健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第12話 勉強!

それはある夜の日の高月家でのこと。

『なんだ、こんな時間に』
「こんな時間で悪かったね」

浩介の部屋には男の声が聞こえていた。

『まあいい。何か問題(トラブル)か?』
「そう言うわけじゃない。ただ父さんの声が聞きたくなっただけ」
『………珍しいことを言うじゃないか。あの(・・)高月浩介が親の声を聴きたいがために連絡をよこすとは』

浩介の言葉に、男……浩介の父親は驚いた様子で答える。
そのやり取りはごく一般的な物だろう。
それは、浩介の手に電話機があればの話だが。
そもそも浩介の部屋には、電話機のようなものは置かれていないのだ。
あるのは携帯電話のみだ。

「からかわないで。こっちだって無性に聞きたくなっただけ何だから」

浩介が話しているのは机の方に向けてだった。
否、正確に言うと”机の上に置かれた、先端に真珠のようなものがつくネックレス”だった。

『ははは、これは失敬』

浩介の言葉に、父親は反省した素振りをみせずに謝る。
そんな父の言葉に浩介は心の中でため息をつく。

『まあ、それはともかく。そっちの”任務”は順調か』
「………あの”任務”を、文字通りに受け取るのであればいまいち。”裏”の意味で受け取るのであればまあまあと言った所」

先ほどまでの軽快な口調はなりを潜め、真剣な声色に変わる。
それを感じた浩介も表情を引き締めて、皮肉を交えて答えた。

「この世界であげられる栄誉は、条件さえ無視すれば簡単に獲得できる。でもそれ以外の栄誉になれば実現は不可能に近い」
『ほう、世界最強が弱音かね?』

”落ちた物だな”と言いたげな父親の言葉に、浩介は首を横に振る。

「そう言うことではない。”明確な基準”がない栄誉は、獲得するにしても個人差があり無理だ。決めるのは人だ。結果ではない」
『そうだ。決めるのは人。勝敗の結果の栄誉など、難しいようで簡単な物さ』

浩介の反論に、父親は肯定する。

『ならば戻るか? 任務放棄で帰還することも可能だが』

父親の試すような問いかけに、浩介は首を横に振る。

「いや、それはやめておこう」
『何故だ?』
「ここは非常にのどかだ。戦争もなければテロもない。空気は穏やかで、まさに楽園(ユートピア)だ。まあ、それが合わないという人もいるが」

意外だと言わんばかりの父親の問いかけに、浩介は苦笑しながら答える。

「それに、僕はここで手に入れたかったものを少しずつではあるが手に入れている」
『財宝か?』
「それよりもすばらしい物だ。学び舎、そして仲間。何億出しても手に入れられないものさ」

浩介の言葉に帰ってきたのは、何とも言いたげな父親のため息だった。

『その様子を見ると、裏の目的は確実に達成されつつあるな』
「ああ。僕は、この世界……高校でようやく手に入れた。ようやく僕の宿願がかなえられたんだ」

父親に嬉しそうに答える浩介に父親は”そうか”と相槌を打つ。

『高校では何か部活のようなものはやってないのか?』
「やっているさ。軽音楽部をね」
『けいお……なんだ、その部活は』

聞きなれない単語だったのか、怪訝そうな声色で問い返す父親に、浩介は苦笑しながら答える。

「大雑把に言ってしまえば、音楽を演奏する部活」
『やはり変わったな浩介。世界最強の男が音楽の世界に飛び込むか』
「人というのはその環境に染まるものだ。尤も人ではなく”生物”と言った方が妥当だろうが」

父親の言葉に、浩介は両手を挙げながら反論すると、徐に立ち上がる。

「”お前の曲は人々を地獄に落とす疫病神のような曲だ”」
『は?』

浩介の口から出た言葉に、父親は生返事で返す。

「とある音楽評論家に言われたことさ。まったくもって的を得ている。音はその人を表すというが、確かにその通りだ」
『そうだな。あの時のお前はまさしく”死神”……いや、生きた”生物兵器”といった所か』

父親からの呼び名に、浩介は顔をしかめる。

「僕は最後の呼び名は嫌いだ」
『そう呼ばれる理由はそっちにある』
「確かに。だが、国を守るためには多少は残忍でなければいけない。話し合いですべてが解決していたら、この世界には”戦争”の概念すらない」

