健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第12話 触れ合う心

男湯でキャロが乱入してくるというハプニングもあったが、エリオとキャロの二人で仲良く子供用の露天風呂の方に出て行った。

「まさか本当に忘れてるとは思ってもなかったぞ」
「全くだ」
「面目ありません」

男湯に入った俺は、ある重要な事を忘れていたのだ。
それが、ステッキがないと歩けない事だ。
では、なぜそんなことになったのか。
普通のお風呂の時、俺はステッキを防水魔法をかけてお風呂内に持ち込んだり、執行人をメインに権限移動させたりなどしていたのだ。
だからこそ、いつもの感覚で入ろうとしたら、思いっきり止められたのだ。
だからと言って魔法文化のないこの世界で、人前で執行人とユニゾンをするという事も出来ず俺は健司と執行人に支えられるようにして入浴する羽目になったのだ。

「しかも眼への魔力供給を続けていただなんて。笑い話にもならないぞ」
「言い返す言葉もございません」

さらに、俺は目への魔力供給を続けた事による疲労によって、強制的に目に魔力を供給できなくなってしまったのだ。
これも1時間ぐらい放置していれば回復はするが、さらに健司たちに迷惑をかける羽目になった。
つまり、俺は今何も見えず、そして歩けないという数年前に逆戻り状態と言う事だ。

「そこで、そんな馬鹿なお前に素晴らしい光景を見せてやろう」
「素晴らしい光景って……今の俺はそんなことできないんだぞ?」

執行人の言葉に、俺は首を傾げながら問いかけた。

「そんなの、俺とユニゾンをすればいいだけだ。何案ずるな。今ここのあたりは湯気が濃い。静かにやれば誰にもばれまい」

俺の心配を見透かしたように執行人は言うと、強引に俺とユニゾンをしてきた。
その為、俺は全ての感覚がシャットダウンされた。

(一体何をする気だ?)

俺の心配をよそに、不意に感覚が戻った。
ただ視力と足に力が入らないのを除いて。

「それでは、どうぞごゆるりと」
「は? おい、どういう意味だよ!!」

俺の問いかけに執行人は答えないばかりか、俺から離れていく。

「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」

その時、俺の耳に聞きなれた人物の声が聞こえてきた。

「な、なのは!?」

その声は、なのはの物だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「ふう、いいお湯」

私は、お湯にのんびりと浸かっていた。

「あれ、露天風呂なんてあったんだ」

私は露天風呂という看板が見えたので、そっちに行くことにした。

「うわぁ、いい景色」

そこは、夜空がとてもきれいな場所だった。
そんな時です。

「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」

突然真人君の怒鳴り声が聞こえた。

「な、なのは!?」

そこにいたのは、私のせいで迷惑をかけてしまった真人君の姿だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


(ど、どどどうしてここになのはが?!)

俺は突然の事に混乱していた。

「もしかして、ここって混浴用の露天風呂なのか!?」
「………どういう事か、聞かせてくれる?」

なのはのどすの入った言葉に、俺は怯えながらありのままのことを話した。
今の俺の状況、そしてここがどういう場所なのかを。

「そ、そうだったんだ。私ちゃんと看板を見ない出来ちゃったんだ。ごめんね」
「い、いや。俺の方こそ、色々とごめん」

俺となのはの間で変な空気が漂っていた。

「…………ね、ねえ」
「な、何だ?」

俺は、なのはが突然声をかけてきたので、思わず驚いてしまった。

「一緒に入ってもいい……かな?」
「………へ?」

俺はなのはの言葉に、それしか言えなかった。

「やっぱりダメ……だよね」
「い、いや! ダメじゃない。なのはが嫌じゃなければ……」

俺はそこまで言うと必死に体を端の方へと動かして、なのはが入るスペースを作る。

「そ、それじゃあ………お邪魔します」

なのははそう言いながら、俺の隣の方に浸かった。
俺は内心心臓バクバクだった。
だが、これはもしかしたら、俺がなのはと話をするいい機会なのではないかと悟った。
だからこそ俺は後悔の内容に話をすることにした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


