突然現れたレオ閣下。
「レオ閣下!?」
その突然のご登場に俺は驚きのあまり、よそ見をしてしまった。
………そう、神速を使っていることも忘れて。
その結果……
「ゴベラ!?」
壁に盛大にツッコみました。
そして、そのまま俺の意識は闇へと落ちた。
「お、おい! 大丈夫か、渉!!」
慌てながら声をかけてくるエクレールの声を聴きながら。
~♪
「ん………」
俺はやけにはっきりと聞こえてくる歌声に、目を覚ました。
「目が覚めたか」
「エクレールか。ああ、この通りな」
俺は立ち上がりながら答えた。
「壁に突っ込んで気絶とは、俺もまだまだだな。エクレールにも心配をかけたようだし」
「な、何を言ってる! わ、私はお前のことなど心配などしていない!」
顔を赤くしながら俺の言葉を否定するエクレール。
何だか可愛らしい。
「ま、そういう事にしておく。で、状況は?」
「………勇者が姫様をコンサート会場に送って行った。それで間に合った様で、今姫様が歌い始めたところだ」
エクレールの説明によれば、今回は無事解決と言うことになる。
そして今聞こえているのは姫様の歌だろう。
「中々、良い歌声だ」
「中々とは何だ! 姫様の歌はとても素晴らしいのだ!」
”とても”を強調して言ってきた。
(感じ方は人それぞれ何だから大目に見て欲しいものだ)
俺はそう思いながら、姫様の歌に耳を傾けているのであった。
「あ、渉さん!!」
歌が終わり、しばらくするとリコッタの声がした。
声のした方に目をやると、こっちに向かって手を振るリコッタと、その横には二段のたんこぶがあるジェノワーズに、銀色の髪をした少年とブリオッシュの姿があった。
「リコッタか、その様子を見ると、問題はないようだな」
「ハイであります。勇者さまのおかげです」
俺の言葉に、リコッタは嬉しそうに答えた。
「で、あんたは誰だ」
「お、俺!? って言うか、そっちから名乗るのがセオリーだろ!」
銀髪の少年の言う事に一理があるため、俺は自ら名乗ることにした。
「俺は、小野 渉だ。好きに呼ぶと良い」
「俺はガレット獅子団領の王子、ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ」
ガウルと名乗った少年は、ガレットの王子のようだ。
と言うより、こいつが首謀者か。
「ふん!」
「って! いきなり何すんだよ!!」
俺はガウルの頭を、神剣の柄で軽く小突いた。
「そこの三人に言ったはずだ。”機嫌が悪い時にちょっかい出すとどうなるか。たっぷりと叩き込ませて貰おう”とな。叩き込めなかったから王たるお前に叩き込ませてもらった」
「………俺は反省すべきなのか怒るべきなのか?」
「前者を取れば懸命だな」
ガウルのボヤキに、俺は素で返した。
「お館さま―!」
「ユキカゼ、戻られたか」
そんな時、後ろの方から少女の声がしたので振り返ると、後ろに束ねられた金色の髪にキツネ耳としっぽを生やした少女がブリオッシュの方に駆け寄っていた。
「……? こちらのお方は?」
「俺は勇者殿の”おまけ”の小野 渉だ。呼び方は好きするといい。ちなみにこんな喋り方だがこれはいつもの事ゆえ、気にしないでもらいたい」
俺はおまけの部分を強調して自己紹介をする。
もちろんこれは、ある種の皮肉だ。
「私はビスコッティ騎士団自由騎士、隠密部隊筆頭ユキカゼ・パネトーネと申します。ユキカゼとお呼びください」
自己紹介を返してきた少女……ユキカゼと握手をする。
「ッ!?」
手が触れあった瞬間、手に電気のようなものが走った。
「どうかされたでござるか?」
「あ、いや。なんでもない」
ユキカゼの声にハッとすると、俺はそう答えて手を離した。
「なによ、デレデレしちゃって」
「ん? なんか言ったか? エクレール」
俺は後ろの方で怨念もろもろの様子でつぶやくエクレールに尋ねた。
「何でもない! 私達も戻るぞ!!」
「あ、おい!」
歩いて行くエクレールについて行く形で、俺もミオン砦を後にした。
こうして、姫様奪還戦は幕を閉じたのであった。
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