早速だが今の状況を簡単に説明しよう
「もぅし訳ないであります!!」
ビスコッティ城内の図書館の様な場所に響き渡る声、そして目の前で深々と頭を下げるオレンジ色の髪をした犬耳の少女だ。
名前は『リコッタエルマール』
学術研究院の首席らしい。
とは言え、それがどのくらいすごいことかは分からないが。
「このリコッタ・エルマール、誠心誠意、勇者様がご帰還される方法を探していたでありますが……力及ばず、未だ何ともどうにもこうにも」
そう言いながら何度も何度も頭を下げる少女に、俺は何ともいたたまれない気持ちになった。
(何だか俺達がいじめているような感じが………)
しかも周りにいる人たちも何事かとこっちを見ているし。
「いやリコ落ち着け。私も勇者達もそんなにすぐに見つかるとは思ってない」
「え!?」
エクレールの言葉に俺の隣にいる少年勇者が驚きの声をあげた。
「まあ、俺としては戻れる戻れないなんて関係ないし」
「えぅ……そ、そうだよ、うん」
「本当でありますか?」
俺達の言葉にリコッタ(本人曰く呼び捨てでいいとのこと)は心配そうにそう言いながら顔を上げ俺達を見る。
「期限について何か言ってたな、いつまでだ?」
「ええっと……春休み終了の三日前………の前日には、家に居ないといけないから……あと16日だ」
エクレールの問いかけに少年勇者は考え込むと期限を提示した。
「俺の場合は期限は31日ぐらいでいい」
それに倣い、俺も期限を言った。
「16日に31日! それなら希望が湧いてきたであります!」
少年勇者の言葉にリコッタは笑顔でそう言った。
「うん、お願いします。でもその前に……」
そう言いながら少年勇者は、携帯電話を取り出してリコッタに見せた。
「召喚された穴の所に行ったら、電波通ったりしないかな?」
「…………でんぱ?」
少年勇者の言葉にリコッタは不思議そうな顔をする
もしかして電波の事を知らないとかではないよな?
俺の場合は知識はあるのだが、実際には見たことはないのだ。
「そういえば勇者様、こちらの方は勇者様のご友人でありますか?」
「え? 違うけど………そう言えば君は誰だっけ?」
リコッタの問いかけに、少年勇者が今更な事を聞いてきた。
「今更それを聞くか……まあいい、俺の名前は小野 渉だ。呼び方は任せる」
「シンク・イズミです。呼び方はシンクでいいよ。よろしく」
俺の自己紹介に、少年勇者……もといシンクはそう言いながら笑顔で、片手を差し出してきた。
俺はその手を取ると握手を交わす。
「渉様ですね!」
「リコッタ、様付けはやめて……寒気がするから。それに俺は様付けされるほど大層な身分でもない」
俺はリコッタにそう告げた。
俺は様付けされるのが微妙に嫌いなのだ。
元々俺の場合はそんなに偉い人物でもないのだ。
「それでは、渉さんで」
「うん。それでよろしく」
とりあえず一通り自己紹介が終わったので、俺達はシンクが召喚された場所へと向かうのであった。
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