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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第9話 特訓!

それは6月に入り衣替えも済んだある日の放課後の事。
その日はムギさんは用事があるとのことで休むとのことだった。
よって僕たちは、唯にギターを教えることにした。

「ギターの弦って細くてかたいから、指を切っちゃいそうで怖いよね」
「そうだぜ。気を付けないと指がスパッと切れてちがどばーっと―――」

ギターの弦を適当に弾きながら呟く唯に、律が相槌を打っていると澪の悲鳴が響き渡った。

「い、痛い話はダメなんだ」

耳を押さえて蹲りながらそう答える澪。
彼女の苦手な物を知ってしまった。

「大丈夫だよ。指は切れてないから」

怯える澪に、唯は澪のそばまであっゆみよると自分の左手の指を澪に見えるように広げた。
それで大丈夫だと分かった澪は立ち上がると、誤魔化すように咳払いを一つする。

「まあ、練習しているうちに指先が固くなってくるから、切れることはないよ」

そう言って自分の手を唯に差し出す。

「お、本当だ。プニプ二~」

そう言いながら澪の手の指を揉む唯。
澪の顔が徐々に赤く染まって来ていた。

「もう、いいかな」
「何をやってんだ? お前達」

黙って見ていた僕は、そう尋ねずにはいられなかった。










気を取り直して、ギターの練習を始めることにした。
澪の差し出した教本を使い、ギターのコードを覚える事から始める。
教本を受け取った唯は適当に開かれたページを見て、固まる。

「まずは楽譜の読み方から教えてください」
「「そこから!?」」

思わずズッコケそうになるのを堪えた。
この日は、楽譜の読み方と簡単なコードの勉強で部活は終わった。
帰りは途中まで皆が同じ通路であることもあり、途中までは一緒に変えるのが当然となっていた。
学校を出て少し歩いた辺りにある信号機が分かれるポイントだ。

「それじゃあな」
「また明日」
「さようなら」

僕と唯は信号機を渡って帰路に就く。
その最中唯は、ずっと唸り続けていた。

「それじゃ、僕はここで」
「あれ? 浩君の家じゃないよね?」

食品が打ってあるスーパーの前で別れることにした僕に、唯が聞いてくる。

「当り前だ。夕食の買い物。そろそろ切れかけていたから」
「そうなんだ。ねえ浩君、どうすればコードを覚えられるかな?」

唯が頷いたのを確認して中に入ろうとした僕を止めるように唯が聞いてきた。

「コードを抑える指使いでもやっておけ」

簡単な事を聞いてきた唯に、至極尤もな答えをする。

「やってみる。じゃあね」
「ああ、またな」

色々と不安を覚えるが、取りあえず食材の買い足しの方を済ませるのであった。










「ふぅ、今日も夕食は美味しかったな」

今日は気合を入れていつもより豪勢な料理のラインラップだった。
皿洗いも終わり、今日の復習をするべく自室へと向かおうとした時だった。

「ん? こんな夜遅くに誰だろう」

突然鳴り響く来訪者を告げるチャイムに、僕は首をかしげると玄関の方に向かう。

(この気配って)

ドアの先の方の気配を感じ取った僕は、それに覚えがあったため、ドアを開けた。

「中山さんに荻原さんそれにみんなまで」
「やあ、突然悪いね」

気さくに言うその手には手土産かケーキ屋の箱があった。

「お邪魔いたします」
「邪魔するぜ」
「お邪魔します」

さらに続く様にして荻原さんに短めの金髪に眼元が鋭いために、威圧感を覚えさせる男性が田村たむら 竜輝りゅうきさんと、短く切りそろえられた黒髪に柔らかい目元という金髪の男性とは正反対の人物が太田おおた まもるさん。が後に続く。
取りあえず全員をリビングの方に通すことにした。

