健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第36話 正直な心

今俺は、背中に生えた大きな翼と霊力で空を飛んでいる。
俺の両手に握られている四本のひもの先には……。

「うっひょ~、見晴らしが良いな~」
「だが、少々不安定でござるな」
「ここでまさかお茶を飲めるとは、思ってもいなかったでござるよ」

大きなかごの中で、まったりと和んでいるユキカゼやダルキアン卿、ジェノワーズやガウル、シンクに姫君、そしてエクレとリコッタにレオ閣下がいた。
なぜ、こうなっているのかと言うと今から10分くらい前にさかのぼる。









魔物を無事に倒すことのできた俺達は、俺の霊力を使い怪我をした者達に治癒を施してた。
そのおかげか、怪我を指摘を失っていた人たちは意識を取り戻したのだ。
だが、そこで一つだけ大きな問題が生じた。
それは、疲労と怪我でフラフラ状態になった人たちをどうやって連れて行くかだ。
歩いて行かせると言うのは残酷すぎたので、俺が出したのはひもがついた大きなかごだった。
ゴドウィンは歩けるとのことで、かごに乗ったのはそれ以外のユキカゼやダルキアン卿、ジェノワーズの三人にガウルと、シンクに姫君、エクレとリコッタにレオ閣下の11人と言う大人数だ。
そして今に至る。

「貴様ら! 人が苦労している中、何まったりと和んでるんだ!!」
「お前は怪我をして疲れている姫様に、歩けと言う気か!」

エクレの的を得た反論に、俺はそれ以上何も言えなくなった。

「って、そこの三馬鹿! 暴れるな!!」
「馬鹿って言う方が馬鹿」
「そうやそうや!」
「……はぁ」

俺の注意に反論するジェノワーズの三人に、俺は思わずため息が出た。
エクレの気持ちがとても分かったような気がした。

「しかし、空を飛べるとはすごいでござるな渉殿は」
「それはどうも」

ダルキアン卿の感嘆の言葉に、俺は愛想なくお礼を言う。
どうして俺がここまでごねているのか、それはかごの重さだ。
どんなに軽い人が乗っても、それが11人となればかなりの重さだ。
しかもその重みは俺の手にずっしりと来ているのだ。
もし一本でも紐を離せばかごは不安定となり、乗っている人たちを危険にさらすことになる。
俺達が向かっているのはフィリアンノ城。
そこまであともう少しと言うところまで来ていた。
だが実際問題俺の意識はもうろう状態だった。
霊力を大量に使ったのもあるが、神格を失ったのもまた大きな要因の一つでもあった。

「大丈夫か? さっきから微妙に揺れているが」
「………大丈夫だ」

俺の身を案じてくれるエクレに感謝しながら、俺は最後の力を振り絞る。
今ここで俺が意識を失ったら全員が怪我では済まなくなる。
そしてようやくフィリアンノ城に到着した俺は敷地内でゆっくりと下降して行く。
急下降すると危険だ。

「はい、到着だ」
「お疲れでござる、渉殿」
「ありがとう、わた―――――」

(ッく、もうダメ……だ)

俺は誰かのお礼の言葉を聞きながら、その場で意識を手放した。










「ん……」

次に俺が目を覚ますと、そこはフィリアンノ城の俺に割り当てられた部屋だった。
窓から差し込むオレンジ色の光が、今の時刻が夕方であることを告げていた。

「目が覚めたか」
「……エクレか」

声のした方……俺のすぐ横を見ると、椅子に腰かけたエクレの姿があった。

「何だ、私では不満か?」
「いや、そう言うわけではないが……」

エクレの様子に違和感を感じつつも、俺は聞きたいことを尋ねた。

「俺、あの後どうなったんだ?」
「あの後、倒れた渉を私とスットコ勇者で部屋まで運んだ。それと……」

エクレの答えによれば、意識を失った俺をシンクと一緒にエクレが運んでくれたようだ。
そしてその間姫君とレオ閣下による謝罪会見のようなものがあったらしい。

「しかし、ここは何だか雰囲気が違うな」
「そうか?」
「そうに決まっている。何だか外と世界が違うような気がする」

俺はエクレの感受性の豊かさに、驚きを隠せなかった。
世界が違うと言うのは紛れもない事実だ。
なぜなら、俺が回復しやすいようにこの部屋を、簡易的に天界化させてあるからだ。
それが分かるにはかなりの感受性が必要だ。
理由は分からないが、そうらしい。

