男湯でキャロが乱入してくるというハプニングもあったが、エリオとキャロの二人で仲良く子供用の露天風呂の方に出て行った。
「まさか本当に忘れてるとは思ってもなかったぞ」
「全くだ」
「面目ありません」
男湯に入った俺は、ある重要な事を忘れていたのだ。
それが、ステッキがないと歩けない事だ。
では、なぜそんなことになったのか。
普通のお風呂の時、俺はステッキを防水魔法をかけてお風呂内に持ち込んだり、執行人をメインに権限移動させたりなどしていたのだ。
だからこそ、いつもの感覚で入ろうとしたら、思いっきり止められたのだ。
だからと言って魔法文化のないこの世界で、人前で執行人とユニゾンをするという事も出来ず俺は健司と執行人に支えられるようにして入浴する羽目になったのだ。
「しかも眼への魔力供給を続けていただなんて。笑い話にもならないぞ」
「言い返す言葉もございません」
さらに、俺は目への魔力供給を続けた事による疲労によって、強制的に目に魔力を供給できなくなってしまったのだ。
これも1時間ぐらい放置していれば回復はするが、さらに健司たちに迷惑をかける羽目になった。
つまり、俺は今何も見えず、そして歩けないという数年前に逆戻り状態と言う事だ。
「そこで、そんな馬鹿なお前に素晴らしい光景を見せてやろう」
「素晴らしい光景って……今の俺はそんなことできないんだぞ?」
執行人の言葉に、俺は首を傾げながら問いかけた。
「そんなの、俺とユニゾンをすればいいだけだ。何案ずるな。今ここのあたりは湯気が濃い。静かにやれば誰にもばれまい」
俺の心配を見透かしたように執行人は言うと、強引に俺とユニゾンをしてきた。
その為、俺は全ての感覚がシャットダウンされた。
(一体何をする気だ?)
俺の心配をよそに、不意に感覚が戻った。
ただ視力と足に力が入らないのを除いて。
「それでは、どうぞごゆるりと」
「は? おい、どういう意味だよ!!」
俺の問いかけに執行人は答えないばかりか、俺から離れていく。
「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」
その時、俺の耳に聞きなれた人物の声が聞こえてきた。
「な、なのは!?」
その声は、なのはの物だった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ふう、いいお湯」
私は、お湯にのんびりと浸かっていた。
「あれ、露天風呂なんてあったんだ」
私は露天風呂という看板が見えたので、そっちに行くことにした。
「うわぁ、いい景色」
そこは、夜空がとてもきれいな場所だった。
そんな時です。
「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」
突然真人君の怒鳴り声が聞こえた。
「な、なのは!?」
そこにいたのは、私のせいで迷惑をかけてしまった真人君の姿だった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
(ど、どどどうしてここになのはが?!)
俺は突然の事に混乱していた。
「もしかして、ここって混浴用の露天風呂なのか!?」
「………どういう事か、聞かせてくれる?」
なのはのどすの入った言葉に、俺は怯えながらありのままのことを話した。
今の俺の状況、そしてここがどういう場所なのかを。
「そ、そうだったんだ。私ちゃんと看板を見ない出来ちゃったんだ。ごめんね」
「い、いや。俺の方こそ、色々とごめん」
俺となのはの間で変な空気が漂っていた。
「…………ね、ねえ」
「な、何だ?」
俺は、なのはが突然声をかけてきたので、思わず驚いてしまった。
「一緒に入ってもいい……かな?」
「………へ?」
俺はなのはの言葉に、それしか言えなかった。
「やっぱりダメ……だよね」
「い、いや! ダメじゃない。なのはが嫌じゃなければ……」
俺はそこまで言うと必死に体を端の方へと動かして、なのはが入るスペースを作る。
「そ、それじゃあ………お邪魔します」
なのははそう言いながら、俺の隣の方に浸かった。
俺は内心心臓バクバクだった。
