「勇者殿とエクレールとはまた一緒の組でござるな」
「不本意ながら私が、アホ勇者の面倒を見なければいけませんので」
目的地へと俺とユキカゼにブリオッシュ、さらに勇者とエクレールを加えて向かっている中、ブリオッシュの言葉にエクレールは不満げに答えた。
「ひどっ!」
「勇者殿。相方とは仲良くしなければいけないでござるよ」
エクレールの言葉に頷く勇者にユキカゼが思わず吹き出し、ブリオッシュが窘めた。
「なんで僕に言うんですかッ! エクレが僕にツンケにするんですよ!」
「やかましい。貴様がアホな事ばかりするからだ」
「アホな事?」
エクレールの言葉に、ブリオッシュが首を傾げた。
「まさか、エクレールの入浴中にそれを知らずに勇者殿が浴室に入ってしまいばったり鉢合わせになった……とか?」
俺は、思いつく限りのシチュエーションを適当に言ってみた。
「………違うよ!」
「違うっ!」
エクレールは割とすぐに否定してきたが、勇者はしばらく無言で否定した。
「シンク、今の間はなんだ?」
「何でもないよ」
「まさか、本当に鉢合わせになったのか?」
シンクは否定しているが、俺の疑惑は深まるばかりだ。
「な、なってないよ!」
「………まあそういう事にしよう」
これ以上続けるとややこしくなりそうなので、そう言ったが、両手を振って必至に否定するシンクの表情からして、絶対に鉢合わせになったなと思う俺であった。
「ゆ、勇者殿、エクレと会った初日におっぱい揉んだり全裸にしたりしたでござる」
話を戻そうとユキカゼが声を上げるが、何故かその頬は紅く染まっていた。
(まさか、俺の適当に口にしたシチュエーションで、この間の事を思い出したりして……るよな)
ありえないと思いたいが、ユキカゼの様子からして思えない。
しかし、さすがは勇者と言った所か。
やることがかなり派手だ。
「ほほぅ。それはそれは……」
「「誤解ですッ!」」
感心したように相槌を打つブリオッシュに、二人は息ピッタリに反論する。
「ユッキー、お前なぜそれを知っているっ?!」
「リコに録画を見せて貰ったでござる」
エクレールが取り乱しながらユキカゼを問い詰めると、そんな答えが返ってきた。
(あー、あの時か)
数日前にユキカゼがリコッタに声を掛けられて、どこかに言ったことを思い出した。
「勇者殿もなかなかどうして、大胆でござるな」
「いや、そこ感心するとこじゃないだろ」
感心しているブリオッシュに、俺はツッコむが、聞いていないだろうなと心のどこかでは思っていた。
「うぅー……あれは不幸な事故なんです――うわッ!?」
その光景を思い出したのか意気消沈して勇者が釈明するが、それを聞いたエクレールがセルクルに乗りながら器用に左足で勇者を蹴飛ばした。
「あはは、先陣二人の連携に問題はなさそうでござるな」
「はい」
「まあ、あれもあれで続けられると問題になるけど」
少し先で勇者を蹴飛ばしているエクレールを見ながら、評価をするブリオッシュにユキカゼは頷き、俺は頷きながらも苦言を述べた。
「後の懸念は魔物だが」
今までの明るい表情を引き締め、ユキカゼに促す。
「大丈夫でございましょう。空は晴天、守護の風も優しく天地に満ちています」
促されたユキカゼはそう答え、さらに彼女と一緒にセルクルに乗っていた子キツネ(コノハと言うらしい)が顔を見上げてユキカゼに何かを告げた。
「コノハも怪しい気配は何も感じぬと」
「うむ………渉殿はどう思うでござる?」
ユキカゼのその言葉に、真剣な面持ちで頷くと俺に話を振ってきた。
「ユキカゼとほぼ同じです」
「ほぼ?」
俺の言い回しに、ブリオッシュは目を細めて先を促す。
「妙な胸騒ぎを感じます。当たるかどうかは分かりませんが、ロクな事が起こったためしはありません」
ユキカゼ達と最初に魔物退治をした時のことが良い例だろう。
あの時も、若干ではあるが胸騒ぎを感じていた。
「なるほど……用心をするに越したことはないでござるな」
「ええ」
ブリオッシュの結論に、俺はそう相槌を打つと勇者たちの方を見た。
未だに言い争っていた。
(まったく、本当に調子が狂うな)
俺は心の中でため息をついた。
だが、もしかしたら心の中ではそういうのを望んでいたのかもしれない。
俺は今まで常に一人で戦ってきた。
あの二人のように言い争ったり、言葉を交わせる戦場仲間はいなかった。
(昔は昔。今は今だ。今のこの状況を心行くまで味わおう)
俺は自分にそう言い聞かせつつ目的地『チャパル湖沼地帯』へと向かうのであった。
(問題は、さっきのユキカゼの様子が、ブリオッシュたちに気付かれていないかと言うことぐらいか)
そんなどうでもいいことを考えながら。
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