健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第10話 試験乱舞

あの見極めの試験から、毎晩ライブに向けての練習が始まった。
とは言っても、音の精度を高めるためのものだったけど。
スケジュールとしては、放課後に部活をやって自宅に戻り、6時ごろにメンバー全員がやってきて夕食をローテーションで作って行く。
それを食べてから3時間みっちりと練習。
その後メンバー全員は帰宅して、僕はお風呂に入り次の日の学校の準備をして寝る。
就寝時間は11時。
もう色々と無理をしている感がある。
学生の本分である勉強がおろそかになっているだけでも、かなり問題ありだ。
そんな日々が続くある日の朝のこと。

「おっす、浩介」
「どうしたんだ? やけにテンションが低いな」

いつもならこれからの季節にはやかましい暑苦しさで挨拶をしてくる佐久間が、まるでこの世の終わりといった様子で挨拶をしてきた。

「明日中間試験だろ? それが憂鬱で憂鬱で」
「そうか。試験か」

適当に相槌を打ちながら、授業の準備を始める僕だが佐久間の言葉に引っかかった。

「え、明日?」
「そう、明日」
「……………………………」

この時、僕はさぞかし間抜けな表情を浮かべていることだろう。

(い、一夜漬けだけど今夜は勉強をしよう!)

僕はそう心の中で決意した。










そして迎えた試験当日。
正直に言おう。
まったく勉強していない。
それも先日、勉強をしたいので練習は休みたいと伝えたところ。

『あぁん? 何を甘ったれてんだぁ? 練習が終わった後にすればいいだろうが!』

と一刀両断されたのだ。
言っていることはご尤もだったため、練習と相成ったのだが、いざ終わりお風呂に入って出ると時刻はすでに天辺を超えている状態。
さすがに寝ないと遅刻する時間帯だったため、結局無勉強で当日を迎えることとなったのだ。
その後、教室で試験範囲を見て死に物狂いで悪あがきをすることにして試験に挑んだ。










「答案を返却します」

試験から数日後、担任の先生の一言で答案が一斉に返却された。
僕にとってはまるで死刑台に行く囚人のような気分を味わうことになるわけだが。

「なぜ?」

答案の結果を見た僕は、思わずそう呟かずにはいられなかった。










放課後、いつものように音楽準備室を訪れた僕は、自分の席へと腰かける。

「やっとテストから解放された~!」
「高校に入ってから試験が一気に難しくなって大変だったわ」

両腕を伸ばしながら、試験が終わった解放感を感じる律に相槌を打つムギさん。

「ところで、あそこでこの世の終わりと言わんばかりの様子だけど、何があった?」
「あー、彼女はもっと大変そうな奴だよ」

さっきから気にしないようにしていたがこの世の終わりといった様子で呆然と立ちながら、時より気味の悪い笑い声を上げている唯の方を見ながら尋ねるとそんな答えが返ってきた。

「そんなにテストの結果が悪いのか?」
「フ、フ、フ。クラスでただ一人、追試だそうです」

そう言って掲げられたのは数学の答案だった。
点数は………本人の名誉のために伏せておこう。
とにかくひどい状態だった。

「だ、大丈夫よ。今回は勉強の仕方が悪かっただけじゃない?」
「そうだな。次は勉強の仕方を変えれば――」

ムギさんのフォローに乗るように僕がフォローをしていると

「勉強は全くしてなかったけど」
「励ましの言葉返せ!」

唯から衝撃の事実が告げられ、僕の心の声を律が代弁してくれた。
その後、唯の説明を簡単にまとめれば、勉強しようとしたがギターの練習ばかりしていたらしい。

「でもね、おかげでギターのコードを一杯弾けるようになったよ!」

偉いでしょ! と言わんばかりに胸を張って言う唯。

「自慢することじゃないだろ」
「その集中力を少しでも勉強に回せば」
「そう言うりっちゃんと浩君はどうだったのさ」

あ、こっちにまで飛び火。
まずは律が答案をお披露目する。
点数は中々の高得点だった。

「こんなのりっちゃんのキャラじゃないよ」

唯の言うことも尤もだった。

(絶対に裏があるな)

そして高らかに笑っている所に澪が一言。

「試験の前日に泣きついてきたのはどこの誰だっけ?」
「ば、ばらすなよ!」

やっぱり裏があった。
そんな律の肩に手を置き唯が一言。

「それでこそ、りっちゃんだよ」
「赤点取った奴に言われたくはない!」

ご尤もだ。
まるでドングリの背比べ状態だ。

「で、浩君は?」
「僕は試験があることを知らなくてまったく勉強していなかったんだけど……こんな感じに」
「げっ!?」
「全部90点台」

取り出した答案の点数を見た二人が声をあげる。
殆どの科目で90点台を取っていた。
最低点は90点だった。

「おそらく留学していた方のカリキュラムが進んでいたんだろうね。ここの範囲は向こうの方で習ったから」

まさに奇跡だった。
進んだ教育構成に救われる形になった。
しかもここの試験はイギリスよりも断然に簡単だったため、解けるレベルだった。
とは言え、無勉強という不安材料のため、希望的観測をしないでいたのだが。

