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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第56話 合宿!!

「皆―、はやくはやく!」

僕たちの前を元気に走っていく唯と律。
その後ろの方で、僕たちはのんびりと歩いていた。

「全く、遊ぶことになると元気になるんだから」

澪はため息をつきながら何度目になるかわからない愚痴を漏らしていた。
とはいえ、全員水着姿だが。
僕は水着の上に黒いマントを羽織っていた。
これは去年と同じだ。

『そう言えば、ムギ先輩の遊びって……』

そんな時、梓の者と思われる声が頭の中に響いた。
梓は口には出していない。
これは心の声だ。

(あ、リミッターを解除しっぱなしだった)

常時人の心の裏を読まなければいけないため、読心術が常時発動状態になっている。
それを制限しているのが勾玉のネックレスだったりする。
だが、それを水着を着ている際に付けているのはかなり目立つ。
そのために、外しておいたのだが、それがあだとなったようだ。

(首以外にはリストバンドにするしかないんだよね………)

『……まさかね』

そんな中、再び梓の声が聞こえた。
何のことを考えているのかがわかった僕は、海の方に視線を向けてみた。

「いや、そのまさかかもしれないぞ」
「人の心を読まないでくださ……え?」

顔を赤くして抗議してくる梓に僕は海の方を見るように合図を送った。
海の沖の方から一隻のクルーザの姿が見え、さらに浜辺にはパラソルなどが立てられていた。
おそらくは、梓が想像したであろう通りの光景が広がっていた。

「だから、いらないって言っておいたでしょっ!」

そんな時、後ろの方からいつものおっとりとしたムギの雰囲気からは、想像がつかないほど慌てている口調の声が聞こえてきた。

「浜辺にある物をすぐに片づけて! お船もいらない!」
「ムギ……」
「先輩」

飛び跳ねながら厳しい口調で指示を出すムギに、それを見ていた澪と梓が肩を落とした。
それから少しして、ムギの意向通りクルーザーとピーチパラソルなどは撤去された。
数人の人たちがさっとやって来てさっと帰っていった。
その動きはまるで忍者のようだった。
僕は人が来たのは分かったが、一瞬のことすぎて見ることはできなかったが。
残された最後の一つのピーチパラソルを適当な場所に立てて、浜辺にシートを敷けば簡単な日陰の腰掛場が完成した。
僕とムギ、そして澪と梓はそこに座ると海辺の方で、無邪気にはしゃいでいる律と唯の方を見ていた。

「よいしょ、よいしょ、よいしょ♪」

ムギは楽しげに何かを移動させるようなしぐさをしていたが。

「本当にちゃんと練習するんでしょうか?」
「大丈夫。”させる”から」

頬を若干膨らませてそれを見ていた梓の問いかけに、僕は安心させられるように笑みを浮かべながら答えた。

「そ、そうですか」

そんな僕の笑みに何かを感じ取ったのか、梓はひきつったような笑みを浮かべながら相槌を打った。

「あずにゃーん、浩君ー!」

そんな中、唯と律は僕と梓の名前を叫びながらかけてきた。
その手にピーチボールを持って。

「二人も一緒にやろ!」
「結構」
「私もです」

唯の誘いの言葉に、僕が断ると梓も続いた。

「ははぁん。実は運動が苦手なんだな。いや~、それは悪いことをしてしまったなー」
「なっ!? そんなことありません、やってやるです!」
「後で吠え面かいても知らないからな!」

律の安い挑発に、僕と梓は見事に乗ってしまった。
それからはあっという間だった。
まるで引きずり込まれるかのように、遊びにのめりこんでしまった。
律と唯にムギの三人は浅瀬の方で海藻を持ってはしゃいでいる。
澪たちは海辺の岩のところを適当に歩いている。
かくいう僕も周囲を歩いているわけだが。

(やっぱり海はいいな)

海独特の潮の香りを堪能した僕は、心の中でつぶやく。

「ん?」

そんな時、ふと何かの違和感を感じた。

(何だったんだ?)

それは気配のようにも思えたが、周囲には誰の姿も見かけない。

「まあいいか」

せっかくの合宿だ。
水を差すようなことをするのも気が引けるので、僕は特に気にも留めなかった。

「うわあああああ!!!」
「な、何事!?」

そんな中響き渡った絹を裂くような悲鳴に、僕は驚きながら声を発している人物の方に視線を向ける。
その人物は、耳を押さえながら逃げ出してしまった。

(あれって、澪だよな……一体何を言ったんだ? 梓)

