「八神部隊長。男の人を連れてきました」
「うん、お疲れさ………って、何で引きずっとん!?」
永遠に引きずられる俺だが、懐かしい声がした。
妙なイントネーション、これは関西弁だろう。
だとすれば、そんな話方をする人は一人しかいない。
「その声って、もしかしてはやてか?」
「え……もしかして真人君か!?」
どうやらあたりだったようだ。
俺は顔を上げた。
「ッ!? や、やあ、久しぶりだねみんな」
そこにいたのははやてにフェイトとなのはだった。
顔を上げた時に見てはいけないものが見えているが、必至に意識しないようにする。
「真人! 久しぶりだね」
「……」
フェイトは俺に笑顔で言ってくれたが、なのはは浮かない顔で落ち着きなく視線を変えていた。
「………」
それはしょうがないことだった。
なぜなら、俺となのはの関係は……
「ところで、どうしてうつぶせになっとん? まるで二人の下着を覗くような感じやし」
「なッ!?」
はやてが投じた爆弾により、全員がスカートを抑えながら俺から離れた。
………ちょっとショックだぞ。
「誰もやりたくてなってるんじゃない!! この二人が突然俺を襲ってきたんだ!!」
「……どういう事か、説明してくれるか?」
俺の言葉を聞いたはやてが、二人に尋ねた。
そしてオレンジ色の髪をした少女が説明する。
彼女曰く、どうやら俺は再三の忠告を無視したために拘束されたらしい。
当然だが俺はそんなことに気付いてはいない。
「とりあえず引きずられた意味は分かった。でも、どうして真人君はうつ伏せになったまま何や?」
「………実は俺、訳合って下半身不随になって歩けないんだ」
俺はしばらく悩んだ末、本当の事を言う事にした。
誤魔化そうとしたらどうなるかが目に見えていたからだ。
「そ、それは本当なんか?」
「嘘をついてどうするのさ」
はやての言葉に、俺は苦笑い交じりに答えた。
「え、でもあなたさっきは立ったり歩いたり……」
「それはあの黒いステッキのおかげだ。あれがあるから俺は立ったり歩いたり空を飛んだりできるんだ」
「と言うことは……」
俺の説明に、オレンジ色の髪をした少女と青髪の少女が顔を見合わせた。
「ところで、その黒いステッキはどこにあるんや」
「彼女が弾き飛ばしたから出入り口に落っこちてるんじゃない?」
はやての問いかけに俺はそれをやった人物をジト目で睨んだ。
「「す、すぐにとりに行きます!!」」
「それは必要ない」
慌てて取りに行こうとした二人だが、それを遮るように男の人の声がすると、部隊長室に一人の男性が入ってきた。
「お前の探しているのはこのステッキだろ」
俺にステッキを渡してくれた人にお礼を言おうとステッキ片手に立ち上がった。
「ありがとうございます………って、お前健司か!?」
その人物は俺の男友達の健司だった。
「よっ! 少々遅れたがようやく抱えていた山が片付いたから急いで来たら入り口に見慣れた物が落ちてたからな、慌ててここに来たんだ」
そう言って健司は頭を恥ずかしそうに掻いていた。
「ところで、俺達はどのような仕事をすればいいんだ?」
「えっとやな、まず山本二等空佐にはスターズ分隊の教導官として働いて貰いたいんや。副隊長が不在の時とかに高町分隊長のサポートが主な仕事や」
「分かりました」
俺は、はやての指示に素直に頷いた。
「続いて井上一等空尉やけど、山本二等空佐と同じくライトニング分隊の副隊長補佐として働いて貰いたいんや。ライトニング分隊隊長は色々と多忙夜からその補佐をしてもろうたいんや」
「了解しました」
健司の方も納得したようで、頷いていた。
「それじゃ、隊舎内の案内を、高町一等空尉、頼んでもええか?」
「はい!」
はやての頼みに、なのはは嫌な顔一つせずに了承した。
「それじゃ、二人も下がってええで」
「はい、失礼しました。」
続いて俺をここまで引きずってきた少女たちは一礼すると部隊長室を去って行った。
「二人は明日の朝礼の時に紹介するから、それまでは荷物の整理とかをしておいてな。後、山本二等空佐は少し残ってくれるか?」
「「わかりました」」
はやてからの指示に、俺達は頷いた。
そしてなのはと健司は部隊長室を後にすると、はやてが咳払いを一つした。
「うちが何を聞きたいかは分かっておると思うから、単刀直入に聞かせてもらうで」
「答えられる範囲でしたらお答えします」
はやての言葉に、俺はそう返した。
おそらく、はやては俺の事を本部が送り出したスパイだと考えている。
だとすれば、聞いてくる内容も確実に絞り込まれる。
「真人君は、地上本部から来たスパイなんか?」
やはり思っていた通りだ。
「さあどうでしょう? それはあなたのご想像にお任せします。ですが、考えても見てください。地上本部があなた達の弱みを握らせるためにわざわざスパイを送り込むような大それたことはするでしょうか?」
「何が言いたいんや?」
俺の問いかけに、はやての表情が変わった。
「つまり潜入させる方にはかなりのリスクがあります。それほどの危険を犯してまで潜入させるでしょうか? もしそれをするくらいでしたら査察を入れれば済む話ですし」
