健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第55話 買い出しと合宿

8月に入り、暑さもピークに達してきたこの時期。

「おはよっす」
「おはよう、浩介君」
「おはよう、みんな」

先に部室に来ていた僕に、挨拶をしてくる唯とムギに、僕は先ほどまで読んでいた本(魔導書)を閉じながら応じた。
魔法使いであることがみんなに知られる前は、堂々とに読むことはできなかったが、今ではこうして堂々と読むことができるのはある意味いいことかもしれない。
とはいえ、魔法のことを知らない人から見れば、ただの意味不明な文字の羅列にしか見えないので、誰も魔導書とは思わなかったりするが。

「あれ、何読んでるの?」
「魔導書と言って、辞典の魔法使い版」

閉じられた本を興味深げに覗き込む唯に、僕は分かりやすく答えた。

「読んでいい?」
「どうぞ」
「あ、私も見る!」
「それじゃ、私も」
「私も~」

唯日本を渡すと次々に人が集まり、結局唯たち全員が本を覗き込むこととなった。

「詠めればだけど」
『うっ……』

僕が言い切った瞬間、全員が本の内容を見て、固まった。

「これ、何語?」
「僕の故郷で使われる文字。皆には絶対に読めない」

僕は唯から本を受け取りながら答えた。

「故郷の方は、言語は日本語が主流だけど、文字は故郷独特のものだから」
「そうなんですか。すごいですね」
「それはともかく、さっさと部活動を始めるぞ」

感嘆の声を上げる梓の言葉を退けて、僕は練習を始めるように促した。

「あ、ちょっと待って」
「どうかしたのか? 律」

準備を始める僕たちを止めた律に、澪が疑問を投げかける。

「合宿のことをさわちゃんに伝えに行ってからでもいいか?」
「別に僕は構わないよ。顧問だし、良くいかないにもかかわらず伝えておいた方がいいと思う」
「私も。というより、言わないと怒ると思う」

僕の意見に、澪と梓にムギも賛成してくれた。

「それじゃ、ちょっくら伝えに行ってくるわ」
「あ、それじゃ私もー」

部室を後にする律の後に続くように、唯もついて行った。

「とりあえず、準備だけは進めよう」
「そうですね」

残された僕たちは、演奏の準備をしながら律たちが戻ってくるのを待つのであった。
程なくして、律たちは戻ってきた。

「先生なんだって?」
「面倒くさそうな顔をしてたから多分行かないと思う」

部屋に入ってきたときの不機嫌そうな表情で何となくわかってはいたが、やはりNoだったようだ。
山中先生が合宿の本当の姿を知った時、どういうりアクションを取るのかが実に興味深い。

「全く、誘わなければ怒るくせに誘ってもああなんだから」
「まあまあまあまあまあまあ」

ぶつぶつと文句を口にする律を必死になだめるムギ(ちなみに6回だった)の奮闘の甲斐もあって、機嫌を取り戻した律によって、練習は始められた。










一通り練習+α(この”α”が何を差しているのかは想像に任せる)を終えた僕たちは、片づけをしていた。
西日が部室を照らす中、僕はギターの弦の手入れをする。
手入れと言ってもただ弦をふくだけだが。
とはいえ、これが何気に重要だ。
これをしないと弦がさびやすくなってしまうからだ。
弦がさびるとどうなるかは、前にも言ったとおりだが、演奏中に切れてしまうのだ。
もちろん、拭けば絶対に錆びないということではない。
どうしても弦というのは錆びついてしまう。
だが、その速度を少しだけ緩めることができる。
ギター自体にも定期的にメンテナンスをしたりすれば、もっといいだろう。
閑話休題。

メンテナンスをしている中、律が突然立ち上がった。

「よし! 久しぶりに全員そろった事だし、合宿の買い出しに行くか!」
「賛成!」
「おー!」

そんな律の提案に、全員が賛成の声を上げた。
それに続くように僕も手を上げえ、賛成に票を入れる。

(というより、この買い出しってどう考えても、あれだよね)

僕は、何となくではあるが律たちが何を買おうとしているのかがわかってしまった。
何も知らずに賛同している梓に本当のことを言ってもいいのだが、夢というものはできる限り長く見させてあげたかったので、僕は心の中に留めることにした。





そんなこんなで、僕たちは商店街の方にやってきた。
先頭は唯に律とムギが横一列に並び、その後ろを僕と梓と澪という形でこれまた横一列に並んで歩いていた。

「ところで、買い出しというのは新しい機材とかを買うんですか?」
「軽音部に新しい機材を買う余裕はないです。ええ」

嬉々とした様子で澪に問いかける梓に、僕は即答で否定した。

「え? それじゃ、何を買うんですか?」
「えっと……」

困惑した様子で再度澪に問いかけると、澪は梓から視線をそらして言葉を濁した。
そんな時、目的地に到着したようで、先頭の三人の足が止まった。
そして、カジュアルショップを指差して

