「今日も鍛錬お疲れだ~」
「………お前は最近独り言が多くなったようだが、大丈夫か?」
夜、背伸びをしながら自分を労っていると、執行人からツッコミが来た。
「誰のせいだよ誰の」
俺はここぞとばかりに反論する。
「何、この鍛錬は実に有意義な物であろう?」
何か不満でもと言いたげに返してくる。
「濃密すぎるんだよ……毎日なんて聞いてない」
「それはシグナムが決めることだ。彼女に文句を言うといい」
言えるわけがない。
もしそんな事を口にしようものなら……。
『甘ったれるな。剣の道は1日にしてならずだ!』
と言われること間違いなしだ。
【真人君!!】
そんな時、シャマルさんから慌てた様子で、念話で話し掛けられた。
【ど、どうしたんですか!? シャマルさん!!】
【ヴィータちゃんとザフィーラが、管理局の人たちに囲まれているの!! 私も今二人の近くにいるから、真人君もヴィータちゃん達と合流して!】
どうやらSOSの念話のようだった。
【分かりました】
俺はシャマルさんにそう答えると、念話を切った。
「ようやく実戦か。気合は十分か?」
執行人が俺にそう聞いてくる。
何気にかなり楽しげだ。
「あ、そういえば変装用の魔法って使えるか?」
「いきなり何を言い出すのだ。………使えることには使えるが」
俺の疑問に答える執行人の声にはなぜかためらいがあった。
「どうしたんだ?」
「使って何をする気だ?」
どうやら目的が分からなかったようだ。
「俺の顔がみんなに知られるのもまずいだろ?だから」
「そうか………」
俺の答えに執行人はそう返した。
「それじゃ、認識阻害魔法をかける」
「分かった」
認識阻害魔法。
前に執行人から聞いたものだと、確か相手から見た自分の姿を変える物だったはずだ。
つまりは、俺の顔が別人の顔に見えるということだ。
「――――、―――――」
執行人が何かを呟いている。
すると、俺の体が淡い漆黒の光に包まれた。
だがそれはほんの一瞬で、すぐに元通りになった。
「これでお前だとはほかの奴には気づかれない」
「さんきゅ。それじゃ、行こうぜ!!」
「………ああ」
今日の執行人の様子がおかしいと思いつつも、俺は窓から外に飛び出た。
こんなにも心がときめくのは初めてだ。
体が軽くて、なんでもやれそうな昂揚感が沸き起こる。
だからこそ、俺は執行人の一言が聞こえなかった。
「姿形を変えてまで戦うという意味を、お前は分かっているのか?」
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