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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第54話 理想談義と恒例の

あの魔界騒動から少し経ったある日のこと。

「浩介―!」
「ん?」

気が向いて散歩をしている僕に掛けられるよく知る人物の声に、振り向くと、手を振っている律の姿があった。

「こんなところで何をしてるんだ?」
「それはこっちのセリフだって。浩介こそ何をしてるんだよ」

今いる場所ではあまり見かけないだけに、不思議に思った僕の問いかけに、律が聞きかえしてきた。

「散歩」
「実に分かりやすい答えどすな」
「で、そっちは?」

律の演技じみた話し方をスルーしつつ、僕は律に尋ねた。

「私も、ぶらぶら―っと遊んでるところ」
「そう」

(遊ぶって、勉強は大丈夫なのかな?)

ふとそんな疑問が頭をよぎるが、考えるまでもないので、聞かなかった。
ただ一つだけ言えたことは、

(絶対に夏休みの最後の日に地獄見るな)

ということだけだった。
そんなこんなで、ファーストフード店を通りかかった時だった。

「お」
「どうした?」

突然立ち止まって上の方を見上げながら声を上げた律に、僕は問いかけた。

「梓と憂ちゃんだ」
「ん? あ、本当だ」

律に言われた通り上の方を見上げる。
店内で食事をするフロアの窓際の方に、憂と梓の姿があった。
楽しげに何かの話をしている様子だった。

「それがどうかしたの?」

おそらく二人でお出かけでもしていて、その途中にここに立ち寄ったという感じだろう。
僕は、律の言わんとするところがわからずに聞いた。

「突入するぞ」
「……はい?」

律の返答に、僕は耳を疑って聞きかえしてしまった。

「浩介はあの二人の話の内容、気にならないのか?」
「ならない」

律の問いかけに、僕は即答で答えた。
何を話そうが二人の自由なわけで、それに対して一々干渉するのは失礼だ。
まあ、陰口を言われていたらそれはそれでショックだが。

「こうなったらっ!」
「うわ、ちょっと!」

取りつく暇もない僕の様子にしびれを切らしたのか、律は僕の腕をとると強引に引っ張っていく形で僕たちはファーストフード店に足を踏み入れるのであった。

「はいはい、もう分かったから腕を話して」

そしてそのまま二階の方に上っていくところで、僕は降参の言葉を口にした。
もうここまで来て抵抗するのも無駄なように思えtからだ。

「よし、それじゃ誰にも見つからないように慎重に移動するんだ、高月隊員」
「はいはい」

いつから僕はお前の部下になったのかと心の中でツッコみながら、僕達は二階へ上がると窓際の席に座っている二人に見つからないように梓達の後ろ側の席に座った。
何とかバレずに済んだようだ。

「私、澪先輩のようなお姉ちゃんか、浩介先輩のようなお兄ちゃんがほしいかな」
「ッ!?」

梓の言葉に、思わず声をあげそうになるのを必死にこらえた。

「何だか優しくて格好いいもんね」
「うん、それに浩介先輩も何だか頼りになるお兄ちゃんみたいだし」
「だって」

梓の言葉に、律がにやにやと笑みを浮かべながら僕の方を見てくる。

(僕は、そんなに面倒見は良くない)

心の中でそう反論しながら、僕は視線を窓の方に移す。

「それに浩介さん、なんだかんだ言ってもちゃんとやってくれると思うよ。去年の合宿の時にね、お姉ちゃんが着替えるための服を忘れたことがあったの」
「へぇ。それじゃ、皆で戻ったの?」

思い出したように憂が口にしたのは、去年の合宿の際の一件だ。
あれはいろいろな意味で衝撃的だった。
何せ、人に取りに行かせといて自分たちはフルスロットルで遊んでいるのだから。

「ううん。気づいたのは電車に乗った後だったから、戻ったら到着するのがかなり遅れるらしくてね、浩介さんが代わりに取りに来てくれたんだ」
「へぇ……」

感心したように相槌を打つ梓。

「何だか、私の名前が出てこなくない?」
「別にいいんじゃない? 悪い意味で出るよりは」

小声で話しかけられた僕は、同じく小声で返した。

「どうして私は悪い意味限定されるんだよ」
「それは………ねえ」

律の問いかけに、僕は律から視線を逸らした。

「こうなったら……あれで行くぞ」
「何をする気だ?」

妙に力む律に、僕は思わず目を細めながら問いかけた。

「それじゃ、律さんは?」

(せ、声帯模写!?)