僕は近くで呆然と立ち尽くしている梓に、心の中で問いかけた。
そんな梓に向けて律が親指を突き立てて笑っていたのは余談だ。

「よぉし、スイカ割りをするぞー!」
「「「「おー!!」」」」

律の呼びかけに、僕と梓(この場にはいない澪もだが)以外が手を空に向けて突き上げることで返事を返した。

「でも、スイカ割りだったら、ダミーもないと」
「そうなの? 唯ちゃん」

唯が口にした言葉に、ムギが聞きかえした。
それに唯は頷くことで答えた。

「そんなものあったかしら……」
「定番どころとしては人だぜ」

律の言葉で、なんとなく嫌な予感がしてきた。

「人? それじゃ、誰がいいのかしら」
「それだったら、適任がいるぜ」

首をかしげて悩むムギに、律は僕の方を見ながら笑顔で答えた。

「浩介というね!」
「………おい」
「でも、もし間違えたら浩介先輩がけがをするんじゃ……」

律の言葉に、梓が異論を述べた。
そして心配そうにこちらを見てくる。
だが、そんな問いかけに、律は表情を変えることはなかった。

「大丈夫だって、なんたって浩介は魔法使いなんだし♪」
「あ、そうですよね」

律の言葉に、梓は態度を一変させて、簡単に納得してしまった。

「納得するなよ!」
「はいはい、浩介ちゃーん、いい子だから大人しくしましょうね~」

僕の肩に手を置きながら律が満面の笑みを僕に向ける。

「唯、ムギ!」
「「合点です!」」

そして律の指示を受けて、どこから取り出したのかスコップで穴を掘り出した。

「あ、あのね。確かに防御障壁という系統の魔法はあるけど」
「だったら、いいんじゃん」

その間も僕は必死に抵抗する。
とはいえ、力でやったら下手すると怪我をするので口頭でだが。

「でも、人には得手不得手と言うものが――――」
「よし! 準備はオーケー!」
「って、人の話を聞け!!」

僕の話を無視した律たちによって、僕は穴の中に入れられた。

(というより、よく短時間で掘れたよな、この穴)

二人の体力に僕は舌を巻いていた。
僕の身体はすっぽりとはまり、砂を隙間に入れられることで出ているのは顔だけになった。
そして横にはスイカが置かれた。

「まずは梓からだ!」
「え? わ、私ですか?!」

律の言葉に、梓は驚きと不安の色を浮かべながら反応した。

「そうだぜ。これで目隠しをしてからするんだぞ」
「え、ちょっと律先輩!」
「はい、あずにゃんじっとしていてね」

とんとん拍子に話が進んでいき、話について行けないであたふたとしている梓に、唯は笑顔で白いハチマキをすることで目を覆った。

「それじゃ行ってみよう!」
「え、えっと。間違えたらごめんなさい!」

(怖いこと言うなよ)

前もって謝ってくる梓に、僕は心の中でつぶやいた。

「あずにゃん、まっすぐだよ」
「あ、ちょっと左よ!」
「いいや、右だ!」

(な、なんかこっちに来てないか?)

唯たちの誘導に従って歩く梓は、少しずつこっちによってきているようにも思えた。

「よぉし、そのまままっすぐ」
「違うよあずにゃん、左だよ」
「お、おい梓そっちじゃない。左だ左!」

完全に僕の正面を歩く梓に指示を出すが、聞こえていないのか方向感覚がおかしくなったのか、まるで吸い込まれるように僕の方へと歩いてくる。

「ち、ちょっと。嘘でしょ?」

そして僕の目の前で立ち止まった。
余計なことを考える暇など僕にはなかった。

「ええい!」

梓は手にしていた木刀を力いっぱい振り下ろしてきたのだ。
……僕に向かって。

「のわああああ!? シール!!」

とっさの判断だった。
僕は自分を覆うように防御障壁を展開した。
運よく、防御障壁は梓の一撃を持ちこたえてくれたようだ。

「こ、浩介先輩!? 大丈夫ですか!」
「あ……あははは。本気で背筋が凍ったぞ」

何気に任務などで僕が体験した修羅場以上に、恐ろしく感じた。

「す、すみません」
「大丈夫。当たってないから」

申し訳なさそうに謝ってくる梓に、へなへなになりながら応えた。

「よし、次は唯!」
「お前は少し自重しろ!!」
「きゃ!?」

なおも続けさせようとする律の言葉に、僕の中で何かが切れた。
勢いよく砂から出ると律の前に移動する。

「へ?」
「拘束!」

そして僕は律に向け、手を掲げると一言告げた。

「ちょ、ちょっと。腕が動かないんですけど!」
「当然。拘束魔法だもん」

両腕が気を付けの姿勢で動かなくなった律に、僕は当然だと言い返した。

「はい、行きましょうね」
「あ、あの浩介さん。どこに連れて行くおつもりで?!」

僕は律の腕を引っ張り先ほどまで僕が入っていたスイカの横の穴に入れた。

「ま、まさか」
「そのまさかだ。恐怖のスイカ割りパーティーと洒落こもうじゃないか。ククク」

僕は笑いながら、青ざめた表情を浮かべる律に告げた。

「あ、あの浩君?」
「あん? 何かよう?」
「い、いえ。なんでもないっす!」

唯の呼びかけに、僕は振り返りながら訪ねると肝心の唯は首を横に振った。

「斬るのは……こいつだな」

僕は格納庫から一本の剣を取り出した。

「ちょっと、それ真剣じゃないよな?!」
「………もちろん」
「今の間はなんだ!」

僕の返答に、律がツッコミを入れた。
ちなみに、完全に真剣だ。

「それじゃ、行くぞ」
「ちょ、ちょっとまっ―――」

僕は剣を持つ手に力を込める。

「一刀……両断!」
「うわああああ!?」

離れた場所からスイカにめがけてて剣を振り下ろした。
斬るのは剣先ではなく一種の衝撃波のようなものだ。
スイカに向かって放たれた衝撃波は狙い通りにスイカの方に向かい、やがて人数分にスイカを切ることができた。