真人が混浴用の露天風呂でなのはと遭遇しているころ、男湯では……

「うまく行ったか?」
「ああ、ばっちしだ」

健司と執行人の二人が悪人のように笑っていた。

「これでなのはと話をする状態になるだろう」
「だな。俺もあいつがなのはとの関係がぎくしゃくしてるのは嫌だし、それにあいつには幸せになってもらいたいしな」

健司の言葉に、執行人は静かに笑った。
それを健司は咎めるように執行人を見る。

「何、今僕は安心しているのだよ。君を消さなくてよかったとな。最初のころのお前は最低な奴だった」
「………俺もあの頃の自分に会ったら殴り飛ばしてやりたいさ。最強の力を手に入れただけで舞い上がっていた馬鹿な俺を」

執行人の言葉に、健司は昔を懐かしむようにつぶやく。

「お前は、転生者の中でのいい見本でもあり真人の親友だ。だからこそ、もう一度頼もう。わがマスターを、よろしく頼む」

執行人の問いかけに健司は

「こちらこそだ。執行人!」

力強く頷いたのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「なあ、なのは」
「な、何……かな?」

俺はなのはに意を決して話し掛けた。

「どうして、なのはは俺と昔のように話してくれないんだ?」
「ッ!!」

俺の言葉に、なのはが息をのんだ。

「もし俺が何か悪いことをしたなら教えてくれ。頭を下げて謝る」
「………」

俺の言葉に、なのはは何も言わない。
だがやがて、なのはは重い口を開いた。

「だって、私なんかが真人君と話すけりなんてないもん」
「………」

俺はなのはの言葉を一言一句聞く。
なぜなら、それがなのはの本心、心の叫びだからだ。

「私のせいで、真人君は歩けなくなって目が見えなくなって。こんなことをした私なんかが真人君と話すなんてこと――「もういい!!」――」

俺は、ついに聞いていられなくなり、なのはの言葉を遮ってしまった。

「なのは、俺はあの時の事で怒ったりなんてしてない。あれは油断しきった俺が悪いんだ」
「真人君のせいじゃない!! 私のせいだよ!!」

俺の言葉に、なのはも頑なに譲らない。

「確かに自分の体調管理が出来ていなかったなのはも悪い。だけどななのはだけのせいじゃない。俺だって油断をしていたんだ。だからお互い様なんだ」

俺は静かに説得するように言っていく。
ここでしくじったらすべてが終わる。
それに、話し合いの場を設けてくれた二人に顔向けができない。

「それに男は女性を守って南畝だろ? 俺にも少しはかっこつけさせてくれよ」
「私は……私はどうすればいいの? ねえ、答えてよ。私はどうすればいいの?」

なのはの言葉に、俺は少しの間考えると、すぐに答えを出した。

「だったら、前と同じように俺に接してくれる……でどうだ? 俺はこっちの方がとてもうれしいな」
「うぅ……うああああああ!!!」

俺の言葉に、なのはは突然泣き始めた。
俺はそんななのはの頭に手を置いて優しく撫でることにした。
どうでもいいが、目の見えない中で良くできたなと思ったのはその後の事だった。









