「ん……」
俺はいつものように小鳥のさえずりに目を覚ました。
(夢……なのか?)
体中を確かめても怪我の一つもない。
何ともまあトンデモな夢だと思いたかったが、それは儚く散ることになった。
「あれ? これって……」
そこにあったのは一つの西洋風の剣が立てかけられていた。
それはまさしく、夢と思っていた場所で見たものと同じだった。
「真人~ご飯よ」
「は~い!!」
下から聞こえてくる母さんの声に返事をして、俺は着替えるのだった。
この時、俺は小さな疑問に目を背けようとしていたのかもしれない。
いつも通りと思われた朝は、先生の一言で変わり始めた。
「さて皆さん。実は先週急に決まったんですが、今日から新しいお友達がこのクラスにやってきます。海外からの留学生さんです。フェイトさん、どうぞ」
「し、失礼します」
教室に入ってきたのは、金髪のツインテールで目の色が赤い少女だった。
「あの、フェイト・テスタロッサと言います よろしくお願いします」
その少女がお辞儀をすると、クラス中から拍手が沸き起こった。
近くの人が『あの子、かわいい』と言っている声が聞こえた。
「ねえ、向こうの学校ってどんな感じ」
「あ、あの私、学校には――」
休み時間、テスタロッタさんの周りにクラスメイトたちが質問を投げかけていた。
俺はと言えば、特に興味もないので、遠くで静観している。
「すっげえ急な転校だよね、なんで?」
「そのっ、色々あって―」
「日本語上手だね、どこで覚えたの?」
「どこに住んでたの?」
どうでもいいが、彼女は困っているようだった。
いい加減に止めようとした時だった。
「はいはい、転入初日の編入生をそんなにみんなでわやくちゃにしないの」
「アリサ」
「それに質問は順番に、フェイト困ってるでしょ」
アリサとによってその場はなんとか鎮静化したのだった。
そして昼休み。
「ささ、あんたも座って座って」
「あ~誰かさんに引きずられたせいで、腰が痛い」
俺はアリサに半強制的にここに屋上に連れてこられた。
「はいはい。へんなこと言ってないで自己紹介」
「……山本真人です。よろしく」
「わ、私は…フェイト・テスタロッサ。よろしく…ね?」
いや、なんで疑問形?
「それじゃ、お昼を食べるわよ!!」
と言うことで昼食となったのだが……。
「あ、真人君のお弁当おいしそうだね」
「ほんとね~、これと交換でいい?」
「いや、聞いておきながら、もう交換してるし」
「良いじゃない! あんたはあたしたちのお弁当が食べられるんだから! ……おいし」
とまあこんな感じで、お弁当の中身はどんどんと変わっていく。
【ふむ……女子とのおかず交換か……モテモテのようで何よりだ】
「なっ!!?」
俺は突然聞こえてきた声に、思わずベンチから立ち上がってしまった。
「ど、どうしたのよ? いきなり立ち上がったりなんかして?」
「あ、いや、なんでもない」
俺は怪訝そうな様子で聞いてくるアリサにそう答えると、再びベンチに座った。
【思念通話だ。心の中で喋ればいい。と言うよりこれは昨日教えたはずなんだが……】
その声は、ため息交じりにそう呟いた。
【一体なんなんだよ】
【何、お前さんに魔法について色々と知っておいて貰おうと思ってな】
【………】
俺は内心でその必要はないだろと思った。
【必要はない? それは違うな。魔法の事を知るのは、魔法と言う力を手にした者の義務だ】
声色が変わり、俺は思わず背筋を正した。
「背筋を伸ばしてどうしたの?」
「あ、いや。なんでもないんだ」
俺はなのはに誤魔化すようにそういうと、再び心の中で話し掛けた。
【……分かった。それじゃ、よろしくお願いします】
【よし。では、僕の話をよく聞けよ?】
こうして、俺と謎の人物による、魔法の講習会が始まった。
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