「その……悪かった」
「ん? 何がだ」

突然下を向いて俯いたエクレに、俺は上半身を起こした。

「渉の胸を貫いたことだ」
「あぁ~、あれか。それなら別に何にも思ってない。逆に感謝してるぐらいだ」

エクレの口から出た言葉に、俺は思い出しながら言うと、最後にそう言った。

「もしエクレがやらなかったら、全員は助かってもなかったし、俺もこうして話すこともできなかっただろう」
「……お前は本当に馬鹿だ」

俺の言葉に、絞り出すようにして呟いたエクレの言葉に、俺は思わずこけた。

「言うに事欠いて馬鹿かい」
「馬鹿も馬鹿、大馬鹿だ! 自分を犠牲にして何になると言うんだ!!」

俺の胸ぐらをつかんで叫ぶエクレ。
だが、すぐにハッとすると、手を離してばつが悪そうに後ろを向いた。

「犠牲失くして事は成し遂げられない。であればその犠牲は俺が最適だ」
「……それは、お前が世界の意志とか言う神だからか?」

エクレの言葉に、俺は息が止まりそうになった。

「どうして、俺の真名をエクレが」

俺が世界の意志であることは、レオ閣下にしか言ってないはずだ。

「レオ姫から聞いた。お前が何者であるかを」
「そうか」

なぜか俺は心がすっきりとしていた。
今までにないほどの清々しい気分だ。

「一つ訂正、俺が自分を犠牲にするのは神だからと言うのもあるが、俺自身の償いだ」
「償い?」

エクレの言葉に、俺は無言で頷いた。

「昔の俺……神になる前だが、極悪非道の事をしたんだ。それの償いだ」
「………」

俺の言葉に、エクレは何も言わない。

「それにしてもエクレは信じるんだな、俺が神であると言う事」
「信じるも何も、あの姿を見れば納得がいく。それに渉るが規格外であったことにも納得できる」

やはり、神様=白い翼と言う図式は、全世界共通らしい。

「ありがとな、エクレ」
「え?」

突然の俺のお礼に、エクレが声を上げた。

「エクレのおかげで、俺を束縛していたものが無くなった。自由になれたんだ」
「………」
「それと、それに伴って一つ重要な事をエクレに言わなければいけない」

俺は無言のエクレに、そう声をかける。

「俺は今まで自分の気持ちに背を向けて生きてきた。俺自身にある責務を理由にしてな。だが、その責務もなくなった今から、俺は自分の気持ちに素直になって生きて行こうと思うんだ」
「そうか。それで、それが私に言いたい事と、どういう関係がある?」