「それで、どうしたんですか? 皆さんお揃いで」
「要件は二つ。まずはライブの打ち合わせだ」

田村さんが本題を切り出すと、持っていた黒のカバンから一枚のチラシを取り出した。
そこには『DK復活記念ライブ』という名前がつづられていた。

「出来ればH&P復活ライブの方がいいと思うんですが」
「もう、これで確定したから修正は無理よ」

どうやらタイトルはこれで確定のようだ。

「えっと、日時は……って、あと三週間弱しかない!?」

もう驚きっぱなしだ。

「一応俺達の方で曲目は考えてあるが、こういう形で行く」

ライブの曲順が記された紙を中山さんから受け取ると、僕はそれに目を通していく。

1:Leave me alone
2:Devil Went Down to Georgia
3:only for you
4:Darling……Kiss immediate
5:Through The Fire And Flames

「最初は簡単な曲で、デビュー曲を織り交ぜつつ高難易度曲で締めくくる……さすがですね田村さん。曲の構成はこれでいいです」

特に問題はなかったため、僕は紙を中山さんに返す。
曲順などの構成を決めるのは、主に田村さんの役割だが今までで失敗したことはそれほどない。
音楽ゲームで使われた楽曲『Leave me alone』から始まって、カバー曲のみで構成されているラインラップではあるが、僕たちの歴史を思わせる物としては十分であった。

「でだ、ここからが本題」
「はい」

嫌な予感がした。
この間の荻原さんの言葉からして、出てくる言葉はもう限られていた。

「これからお前の腕を見極める」
「分かりました」

そう、これは田村さんの”試験”だ。
僕は素早く立ち上がると、テーブルや椅子を横にずらし、カーペットをめくって行く。
すると、隠し扉が床に現れる。

「本当にどういう構造をしてるんだい? ここは」
「あはは」

中山さんの呆れたような言葉に、僕は苦笑しつつも扉を開ける。
そこから先は石造りの急な階段が姿を現した。
そこを僕たちは下りて行く。
薄暗い階段を降りた先にあるスイッチを押すと明かりがついた。
そこは地下だった。
コンクリートに囲まれた何もないその部屋にはドラムやキーボード、アンプなどが置いてある。
そう、ここは僕たちH&Pのスタジオなのだ。
防音設備十分で、真夜中に大音量で演奏しても外には漏れないぐらいだ。
皆はそれぞれ自分の持っている楽器のスタンバイを始める。

「練習をかねて、全曲通していくので良い?」
「勿論だ」

どうせなら練習もしようと考えた僕に、田村さんはOKと返事をする。

「それじゃ、みんな。準備はいい?」
「ええ」
「当然だ」
「こちらも」

全員が演奏の準備を終えているため、大丈夫と返してくる。
後は荻原さんだけとなったのだが……

「ったりめーよ。どんな曲も完璧に引いてやるぜ! おらー!」

いつもの彼女からは想像もできない威勢のいい言葉に、僕は中山さんと顔を見合わせて苦笑する。
いつもは気弱な女性だが、ベースを手にした瞬間その性格が一変する。
それが今の通りであったりする。

「じゃ、行くか」

田村さんの言葉に、僕はギターを持つと深呼吸をする。
それで僕は気分を切り替えた。
今から僕はバンドH&PのDKなのだと、考える。
軽音部のみんなの事は頭の片隅へと追いやった。

「1,2,3,4」

田村さんのリズムコールが終わるのと同時に、太田さんのキーボードが産声を上げた。
続いて荻原さんのベースと田村さんのドラムが音に命を吹き込む。
次は中山さんの簡単なギター演奏で曲は始まる。
この曲は僕がボーカルを務め、田村さんがサブボーカルとなる。
時より弦を弾きながら歌を紡ぐ。
自分がいる場所は非常に不安定な場所。
いつ何がやってくるかもしれない危険地帯だ。
その緊迫感を兼ね揃えた曲がこの楽曲のイメージだ。
ついにサビだ。
僕は複数のコードを引きながら歌を紡ぐ。
紡ぎ切ったところで、間奏が入る。
ここからは僕のギターテクが問われる。
ベースの音とドラムの音を頼りに、音を奏でて行く。
そして間奏の終わりで音を伸ばし、ビブラートを効かせる。
最後のサビも先ほどと同じ要領でギターを弾いていき一気にフィニッシュへと向かう。
中山さんと合わせて弾き、同時にストロークをして曲は終わった。