俺の答え方はこれだった。
YESかNOではなくあいまいな答えにさせておき、さらに疑問を投げかけるのだ。
俺は嘘は言っていない。
やったのはあいまいな受け答えと疑問の提唱だけだ。
「そうやったね。疑ごうてごめんな」
「いやいや、地上本部から来たのだと分かれば警戒して当然だ。それじゃ、これで失礼するよ」
そして俺は部隊長室を後にした。
外に出ると、なのはと健司が待っていた。
「お、もう話は終わったのか?」
「ああ。待たせて悪かったな、二人とも」
俺の謝罪に健司は気にするなと告げ、なのはは視線をそらすだけだった。
「それじゃ、隊舎の案内をするね」
「よろしくお願いします」
そして俺達の隊舎の案内が始まった。
『おい、真人』
『どうした? 健司』
案内をされている間、健司が念話で話し掛けて来た。
『いや、お前まだなのはと話が出来てないのか?』
『ああ』
健司の言葉に、俺は頷いて答えた。
俺となのはは8年前の事故から関係が悪くなってしまったのだ。
理由としては、俺がこうなったのは自分のせいだと思い詰めているなのはだ。
話をしようにも避けられてできないのが実際の所だ。
もちろんだが、俺はこうなったのは自分の未熟さが故だと思い、なのはのせいだとは思ってもいない。
だが、そのことを話したいのだが避けられては話しようがない。
そして今のようになってしまったのだ。
『全くしょうがない奴らだ』
健司のボヤキが非常に心に突き刺さった。
結局なのはと話すことが出来ず部屋に案内されたのだが……
「広っ!?」
その部屋はものすごく広かった。
一体何人部屋なのだろうかと思わせるほどだ。
しかもベッドも大きいし家具もそろっている。
「………きれいなバラにはとげがあると言う事で、クリエイトカメラ、マイクを探してくれる?」
『了解です』
俺は念のために、探知魔法をかけた。
その結果………
「マイクが冷蔵庫に一つ、テレビに一つ、天井にカメラが15台。やってくれるな子狸野郎」
案の定盗聴器やカメラが見つかった。
おそらく俺を監視するための物だろうが、詰めが甘い。
(防音魔法とかかけておくが)
俺はそう考えるとすぐに行動に移したのであった。
「真人、入るぞ」
「どうぞ」
夜、寝る準備をして後は報告だけという時、健司が訪ねてきた。
「どうしたんだ? こんな夜遅くに」
「………お前の部屋がどんなものかを見に来たんだが、すごいな」
しばらく間を開けると、健司は大げさに感想を述べた。
「健司はどこなんだ?」
「俺は相部屋さ。何だか赤毛の子供と親しくなっちまってさ。イヤーお前がうらやましい!」
俺としてはそっちの方がうらやましいんだが。
「そう言えばお前の恋人のアリスとはどうなんだ」
「と、突然何を聞くんだお前は!!」
俺の問いかけに、健司は顔を真っ赤にして必死に反論してきた。
ちなみにアリスと言うのは俺の元部下であり、ステッキを作ってくれた女性だ。
健司は彼女に告白をして受け入れてもらったらしい。
「今は現場を退いて自宅でデバイス作成とかやってるらしいよ」
「なるほどな」
最近姿を見かけないと思ったらそういう事だったのか。
「それじゃ、俺部屋に戻るわ。お前の負担になったらまずいしな」
「いや、負担に思ったことなんてないぞ。逆に感謝してるくらいさ」
俺の言葉に健司は片手を上げ、手を振りながら部屋を去って行こうとした
「あ、そうだ。言い忘れたことがあった」
部屋を後にしようとしていた健司は俺の方に振り返った。
「この部隊ははやての夢なんだ。それを邪魔するんなら………言わなくても真人ならわかるだろ? では、お休み」
俺の言葉を聞かずに、健司は部屋を後にした。
(やっぱりばれてるな)
俺は心の中でそう思いながら苦笑いを浮かべた。
だが、俺も任務で来ているのだ。
何もしないわけにはいかない。
「唯一出来るのは情報を伝えづらくすることくらいか」
俺はそう思いながら目の前にモニターを出すと報告データを打ち込んでいく。
出向1日目
本日、部隊長他分隊長たちと挨拶をした。
部隊長は八神はやて、分隊長には高町なのは、フェイト・T・テスタロッサの二人である。
その他のメンバーについては不明。
尚、本日六課のメンバーと拳を交えることになった。
中々に伸び代がありそうである。
明日から本格的に業務が始まる。
果たして、俺の運命はどうなるのであろうか……
「よし、これで送信」
俺は今しがたできたデータを送信した。
なぜ小学生レベルの作文形式にしたのかと言えば、情報が伝えにくいからだ。
今書いたものも、重要な情報は最初の三行のみだ。
あとは全部あまり関係がない日記のようなものになる。
要するに、向こうを苛立たせて何らかのアクションを取らせるのが俺の狙いだ。
首尾よく潜入任務の終了を宣告してくれればありがたいんだが。
「まあ、なるようになれ、だな」
俺はそう呟くと、ベッドに横になり眠ることにした。
こうして出向初日は幕を閉じたのであった。
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