「何だか……心の重荷が無くなっちゃったよ」
「そうか。それは何よりだ」

あれから数十分して、泣きやんだなのはと会話を楽しんでいた。
その会話は、とても楽しくて昔の光景を彷彿とさせるものであった。

「なあ、なのは?」
「ん? 何かな真人君?」

そんな中、俺はもう一つ重要な事を切り出すことにした。

「あの時さ、俺任務に行く前にこう言った事覚えてるか?」
「うん。 『この任務が終わったら、話したいことがある』だったよね?」

なのはの言葉に俺は頷いた。

「今、その話したいことを言うな」
「うん」

俺は深呼吸をした。
そして自分の気持ちを伝えた。

「俺はなのはの事が、一人の女性として好きだ!!」
「ッ!!」

それは、8年来の告白であった。

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第15話 出張任務終了と転生者

ロストロギアの封印が完了したとのことで、はやてから正式に出張任務の終了宣言がされた。
そして俺達はミッドチルダへと戻っていた。

【どうだった、久しぶりのここは?】
【……そうだな。気兼ねなくのんびりできた。ただそれだけだ】

俺の問いかけに、執行人が完結に答えた。
それは受け取り方を変えるとやや不満足と言う意味でもあった。

【何が不満なんだ?】
【……愚かな転生者が出たことだ】

俺の問いかけに、執行人はそう答えた。
まさしくその通りだ。
なぜにあのタイミングで転生者が現れるのか、非常にタイミングが悪い。

【真人、あの海鳴市に転生者が何人いると思う?】
【……わからない】

執行人の突然の問いかけに、俺はしばらく考えたが、答えが出なかった。

【千人だ】

俺は、その答えを聞いて愕然となった。
海鳴市の人口が何人かは分からないが、かなりの数だ。

【その中には静かに暮らしたい、前世での間違いを正したいというごくごく普通の目的を持った者もいる。だが……】
【あの男のように不埒な輩もいる。だろ?】

執行人の言葉を引き継ぐ形で、呟いた。

【ああ、今は也を潜めているが、いずれその牙を出すかは分からない。まあ、出てきても消せばいいだけの話なんだが】

執行人の言うとおりだ。
転生者が出てきても、ただ消せばいいだけの話。
口にすれば簡単だ。
だが、消せば消すだけ考えてしまう。

(転生者は、どうして転生しようとするのか)

それほど死に対して恐ろしいのだろうか?
しかし、転生する時点ですでに死は迎えている。
だとしたら、一体何のために転生をするのであろうか。
それが俺がいまだにわからない疑問だった。
転生者、それは俺達の敵でもあるが、案外、人の醜い部分を映し出した存在なのかもしれない。
転生者の考える多くの事は偽善だ。
人を救えばその陰で悲しむ人がいる。
それを理解せずに、理想像を振りかざす。
これが偽善でないとすれば、それば一体なんなのであろうか?

【さあ、分からないな。考えるだけでも無駄だ。転生者如きの事をいちいち考え無くてもいい】

俺の考えが分かったのか、執行人がそう告げた。
確かに、今の時点では、執行人の意見が正しいのかもしれない。

【転生者の考えを理解しなくてもいい。奴らは世界を汚す塵なのだから】

執行人の言葉に納得する俺は、すでに心が壊れているのであろうか?
しかし、何と言われても今の俺には執行人の言葉が胸にしみるのだ。










そんなこんなで、突然湧いて出てきた出張任務は幕を閉じるのであった。

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第11話 銭湯で

待機所に戻って合流した美由紀さんとエイミィさんにアルフ達と夕食を食べた俺達は、ひょんなことから銭湯に来ることとになった。
そして海鳴市内にある『海鳴スパラクーアツー』へと俺達は向かうのであった。










中に入ると、店員が元気よく挨拶をしてきた。

「はーい、いらっしゃいませー! 海鳴スパラクーアツーへようこ……団体様ですか?」

大勢で入ってきた俺達を見て、店員は一瞬驚いたが、すぐに対応した。

「えーと、大人15人と……」
「子供4人です」

はやてとフェイトが人数を店員に言った。
と言うより19人ともなれば団体になるよな、普通は。
ティアナは確認のために子供のメンバーを確認していく。

「エリオと、キャロと……」
「私と、アルフです!」

リインがティアナに手を挙げて自分達をアピールする。

「おー!」

そしてアルフは嬉しそうに返事をする。
しかし、こういった場所に獣耳とかしっぽとかを出してていいのだろうか?

(まあ、コスプレだと思われるか)

俺はそう強引に納得した。

「えっと、ヴィータ副隊長は?」

するとスバルはヴィータに確認を取る。

(おーい、スバル。それ禁句だ)

案の定ヴィータはスバルを睨みつけて一言

「あたしは大人だ!」

と不機嫌そうに言った。

(後で絶対にスバル逆襲されるな)