俺の前置きに、エクレが首を傾げながら問いかけてきた。

「そうだな。……エクレ」
「な、何だ?」

訝しげに返事をするエクレの顔を真正面から見て、俺は自分の素直な気持ちを告げた。

「俺は、エクレの事が好きだ」
「……………え?」

俺の気持ちに、エクレはすっとんきょな声を上げた。

「勿論、一人の女性としてだ」
「………!!!」

俺の言葉の意味を理解したエクレは、顔を赤くした。

「あー、悪い。俺って不器用だからあまり気の利いた言葉が言えないんだ」
「あ………その……」

ここまで顔を赤くして狼狽えている彼女を見るのは、初めてのような気がする。

「まあ、嫌なら忘れてくれ」
「いや……ではない」

エクレは小さな声だが、呟いた。

「え?」
「そ、その私も……お、お前の事が、す、すすす好きだ!」

今度は俺が驚く番だった。
まさか、俺の一方的な気持ちが受け取られるとは、思っても視なかったからだ。

「そうか………」
「~~~ッ!!」

エクレは恥ずかしさのあまり、顔を赤くしていた
そんなエクレに俺はベッドから起き上がると、彼女の前まで移動した。

「エクレ」
「な、何だ!」

俺はエクレにすっと右手を差し出した。

「色々と問題もあるかもしれないが、これからも宜しくな、エクレ」
「……ああ」

エクレはそう答えながら俺の右手を握った。
それは、俺とエクレが恋人と言う関係になったと言う意味でもあった。

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第35話 決戦

「まずは一発」

俺は手に握っている剣に霊力を込める。
本来は紋章術などを使うのがセオリーだが、この姿を考えると神術を使う方が効率がいいのだ。

「神術、第6章……闇に堕ちた者は光の裁きが待っている!」

一閃の光が魔物を貫く。

「■■■■■■!!」

魔物が悲鳴を上げるが、それをしり目に、俺は後ろにいるレオ閣下たちに声をかける。

「皆、後に続いて!」

僕の横からレオ閣下とエクレが飛び出して魔物へと向かう。

「「はぁぁぁあああ!!」」

そしてそれぞれが持つ武器を魔物に振り下ろす。

「■■■■■■!!!?」

臨時で作り上げた陣形は俺とファーブルトンで、魔物の気をそらしその隙をついてレオ閣下とエクレが切り込むと言ったものだ。
その後、怯んでいる間に俺達の後ろに避難する。
それを魔物が弱るまで繰り返す。
弱ったところで俺の必殺技を使って倒すと言うのが作戦だ。
かなり危険な陣形だったが、時間もなかったためにこういう事となったのだ。
攻撃を終えた二人は最初の位置に戻る。

「■■■■■■!!!」

すると、魔物は凄まじい速度でこっちに迫ってきた。
それは常人には決して眼にもとまらぬ速さであろう。
だが……

「俺にはお見通しだ。降り注げ、レイン・ソード」

俺には魔物の動きがスローモーションのように見えていた。
そんな魔物に、俺は数多の剣を放ち迎撃する。

「■■■■■■!?」

突然の攻撃に魔物は驚くが、素早い動きでそれを交わすと俺達と距離を取った。
どうやらこっちに接近すればどういう目に合うかを学んだようだ。
だが、接近戦をしないとなると、後に考えられる攻撃は、遠距離攻撃だ。

「■■■■■■!!!」

魔物は雄叫びを上げると、黒っぽい魔法陣が俺達に向けて展開する。

「気を付けろ渉! あれは黒い霧の紋章砲のようなもので攻撃してくるやつだ!」

それを見たエクレが俺に警告を出す。

「上等! 自らの攻撃は自らで受けよ!!」

俺も前方に魔法陣を展開する。
それは、あの魔物から奪った力の一つだ。
闇を含んだ攻撃が俺に向かって放たれるが、俺の魔法陣に触れた瞬間、まるで鏡に触れたかのようにそのまま魔物の方へと戻って行った。

「■■■■■■!!」

それは反射の魔法。
神が正反対の力を使うと言うのは、意外にもおかしく思える。

「エクレ!」
「裂空、十文字!!」

俺の言いたいことが分かったのか、エクレは紋章剣を魔物に放つ。
魔物はその攻撃を剣で防ぐが、十字のエネルギー波に隠れるようにして突進していた俺には気づかれなかった。

「光の中に闇は無し」

魔物を切りつけた。
それから少し遅れて、俺が切りつけた場所が爆発する。

「■■■■■■!!!?」
「予想以上に弱いな」
「まあ、あいつの核がめちゃくちゃに弱っているし、俺が外に出たことで魔物が弱体化しているからだがな」

エクレの指摘に、俺は魔物から眼を話さずに答えた。
実際にどうかはわからないが、弱体化していることは確かだ。

(あれ、やるか)

俺は考えをめぐらす。
俺の必殺技”レクリエム”をやるのかどうかの判断だ。
今魔物は非常に弱っている。
これならば、妖刀ごと浄化できるだろう。
だが、魔物の力は無限大だ。
何が起こるかは分からない。

