あの後、この戦はビスコッティと言う国の勝利に終わったらしい。
「それから団長、今回華々しいデビューを果たしました勇者さん達にもお話を伺いたいんですが」
「え、あー。ゆ、勇者殿については追々明かしていくという事で、今回はその……」
実況の人の言葉に、取材に答えていた男の人――確かロランと言ったか?――は語尾を弱める。
「今回は謎だと? あぁ分かりました。ではその分団長からたっぷりとお話を伺いましょう!」
「はぁ……ナイス判断です、兄上」
「だな」
俺は少女の呟きに答えながらある場所を見る。
「帰れない~、僕はここから、帰れない~」
「それにしても暗っ!」
あの金髪の少年勇者は、ここから帰れない事を知ってからずっと体育座りで落ち込んでいた。
「ところでだ、あんたは誰なんだ?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は小野 渉、世界を旅するしがない男だ。世界の移動中に突然こっちに飛ばされたんだ」
俺は自己紹介をしながらここに来る敬意を簡単に説明した。
「私はエクレール・マルティノッジだ。呼び方はエクレールでいい」
少女……エクレールと互いに自己紹介を果たしたところで、少年勇者を連れて町へ行くことになった。
町に着くと、近くにあったベンチに俺と少年勇者が座り、近くにあった台座らしきものにエクレールが座った。
「まぁ、そうだよなぁ…」
少年勇者は”けいたい”と言うものを取り出すと、その画面に表示されている”圏外”という文字にため息を吐いていた。
「異世界だもんな……」
「まったく覚悟もないのに召喚に応じたりするからだ」
少年勇者の言葉に呆れたようにエクレールはそう言う。
「覚悟っ!? 覚悟も何もこのワンコが! 踊り場から降りようとしたら、落とし穴を仕掛けて!」
少年勇者は俺の横で丸まっている犬を恨めしそうに睨んでから、エクレールに涙目で訴えた。
「落とし穴? タツマキが」
すると”タツマキ”と呼ばれた犬は丸まった状態からその場に座り、首を振ってから世界移動中に見たのと同じような小さな物を地面に浮かび上がらせた。
俺達は興味津々にその小さなもの……紋章陣を見る。
「何々………ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティ」
紋章陣に描かれた文字を読むエクレールに犬は、紋章陣を指差すように手を紋章陣に向ける、
よく見るとものすごい小さな文字で何かが書かれていた。
「注意、これは勇者召喚です。召喚されると帰れません」
「え?!」
少年勇者はエクレールの言葉に青ざめながら声を上げた
「拒否する場合はこの紋章を踏まないで下さい」
「あ……あ……あ」
みるみる少年勇者が燃え尽きて真っ白になる。
良いように燃え尽きてるな。
「そんなん分かるかぁぁああい!!」
燃え尽きた少年勇者はまたもや涙目で立ち上がりエクレールに詰め寄った。
「知るか! 私に言うな!」
若干理不尽な少年勇者の問い詰めに、エクレールは少々キレ気味で答える。
だが、それも俺に言わせれば……
「これってある意味詐欺だぞ」
その一言に尽きた。
と言うよりこれは一体何語だ?
「……ふん、まぁ貴様を帰す方法は学院組が調査中だ、時期に判明するさ」
「……だといいけど」
エクレールの言葉に少年勇者は涙を必死に堪えていた。
(何だか子供っぽいな)
俺は少年勇者の様子を見て思わずそう思ってしまうのであった。
「とりあえず……まぁ…その…なんだ、ワタルは別だがアホといえど貴様らは賓客扱いだ、ここでの暮らしに不自由はさせん」
エクレールは俺達に背を向けて言うと懐から何やら袋を2つ取り出し少年勇者には大きな袋を、俺には小さな袋を手渡してきた。
「まずはこれを受け取っておけ」
「これお金? いや、さすがにお金は…」
「戦場での活躍褒賞金だ。受け取りを拒否などすれば財務の担当者が青ざめる」
「というか何で俺までそんな大層な物をもらえるんだ?」
俺はエクレールに疑問を投げかけた。
確か俺がやったのは、二人に攻撃が来ることを知らせ、レオ閣下の紋章術を防いだことぐらいだが。
「お前はレオ閣下の紋章術を防いでさらには敵の兵士たちを倒していたことの褒賞金だ」
「そう言えば、あそこまで向かう時何かを切り裂いていたような気がしたんだけど………あれが敵だったのか」
「全く、お前は………」
思い出しながら呟いていると、エクレールは俺を呆れた様子で見ていた。
「兵士達も楽しいから戦に参加している者も多いだろうが、褒賞金の支給は自分がどれだけ戦に貢献できたかが大切な目安だ。少なくとも参加費分は取り戻したいというのも本音だろうしな」
「え?! 参加費」
エクレールの言葉に少年勇者が驚気ながら声を上げた。
俺も少なからず驚いていた。
「やれやれ、これはかなり初歩的な所から教えてやらんといかんな」
そう言ってエクレールはやれやれと言わんばかりの様子で自分の頭に手を置いた。
その後街を散策しながらエクレールの説明が始まった。
「戦は国交手段でもあるが、同時に国や組織を挙げてのイベント興行でもある。今回はガレットと戦ったが、もっと規模の小さい……村同士や団体同士の内戦もあるな」
「村対抗の競技大会兼、お祭りみたいものか?」
「まぁ、そんな言い方も……できるか」
少年勇者の例えに、エクレールが頷いた。
と言うより戦がお祭りって、本当にどうなってるんだこの世界は。
「戦の興行を行う際は、興行主が参加希望者から参加費用を集めて、それを両国がそれぞれに計上する」
再びエクレールが説明を始めた。
「そして戦を行い戦勝国が約六割、敗戦国が残りの約四割を受け取る。これは大陸協定で決められた基本の割合だ。分配した費用の内、最低でも半分は参加した兵士の褒賞金に当てられる。この割合も協定で決まっている。そして残り半分が戦興行による国益だ」
本当にスポーツみたいだ。
普通の戦は協定もないし勝利した側がすべてを奪い取るというシステムだ。
まあ、不意土がある時点でシステムも減ったくれもないが。
「病院を建てたり、砦を作ったり、公務の為に働く者を養ったりなど、国を守る為に使われる」
「「へぇー」」
エクレールの説明は終わったみたいだ。
「あとさ……えっと、本物の戦争っていうか、大陸協定ってのを守らなかったり、人が死んじゃったりするような戦いとかは……」
「……歴史を紐解けばそういった争いも無くはない」
少年勇者の問いかけに、エクレールが答えた。
「特に魔物との戦いなどではな」
魔物って………本当にここは何でもアリだな。
「我々が戦で負傷せずにいられるのは、戦場指定地に眠る戦災守護のフロニャ力のおかげだ。それ以外の場所なら怪我もするし死にもする」
どうやら俺がここに来たときに感じた気はフロニャ力のようだった。
「じゃあ、守護されている場所ってどれくらい?」
「元々守護力の強い場所に国や町、砦が出来ているんだ。街道や山野は危険な場所が多いな、とくに海道は大型野生動物の危険度も高い。だが戦の為に移動する隊列に加われば逆に安全な旅が出来るという利点もある」
そんな話をしていると大きなお城にたどり着いた。
どうやらここがフィリアンノ城と言う場所らしい。
そして俺は”リコ”と言う人物に会うべく中に入るのであった。
[1回]
PR