『さあ、午後に入り食事も終えたビスコッティ、ガレット両軍。現在チャパル胡椒地帯で戦闘開始の合図を待っております』
「渉殿は必要であれば勇者殿のフォローと、ユキカゼと共に敵兵の数を減らしてほしいでござる」
「分かりました」
実況を聞き流していると、ブリオッシュから指示が入った。
どうやら俺は遊撃隊のようなものらしい。
まあ、ちょうどいい。
俺には誰かと共に集団で行動が出来るほど器用でもなければ、隊列を組み指示を出すようなカリスマ性もない。
だからこそ、ブリオッシュの指示のおかげで、俺はとても動きやすくなったのだ。
そして、花火が打ちあがり戦が始まった。
勇者とエクレールはどうやら開戦直後の混乱を利用してこの場を突破するらしいが。
「狙われてるな」
「そのようでござる」
俺の呟きに、ユキカゼが相槌を打った。
ブリオッシュはすでに動いている。
「フォローが出来るようにしておく?」
「そうするでござる」
俺の問いかけにそう答えると、ユキカゼはゆっくりと丘の先の方に向かう。
俺は二人の状況を注視する。
突然放たれた大量の弓を二人は紋章術によって相殺するがその隙を狙って三人のガレット兵士がシンクの元に迫る。
「ユキカゼ!」
「ユキカゼ流弓術一の矢、花嵐っ!」
俺が声をかけるのとほぼ同時に手にしていた弓矢を兵士の方に向けて射る。
それは金色の光を纏いながらその名の通りまるで嵐のように兵士たちだけを吹き飛ばした。
そのまま一気にユキカゼは勇者の方へと駆け出す。
俺もそれに倣って走る。
「勇者殿!」
「ユッキー!」
「油断大敵でござるよ」
「ごめんありがとう」
ユキカゼの注意に、勇者はお礼を言った。
「おい、エクレールはどこに行った?」
「エクレは………って、危ないッ!!」
俺の問いかけに答えようとした勇者は、俺の方を……正確には俺の後ろの方を見て声を上げた。
何事かと思う振り返ってみるとそこには……
「ヒャッハー!!」
「っ!?」
怖い顔をしたガレット兵士三人が迫って来ていた。
しかも狙いは俺だったためその場を横に転がり込むことで奇襲を避けた。
「分かりやすい奇襲攻撃をどうも」
「お前と勇者の持っている神剣を奪えば、レオ様からご褒美がたんまりという通達が出てんでよ」
「何っ!?」
ガレット兵士の言葉に、ユキカゼが思わず声を漏らした。
「奪う、だと?」
「あん? がはッ!?」
ガレット兵士の言葉に、俺はブチ切れた。
見せしめに横にいた兵士を霊術で吹き飛ばした。
その拍子に突き飛ばされた兵士は猫玉化した
「この神剣正宗吉宗は、我が目覚めし時に授かった神具。言うなれば我が分身だ。……それを貴様らのような分際がしかも奪うだと?」
「て、撤退っ!!」
俺の怒りように、慌てた様子で逃げ出すガレット兵士だが逃がしはしない。
俺は神剣正宗を手にすると大きく横に振った。
すると神剣に白銀の光が灯り出す。
「逃がさんっ! ユキカゼ直伝! ユキカゼ流弓術一の矢、花嵐!!」
「拙者、まだ渉殿に教えてないでござるよ?!」
「それに弓じゃなくて剣だよ?!」
俺が放った紋章術に、ユキカゼと勇者が何かを言っているがそれを聞き流した。
「ぎゃぁっ!?」
二人の兵士のうち一人の直撃し猫玉と化した。
だが一人は依然と逃げ続けている。
俺は素早く移動して兵士の前へと回り込む。
「ヒィッ!?」
「身の程をわきまえろ! この大戯けがッ!」
そう怒鳴ると、俺は神剣に力を込める。
「裂空、一文字!!」
そして、最後の兵士は猫玉化するのであった。
「それで、勇者よ。エクレールと合流した方が良いのでは?」
「あ、う、うん。そうだね」
「あれをやった後に平然と言える渉殿はすごいでござる」
俺の提案に、勇者は苦笑しながらユキカゼは顔をひきつらせながらそれぞれが答えた。
そして勇者はエクレールがいると思われる場所の方へと向かう。
「ちょっと待った勇者!」
「え、な、何?」
大声で引きとめられたことに驚いをあらわにする勇者に、俺は少しだけ早歩きをして近づく。
「重要な事を忘れていた」
「え?」
突然差し出された手に目を丸くする勇者をしり目に、俺はさらに言葉を続けた。
「俺は非公式のビスコッティ隠密部隊の、小野渉だ。呼び方は好きにしてもかまわない。で、お前の名前は? いつまでも”お前”とかでは失礼だろう」
「あ、うん。僕はシンク・イズミ。宜しくね渉さん」
「出来ればさん付けは勘弁してもらいたいのだが、まあいいか。よろしく勇者シンク」
俺は文句を言いながらもシンクと握手を交わした。
「ほら、とっとと行け。親衛隊長の雷が落ちるぞ」
「う、うん」
俺の言葉に、シンクは頷くと今度こそ駆け出して行った。
「さあ、俺達も行くぞ。あまりのんびりしてたらブリオッシュに怒られるからな」
「了解でござる」
そして俺達も動き出した。
この大戦は、まだ幕を開けたばかりだ。
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