「はぁ……はぁ」

横にいる仲間を見ると、三人とも肩で息をしていた。
仲間ももう限界。
俺の霊力も6割を切った。

(一か八か、やってみるか)

俺はそう判断するとファーブルトンに、指示を出す。

「ファーブルトン、あれをやるからあいつの動き、少しの間だけ抑えてくれる?」
「分かりました」

ファーブルタンが頷いたのを確認した俺は、詠唱を始める。

「孤高を抱きし愚かなるものよ、我が歌を聞きたまえ、其が築くものはただの破滅の道のみ」

神殺しの剣に夥しい光が纏う。
神剣には劣るが、それでも威力は申し分ない。

「さすれば、すべてをわが名のもとに浄化してくれよう。聞くがいい我が魂の歌を!! レクリエム!!」

詠唱が終わると同時に剣を魔物のいる方向に振り下ろす。
その次の瞬間、眩い光が一直線に魔物の方へと向かって行き、そして魔物に命中した。

「■■■■■■■■■!!!」

魔物は断末魔を上げながら、光に飲み込まれた。
その瞬間、俺の視界は光で覆われた。
それがどのくらい続いたのかは分からないが、光がゆっくりと薄らいでいく。
そして光が無くなった時、俺が目にしたのは戦の時の晴れた青空だった。

「勝った……のか?」
「ああ」

エクレの呟きに、俺は簡潔に答えた。
そして俺は魔物が立っていた位置に向かう。
勝利の景品としては、色々あれだな
俺は苦笑いを浮かべながら、地面に突き刺さっていた神剣吉宗正宗を抜くと格納する。
そしてその横にあったのは二本の妖刀だった。

「大丈夫なのか? これ」

俺は前のようにならないために、手をかざして邪気を調べる。
その結果邪気のようなものは一切出なかった。

「でも、なぜに神剣になるんだ?」

俺は思わずそう呟いた。
そして妖刀を手にエクレ達の方へと戻る。

「わ、渉殿、それは妖刀じゃ!?」
「何で物騒な物を手にしているのだ!!」

妖刀を見た二人の剣幕に、俺は若干押され後ずさった。

「あ、あのな、これもう妖刀ではなく、神剣になってるぞ」
「「はい?」」

二人の驚きも理解できる。
今まで忌々しい呪いを持った剣だったものが、いきなり間反対の聖なる剣になっていると聞けば、誰だった呆然とするだろう。

「おそらく、俺のあれが強すぎて妖刀が神剣に変わっちゃったんだろう」
「何と言う非常識な……」

二人の呆れたような視線がとても痛々しく感じられた。
こうして、魔物戦は幕を閉じたのであった。

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第34話 負の象徴を倒すために

俺の意識が再び戻る。
そこはフロニャルドの空だった。
下には真っ逆さまに落ちていく緑色の髪をした少女。

(って、落ちているのってエクレ!?)

俺は急いで急降下する。
そして、彼女を受け止めた。

「ありがとう、そしてお疲れ様。エクレ」

ゆっくりと目を開く彼女に、俺は優しく微笑みお礼と労いの言葉をかけた。

「渉!」

驚いた様子で俺を見ながら名前を呼ぶエクレ。

「お前、本当に渉なのか?」
「俺は正真正銘の、小野 渉だよ」

用心深い彼女の様子に苦笑いを浮かべながら、答えた。
と、そこで彼女は今自分の置かれている立場が分かったのだろうか、顔を赤くした。
俺はエクレをお姫様抱っことやらをして抱えていたのだ。

