ナレーターが実況を初めているさなか、俺とシンクは外へと向かっていた。
それはエクレールと合流するためであったのだ。
「あ、エクレール! 丁度いい所に……大変なんだ。姫様が攫われちゃって、だから僕達急いで助けに――――」
そこにいたのはものすごい速度で走りながら、こっちに向かってくるエクレールの姿。
(こ、怖ッ!?)
その表情はまるで鬼を思わせるような感じだった。
なので俺は何があっても大丈夫なように回避する準備をした。
「こっの、ど阿呆ぉぉがあああああ!!」
そして俺の予想も的中し、エクレールがとび蹴りを仕掛けようとしてきた。
ちなみに俺の位置はシンクの左側、つまりはエクレールのとび蹴りの攻撃範囲内だった。
俺は即座に後方にバックステップで回避するが、シンクはものの見事にとび蹴りを喰らい柱の方に吹き飛ばされた。
「痛いよ! 何すんの?!」
「それはこっちのセリフだこのど阿呆! 勝手に宣戦布告を受けてどういうつもりだ!!」
「はっ、はい?」
エクレールの罵声に、シンクが首を傾げた。
そしてこっちをものすごい形相で睨みつけてきた。
「そして渉は避けるな!!」
「避けるわ!! 誰が嬉しくてわざわざ痛い目にあうか!!」
俺はエクレールにもう反論した。
俺は別にマゾではないからな!!
その後俺達は急いで姫様のいる場所へと向かうのであった。
3人称Side
「宣戦布告を受ければ、公式の戦と認めた事になる。普段の戦闘ならいざ知らず、よりによって姫様をあまつさえこんなタイミングで……」
ミオン砦に動物……セルクルに乗って向かっている時、エクレールはシンクに対して怒鳴っていた。
「コンサートの姫様の出番まで、あと一刻半しかないんだぞ? ……聞いてるのか勇者!」
後ろにいるシンクに、エクレールは若干キレ気味に怒鳴った。
「きっ、聞いてっうわあぁぁあ!? 聞いてる!」
「大体、貴様は何でまともにセルクルにも乗れんのだ!!黒音は普通に乗れてただろうが!」
今にもセルクルから落ちそうなシンクに、エクレールが怒鳴りつける。
宣戦布告の一件でエクレールの機嫌は最悪であった。
「そんな事言われてもー!」
「エクレ、あんまり怒ると血管切れるでありますよ?」
リコッタの心配そうな言葉に、エクレールは前方へと顔を向けた。
「……エクレール、リコッタごめん。勝手な事して」
しばらくの間無言であったが、突然シンクが口を開いた。
「僕の世界では、悪者が姫様を誘拐するのって、大変な事なんだ、だから――――」
シンクはそう言いながら体制を整えた。
シンクの言葉に、リコッタやエクレールは少なからず驚いている様子だった。
「黙っていられなかった! ……でも大丈夫! 姫様も助けるし、コンサートにも絶対間に合わせる!」
シンクはそう言いながら神剣『パラディオン』を手に具現化する。
「ふんっ! ……当然だ」
「自分も微力ながら、頑張るでありますよー!」
「うん! ありがと!! リコッタ、エクレール」
エクレールとリコッタにお礼を言うシンク達は、ミオン砦へと向かう。
「む、そうだ。渉はどうした!」
「あれ? そう言えばさっきから静かで……って、いない!?」
エクレールの問いかけに、シンクは後ろの方を見るが、そこには誰もいなかった。
そう、なぜか渉の姿はなかった。
「最後に私が見たのは、セルクルがいる場所であります」
リコッタが知っていることを告げた。
「と言うことは……」
「あの馬鹿者!! こんな時に一体何をしておるのだああああ!!!!」
シンクの仮定をいち早く悟ったエクレールが、本日最高ボリュームで怒鳴り声を上げた。
これには二人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
ちなみに、その頃渉はと言えば……
「ですから、セルクルにお乗りになった方がいろいろと便利ですと、申しあげております!!」
「だ・か・ら! 俺はセルクルとかいう動物ではなく自分の足で行きたいだって!!」
見送りに出ていたメイドの人と言い争っていた。
その原因は渉がセルクルに乗るのを拒否したからである。
「くどい!!! 一体何度言わせる気だ!!」
「貴方こそ!! いい加減分かってください!!」
二人の喚き声が夜の空に響き渡るのであった。
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