咎めるような父親の言葉に、浩介は反論する。
その言葉にはゆるぎない”何か”があった。

『まだそう言うか。あの時も、お前は経身を守るためという名目で我が国に攻撃を仕掛けようとしたテロリスト数百人を消したが、奴らとて要求を呑めば攻撃はしない旨の連絡をしていたそうではないか』
「はっ! 甘いね。ああいう連中は話し合いに応じる気なんてことさらない。仮にあったところでいつまた狙われるかという恐怖心は国民に根付く。ならば始末した方が安心できるだろう。僕はあの時の自分の対応は間違っていなかったと、今でも胸を張って言える」
『はぁ~』

浩介の非常に辛辣な答えに、父親は諦めにも似たため息をつく。

「まあいいさ。ここでの”任務”を僕は遂行するとしよう」
『……頼むぞ』

力なく答える父親に浩介はため息をつく。

「あの馬鹿はどうだ?」
『あいつならいつも通りだ。お前の所に行きたいと言い張って聞かない』

父親からの答えに、浩介は頭を抱える。

「何が何でも阻止して」
『そのつもりだ』

力ない言葉に、返ってきたのは呆れたような疲れ切ったような声だった。

「あの馬鹿が来れば必ず騒ぎになる。僕の”正体”を知られるのは何が何でも避けたいんだ」
『秘匿は我々の義務だ、それは心得ている。だからこそお前にも”制約”はいくつか与えているのだが……守っているだろうな?』
「勿論守っている」

疑うような声色に、浩介は即答で返す。

「身体能力が高いだけでも緊急回避ぐらいは可能だし、”あれ”を使う機会は全くと言っていいほどにない」
『ならばいい』

浩介の返答に満足したのか、父親はそう言って言葉を区切る。

『さて、そろそろ通信を終えるとしよう。でだ、最後に言っておこう』

父親の伝達事項に浩介は再び席に着くと、背筋を正した。

『あまり危険なことはするな。今のお前は赤子のようなものだ』
「赤子、ね……」

浩介が何かを言うよりも早く声は完全に消えた。

「ふぅ……」

浩介は静かに息を吐き出した。

「父さん、大きな誤解をしている」

その声に返事をするものがいない空間で、浩介は静かに口を開いた。

「確かに、今の僕は赤子のように脆弱だ。でも大丈夫。なにせ……」

浩介はそこで言葉を区切ると、机の上に置かれた先端に真珠のようなものがつくネックレスを手にする。

「僕には世界最強の名に恥じない、頼もしい相棒がいるんだから。なあ、クリエイト?」

その言葉に、まるで呼応するように浩介の手にあるネックレスの先端にある真珠が、一瞬ではあるが淡い光を発する。

「上等」

その光は浩介も確認しており、不敵の笑みを浮かべて呟く。

「さぁて」

浩介は窓に近づくと締め切ってあったカーテンを開けた。
窓から差し込む少しばかり明るい光が、夜明けであることを告げていた。

「徹夜か。上等だ」

不敵の笑みを浮かべるその姿は、まるで戦場に立つ戦士のようなものであった。
そしてまた新たな一日が幕を開けようとしていた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


人間というのは本当に真剣に取り組んでいたりすると日にち感覚がおかしくなるらしい。
それがまた興味深い。
つまり、僕が何を言いたいのかというと。

「は、ははは。追試前日にして、ようやくコーチから解放された」

慶介の物覚えの良さが、僕を救ってくれた。

「なあ、澪。これはさっきから大丈夫なのか?」
「さ、さあ」

ここは軽音部の部室でもある『音楽準備室』だ。
見れば澪たちが僕の方を心配するような表情で見ていた。

「だ、大丈夫? 浩介君」
「だいじょうーぶ~、大丈夫~」
「全然大丈夫そうじゃないよ!?」

自分でも何を言っているのかが理解できない。

「一体どうしたんだ? クマがすごいけど」
「最近色々な野暮用が重なった結果、寝てないだけでーす!」

あ、今度は右手が勝手に動いた。

「寝てないって………何日だよ」
「唯が試験勉強を始めた日から~」
「始めた日って……六日間!?」

そう、あれから毎日放課後は啓介への試験勉強のコーチを、そして家に戻ってはH&Pのライブの練習が待っていた。
練習が終わるのは明け方近くになってしまう。
30分間通しで練習をしたのちに、1時間のミーティング(ここの箇所がダメだ、ここはもう少しこういうノリで行こうなどの話し合い)をしてまた練習を3回ほど繰り返していた。
メンバー全員は昼間に睡眠をとっているらしいが僕にはその時間は学校があるため、寝ることもできない。
そんなこんなで六日間一睡もしていないのだ。