「お、降ろせ! 手を離せ」
「降ろせって、今ここで手を離したら真っ逆さまだぞ!?」

エクレが暴れて抵抗するので、俺は急いで地面に降り立った。

「はい、到ちゃ……ぐは!?」

エクレに思いっきり殴られた俺は、二,三歩よろけた。

「き、ききき貴様! よりにもよって私にあのような!!」

怒るのかてれるのか、どちらかにしてほしい。

「はいはい、それはまた後で。まだ終わってはいないぞ」
「それは、どういう意味で――――っ!?」

俺が上空を見るのにつられるようにそこにいた人たちも空を見上げる。
空には無数の流れ星と、未だ物々しい雰囲気を纏って浮かび上がる魔物の姿があった。

「そんな!? 渉はもとに戻ったはずだ!」
「あくまで俺はあいつの中にあった光の部分です。彼女がやったのは、俺とあいつを分離することですから」

そう、あの剣には分離の作用もあるのだ。
そのおかげで、俺はこうして外に出ることが出来るようになったのだ。

「と言う事はよ、つまり」
「ああ、あいつを倒せば世界は守られる」

ガウルの言葉に俺は頷くと、全員の表情が明るくなった。
それは、希望に包まれたものだった。

「だが、あいつは上空に浮かんでいる。どうやって戦う」
「そんなの簡単さ。地面に落とせばいい」

俺はそう答えると、エクレから神殺しの剣を受け取り、そのまま魔物の方へと肉厚する。

「その翼、折らせてもらうよ。閃!」

閃光のような剣筋で、俺は魔物の翼を切り落とした。

「■■■■■■!!!?」

けたたましい叫び声を上げながら、魔物は地面に落ちて行った。

「どうだ?」
「な、何と規格外な攻撃をするのじゃ、お主は」

俺を待っていたのは、呆れたような視線だった。

「さて、これから最終決戦だ。ファーブルタンさんとエクレ、レオ閣下意外はシンク達とユキカゼの護衛を」

俺はその場にいる全員に指示を出していく。

「ユキカゼはまだふらついている。だから一時休み。それ以外の名前の出てない人は三人に攻撃が届かないように守って。俺はそこまで手はまわせないから」
「分かった」
「心得た」
「了解やで~」

俺の説明に、それぞれが頷く。

「さて、と」

俺は巾着袋から最後の霊石を取り出す。
そして俺はそれを飲み込んだ。
その次の瞬間、体中に力が巡ってくる。

「リミットブレイク・真名解放!!」

そして俺は最後の封印を解いた。
それは世界の意志としての本当の能力であり、真の姿でもある。
俺の手には神殺しの剣。
味方陣も限界に近い。
だが、勝機はある。

「よし、行くぞ!!」

そして、俺達の最終決戦は幕を開けたのであった。

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第33話 かすかに見えた希望の光

「勇者! ミルヒ!!」

レオ閣下は二人の姿を見つけると、慌てた様子で駆け寄る。
そしてすぐに息があるかを確かめた。
やがて、かすかに息があるのが分かったレオ閣下はほっと胸を撫で下ろした。

「一体、どうなってるんだ? 空には流れ星が流れてるし二人は怪我してるし」
「私にもわかりません。ただ……」

ガウルの問いかけに、エクレールは首を振ってこたえると、魔物のいた方向に顔を向ける。
それに合わせてその場にいた者が、魔物に視線を向けた。

「■■■■■■■■■!!!!!」
「きゃあ!?」
「っく!?」
「うおわぁ!?」

世界をも揺らす勢いの雄叫びに、その場にいた全員がよろけた。

「こ、こりゃあ、とんでもない奴だ

ゴドウィンが冷や汗を流しながら呟く。
それだけでも、その雄叫びの凄まじさが伝わるだろう。
すると、魔物はゆっくりと上空へと飛んでいく。

「こりゃ、まずいな……」
「ええ、あの高さでは私達には手も足も出ません」

ガウルの呟きに、エクレールが答える。
二人が空中でも戦えるのはせいぜい地上から約10mが限界だ。
それ以上の高さにいる魔物とは、まともにやり合うのは難しい。

「でしたら、こうすればいいんです、よ!!」

ベールはそう言いながら上空……魔物が浮かんでいる方向に弓を構えると、矢を射た。
その矢は、緑色の軌跡を描きながら魔物へと向かう。
そして、その場にいる全員が当たったと思った瞬間だった。