律が発した声色は、ほとんど憂とそっくりだったことに驚きを隠せなかった。

「うーん……いい加減で大雑把そうだから律先輩はパス、かな?」

(何気にひどいな、梓)

梓の律に対する見方に、思わず心の中でつぶやいてしまった。

「ほぉ? 誰が大雑把だって?」
「のぉぉぉぉっ!!!」

この日、梓の悲鳴が響き渡った。










「はぁ、疲れた……」
「面白半分に電話するからだ」

ファーストフード店を後にした僕は、疲れ切った表情を浮かべている律に、相槌を打った。
何をしたのかと言えば、梓の『ムギ先輩はお嬢様なんですか?』の問いかけに、悪乗りした律がムギの家に電話を掛けたのだ。
そして電話に出た執事に、しどろもどろになりながらも応対して、無事に電話を切ったのだ。

「でも、本当に執事っていたんですね」
「そう言えば、浩介さんのところはいませんでしたよね?」

梓の言葉にふと思い出したのか、憂が聞いてきた。

「高月家と琴吹家ってどっちがすごいんだろう?」
「比較して何の意味が?」

あまりにも下世話な問いかけに、僕は顔をしかめが鳴ら律に問いかけの真意を聞く。

「いや、ただ単に興味が出たから」
「規模で言えば、向こうが上。ただし、家自体の資産だとこっちの方が向こうの数百倍は上だったと思うけど」

琴吹家は音楽業界で大規模に展開しているため、規模はかなり大きいのが特徴だ。
それに比べて、高月家は一つの世界のみで、限られた範囲のみの展開のため、どうしても規模では向こうより数百分の1と言ったところだろう。
だが、総資産では別だ。
高月家が保有する資産の金額は、数字にすることができないため、圧倒的大差だったはずだ。

「何、そのあべこべな家」
「僕は倹約主義なんだよ。メイドとか執事とか雇わず、自分自身ですべてを行うというのが僕の流儀で。だから、家の中全ての掃除をしようとすると半年はかかるんだよね」
「そ、そうなんだ」

僕の愚痴に、律たちが苦笑しながら言葉を返した。
掃除に関しては切実な問題だったりする。
とりあえず、自分の手の届く範囲は掃除をするように言っているが、忙しさのあまり掃除が滞りがちなのだ。
とはいえ、執事や家政婦を雇う気は全くないが。

「あ、そうでした! 私の家に来ませんか? スイカとかがありますよ」
「行くっ!」

憂による唐突な話題の変更に、律は”スイカ”という単語によって即答で答えた。

(絶対にいつか律は”スイカをあげるからおじさんと一緒に遊ばないか”と誘われて、ついて行った挙句に誘拐されるな)

即答で答える律に、僕は思わず物騒な事を考えてしまうのであった。
そして僕と梓と律の三人で、憂の家に向かうこととなった。

「それにしても、浩介。私たち、どうやって浩介の故郷から帰ってきたんだ?」
「私も全く記憶にないんです。何か知ってますか?」

律の言葉に、梓や憂も続く。
律たちには魔界から帰る日の記憶がすべて消去されている。

『魔界のゲートについていくら被害者といえど、部外者に伝えることは黙認できない』

という父さんの一言が理由だった。
魔界と外の世界をつなぐゲートの管理や来訪者の認証などを行う施設、『入出国管理センター』は、魔界ではトップレベルの機密事項だ。
魔法使いで待階の住人であればまだしも、非魔法使いで、他世界の住人となるとおいそれと足を踏み入れさせるわけにはいかない。
だが、そこを使わなければ外の世界には行けない。
ではどうすればいいか。
その結論として挙げられたのが、全員の記憶を消去することだった。
その際、僕にも同様に記憶を消すようにお願いしたのだ。
理由は自分にもよくわからない。
もしかしたら、自分だけが覚えていることに罪悪感を感じたからなのか、それとも自分も同じように記憶を消されることで罪滅ぼしでもしようとしたのか。
今でもわからない。
できれば前者であってほしいと思いたい。

「さあ……僕も覚えてない」

そんなことを考えながら、僕は三人に答えるのであった。










「ただいまー」
「「「お邪魔します」」」

平沢家に戻った僕たちは、憂がさりげなく出したスリッパをはくと階段を上がっていく。

「お姉ちゃん、律さんに梓ちゃんと浩介さんが来たよ」
「スイカ……」
「唯はスイカじゃな――――」

上にいるであろう唯に声を掛ける憂の後ろで食べ物の名前を口にする律にツッコみを入れていた僕は、目の前に広がる光景に言葉を失った。

「お~か~え~り~」

そこにいたのは扇風機の前で床に寝そべりうちわで扇いでいる唯の姿だった。

『…………』

その光景に、僕たちは言葉を失っていた。

(何だか、横の方からものすごく場違いなオーラが感じるんだけど、気のせいかな?)