「大丈夫! なんだか楽しくなってきたから~」

僕は床を転がる。
ただひたすらに転がる。

「あたっ!?」

そして、何かにぶつかった。

「お、おい、大丈夫?」
「ぼ、僕は一体何を」

澪の心配した様子の声に、一気に視界がクリアになる。
額の痛みと、目の前にある壁の角を見れば、僕がぶつかった者の正体はすぐに分かった。

「ごめん。何だか今日は思ってもいない事を勝手にしちゃうんだ」
「それって、もう異常だろ」

律がツッコんでくる。
まさしくその通りだった。

「まあ、でも。これで僕はぐっすりと眠れ――「澪ちゃん助けて!!!」――ああ、いたな。問題児が」

部室のドアを思いっきり開け放つ人物に、僕は苦笑を浮かべる。
そして開け放った人物でもある唯は、何事だと言わんばかりに立ち上がった澪に泣きついた。

「勉強してきたんじゃなかったの?」
「出来なかった」

唯の答えに、今まで腰かけていた律は飛び上がるように立ち上がった。

「よし、今夜は特訓だ!」
「ホント!?」

澪の言葉に、唯は嬉しそうに口を開いた。
律によれば一夜漬けの達人らしい。

「ははは。グッバイ、僕の安息睡眠」

対する僕は力が抜けてしまい、床に座り込んでしまった。

「だ、大丈夫? 浩君」
「ダイジョウブ」
「目が危ないぞー」

どうやっても、僕は心配されてしまうようだ。
その後、準備室に備え付けられている洗い場で顔を洗い、眠気を吹き飛ばした僕たちは唯の家へと向かうことになった。










唯の家に向かう途中、両親は出張で不在と唯が告げた。
ただ、妹はすでに帰ってきているらしい。

「それだと、妹に迷惑なんじゃないのか?」

そう尋ねた僕は、思わず唯の妹の姿を思い浮かべてみた。
姉と一緒になって部屋を転がりまくる妹の姿が浮かんできた。
会ってもない人に対する創造にしては酷い物だったため、すぐさま頭の中から消し去った。
ただ言えることは

「大丈夫じゃない?」

だった。










「皆、上がって上がって」
『お邪魔しまーす』

平沢家にたどり着いた僕たちに、唯が促すので家に上がり込んだ。
僕は一番最後だ。

「あ、お姉ちゃんおかえり―」

そして現れたのは、少し前まで話に上がっていた妹さんだった。
髪型が違うだけで、唯と瓜二つ。
もし髪型を一緒にすれば、普通の人には見分けがつかなくなるだろう。
そして、僕たちに気付くと妹さんは僕たちの方に向き直る。

「初めまして。妹の憂です。姉がお世話になってまーす」

そして丁寧なお辞儀ときた。
さらに手際よくスリッパを5つ並べて行く。

「スリッパをどうぞ」

(で、出来た妹だ)

姉である唯との凄まじい違いに、僕は思わず唖然としてしまうのであった。
その後、唯の自室へと案内された僕たちは唯の部屋へと足を踏み入れる。
中は、ピンク色の壁で、本棚や勉強机などが置かれていた。
少し進めば一気に広がり、テーブルやベッドなどが置かれている。
そしてベッドの横にはギターがあった。

「いやー、姉妹でこうも違うとわねー」
「なにが?」

それぞれが腰かける中、律の言葉に唯が首をかしげる。

「妹さんにいいところを全部吸い取られたんじゃないの?」
「酷い!」

涙目になる唯だったが、僕も思っていた。

(人のふり見て我がふり直せ、か。よく言ったものだ)