「■■■■■■!!」
「えっ!?」

ベールは突然の事に反応が出来なかった。

「きゃああ!?」

その結果、自分の放った矢が自分に直撃し、ベールは後方に吹き飛ばされた。

「攻撃が、跳ね返された?」

状況を冷静に見ていたノワールが静かに呟く。
彼女もまた、魔物の持つ反射の餌食となったのだ。

「■■■■■■!!」

魔物が声を発するとともに、黒い円陣が魔物の前に展開される
そして、それは一気に放たれた。

「ッく!! 裂空、十文字!!」
「魔神閃光波!!」

エクレールは十字型のエネルギー刃を、レオ閣下は矢を射ることで相殺しようとする。
だが、二人の攻撃は一瞬にして闇に飲み込まれた。

「なッ!? 全く通用しない!!」

二人は驚きつつもその場から離れる。
次の瞬間、二人の立っていた場所に黒い傍流は着弾した。

「一体、あれは何なんだ」
「あれは………」

ガウルの疑問に、レオ閣下は静かに答える。

「あれは、渉が魔物化した姿じゃ」
『なッ!?』

再びの驚きだった。

「れ、レオンミシェリ閣下、こんな時にご冗談は」
「冗談ではない! 姿かたち違えど、星詠みで視た通りだ」

ゴドウィンに反論するとレオ閣下は静かに呟く。

「信じたくはねえが、おそらくその通りなんだろうな」

ガウルはレオ閣下の言葉を肯定する。
それは、渉の開戦前の行動と、この場に渉がいない事を考えての事だった。

「そして、奴を倒すカギを握っておるのはたれ耳、お前じゃ」
「わ、私が!?」

レオ閣下の言葉射、エクレールは驚いた様子で答えた。

「渉曰く、たれ耳に切り札を託しているらしい」
「切り札………まさか」

エクレールは今まで背中に背負っていた、銀色のさやに入った剣を手にする。

「それが、渉の言っていた切り札か」
「はい、神殺しの剣と言う名前で、もしものときはそれで自分の体を貫けと言ってました」

ガウルの問いかけに答えるエクレールの手はかすかに震えていた。
今、彼女には運命の選択を迫られていた。
それは、手にある剣を使って魔物を貫くか、もしくはそれをせずに自分たちが犠牲になるか。
まさにやるかやられるかの状態。
そんな選択肢を突き付けられている状態で、震えるなと言う方が無理な話だ。

「して、どうするのじゃたれ耳? 一応渉はたれ耳に頼んでいる様子だからそれを尊重するが、お主がやらぬのであれば、儂がやろう」
「ッ!!」

レオ閣下の言葉に、エクレールは肩を震わせる。
エクレールの頭の中にあるのは、渉との思い出の数々だ。
それが彼女の頭の中で永遠と流れていた。

「………やります」

彼女が言った声は、か細い声だった。
それは、いつもの彼女を知るものであれば予想もできないほど不安と、恐怖に満ちているものだった。
そんな時、彼女の持つ剣に異変が起こる。

「ッ!?」

突然剣が輝き始めたのだ。
そして光は膨れて行き、そのまま彼女たちを包みこむ。
その光は一瞬で消えると、何の変化も内容に見える。
だが、唯一違うのは……

「しかし、どうやってあそこまで行くのじゃ?」
「セルクルに乗ってもあれの餌食になるだけ」

その場にいる者全員に希望と言う名の力が、満ちていたことだ。

「だったら、拙者の出番でござる」
「ユキカゼ!」

突然の声に、全員が声のした方を見ると、そこにはふらつきながらもかろうじて立っているユキカゼの姿があった。

「遅れてごめんでござる。魔物化した渉にやられて気絶していたでござる」
「だ、大丈夫でありますか? ユッキー」
「この通りでござる」

心配そうに問いかけるリコッタに、ユキカゼは大丈夫であることをアピールしながら答えた。
実際問題、なぜ彼女が無事なのか、それは渉が全員に渡した保険の腕輪による。
致命傷を受けた彼女たちは、腕輪が自動的に治癒術式を発動させるように仕掛けていたのだ。
それによって、一命をとい止めたのだ。
これが、渉の考えた”最悪な事態を回避する布石”である。
そして、それは今最終段階になろうとしていた。

