世界の意志となってどのぐらい経ったのか……俺のいる世界は常に明るく時間間隔なんてものはとっくの当に失っていた。
「意志よ」
「何だ、ノヴァ」
いつものように真っ白な地面を見て、世界を見ている俺はノヴァの呼びかけに、視線を外した。
「また世界見物か」
「悪いか?」
俺の言葉に、ノヴァは「そうじゃないが」と歯切れの悪い答えをする。
一応俺のやっているこの行為は、禁止事項ではあるのだがしっかりと役割をこなしていることからの特別処置として許可されている。
「仕方あるまい。こうでもしなければ退屈なのだ」
何も変化しないこの世界に俺は飽きていたのだ。
いや、逆に反吐が出るほど嫌だった。
「退屈……か。ならばちょうどよい、そなたに特別任務だ」
「任務とな?」
俺はノヴァの言う任務に多少の興味を持ち問いかけた。
「ああ、とある世界で不自然な時間経過をしておるのじゃ。その世界は……ここじゃ」
そう言ってノヴァは何もないところに、写真のような映像を映し出す。
この光景もいつもの光景となっていた。
もう何も驚かないぞ。
そしてその映像にはのどかな自然や、そびえ立つビルや工場などの風景が映っていた。
「土地の名称は、見滝原市。世界コードはE-00004じゃ。ちょうどそなたの出身世界じゃな」
「何だと!?」
俺は驚きのあまり大声で叫んでしまった。
そんな俺を咎めるような目で見た。
「……すみません」
「続けるぞ?」
俺は静かにノヴァからの説明を聞いた。
何でもこの世界は観測の結果数回は一定期間内を永遠に繰り返しているらしい。
「確かに、これは以上ですね。因果律も複雑ですし……何だかの外的要因によるものですね」
「そうじゃ。よってそなたは、この世界に赴き原因の追究、そして事態の解決に導くことを命ずる」
ノヴァはそう言うと、俺の方に「やってくれるな?」と目で問いかけてきたので、俺は無言で頷いて答えた。
「それと、一つだけ追加事項じゃ」
「何でしょう?」
出る準備を始めた俺に、ノヴァが突然切り出してくる。
「この問題が解決されずに、再び世界の時間軸が戻されるようであれば申し訳ないが、この世界は”破棄”する」
「………全力で解決に当たります」
ノヴァの言う”破棄”とは、世界を滅ぼすことだ。
その世界が存在することにより、周りの世界のバランスが崩れることがあるからだ。
それを防ぐために、問題のある世界自体を滅ぼすのだ。
曲がりなりにも”俺”と言う無銘の偉人が生きた証のある世界だ。
そうやすやすと滅ぼさせはしない。
「それと、その世界に赴くに当たり関係の高そうな人物の情報と、そなたについての説明を行う」
そう言って渡されたのは3人の顔写真だった。
「名前は不明じゃが、可能な限り接触しておくとよいじゃろう」
どうやらこの三人がキーパーソンらしい。
「次にそなたについての情報じゃ。この世界の方にこの通りに登録してある」
俺は手渡された用紙を見る。
――世界の意志の基本情報――
名前:小野(おの) 渉(わたる)
年齢:15歳
所属:見滝原市内の学校
――――
「小野、渉……」
「それがそこの世界でのそなたの名前じゃ。向こうではそう名乗るとよい。そして家も用意しておいた。その紙に書かれている通りに行くとよい」
一通り説明を終えたのか、ノヴァは何も話さなくなった。
そのうちに、俺は出向の準備が整った。
「それでは、世界の意志、小野渉。行ってまいります」
「うむ、健闘を祈る」
俺は目の前に形成された渦巻の空間に身を投じた。
「………ここが、その世界か」
降り立った世界は、人気のない場所だった。
だが、久しぶりに感じる風や太陽は非常に懐かしく、そして嬉しい物でもあった。
「さて、拠点地に向かうとしようか」
そして、俺は拠点地へと向かうのであった。
この時、俺はまさかその後に壮絶な物語になるなど思いもしていなかった。
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