「おーっ」

そんな僕に拍手を送る梓達。

「さあ、食べよう!」
「わ―い♪」

僕の言葉に、唯は両手を上げて喜ぶとスイカの方へと向かった。

「あの、私を出してくださいませんか? 浩介様」

そんな中、わざとらしい態度で律が僕に頼んできた。

(まあ、僕と同じような恐怖心を味あわせることができたんだし、いいか)

僕は無言で指を鳴らす。

「もう動けるから、出るのはご自分で」
「お、本当だ」

腕が動くようになったのがわかったのか、律は砂の中から腕を出すと這い出るようにして出てきた。

「何をするんだよ!」
「冗談でも、強引にはやるべきではない……いい教訓になっただろ?」
「……大変失礼しました」

僕の言葉に、律が項垂れることで、僕の勝利は確定した。
僕は律にスイカを手渡した。

「どうも」

そして僕たちはスイカを口にするのであった。
ちなみにスイカはとてもみずみずしくておいしかった。

「そう言えば、澪は……って、まだ逃げてる」

澪の分のスイカがあるので、渡そうとしたが、澪はいまだに逃げ続けているのか耳を押さえて走っていた。

「………保冷魔法でもかけておくか」

僕はとりあえず保冷魔法をかけてスイカが腐らないようにしておくのであった。
そのあとも色々と遊びつくした。
海では唯が再び海藻を見つけたり、浜辺の日陰となっているところでアイスを食べたりした。

「浩君、頂戴」
「ダメ」

唯がアイスを狙ってきたが、僕はそれを一蹴した。

「あずにゃん」
「ダメです」

梓の方にも向かったが、梓も即答で断った。

「二人のケチ」
「ケチとかじゃないと思うぞ、唯」

口をとがらせる唯に、律がそれとなくツッコミを入れた。
アイスを食べ終わった後は、前回恒例(?)の唯をモデルにしたアートなどをしたりした。
今年はナイスボディだった。
そして、実際にその通りになった。
どういう意味なのかは絶対に言わないが。

「作り出したら止まらなくて」

照れたように頬をかくムギの横には大きな砂の城が立っていた。

「す、すごいです」
「こんなにすごいのをよく作るよな」

もはや一つの芸術作品の域にまで達している砂のお城に、僕は首をかしげるのであった。
そんな楽しい時間はあっという間に問題なく過ぎていく。
とはいえ、問題があるとすれば、

「あわわわわ」

先ほどから、某数世代にわたって盗んでいる3世代目の人のごとく逃げ続けていた澪だろう。
疲れたのかどうかは定かではないが、地面にうずくまり耳に手を当てて震えていた。

「澪」
「あ、あははは……私としたことが――――」

律に声を掛けられたことで正気に戻ったのか、誤魔化すように笑いながら立ち上がり声を掛けた律の方に振り返る。
そこに立っていたのは、海藻を頭にかぶった律だった。

「…………」
「み、澪!?」
「澪ちゃん、しっかり!」

律の姿に驚きを通り越して気を失って後ろ向きに倒れる澪に、僕たちは慌てて駆け寄った。
結局、澪が目を覚ましたのはそれからしばらく経った時だった。










「うはぁ……疲れた」
「遊んだー」

一通り遊びつくしたのか、浜辺に背中を合わせて座り込む律と唯が言葉を漏らした。

「練習はどうするんだ?」
「明日でいいや」

手を横にあてながらの澪の問いかけに、律は間の抜けた口調で答えた。

(というより、今年は忘れてなかったんだ)

「やっぱり最初に練習をしておくべきだったじゃないですか」

どうでもいいことを考えている中、僕たちの前に呆れたような口調で言う梓が現れた。
その言葉はすごく説得力があった。
とはいえ、

「梓だって、いっぱい遊んだじゃん。真っ黒になって」

肌が黒く焼けていなければの話だが。

「っ!? 私は練習をするもん」

(”もん”って……時より梓の口調がおかしくなるよな)

敬語を使い忘れたりするところがまた、人間味があっていいと思う。
何となくではあるが、来年の新入生の勧誘はいろいろな意味で苦労しそうだと感じた瞬間だった。

「ははん。それじゃ、一晩中?」
「~~~、するもん!」

律の言葉に頬を赤くした梓の叫び声が、青空へと響き渡るのであった。

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