俺は心の中で手を合わせた。

「あ……はい! では、こちらへどうぞー!」

そんなやり取りを見ていた店員は若干表情が引きつっていた。
この日、この店員はある意味大変な時になったに違いない。

「お会計しとくから、さき行っててな」
「はーい!」

はやての言葉に一同は声を揃えて返事をする。
まるで引率する先生とと生徒のようだ。
まあ、ある意味その通りなのだが。
それはともかく俺達は中の方に進んだ。










「にしても本当にすごいな、ここは」

俺は案内図を見て呟いた。
ここの銭湯は当然だが、男女で分かれている。
そしてすごいのは露天風呂だ。
男女ともにあるのはいいのだが、何と混浴用の露天風呂まであるのだ。
普通の露天風呂もあるが、出る所を間違えれば混浴の目に合うことは必須だ。

(気を付けないと)

俺はそう心に強く決意した。
と、そんな事を考えているとエリオは”男”、”女”と分かれて吊されている暖簾を確認していた。

「……あぁ。よかった、ちゃんと男女別だ」

エリオは心底安心していた。

(そう言えば、エリオは女性用のお風呂に入っているんだったっけ)

俺は思い出した。
だとすればエリオがここまで安心する理由は分からなくもない。
まあ、世の男性どもはものすごい贅沢を言っているように感じるかもしれないが。
とそんな時、キャロが笑顔でエリオに近づく。

「広いお風呂だって。楽しみだね、エリオ君!」
「あ……うん、そうだね。スバルさん達と一緒に楽しんできて」

エリオの言葉にキャロの表情が曇る。

「え……エリオ君は?」

エリオはキャロの悲しげな表情に戸惑いつつも必死に抵抗する。

「ぼ、僕は……ほら一応、男の子だし」
「んー……でもほら、あれ!」

エリオはキャロが指さす方の注意書きに目を通した。

「注意書き? えっと……女湯への男児入浴は、11歳以下のお子様のみでお願い……します」

キャロは笑顔のまま、エリオの逃げ道を狭めていく。

「ふふッ、エリオ君10歳!」
「え!? あ……」

慌ててエリオは逃げ道を探る。

「おい、あれ助けなくていいのか?」
「楽しそうだからもう少し見てる」

俺の元にやってきた執行人の問いかけに、俺はそう答えた。
俺の答えに、執行人は『えげつない』とつぶやいていた。
どうでもいいが、この黒いステッキと言うのは微妙に目立つ。
ちなみにエリオは時よりこっちの方に、助けを求める視線を送って来ていた。

「うん。せっかくだし、一緒に入ろうよ」

と、フェイトはキャロに援護射撃を送った。

「フェイトさん!」

キャロは嬉しそうにフェイトを見るが、エリオはまさかフェイトがキャロの援護射撃をするとは思ってもいなかったようで、動揺していた。

「い……あ……い、いや、あ、あのですね……それはやっぱり、スバルさんとか、隊長達とかアリサさん達もいますし!」

エリオは必死に断ろうとするが、その言い方だとあまり断っている風には感じない。

「別に私は構わないけど?」

エリオの抵抗もむなしくティアナはあっさりと承諾した。

「てゆーか、前から、『頭洗ってあげようか?』とか言ってるじゃない」

そしてスバルもだ。

「う……」

エリオは段々逃げ場が無くなってきていた。

「私等もいいわよ。ね?」
「うん」
「いいんじゃない?仲良く入れば?」

アリサ、すずか、なのはと、次々にエリオの女湯入浴許可がおりてくる。
そしてフェイトは『男の言われたい言葉』ベスト10に入っていそうな言葉を言って、止めを刺した。

「そうだよ。エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし……入りたいなぁ……」

とうとうエリオは抵抗することが出来なくなった。

(頃合いか)

いままで面白そうだからと黙っていた俺は、助け舟を出すことにした。

「まあまあ、フェイト、俺も男同士の親睦を高めたいなと思ってたんだから、ここは男女別に入りましょう」

そんな俺の言葉に、エリオは非常に喜んだ。

「「えー」」

そしてフェイトとキャロは不満そうな声をあげる。
だが、俺の方も対策を取ってあるのだ。

【後で、エリオをそっちに行かせるので、それでいいでしょ?】
【うーん。それなら】

俺の説得に、フェイトは渋々頷いた。

「それじゃあ、失礼します」

俺はそう言うと男湯の方に向かった。

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第23話 過去(前編)

それは6年前の事だった。

「……ん」

俺は唐突に目が覚めた。

(あれ?)