「拙者が、背負ってあそこまで行くでござる。そこを」
「私がこれで貫く、と言うわけか」

ミオン砦戦の時に上空に舞ったユキカゼだからこそできる方法だった。

「後は、攻撃をどう防ぐか、か」
「それなら、左手にある腕輪に防御と念じるだけで、3回分攻撃から身を守ってくれるらしい。これも渉の保険だったんだな」

しみじみとつぶやくガウル。
対するエクレールは、その腕輪を何とも言い難い様子で見つめる。

「それでは、エクレ、拙者の背中に」
「わ、分かった」

エクレールはユキカゼにおぶさるように背中にしがみつく。

「それでは、一気に行くでござるよ!!」
「ッ!!」

その声と同時に、エクレールを突風が襲う。
それは、二人が宙を舞ったことを意味する。
二人は一気に魔物の場所まで飛んでいく。

「■■■!!」

それを危険と察知した魔物が声を発するとともに、黒い円陣が魔物の前に展開される。
そして放たれる黒い霧。

(守ってくれ! 渉!!)

彼女がそう念じるとともに、エクレールとユキカゼの前方に透明な膜ができ、それが魔物の攻撃を防ぐ。

「今でござるよ!!」
「はい!!」

エクレールはユキカゼから離れて、その時の勢いのまま魔物へと迫る。
右手には渉が渡した神殺しの剣。

「はぁぁぁああああ!!!」

それが今、魔物の体を貫いた。

「■■■!!!」
「ッぐ………」

エクレールは魔物から発せられる衝撃波に吹き飛ばされる。
そして、そのまま地面に向かって落ちていく。
離れていた場所にいた為、ユキカゼは間に合わないかった。
このまま地面に落ちると覚悟していたエクレールは、不意に落下の感覚がしなくなったことに気付く。
そして、ゆっくりと閉じていた目を開けると、そこにいたのは……

「ありがとう、そしてお疲れ様。エクレ」

優しい笑顔を向けている渉の姿だった。

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【閲覧注意】 第32話 絶望の現実

3人称Side

渉が魔物化した瞬間、勇者シンク、ミルヒオーレ姫の二人は渉のいた場所からやや離れた場所にいた。

「これは、一体……」

シンクは押し寄せてくる”何か”に眉をひそめた。
それは、渉が発した雄叫びの際の物だった。

「姫様! 掴まってて!」
「は、はい!」

この場にいたら危険だ、と言う事を本能で感じ取ったシンクはトルネーダーでその場を離れようとする。
親衛隊長のエクレールと合流できれば、何があっても対処ができると言う考えの元だ。
だが、その決断は遅すぎた。

『み、見てください!! 暗闇の空に星が!!』

実況のナレータが慌てた口調で状況を実況する。
シンクとミルヒオーレ姫は、空を見上げた。
雷雲よりも暗くなった空には、数多の流れ星があった。
だが、それは美しいと言うよりは、不気味さの方が勝るものであった。

『た、大変です!! 空に何かがうか――――』

ナレーターが慌てた様子でそう告げた瞬間、空の方から爆音が響いた。

「「ッ!?」」

二人は、慌てて爆音のした方向を見る。
そこには……

「な、何だ……あれは」

空高くに浮かび上がる魔物化した渉がいた。
シンクは信じられないとばかりにその魔物を見ていた。

「■■■■■■!!」

魔物が声を発するとともに、黒い円陣が魔物の前に展開される。
その円陣は地面に……シンクとミルヒオーレ姫へと向けられていた。

「ッ!! ディフェンダー!!」

シンクは、それが危険な物であることを悟り、盾を展開するとミルヒオーレ姫をかばうように前方に出て盾を構える。
それと同時に、魔物化は黒いエネルギーの塊が放たれる。
それは、シンク達が使っていた紋章砲のようなものだった。
だが、異なるのは、そのエネルギー源が”闇”であると言う事。

