意識が戻った俺が感じたのは、吹き付ける強い風だった。
【真人よ】
「え!?」
突然誰もいないはずなのに声が聞こえた。
【念話のようなものだ。心の中で話し掛けろ。誰にも聞かれずに会話ができる】
【これでいいのか?】
俺の問いかけに謎の声(おそらく男の人)が上出来だと答えた。
【さて、真人は現在進行形で地面に落ちている。このままなら地面に墜落して終わりだな。回避したいのならば、浮遊魔法を使え。使い方は自らが飛んでいる姿を想像してみるといい】
声に導かれるまま俺は頭の中で、自分の飛んでいる姿を想像する。
すると、今まで吹き付けていた強い風がパタリと止んだ。
【上出来だ。そのまま地面に着地しろ】
【あ、ああ】
俺はゆっくりと地面に向かって下りる。
【真人は魔法に触れるのが初めて……まだ戦いと言うものもできないだろう】
【一体あんたは―くるぞー】
その声がした瞬間目の前に、少女が降り立つ。
「やっぱり魔導師じゃねえか。バリアジャケットも展開しないとは余裕の表れか?」
【さて、今回の初戦はあの少女だ。悪いが彼女には実験台になってもらおう】
【実験台って……】
あまりな言いぐさに俺は抗議の言葉を漏らす。
【勘違いするな。ここは戦場だ。戦場に男も女も大人も子供も関係ない。それ位分からなければお前が死ぬだけだ】
男の人の言葉が胸に突き刺さった。
【さて、それでは基本的な魔法戦の使い方を説明しよう】
【お、お願いします】
とりあえずそう言っておくことにした。
「行くぞ!!」
【まずは防御だ。全タイプの魔法には僕が使っていた魔法が初期設定として存在している。今のところはそれを使いこなせばいいだろう。自分の前に盾があるのを想像するんだ】
少女がこっちに向かって突撃してきた。
(盾……盾)
俺は必死に盾を想像する
『プロテクション!!』
すると、右手に握ってあった剣が突然しゃべったかと思うと、少女のハンマーが青い光に遮られた。
「か、堅ぇ!!」
その何かが盾であるのは分かった。
少女は、分が悪いと思ったのか、バックステップで後ろの方に回避した。
【初めてにしては中々だ。では、次だ】
男の人の声は淡々と魔法の使い方を伝えようとする。
【次は攻撃だ。これも最初は初期設定の魔法を使うといい。これは形態によって異なる。剣の場合は爆発を起こる光景を想像しながら、相手を切りつけろ。これを”一刀両断”と言う】
【一刀両断……】
男の人の言葉になぜか俺は理解できた。
【そうだ。他にもいくつか技はあるが、今はこれだけでいいだろう】
(よし、行くぞ!!)
「はぁぁあああ!!!!」
俺は大きめの剣を構えて少女の元に突撃する。
「喰らうかよ!!」
しかし少女はその攻撃から逃げるように上空へと浮遊する。
【戦いは知恵だ。こういった場合はどうするのかは自分で考えろ。ちなみに僕が教えた魔法を応用すれば何とかなるぞ】
男の人の声に、俺は必死に考える。
(上空に向けて攻撃をすればいいのか?でもそれじゃ意味がない……そうだ!)
俺は一つの方法を思いついた。
そして先ほどと同じ要領で頭の中で想像する。
「よし! 飛べた!!」
俺が選んだのは浮遊魔法だった。
これで相手のところまで近づけばいい。
「行くぞ!!」
そして俺は前に進むのを想像して移動を始めた。
「はっ!!」
そんな俺にめがけて少女は鉄球を放つ。
いつもなら逃げるところだが……
『プロテクション』
「っち!」
【ほぅ、
多重処理か】
何のことかはよくわからないが、これで俺に好機が見えたことだけは分かった。
「一刀」
そして俺は驚きで固まっている少女の隙を突き、剣を振りかぶった。
「両断!!!」
その瞬間、少女のいた場所が爆発した。
「やったか?!」
【ふん、あれしきでやられるほど軟じゃないだろう】
その声を肯定するように、爆発で生じた煙が晴れ全く無傷の少女の姿があった。
「アイゼン! カートリッジロード!!」
少女の言葉と同時に、ハンマーから何かが排出された瞬間、何かが強まったような感じがした。
「おらぁ!!」
そして俺に向かって武器を振りかざしてきたので、俺は盾を出して防ぐ。
「ぐぅっ!?」
ドリルの形に変形したそれは、前よりも威力が上がっていたのか、圧迫感に襲われた。
【威力が上がったか……このまま続けてもこちらの敗北は確実……であれば】
男の人の声が何かを呟く。
【真人よ、形態を剣から弓に変えろ】
「ゆ、弓?」
俺は、突然の指示に驚きながらも武装を弓に変えた。
その弓は、俺がよく使っているのと同じ形だった。
【矢は魔力を込めながらその形を想像して生成しろ。したら矢の先端に魔力を収束させるイメージを思い浮かべるんだ】
【わ、分かった】
俺は言われるとおりに目をつむって矢を生成させると、先端に魔力が集まるようにイメージする。
目を開けるとそこには矢の先端に集まる青い光のようなものがあった。
【よし、次はそれを上空に照準を合わせろ】
【上空? 敵の方じゃ―いいから合わせろ!ーわ、分かった!】
俺の声を遮るようにして男の人の声が指示を出す。
俺は慌てて照準を上空に合わせる。
【その状態で僕の詠唱に続け】
【お、おう】
とりあえず今はこの声の言うとおりにしておこう。
【我が生み出しし矢よ】
「我が生み出しし矢よ」
【我が言霊を聞き入れたまえ】
「我が言霊を聞き入れたまえ」
俺の詠唱のたびに、力があふれ出すような感触がした。
【その矢は全てを貫きし線となれ】
「その矢は全てを貫きし線となれ」
その瞬間、地面に丸くて中央に五芒星が描かれている青色の何かが浮かび上がった。
【貫け、ブレイク・イヤー!!】
「貫け、ブレイク・イヤー!!」
そこで俺はいつもの感触で弓を射る。
「は!! そんなことしても無駄――」
少女はそこから先を言うことが出来なかった。
ガラスが割れるような音と共に、不思議な空間が少しずつ薄れていく感じがした。
「なっ!? 結界が抜かれた!」
少女が慌てていることから、どうやら結界と言うのを破ったらしい。
「くそ!! てめえ次会ったときは絶対に倒すからな!!!」
少女は最後にそう捨て台詞を言うと、その場を後にした。
「終わった……のか」
緊張の糸が切れたのと同時に、激しい睡魔が襲ってきた。
「ったく、こいつはすごいのだかそうではないのだか」
誰かの呆れたような声が聞こえてくる。
俺はその声に反論することが出来ない。
そしてそのまま俺は眠りについた。
「………しばしの休息を。正統なるマスター、山本真人よ」
そんな、静かで穏やかな声を聴きながら。
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