ほっこりというかうっとりというかそんなオーラが流れてくる。

(まあ、見え方は人それぞれとも言うし、別にいいか)

僕はそう自分に思い込ませることにした。





「よし、これで夏休みの課題は終了っと」

夜、自宅に戻った僕は夏休みの課題をすべて終わらせることができた。
まだ8月には入っていないが、早めにやっておくに越したことがないだろう。
何せ、去年の一件がある。





それは、昨年の8月31日の午前9時のこと。

『浩君! 助けて!!』
「どうした!? 何があったんだ!」

電話口でいきなり告げられた唯のSOSニ、僕は慌てて唯に事情を聴く。

『宿題が終わらないの~!』
「は?」

電話口から聞こえた内容に、僕は耳を疑った。

『だからね、宿題がいっぱいあって終わらないんだよ!』
「一杯って……そんなに多く無いぞ。一体何をやってたんだ? 今まで」

再び電話口で説明するに、僕は疑問を投げかけた。

『え? それはね、アイスを食べたり家でゴロゴロしたり、ギターの練習をしたりー、えっとそれから……』

唯の口から出てくるのはいずれも遊び(もしくは楽器の練習など)のみだった。
それを聞いた僕が言えたのは、

「勉強しろよ」

だけだった。





「結局、夏休みの課題の6割を僕がやる羽目になったんだよね」

去年のことを思い出しながら、僕は固まった筋肉を伸ばしてほぐしてから立ち上がる。
できれば、去年のようなことは起こらないでほしい。
というより絶対に。
変に憂鬱な気分になりかけているのもあれなので、明るい話題の方に考えをめぐらせることにした。

「そう言えば、合宿をやるんだっけ」

軽音部では去年に引き続き、今年も合宿を行うらしい。
今年は3泊4日の予定で、八月の上旬を予定しているとか。

「また、唯が寝坊したりして」

それだけは一番当たってほしくないことだった。
今年は新入部員梓を加えた合宿だ。
合宿を通じて、距離を縮めるのもいいだろう。
縮めると言っても、関係を良好なものにしていくことでいい音が出せるということであり、そういう意味ではない。

「って、僕は誰に弁解してるんだ?」

最近自分がおかしいのではないかと感じてくることがある。

(まあ、いっか)

深く考えずに、僕はそれで話を区切った。

「合宿か……」

そして考えるのは合宿のこと。

(僕も何か唯たちにプレゼントをしたいな)

皆には色々な感謝の気持ちがある。
プロのギターリストだと知っても顔色を変えずに今まで通りに接してくれたこと、僕という存在を認めてくれたこと。
そのお礼をしたいと思った。

「問題は、何をプレゼントするか……か」

あいにくと、僕は女子にプレゼントを渡したことはない。
一応妹はいるが、妹の好みは確実に普通の女子とはかけ離れたものとなっているので、参考にするのは無理だろう。

「となると、物はダメか」

下手に変なものを送ればすべてが台無しになるだろう。

(物以外で、僕にできるプレゼントと言えば……)

「あった」

僕はそれを思いついた。
おそらく、これが僕にできる一番のプレゼントだ。

「でも、これをするには皆の協力が必要だよね」

思いついたそれは、僕一人では決してできない事だ。
少なくともあと数人は必要だ。

「よし、ダメもとで皆に訊いてみるか」

僕はそう思い立つと、携帯電話を手にしてそのままある人物たちに電話をかけていくのであった。










「良かった、みんながOKしてくれて」

ある人物たちに電話を掛け終えた僕は、携帯電話を机に置いてほっと胸をなでおろした。
最初は拒否されるかと思ったが、二つ返事でOKだった。

「まあ、これで僕の練習時間が倍増になったけど」

そればかりは仕方がないかと割り切る。

「まずは、楽譜のデータを起こして人数分用意しよう」

そして僕はみんなに贈るプレゼントを用意するべく動き出すのであった。
こうして、ゆっくりとではあるが合宿に向けて僕たちは動き出すのであった。

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