「ぐッ!!」

腕に伝わる圧力に、シンクは顔をゆがめる。
黒い傍流は留まるところを知らない。

「うおおおおお!!!」

シンクは支点をずらし、自分の建っている場所の横側に受け流した。

「シンク、大丈夫ですか!」
「な、何とか」

シンクの身を案じるミルヒオーレ姫にシンクは、息を切らしながら答える。

「はぁ!!」

シンクは紋章を展開する。
それはフロニャルドに来たときに最初につかった紋章砲を行使するためだ。
そして、シンクは紋章砲を放つ。
それは一直線に魔物へと向かい、命中すると放った本人も、それを見ていたミルヒオーレ姫も予想していた。
しかし……

「■■■■■■!!!」
「なッ!?」

魔物に直撃する寸前に魔物が雄たけびを上げるのと同時に、砲撃は放った本人の元へと向かっていた。
シンクはそれを盾で防ぐことで難を逃れた。

「ほ、砲撃が返ってきた……」

それは、反射だった。
魔物は、シンクの攻撃を跳ね返したのだ。

(あいつは上空にいて、まともに戦う事も出来ない。紋章砲を使っても今のように跳ね返される)

シンクはこの時、ようやく退路がないことに気付いたのだ。
攻撃をしようにも空高くに浮かび、したら跳ね返されると言う悪循環。
正面から戦っても勝つことが出来ない。

(どうする……どうすれば)

シンクは、必死に打開策を考える。
それは戦闘時においては、最も最良の手だ、
だが、今回のそれは目の前に未知数の強さを持つ魔物がいる時の対応としては、最悪の選択だった。

「シンク、前!!」
「ッ!?」

ミルヒオーレ姫が必死に叫ぶ声に我に返ったシンクが見たのは、目の前まで迫る妖刀と短剣を振り下ろそうとしている魔物の姿だった。

「が!?」
「きゃあああ!!?」

そして、魔物はシンクとミルヒオーレ姫を切りつけた。
それは一瞬の事だった。
地面に倒れ伏す二人、そして二人の周囲は赤く染まる。
それはユキカゼ達と同じ状態であった。
二人の体が光り始める光景もだ。
奇しくも、それはレオ閣下の視た光景とほとんど一致していた。











その頃、エクレールとリコッタの二人は急いで向かっていた。

「さっきの紋章砲はシンクさんの物です!」
「と言うことは、二人の身に危険が迫っていると言う事だ!」

それが急いでいる理由だった。
そして、二人はシンク達がいる場所へとたどり着いた。

「シンクさん、姫!!」
「勇者、姫様!!」

地面に倒れているシンクとミルヒオーレ姫を目の当たりにし、慌てて二人の元に駆けよる。

「ッ!!」
「これは………一体」

リコッタは、二人から流れている赤い液体を見て目をそらし、エクレールは状況が呑み込めなかった。
その時、エクレールは空気の歪を感じた。

「ッ!? リコ!!」

それは、ほとんど勘だった。
エクレールはリコッタを跳ね飛ばす。
その次の瞬間、轟音を立てて魔物が二人のいた場所に落ちた。

「あ………あぁ」

それを見たリコッタは体を震わせていた。

「あれは、一体……ッぐ!?」

エクレールは突然肩に焼けるような痛みを感じた。
見れば、肩から赤い液体が流れていた。
そして、目の前にいる魔物の両手には剣が握られている。
そう、彼女は魔物の攻撃を食らっていたのだ。
そして、地面に佇んでいた魔物はゆっくりと、二人の方を見た。

「ひッ!!」
「ッ!!」

それを見た二人は、そのあまりのオーラに一歩後ずさる。
それは一瞬の事だった。
気づいた時には、魔物は二人の目の前まで来ていた。
それはシンク達のと同じパターンだった。
魔物は剣を振り上げ、それを振り下ろそうとする。
だが、そこで奇跡は起きた。

「どぉぉりゃああ!!」

男の声とともに、飛んできた何かが魔物を吹き飛ばしたのだ。

「■■■■■■!!!?」

魔物がその突然の攻撃に叫び声をあげる。

「大丈夫かぁ、たれ耳!」

その男の声に、エクレールとリコッタは声のする方を見る。

「ゴドウィン!!」

そこにはゴドウィンとその横にレオ閣下、ガウル達が立っていた。

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