「そ、それだったらこれも当然だな! うん」

律の顔が引きつっていた。
ちなみに佐久間もこれを見た際に

「べ、勉強しないで……これって」

と固まっていた。
そんな答案返却の一幕であった。










そして別の日。
今日のお菓子は羊羹であった。
和を連想させる逸品だ。

「あ、今日は羊羹」

と、いつもより遅れてやってくる唯は席に着くと羊羹を口にする。

「追試の人は合格点を取るまで部活動禁止だって」
「………………ッ!? ゲホッゲホ!」

驚きのあまりむせた僕は、お茶を一気に流し込んで何とか落ち着いた。

「だったらここにいるのもまずいんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。ここにはお菓子を食べに来てるんだし」

僕の問いにそう答えながら羊羹を口にする唯。

「そうだな、それなら安心……なわけないだろ!!」

もう完全に部活としての形を見失いかけているけど、一応これも”部活動”だ。

「つまり、もし唯が追試で合格しなければ」
「私達は四人だけになって」
「廃部!?」

そして、僕たちは再び廃部の危機を迎えたのだ。

「大丈夫だよ。追試まで一週間もあるからここに毎日来れるよね」

その唯の発言に、僕たちは一斉にズッコケた。

「一週間”しか”ないんだよ!」
「ここには来ないで家に帰って勉強しろ」

律の言葉に続く様に、ため息交じりに僕は唯に言った。

「そうだよね。皆と部活を続けるために、私頑張る!」
「頼むぞ、本当に」

もう最近ため息しかついていないような気がする。
羊羹を食べ終えた唯は、そそくさと帰って行った。

「大丈夫かな、本当に」
「大丈夫だと、信じましょう」

僕のボヤキに、ムギさんがそう相槌を打つ。

「それにしても、どうしてこ、浩介は試験勉強をしなかったんだ?」

ようやくではあるが澪が名前を呼んでくれるようになった。

若干ドモリつつはあるが、あと少しすれば普通に呼べるようになるだろう。

「いや、用事が立て込んでいて出来なかった」

その用事がライブの練習だとは言えない。

「それであんな高得点って羨ましすぎる」
「まあ、ともかくこれで試験から解放――『助けてくれ!!!』ゴホッ!?」

解放したと、新たに注がれたお茶を飲んで一息つこうとした瞬間、部室のドアが乱暴に開け放たれた。
思わず急き込む僕をしり目に、開け放った人物は僕の肩を掴むと思いっきり揺さぶる。

「追試に受からないと放課後補習なんだ! 俺の素晴らしいアフタースクールプランが無くなるんだ! だから助けてくれ~!!!」
「だぁぁ! やかましいんだ、よ!!」
「がふぁぁ!?」

いい加減気持ち悪くなり始めたため、肩を掴む佐久間の腕を振り払い、思いっきり(割と全力でだが)股間を蹴りあげた。

「はぁ、はぁ。死ぬかと思った」
「うわぁ、大丈夫かな。あの人」

何とか落ち着きを取り戻す僕をしり目に、律たちは地面にうずくまっている佐久間の容態を気にしていた。

「あの、大丈夫です――」
「大丈夫です!」

ムギさんが声をかけた瞬間に立ち上がって答えた。
すごい回復力だな、本当に。

「で、こいつ誰?」
「僕のクラスメイトで、一応友人」
「初めまして。佐久間慶介です。よろしく」

僕の言葉に続く様に、佐久間は自己紹介をする。

「私は田井中律」
「わ、私は、秋山澪」
「琴吹紬です。よろしくお願いしますね、佐久間君」
「佐久間君! はぁぁ~」

君付けされただけで昇天したようだ。

「だ、大丈夫か? なんか行ってはいけない方向に行きかけてるが」
「大丈夫なんじゃない」

そんな佐久間の様子に若干引きながら小声で聞いてくる律にそう答えた。

「で、何点だったのさ」
「っと、そうだった。こんなんだけど」

そう言って取り出されたのは4科目の答案用紙。

「うわ、これは……」
「こりゃまた悲惨だな」

それを覗き込む律たちも顔をひきつらせていた。
点数は本人の名誉のために伏せるが、フォローの言葉が出ない。
一つ言えるのは、唯よりもひどい状態だ。

「たのむ! 全科目ノー勉で高得点をたたき出した浩介だからこそ頼めることなんだ! 俺に勉強を教えてくれ!!」
「…………」

佐久間の両手を合わせて必至に頼む姿に、僕は一つ息を吐き出す。

「オーケー。やってやろうじゃないか」
「助かる! それでこそ、わが友だ!」

喜ぶ佐久間に、僕は大丈夫なのかと不安になった。

「ところで秋山さん!」
「は、はい!?」

佐久間の勢いに、澪は後ずさる。
そして佐久間はこう告げた。

「俺とひと夏の甘い思い出を――げばぁ!?」
「やかましい」

ナンパをしようとした佐久間の脳天に全力で拳を振り下ろす。
いきなりそういう事を言える彼には尊敬の念さえ感じる。

(いきなりナンパまがいの事をしたら)

僕は澪の方へと視線を向ける

「――――」

案の定澪は固まっているし。
取りあえず、固まっている澪は律たちに任せて、気絶している佐久間を引きずりながら部室を後にするのであった。

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