「水着だよ」

と、自信満々に唯が告げた。

「遊ぶ気満々!?」

唯の答えを聞いた梓は、驚きをあらわにした。

「こんなことだろうと思いました」

がっくりと項垂れながら話す梓の背中には哀愁が漂っていた。

「ま、まあ、ずっと遊ぶわけじゃないから」
「信用できないです!!」
「な、なぜ!?」

律のフォローに頬を膨らませてだ限する梓に、律が後ろに下がりながら声を出した。
まあ、当然だけど。

「でも、息抜きは大事だと思うし、な?」
「そうですよね……大事ですよね」

そんな梓に、澪がフォローすると梓は先ほどとは打って変わって納得したように頷いた。
そして澪が頭をなでると梓は嬉しそうにそれを受け入れる。

「この差はいったいなんだろう?」
「日ごろの行い」
「君には遠慮という言葉はないのかね!?」

律のボヤキに、真実を告げるとそんなツッコミが返ってきた。
僕はそれに肩をすくめて応じた。
結局、この後皆は水着を買いに向かい、僕は外で待つこととなった。

(本当に大丈夫なのかな? 合宿)

合宿まで残すところ数日。
一株の不安を抱えながらも、僕は軽音部合宿の前日を迎えることとなるのであった。










「あ、電話だ」

夜、合宿に向けての支度をしていると、携帯電話が着信音を鳴り響かせることで着信を告げた。
僕は、支度している手を止め、携帯を手にすると着信ボタンを押して電話に出た。

「はい、高月です」
『田中だ』

電話の相手は田中さんだった。

『この間頼まれていた件だが、都合がついた』
「いつですか?」

僕は田中さんに日付を尋ねる。

『そっちの合宿の二日目だ』
「二日目ですね。分かりました」

僕は忘れないようにメモ帳にメモを取った。

「田中さん、無理なお願いを聞いてもらってすみません」
『気にするな。俺も一度会って話してみたいと思ってたからな。ちょうどよかった』

田中さんにお礼を言うと、田中さんは軽快に笑いながら返事をしてくれた。

(一体どんな話をするつもりだろう?)

そんな不安を感じてしまった。

「それじゃ、また明後日に」
『ああ』

そして僕は電話を切った。

「二日目……か」

やはり初日は無理だったかと、肩を落とす。
H&Pのスケジュールは8月をピークに入れられている。
音楽番組への出演と演奏に、バラエティまで様々だ。
もっとも後者の番組は僕は出ないが。
バラエティなどは、僕が一番苦手なジャンルだ。
何せ、音楽以外で話をしていく必要もあるからだ。
話せないこともないが、確実にぼろが出てしまう可能性がある。
そのために、僕はバラエティだけは出演を辞退して、ほかのメンバーだけの出演としていたのだ。
そして合宿の時期がちょうど、そのバラエティ番組の収録日だったのだ。
そのため、スケジュールの方を調整してもらった結果が今のとおりだったのだ。
僕が皆に頼んだ内容。
それは

「皆の曲を演奏するんだから、失敗はできないよね」

軽音部で演奏した『ふわふわ時間タイム』などの曲をメドレーにして演奏することだった。
それが、僕にできる贈り物だった。
既にメドレー用の楽譜も完成しており、練習もこれまでたくさんしてきた。

『こんなもんだろう』

という田中さんの意見が出たのはつい数日ほど前のことだった。
後は本番でうまく演奏をするだけ。
コンクールとかよりも緊張するよな、これ。
全くあべこべな状況で緊張する自分に苦笑しながら、僕は再び支度の方に取り掛かる。

「まあ、いい演奏ができるようにしますか」

僕はそう自分に告げるのであった。
そして、いよいよ合宿当日を迎えた。










翌日、待ち合わせ場所である駅で僕たちは待っていた。
いまだに来ていない、唯を。

「ちゃんと来るよな?」
「信じるしかないだろ」

澪の不安そうな問いかけに、僕はそれしか言えなかった。
去年の一件もあるので、大丈夫とは言えなかった。

「おはよー」
「お、今度は寝坊しなかったな」

そんな僕たちの前に、唯が現れた。

「今日の私は違うのです!」
「忘れ物は?」

”ふんすっ!”と、自信満々の様子で胸を張る唯に、僕は問いかけた。

「大丈夫! 行く前に確認してきましたっ!」
「よぉし、それじゃ、行くぞー!」
「「おー!!」」

唯の答えを聞いた律は気合を込めて腕を上げると、二人もそれに倣って腕を上げた。
そして僕たちは電車に乗って今回の合宿場へと向かうのであった。





『おぉぉ~~』

合宿する場所に到着した僕たちは、その建物を見て感嘆の声を上げた。
石垣の上に立っている別荘は、去年の別荘よりもかなり大きかった。

(これまたでかいな)