だが、これはもしかしたら、俺がなのはと話をするいい機会なのではないかと悟った。
だからこそ俺は後悔の内容に話をすることにした。
★ ★ ★ ★ ★ ★
真人が混浴用の露天風呂でなのはと遭遇しているころ、男湯では……
「うまく行ったか?」
「ああ、ばっちしだ」
健司と執行人の二人が悪人のように笑っていた。
「これでなのはと話をする状態になるだろう」
「だな。俺もあいつがなのはとの関係がぎくしゃくしてるのは嫌だし、それにあいつには幸せになってもらいたいしな」
健司の言葉に、執行人は静かに笑った。
それを健司は咎めるように執行人を見る。
「何、今僕は安心しているのだよ。君を消さなくてよかったとな。最初のころのお前は最低な奴だった」
「………俺もあの頃の自分に会ったら殴り飛ばしてやりたいさ。最強の力を手に入れただけで舞い上がっていた馬鹿な俺を」
執行人の言葉に、健司は昔を懐かしむようにつぶやく。
「お前は、転生者の中でのいい見本でもあり真人の親友だ。だからこそ、もう一度頼もう。わがマスターを、よろしく頼む」
執行人の問いかけに健司は
「こちらこそだ。執行人!」
力強く頷いたのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「なあ、なのは」
「な、何……かな?」
俺はなのはに意を決して話し掛けた。
「どうして、なのはは俺と昔のように話してくれないんだ?」
「ッ!!」
俺の言葉に、なのはが息をのんだ。
「もし俺が何か悪いことをしたなら教えてくれ。頭を下げて謝る」
「………」
俺の言葉に、なのはは何も言わない。
だがやがて、なのはは重い口を開いた。
「だって、私なんかが真人君と話すけりなんてないもん」
「………」
俺はなのはの言葉を一言一句聞く。
なぜなら、それがなのはの本心、心の叫びだからだ。
「私のせいで、真人君は歩けなくなって目が見えなくなって。こんなことをした私なんかが真人君と話すなんてこと――「もういい!!」――」
俺は、ついに聞いていられなくなり、なのはの言葉を遮ってしまった。
「なのは、俺はあの時の事で怒ったりなんてしてない。あれは油断しきった俺が悪いんだ」
「真人君のせいじゃない!! 私のせいだよ!!」
俺の言葉に、なのはも頑なに譲らない。
「確かに自分の体調管理が出来ていなかったなのはも悪い。だけどななのはだけのせいじゃない。俺だって油断をしていたんだ。だからお互い様なんだ」
俺は静かに説得するように言っていく。
ここでしくじったらすべてが終わる。
それに、話し合いの場を設けてくれた二人に顔向けができない。
「それに男は女性を守って南畝だろ? 俺にも少しはかっこつけさせてくれよ」
「私は……私はどうすればいいの? ねえ、答えてよ。私はどうすればいいの?」
なのはの言葉に、俺は少しの間考えると、すぐに答えを出した。
「だったら、前と同じように俺に接してくれる……でどうだ? 俺はこっちの方がとてもうれしいな」
「うぅ……うああああああ!!!」
俺の言葉に、なのはは突然泣き始めた。
俺はそんななのはの頭に手を置いて優しく撫でることにした。
どうでもいいが、目の見えない中で良くできたなと思ったのはその後の事だった。
「何だか……心の重荷が無くなっちゃったよ」
「そうか。それは何よりだ」
あれから数十分して、泣きやんだなのはと会話を楽しんでいた。
その会話は、とても楽しくて昔の光景を彷彿とさせるものであった。
「なあ、なのは?」
「ん? 何かな真人君?」
そんな中、俺はもう一つ重要な事を切り出すことにした。
「あの時さ、俺任務に行く前にこう言った事覚えてるか?」
「うん。 『この任務が終わったら、話したいことがある』だったよね?」
なのはの言葉に俺は頷いた。
「今、その話したいことを言うな」
「うん」
俺は深呼吸をした。
そして自分の気持ちを伝えた。
「俺はなのはの事が、一人の女性として好きだ!!」
「ッ!!」
それは、8年来の告白であった。
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