「痛つ……なんで俺まで殴られるんだよ?」
俺は、女性の人に殴られた頭をさすりながら文句を口にする。
いくらなんでもひどい。
俺は完全に今回の戦とは無関係だ。
いや、参加していた時点で俺も共犯なのか?
「頭をさすって、どうしたのでござるか?」
「ああブリオッシュさ――ッて、貴方こそどうしたんですかその格好!?」
ブリオッシュさんに声を掛けられ、声のした方を見た俺は、思わず声を荒げてしまった。
ブリオッシュさんの格好とは、インナーのようなものしか着ていないものだった。
「ふむ、ちょっとレオ姫とやり合ってこうなったのでござる」
(や、やり合ってって……どうすればこうなるんだ?)
そんな疑問を抱きながらも、俺は着ていた礼装の上着を脱ぐと、ブリオッシュさんに羽織らせた。
「渉殿?」
「着ておけ。その姿じゃ寒いだろうし、その……色々と目のやり場に困る」
俺は後半の部分のセリフは、ブリオッシュさんから目をそらして言った。
「せ、拙者はそんなに魅力的でござるか?」
「その問いかけ、”そうだ”以外に見当たらない。それにブリオッシュさんはどう見たって美人だと俺は思う」
「び、びじッ!?」
俺の答えに、ブリオッシュさんが頬を赤らめた。
(そんな表情もできるのか)
そんな彼女を見て、俺はふとそう思ってしまった。
「そうか、拙者は美人でござるか」
ブリオッシュさんが小さな声でつぶやく。
「あ、渉さん!! ダルキアン卿!」
「ん?」
少女の声がしたので、声のした方を見ると、そこには手を振って駆け寄ってくる栗色の少女、リコの姿があった。
そして、その横には俺が対峙していた人物たちと銀色の髪の少年も。
「リコか、その様子を見ると、問題はないようだな」
「ハイであります。渉さんのおかげです」
俺の言葉に、リコは嬉しそうに答えた。
「で、あんたは誰だ」
俺は、横にいた銀色の髪の少年たちに問いかけた。
「お、俺!? って言うか、そっちから名乗るのがセオリーだろ!」
「小野 渉だ。呼び方は渉でいい」
俺は少年の言うことに一理ありと思い、名を名乗った。
「俺はガレット獅子団領の王子、ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ」
「ガレット獅子団領のガウ様直属の隠密部隊、ジェノワーズのノワール・ヴィノカカオ」
「同じく、ベール・ファーブルトン」
「同じく、ジョーヌ・クラフティやで~」
ガウルに倣って、黒髪の少女にウサギ耳の女性、虎柄の髪の少女の順で名前を名乗って行った。
三人とも、微妙に俺に対して視線が痛い。
まあ、あれだけの事をしたのだからしょうがないかもしれないが。
「三人とも、前はすまなかった。戦とはいえ、少々卑劣すぎた」
「え? べ、別にもう大丈夫ですから」
「気にはしていない」
「一緒に戦った者通し、仲良くしていこうで~」
戦でのことを頭を下げて謝ると、三人は慌てながら、そう言って許してくれた。
どうも戦になると、昔の悪い癖が出てしまう。
これは、直さないと。
「ッと、そうだ。二人とも急がねえと姫様の歌が始まっちまうから、聞きたいんなら中に入った方がいいぜ」
「そうでござるな。渉殿も、一緒に行くでござる」
ガウルの言葉に、ブリオッシュさんは、そう答えると俺に声をかけてきた。
「申し訳ない。俺は少しここで夜風に当たりたい。すぐに行くから先に行っててくれますか?」
「う、うむ……分かったでござる」
俺が断ると、ブリオッシュさんは、表情を曇らせて言うとそのまま中へと入って行った。
そして、俺は夜空を見上げるのであった。
それからしばらくした時であった。
「渉殿~!」
俺を呼んだのは、手を振りながら駆け寄ってくるユキカゼさんだった。
「ん? ユキカゼさん。今までどこに行ってたんだ?」
「ちょっと勇者殿にご挨拶を」
俺の問いかけに、ユキカゼさんは、そう答えた。
「勇者って言うと、あの金髪の奴か」
俺は、銀色の髪の女性に殴られていた少年を思い出した。
彼がその勇者なのだろう。
「ブリオッシュさんは、中に姫君の歌を聴きに行っているから、行ったらどうだ?」
「渉殿は?」
「俺は、ここで夜風に当たっている」
ユキカゼさんの聞き返しに、俺は静かに答えた。
それを聞いてユキカゼさんは、建物の中へ向かったが、引き返してきたのか、俺の後ろに立った。
「渉殿」
「何だ?」
ユキカゼさんに声を掛けられた俺は、後ろを振り返ると、俯いて両手をもじもじと動かしているユキカゼさんの姿があった。
「その……えっと……」
「……」
しどろもどろになっている彼女が、言い出せるようになるまで、俺は静かに待った。
「拙者、渉殿の事が………」
ゆっくりと、ユキカゼさんが言いだした。
「好きでござるっ!!!」
その瞬間、俺はまるで時間が止まったような錯覚を感じた。
「えっと、返事は何時でもいいでござるから………それじゃ、失礼するでござるよ!!」
頬を赤らめたままそう言い切って、彼女は走って行った。
残されたのは、突然の事に戸惑う俺だけとなった。
(今のって………告白、だよな?)
混乱している俺がようやく理解できたのは、それだけであった。
こうして、突如舞い込んだ戦は無事幕を閉じた。
――俺自身の問題を除いて。
3人称Side
渉が告白を受けて空を見上げている時、それを見つめる人物の姿があった。
「渉殿……」
その人物は、渉が来ていた青地の上着を手にしていた。
「やはり、”私”では、ダメなのでござるか?」
一人称を変えたその人物は誰に聞くでもなく、ボソリとつぶやいた。
そして、すべてが動き始めるのは、そう遠くはない。
Side out
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