思わずそんな感想を心の中で口にしてしまうほど大きく見えた。

「ここが前に言っていた、借りることのできなかった別荘?」

そいえば、去年そんなことを言っていたなと思いだしながら、僕はムギの答えに耳を傾ける。

「ううん。そこは今年もダメだったの。高月君の家と比べて狭いかもしれないけど、我慢してね」

(ま、まだ上があるんだ……というより、僕を引き合いに出さないで)

項垂れながら僕は心の中でムギにツッコむ。
ちなみに、唯たちは唖然としていたが。
とりあえず、別荘内に荷物を置くことにした僕たちは、ムギが先導する形で別荘内に足を踏み入れた。
僕の寝室は、他のメンバーとは別だ。
当然だけど。

「ねえ、浩君も一緒に寝なくていいの?」
「い・い・の! というより男女が同室で寝るなんてまずすぎるだろうが。というよりそっち側が嫌でしょ」

少しだけ広い広間に、荷物を置く僕に今回で3度目の問いかけをしてくる唯に、僕は毅然とした態度で応えた。

「私は気にしないけど」
「私も~!」
「私もよ」
「わ、私はちょっと……」
「私も」

構わないと告げる律に唯とムギの三人とは対照的に、頬を少しだけ赤らめて恥ずかしげにこちらを見てくる梓と澪が反対を告げた。

「な?」
「まあ、仕方がないか」

律が渋々と納得したことで、僕はみんなとは違う部屋で寝ることとなった。

「でも、もし修学旅行とかで、同じ部屋に泊まることになったらどうするんだよ?」
「まず第一に、そんなことを学校側が許さないし、することはないと思うから考えるにも値しないぞ、澪」

律の一生ありえない内容を想定した問いかけに、僕は澪が考えるよりも早く突っ込みを入れた。

「ノリの浩君ノリが悪いです」
「あれが反抗期というものですわよ」
「誰?」

二人の演技じみたやり取りに、ツッコみをいれながら、僕は荷物を置いていく。










「遊ぶぞーー!!!」
「おーっ!!」

それからしばらくして、部屋を出ると入口の方から二人の声が聞こえてきた。

「うぉぉぉぉいっ!! 練習をするんだっ!」

入口の方にたどり着くと、握り拳を作りながら叫ぶ澪の姿があった。

「ぶーぶー」
「遊びたい!」

そんな澪に不満げに頬を膨らませて反論する律と唯は、しっかりと水着を着て浮き輪まで持っていて遊ぶ気満々だった。

「それじゃ、多数決にしよう。練習がいい」
「私もです!」

いつの間にか来ていた梓も練習へと票を投じた。

「遊びたいでーす」

梓と一緒に来ていたのか、二人の後ろにいたムギも遊びの方に票を入れた。

「まさかの裏切り!?」
「浩介先輩はどうですか?」
「浩君も遊びたいよね?」

一気に浴びせられるみんなの視線。
僕の応え次第で、練習かそれとも遊ぶかが確定する。
ある意味責任重大だった。

(今練習をすると言って明日も練習をするか?)

僕は自分に疑問を投げかけてみた。
その答えはもちろん

(無理だよね)

だった。
おそらく律たちは”昨日は練習したんだから今日は遊ぶ!”と言い張るだろう。
だが明日は田中さんたちが、演奏などをするためにここまで来てくれることになっている。
そんな日に遊んででもいたらどうなるか、恐ろしくて考えたくもしたくなかった。
それならば、僕が出す答えはもう決まっている。

「遊びに一票!」
「ぃよっしゃあ!!」
「やったー♪」

僕の返答に、律と唯が歓声を上げる。

「う、裏切られた?!」
「ショックです」

そして、却下された練習の意思を出していた二人は肩を落としていた。

「大丈夫大丈夫。あの三人は明日練習で地獄を見ることになるから」
「本当ですか?」

僕の言葉に不安げに訊いてくる梓に僕はしっかりと頷いて答えた。

「それじゃ……」

渋々と承諾した二人は、着替えると言って戻っていった。

「僕も水着に着替えてくるから待ってて」
「合点です!」

律に待っているように告げてから僕は水着に着替えるべく、宛がわられた部屋へと向かうのであった。

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