今俺達は高台へと来ていた。
どうやらここがシンクが召喚された、召喚台になるらしい。
「くっ………ぬぅぅううう!! やっぱり通れないっ!!!」
そんな中、シンクはエクレールに紋章を出してもらって通ろうとしているが、結局無理だったようだ。
ちなみにリコッタは大きな動物――セルクルと言ったか?――に積んでいる機械を操作していた。
「だから言っているだろうが」
紋章から手を抜いたシンクに、エクレールが呆れながら言った。
「人生なんでもチャレンジ! ネバーギブアップ!!」
エクレールの言葉にシンクは熱血教師のような台詞を言いながら再び紋章に手を入れようとしていた。
「まあ、時には諦めることも肝心なんだけどね」
俺はボソリとつぶやいた。
ちなみに俺は時空間の移動ゲートを出そうとしたが、何かに弾かれてうまくいかなかった。
(まあ、転送術が使えるだけでも儲かりものかな)
俺が使える転送術は半径500m範囲内ならどこへでも一瞬で行くことが出来る物だ。
使いどころとしては奇襲程度しかないが。
「勇者様~、準備整ったでありま~す!」
その時聞こえたリコッタの声にシンクとエクレールは後ろを振り向いた
「えっと……それは?」
シンクは、アンテナのついた機械を指差しながら聞いた。
「これは放送で使うフロニャ周波を強化・増幅する機械でありますっ。自分が五歳の時に発明した品でありますが、今は大陸中で使われているのでありますよ」
ある意味天才だなと俺は心の中で思っていた。
そんな中、リコッタはレバーを操作して機械を動かした。
「では、勇者様」
先程からポカーンとしているシンクにリコッタはそう言う。
「あっ、あぁ、うん」
シンクは自分の携帯を取り出し、画面を確認する。
俺は少し興味があったので、シンクの横から携帯の画面を覗き見る。
すると圏外と表示されていたのがアンテナのマークに変わった。
「うぉおおおおお! 立ったぁあああ!! 凄い! リコッタ凄い!!」
「ありがとうであります! 感激であります!!」
シンクの言葉にリコッタも嬉しいのか敬礼のポーズをとった。
そしてシンクはどこかに電話をかけた。
俺は話の内容に興味もなければ聴く気もないので、少し離れた場所で辺りを見ていた。
しばらくすると、電話を終えたのかシンクは携帯電話を閉じた。
「リコッタごめん、もうちょっと繋げてていい? まだ他にも連絡したい人がいるんだ」
「大丈夫でありますよ」
シンクのお願いに、いやな顔一つもしないリコッタ。
そう、ここまでは。
「あ、勇者様」
「ん?」
「良ければその”でんわ”と言う機械、後で調査させていただけないでしょうか?」
リコッタはそう言うと、シンクの方に迫って行った。
「え、え、え!?」
「ちょぉっとだけ分解して、構造を知りたいのであります。見知らぬ機械を見ると自分は、尻尾の付け根と研究心がキュウキュウしちゃうのであります~」
あ、さっきから腰を振っていると思っていたら、しっぽだったのか。
と言うよりツッコミどころ満載だな。
「あぁ、いやいやいや!」
シンクは慌てて携帯を後ろの方に隠した。
「平気であります、後でちゃんと元に戻すのでありますぅ」
「分解しちゃうと保障が利かなくなるんだって!」
シンクはそう叫びながら逃げ出した。
「大丈夫であります! 自分が補償するでありま~す」
「うわ! その補償じゃなくて、電話会社の!」
僕は二人が走っているのを呆れてみていた。
「天才となんとかは紙一重と言うが……あれは一種の病気だな」
いや、病気と言うよりは中毒か?
と言うよりシンクはさっきからアクロバティックな回避をしている。
「はは! それは心強い」
いつの間にか俺から離れていたエクレールが、嬉しそうな声を上げた。
と言うより、あれって電話か?
「エクレ、何か朗報が?」
シンクの手首を掴んでいたリコッタが、手を離してエクレールの方見る。
「ダルキアン卿が戻ってこられる!」
「本当でありますか!? ならユッキーも一緒でありますね」
「あぁ!」
どうでもいいんだが、一体誰なのだ?
「誰?」
そう思っているとシンクがエクレールに尋ねた。
「ビスコッティ最強の騎士、ダルキアン卿と我らの友人ユキカゼだ」
「二人ともとっても頼りになるであります」
シンクの問いかけエクレールとリコッタが答える。
(最強の騎士か。強いんだろうな)
俺は今度手合わせでもして貰おうかと考えていた。
言っておくが、俺はバトルジャンキーではない。
ただ単に相手の力量を見るのが好きなだけだ。
ちなみにリコッタはそう言いながら、シンクの携帯に目の焦点を合わせていた。
その眼は完全に獲物を狙う目だ。
そんな俺の耳に何かの鳴き声が聞こえてきたので、その声の方向を見ると……
「あぁ~珍しいでありますな、土地神様であります」
半透明のカエルのような生物と目玉一つで妖怪みたいな生物がいた。
と言うより、今聞き捨てならない単語を聞いたような気がした。
「土地神?」
「貴様は本当に何も知らんな……土地に暮らす精霊に近い生き物だ」
「土地神様がいらっしゃるのは自然の実りが豊かな証なのであります!」
シンクの問いかけにエクレールの説明に続けて、リコッタもそう言った
「へぇ~」
(土地神?)
俺がこの世界に干渉する絶対条件は、ここを担当する神に許可を取ること。
ここで言うなれば土地神だ。
今目の前にいるのは絶対にこっちの言葉を理解できない。
もし出来ても俺が向こうの言葉を理解できない。
つまり、俺の希望は潰えた事になる。
(まあ、それならそれでいいか)
俺は天界に戻ろうという気はないので、戻れないのならそれはそれでいいかなと考えていたのだ。
但し問題は体の方だ。
「渉、ぼさっとしてるんなら置いていくぞ」
「お、おい! まってくれ!!」
俺は立ち去るエクレールを見て、考えるのを中断すると慌てて後を追った。
(ま、いっか)
それが俺の出した最終的な結論だった。
そして俺達は、召喚台を後にするのであった。
[0回]
PR