口には出さないが。

「あの、皆さんよろしければお茶をどうぞ。買い置きのお菓子で申し訳ないんですけど」

そんな時、ノックと共にお茶菓子を手に入ってきた平沢妹に出来た妹だと思ったのは余談だ。
その後、平沢妹と少しばかり話をした(妹が中三であることや、桜ヶ丘を志望していることなど)のち試験勉強を始めることにした。
僕は律の横に腰かけて、その様子を見守る。

「ふわぁ~」

横からあくびをかみ殺す声が聞こえてくる。

(僕だって眠いのを我慢してるというのに)

眠いのではなくただ退屈になっているだけかと、思いながら見守り続ける。
数分して、勉強机の回転いすに乗って回って遊ぶ律。
それに飽きたのか、後ろで何か(おそらく漫画だろう)を取ってそれを手にベッドの上に寝転がると、漫画を広げて転がり始めた。

(人のベッドの上なのに、よく出来るよな)

彼女の図太い神経に、僕は思わず尊敬してしまう。

「ぷはははは!!!」
「だぁー! もう!」

あまりにも騒ぎすぎたため、澪から鉄槌を喰らいベッドから降りて正座する。

「足がしびれた」

その唯の一言に反応した律は、唯の背後に忍び寄ると、唯の足に指を触れさせる。

「ぎゃあああ!?」
「律―ッ!!!」

再び澪からの鉄槌を受けた律は外へと追い出された。
律がいなくなって静かになった部屋の中には、勉強を教える澪の声と、ノートにペンを走らせる音だけが響いていた。
僕は澪側の壁にもたれかかる。
それだけで、段々うとうととしてくる。

「うおぉぉぉ!!!!」

間もなく夢の世界へと飛び立とうとする僕を、無理やり引き上げたのは律の大声とドアを強引に開け放つ音だった。

「とりゃあああッとぉ」

受け身までとるが、はっきり言ってうるさい。
立ち上がろうとする澪を制止して、僕はこの日の為に作っておいた秘密兵器を手に律の方へと歩み寄る。

「おいしょっと、たの――「やかましい!」――へばっ!?」

僕は手にしていた秘密兵器を、律の頭に振り下ろした。
ものすごく良い音が鳴り響く。

「な、なにそれ?」
「ハリセン」

頭を押さえながら聞いてくる律に、手にしたハリセンを見せながら答える。

「どうしてそんなものを」
「女子に拳を振るうわけにはいかないから、これを使う。最も効果がない場合は拳だけど」

このハリセンを作るのにかかった労力は、ほんの数分程度だった。
僕の腕力では、下手すると死人が出かねない。
その為に、こういう手段を取っているわけだが、その点では慶介は本当にすごいと思う。
全力の一撃を喰らってもなお生きてるんだから。

「静かにしてね?」
「はい」

律が頷いたのを確認して、再び勉強は再開するのであった。
そして、僕の意識は再び闇の中へと吸い込まれていった。










「あ………は?」
「も……そ………と?」

暗闇の中、誰かが話す声が聞こえてきた。

「ん……」

その声に、僕は閉じていた眼を開ける。
目を開けると、そこは唯たちがいた。
ここは唯の家だ、それは当然だ。
でも、それだけではない。

「増えてるし!?」

人の数が明らかに増えていた。
赤い眼鏡をかけた黒っぽい髪の少女が、不思議そうな顔で僕を見ている。

「この人が、高月浩介ちゃん」
「真鍋和です。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

色々と言いたいことはあったが、とりあえず自己紹介をすることにした。

「唯、ちゃん付はやめろと言わなかったか?」
「え? あれは”浩ちゃん”の場合でしょ」
「ちゃん付、事態だ! どんな理屈だよ」

言葉足らずの僕も悪いけど。

「幼稚園のころからずっと一緒のクラスなんだよー」
「不思議な縁よね」

まったくだ。
作為さえも感じる。
そんな真鍋さんは、どうやら試験勉強をしている唯に差し入れでサンドイッチを作って持ってきたらしい。
僕たちも、それに舌鼓を打つ。
その最中、唯と幼なじみだからこそ知っていることを、真鍋さんから色々教えてもらった。
内容に関しては唯の名誉のために伏せておくが。
つまりは、それほどあれな話だということだ。
話込んでいくと、時間はあっという間に過ぎてしまう。

