほど………よく分かりました。ですが私たちは組織です」
「ええ、個人個人で勝手に動いたら組織としては成り立たなくなる。オーリス三佐の仰るとおりです」

人としては正しくとも組織の人間としては、俺のやっていることは間違いだ。
そのことは重々承知だ。
と、その時だった。

「いい加減にしたらどうだ? オーリス・ゲイズ」
「あ、あなたは!?」
「執行人!」

突然出てきた執行人にオーリス三佐は一歩後ずさる。
どうでもいいことだが、彼女は執行人の事が苦手とのこと。

「何だかんだまともな事を言っているようだが、スパイもどきの事をさせるのが任務だとでも言うのか? スパイをすることでこの世界が平和になるとでも言うつもりか?」
「そ、それは……」

執行人の鋭いツッコミに、オーリス三佐は言い返すことが出来ない。
執行人の視線はさらに厳しくなっていく。

「部隊を蹴落とす蹴落とさないも結構。だが、それに真人を……マスターを巻き込むな! マスターは貴様らのくだらない茶番の小道具ではない!!」
「執行人!!」

俺は今にも掴み掛らんとする形相の執行人を止めた。
執行人が俺の事を、マスターと呼んでくれたことにも気づかずに。

「執行人がご無礼を……すみません」
「あ、いえ」

いつもの、彼女からは予想もできないほどに怯えているオーリス三佐に、俺は頭を下げた。

「山本二等空佐の件に関しては、不問といたします。そして新たな任を与えます」
「白々しい、今度は何を――――」

再び忌々しげに口を開く執行人に、俺は鋭くにらみつける。
それを見た執行人は何も言わずに一歩下がった。

「山本二等空佐は、この部隊が解散する時まで、出向を続行する。それが新たな任務です」

オーリス三佐のその任務に、俺は驚きを隠せなかった。
出向の続行、それはつまりスパイ活動はせずにここにいてもいいと言う彼女なりの言葉だった。

「山本二等空佐、この命を賭けてでも任務に当たります」
「私からは以上です」

オーリス三佐は俺の返事を聞くと踵を返す。

「オーリス三佐!」

俺の呼びかけに、オーリス三佐は反応しない。

「ありがとうございます!」
「………」

俺の言葉に、一瞬足を止めるが、すぐに歩き出した。

「本当にお人好しだ。お前は」

執行人は吐き捨てるように言うと、俺に背を向けて歩き出す。










その後、臨時査察は滞りなく終了し、問題点も特に見つからなかったとのこと。
これで、機動六課に訪れた小さい危機は去った。

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