俺が疑問に思ったのは起きたのに目の前が真っ暗なこと。
夜だと思ったが、周りの喧騒からしてそれは違うと分かった。
そして次は腕が動かくのに足が動かないこと。
そこで俺は気付いた。
俺は色々な物を失ったのだろうと。
それは体の自由だ。
もう俺は人の顔を見たり動いたりすることはできない。
不思議と、悲しみなんてなかった。
いや、悲しむことが出来なかったと言うのが正しいのかもしれない。









その後医者に診て貰って言われたのが、両目の失明と下半身不随であった。
医者曰く、リハビリをする予定だが、しても回復する見込みがないとのこと。
まあ、目が見えないのにどうやってリハビリをするんだって話だが。
そして俺は2年間眠り続けていたらしい。

(どうしたものか)

俺はこれからどうしようかと考えていた。
それから数週間後。
目が見えない、下半身不随の生活に慣れてきた俺は、いつものように垂れ流し状態のニュースを聞いていた。
そんな時、人が入ってくる気配がした。
しかも俺のベッドの真ん前で立ちどまっている。

「誰?」
「………真人、見舞いに来たぞ」

俺の問いかけに答えたのは、声色からして健司だった。
健司はゆっくりと俺の横に移動すると、そこにあったパイプいすのようなものに腰かけた。

「どうだ? 調子は?」
「ああ、もう最高だよ。医者も完治まであと少しだって言ってたし」

俺は健司の問いかけに笑顔で答えた。
ただ、自分でも笑顔なのかは分からない。
体の節々に痛みは残るものの、日常生活が出来るほどには回復したと言うのが医者の話だ。

「まあ、女性を守ったんだから名誉ある傷だよ」
「ッ!」

俺の言葉に、健司は息をのむと逃げるように去って行った。

「………やれやれ」

俺はそんな健司に、呆れが半分相変わらずさが半分の気持ちでつぶやいた。
その後、退院するまで健司はお見舞いに来ることはなかった。

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第20話 緊急出動と深まる溝

俺の意識が戻ると、場所を確認するために目に魔力を通す。

「ん……」

視力を取り戻した俺が見たのは、無機質な天井だった。
そして周りを見渡して、置かれている器材から医務室であることが分かった。
医務官であるシャマルがいないことから、用があった出ているのだと解釈した。
上半身を起こして、腕の力でベッドの端の方に移動すると、壁に掛けられていた黒いステッキを手にベッドから起き上がった。
ベッドメイキングをしている最中、出入り口のドアが開く音がしたので振り返ると、そこには健司の姿があった。

「お、目が覚めたみたいだな」
「ああ、おかげさまでな」

健司の言葉に、俺はそう答えるとベッドメイキングを続ける。

「シャマルが怒ってたぞ、魔力回路に負荷をかける戦いしていたからな」
「げッ!? こりゃ後でお説教だな」
「ははは、諦めろ」

俺の表情を見た健司が笑いながらそう言う。
他人事だと思ってるな。

「ところで……だ」
「………こいつの事か?」

健司の声色がいつになく真面目なものになったので、俺はその内容に検討を付け親指で俺の横……カーテンがかかっている場所を指した。
おそらくそこにはティアナがいるはずだ。

「それもあるが、あの後の事を説明しないといけないだろ」

健司の言葉に納得しながら、俺は事の顛末を聞いた。
まず、あの後魔導殺しもどきの矢によって、強制解除に成功した。
ただ俺とティアナの場合は気を失っていたため医務室に運ばれた。

「なのはかなり思いつめてたぞ。自分のせいでお前に怪我をさせたってな」
「………」

俺は健司の言葉に、何も言えなかった。
健司の言葉の裏には、話し合えと言っているのは丸わかりだ。
そして俺は居た堪れなくなり、医務室を後にする。
空模様からもう夕方だろう。
俺は屋上に移動すると、オレンジ色に染まる空を見上げていた。