「次だ! 1,2,3,4」

次は『Devil Went Down to Georgia』だ。
早めの田村さんのリズムコールが言い切るのと同時に、僕は弦を弾く。
そして始まる曲。
全体的にアップテンポなこの曲の難関はギターソロ。
4,5分速いテンポでギターを弾き続けたところで、やってくるこのソロが、最大の山場だ。
歌が途切れる箇所では難易度の高いギターのテクニックを求められる間奏もギタリスト殺しと言われる一因だ。
その箇所は、僕と中山さんの演奏バトルのような感じで交互に弾いていく。
そして、全ての音が消えた。
その間、僅か1秒。
それはソロ開始の合図。
最初はゆっくり目で簡単な音を。
だが、徐々に悪魔が牙をむく。
テンポは一気に早まり、音は小刻みになって行く。
複雑なコード変更をしながらも嵐を乗り切る。
ただ乗り切るのではない。
この嵐すらも自分だというのを表現しなければならない。
ソロも最終局面だ。
徐々に晴れて行く嵐の様子に希望を見出した僕は、総会であることを表現するべくピックを振り下ろすことでソロパートは終わった。
後は比較的簡単なパートの為、見事に演奏をし終えた。
その後も3,4曲目を演奏し終えいよいよ最終楽曲を迎えた。
曲名は『Through The Fire And Flames』
先ほど演奏した曲にはやや劣るものの、かなりの高難易度の曲だ。
約7分間、腕を休める場所がないのだ。
つまりはギターをずっとストロークし続けなければいけない。
それも小刻みだったり大振りだったりと、一定ではないのが難易度を上げる。
さらに難易度を釣り上げる要因としてあるのが、3秒ほどの空白の後に訪れる間奏だ。
先ほどのソロほどではないが、非常に小刻みなストロークに素早いコード変更を求められる。
それが2分間にも及ぶことが、最たる理由だ。
しかもここでも曲のテンポが一気に上がる。
だが、弾ければ得られる者は非常に大きい。
弾き切った瞬間に浴びせられる拍手は心地いいのだ。
しかも、この間奏では一つのストーリーも出来上がる。
ある人は『桃太郎』を、またある人は時代劇で悪者を退治していく人の戦う話など。
内容は様々だが、そう言うのを提供できるあたりが、僕自身がこの曲を好む理由の一つだ。
間奏を終え、やってくるのは小刻みなストローク。
だが、ここでも罠がある。
最後の最後で速弾きをしなければいけなくなるのだ。
その速弾きも終わり、曲はきれいにしまった。

「よし、完璧だ。この数年間腕は鈍っちゃいねえな」
「ありがとうございます」

曲がすべて終わり顔中に浮かべた汗をタオルで拭いながら感想を言う田村さんに、僕はお礼を言う。
やはり、褒められるのは嬉しい物だ。

「だが、もう少し練習をする必要がある。ということで、明日から毎晩練習をする」
「え゛?」

田村さんの宣言に、僕は顔をひきつらせているだろう。
一応、僕には学業という物があるので、それをやられると成績に影響が出る。

「まさか嫌だとは言わないよな? これはお前への罰だ。留学とかでいきなり外国に行きやがって。俺達がどれだけ驚いたか知ってんのか!」
「…………」

田村さんの罵声に、僕は何も言えなかった。
イギリスに行く際、その寸前までみんなには相談していなかったのだ。
それには色々と訳があったのだが、それは言い訳に過ぎない。
皆に迷惑をかけたのは紛れもない事実なのだから。

「勿論、夕食面に関しては俺達がサポートする」
「分かりました。みんなこんな僕だけど、これからもよろしくお願いします!!」

そう言って頭を下げると、皆は当然と返してくれた。
こうして、僕にとっての練習地獄は幕を開けるのであった。

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