「ふぅ……」
真っ白な光が無くなると、そこは見たこともない場所だった。
「ここが人間界か」
隣に立っていた神楽は、物珍しそうに周りを見渡していた。
僕達が立っているのは、どこかの高台の様だ。
前を見れば、色々な建物が立っているのが見える。
「あそこに人がいるな」
「え? どこどこ?」
僕の呟きに、神楽は必死に人の姿を探そうとする。
「ここからかなり離れた場所だから、普通じゃわからないよ」
僕はそう言いながら双眼鏡を取り出すと、人の気配がする方向に向けて構えながら覗き込んだ。
そこには、肩の部分が赤でそれ以外の場所が薄ピンクの色合いをしたワンピースタイプの服を着ている女子がいた。
しかもそこらじゅうに。
その中に上着が赤色でズボンが黒の男子もいた。
「どうだった?」
神楽の問いかけに応えず、僕は自分と神楽の服装を確かめた。
僕の服装は黒一色のまるで喪服のようなものだった。
神楽の場合は巫女服の感じがした。
どう見ても、不自然だ。
もしこのまま下の方に行けば変な目で見られる。
「神楽、服装を同化させる」
「そうだよね。この服装はおかしいよね」
僕の言わんとすることが分かったのか、神楽は苦笑いをしながら僕の方に手を差し伸べる。
同化は手をつないだりすれば簡単にできる
何せ、僕の中にあるイメージを神楽の中に送り込んで、それを服装に反映させるだけなのだから。
そして、僕は目を閉じて先ほど見た共通の服装をイメージする。
その瞬間、体全体に僕は熱を感じた。
それはすぐになくなり、僕は目を開けた。
「………」
そして僕は言葉を失った。
服を変えれば印象も変わると言うが、本当の事だと今分かった。
先ほど見た女子の服装と同じ服を着ている神楽が、見知らぬ誰かだと勘違いするほど輝いていた。
「どうかな? 浩ちゃん」
「ああ、似合ってる」
神楽の問いかけに、僕はそう答えるのがやっとだった。
「ありがと~浩ちゃん」
そして僕に抱き着いて喜びをあらわにする。
「さてと、下の方に向かうぞ」
「了解」
誤魔化すように言った僕を、神楽は笑顔で見ていた。
そして、僕たちは人がいるであろう場所に向かった。
しばらく歩いた時だろうか。
周りはきれいな芝生が広がっているグラウンドのような場所に来ていた。
「そこのあなた達」
「へ?」
「え?」
突然女性の声に呼び止められた僕達は、慌てて振り向いた。
そこには紫色の髪に赤い目をして、修道服のようなものを着ている女性が立っていた。
その手には事典サイズの本が抱えられている。
「今は授業時間中です。それなのにこのような場所でサボりですか?」
女性の視線が鋭く、射抜くような目で僕たちを見る。
今の言葉で、ここが学園であることは分かった。
「あの、実は私たち道に迷ってしまいまして」
僕は、何とかこの場を切り抜けようと、言い訳をした。
これならば不審に思われることはないだろう。
「おかしいですね。始業式が始まり、半年もたったのに、まだ学園の構造が分からないのでしょうか? それにあなた達の制服は3年生の物ですよ」
「う゛!?」
僕は女性の指摘に、返す言葉が無くなった。
今の時期が大体10月ごろであることは分かった。
しかし、この制服が3年生を示しているとは……僕のミスだ。
「方向音痴だという可能性は考えられないのでしょうか?」
「ええ、確かにそれもあり得ますね。ですから……」
「え?」
神楽の問いかけに、女性は肯定すると、僕たちに手を差し出した。
「学生証を提示してください」
「すみません、忘れてしまいました」
女性の問いかけに、僕はすぐさま答えた。
「でしたらお名前を教えてください。あなた達が学生であるのなら、学園の方に名前があるはずです」
女性の切り返しに、とうとう僕たちは逃げ道が無くなった。
【神楽、こうなったら】
【うん、浩ちゃん】
僕と神楽は念話でやり取りをした。
そしてすぐに行動に移した。
「どうしましたか? 貴方達が学生であるのであれば、言えるはず――――」
「「ジェットステップ、GO!!」」
僕達が取った行動は逃げる事だった。
「待ちなさい!」
そして、女性も追いかけてきたようだ。
だが、マテと言われて待つような性格はしていない。
僕達は次なる手を考えていた。
「1,2の3で大ジャンプするよ!」
「オーケー!」
「1,2の」
「「3!!」」
僕は足に力を込めると、地面をけった。
次の瞬間、僕たちは空高く飛びあがっていた。
これもひとえに高い身体能力のおかげだ。
そのまま僕は、体中に霊力を巡らせ、空中を飛びながら人がいない場所を探し始めるのだった。
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