「ところで、勉強は大丈夫なの?」
『あ……』

真鍋さんの問いかけに、全員が固まった。
時刻は8時過ぎだった。
その後、真鍋さんは勉強の邪魔にならないようにとのことで、帰って行き試験勉強は再開となった。
律は床に寝そべり”静かに”漫画を読んでいる。
僕は唯の正面の席に腰かけ、勉強の様子を見守っていた。
だが、とうの唯はコックリコックリとし始め、やがて完全に落ちた。

(あーあ)

心の中でため息をつきながら、僕は澪に声をかける。

「澪、いったんストップ」
「どうしたんだ? 浩介」

突然止めたことに、澪は怪訝そうな表情を浮かべながら理由を聞いてくる。

「唯の方を見てみろ」
「あ」

唯の様子に気づいた澪は声を漏らすと、その肩をゆすり始めた。
すぐに唯は起きた。

「律ちゃん隊員、浩君隊員」

すると、律と僕の方を交互に見ながら

「ご、御武運を」

そう言っていきなり泣き始める唯に、僕たちはそれぞれ顔を見合わせる。

(一体どんな夢を見ていたんだ?)

そんな一幕もあったが、試験勉強は再び再開した。

「ん?」

そんな中、律が突然部屋を後にする。
三人とも、そんな事には気づいていないのか試験勉強を進めて行く。

(どうするか)

律が外に出た理由で思いつくのは、お手洗いか遊びに行ったかの二つだ。
前者であるならいいのだが、後者だと非常にまずい。
何せ、律の遊び相手になりそうなのは限りなく平沢妹だろう。
彼女に迷惑をかけるのは避けたい。
とは言え、前者の可能性もある。

(放っておくか、それとも様子を見に行くか)

目の前に突き付けられた二択。
僕が取ったのは

(10分くらい様子を見てから探しに行くか)

後者だった。










そして10分後。

(よし、いこう)

律が戻ってくることはなかったため、僕は三人の邪魔にならないように静かに部屋を後にした。

(これは、テレビの音?)

下の方から聞こえてくるテレビの音に、僕は階段を下りると音のする方へと足を向けた。

「いたよ」
「あー! 負けた!!」

リビングと思わしき場所にたどり着いた僕は、目の前にある光景にため息が漏れそうになった。
寝そべりながらゲームのコントローラーを手に、負けたことへのくやしさをかみしめる律、そしてその横には平沢妹が居座っていた。

「何をやってる、律?」
「あ、浩介」
「高月さん」

呆れながら声をかけると、寝そべった姿勢のまま顔だけを向けてくる律に平沢妹。

「これは真剣勝負、止めないでくれ」
「なに言ってんだ。彼女にだって明日は学校があるんだぞ? 夜遅くまでつき合わせたら迷惑だろ。平沢妹も言ってやれ」
「あ、私の事は憂でいいですよ。姉とこんがらがりますし」

何やら話が変な方向に逸れた。

(ものすごくデジャブを感じるぞ)

つい最近同じやり取りをしたような気がする。

「それじゃ、憂さんで」
「年上なんですから呼び捨てでいいですよ」

あ、やっぱり。
困ったような表情で言ってくる彼女の言葉に、姉とのやり取りが蘇ってきた。

(この姉にして、この妹あり、か)

「それじゃ、憂で。で、迷惑なら遠慮なく言ってやれ。すぐに連れて戻るから」
「あ、いえ。別に迷惑じゃないですよ」

僕の言葉に、首を横に振りながら否定した。
本当にすごい妹だ。

「そ、そうか。まあ、迷惑になったら言って、すぐに連れてく」
「もしかしてここにいる気?」

邪魔にならないように反対側のテーブルの方に移動すると静かに座った。

「当り前」

そう言い切った僕に、二人は首を傾げながらもゲームを再開させた。
何かのゲームだろう、対戦しているようだが結果はほとんど憂の勝利という結果に終わっている。

(あ、やば)

そんな単調になりかけた流れに、ふと強烈な眠気が襲ってきた。
何とか抗おうとするも、強烈な眠気には叶わなかった。
そのまま僕は眠気に誘われるがまま、いつしか僕は目を閉じるのであった。

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