それからどのくらいの時間が経ったのか、もう辺りは真っ暗だった。
そんな時、アラートが鳴り響いた。

「こんな時に緊急出動かよ」

俺は愚痴りながら、ロングアーチのいる管制ルームに向かった。










「航空Ⅱ型、4機編隊が3体、12機編隊が1体」
「発見時から変わらず、それぞれ別の場所で旋回機動中です」

どうやらガジェットが現れたようで、モニターにはただぐるぐると同じ場所を旋回しているガジェットの姿が映し出されていた。

「場所はなんにもない海上。レリックの反応もなければ、付近には海上施設も船もない・・・」
「まるで撃ち落としに来いと誘っているような……」
「そやね……」

ロングアーチの副官であるグリフィスさんの言葉に、はやても頷いた。
確かにそう言う印象も持てなくもない。

「テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」
「犯人がスカリエッティなら、こちらの動きとか航空戦力を探りたいんだと思う」

はやての問いかけにフェイトが答えた。

「この状況ならこっちは超長距離攻撃を放り込めば済むわけやし……」
「一撃でクリアですよ」

突然はやての横から出てきたリインが、元気いっぱいに答える。

「うん。でも、だからこそ奥の手は見せないほうがいいかなって」
「まあ実際、この程度のことで隊長達のリミッター解除いうわけにもいかへんしな……」

確かにわざわざ相手がこっちの戦力を見たいと思っているのにそれに乗る必要もない。

「高町教導官と山本二等空佐はどうやろ?」
「こっちの戦力調査が目的ならなるべく新しい情報を出さずに今までと同じやり方で片付けちゃう、かな」
「俺も同じく。相手の思惑に乗る必要もないだろうし、今まで通りにやることが一番かと」

俺となのはは、お互いに意見を述べる。
そしてはやてはグリフィスさんと頷くと

「それで行こう」

そう指示を出すのであった。










場所は変わってヘリポート前。
そこには部隊長を除く隊長陣と、フォワードたちの姿があった。

「今回は空戦だから出撃は私とフェイト隊長とヴィータ副隊長、山本二等空佐の四人」

健司は念のためと言う事で、この場に残ってもらうことにした。

「みんなはロビーで出動待機ね」
「そっちの指揮はシグナムだ。指揮を頼むぞ」
「「「はい」」」

なのは達の言葉に元気よく返事をするフォワードだったが、ティアナだけは浮かない様子であった。

「あぁ、それからティアナ……ティアナは出動待機から外れてとこうか」
「えっ……!?」

それを見たなのははティアナに出動待機からの除外を伝えた。
確かに今の様子では、任務に出たところで彼女を命の危険にさらすことは目に見えている。

「その方がいいな。そうしとけ」
「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし……」

ヴィータもそれに賛同し、なのはは理由を口にする。

「……言うことを聞かない奴は、使えないってことですか?」
「はぁ……自分で言っててわからない? あたりまえのことだよ、それ」

ティアナの言葉に、なのはは表情を厳しくして答える。

「現場での指示や命令は聞いてます。教導だって、ちゃんとサボらずやってます。それ以外の場所での努力まで教えられたとおりじゃないとダメなんですかっ!?」

ティアナは涙をにじませながらなのはに詰め寄るが、言っていることに俺は納得も出来ない。

「私はなのはさんや山本二等空佐たちみたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない。少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないじゃないですかっ!?」

俺は我慢の限界を超えて右手を強く握りしめるとティアナの方に向かう。
そんな時、鈍い音が響いた。
その音の主は……

「健司?」

右手を振りかぶっていた健司だった。

「餓鬼の駄々に付き合うから付け上がる。出撃するものはすぐに出撃しろ。ヴァイス陸曹、もう行けるか?」
「乗り込んでいただけりゃあ、すぐにでも」

健司の問いかけに、ヴァイスはヘリから顔を出して答える。

【こっちは任せておけ】
「三人とも、ここは井上一等空尉に任せて出撃しよう(分かった)」
「あ、ああ」
健司の念話に答え、俺達はヘリに乗り込んで出撃するのであった。

(それにしても、健司があそこまで怒った顔、初めて見たな)

俺は、向っている道中、そんな事を思っていた。

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