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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第13話 ライブと結果

「律、帰るぞ」
「へいへい、ところで浩介は?」

律の言葉に、澪とムギはあたりを見回す。
その人物はすぐに見つかった。

「寝てるし」
「私が起こすよ」

人の家で心地よさそうに眠る浩介に苦笑する澪に、律はそう言うと浩介の元に歩み寄る。

「ほら、朝だぞ、起きろ。そうでないと死ぬぞ!」
「スー、スー」

体をゆすりながら言う律の言葉に、浩介は目覚める気配もなかった。

「あ」

そこで、律は妙案を思いつく。
浩介にとって言われたくない言葉を言ってみればいいのではないかというものだ。

「浩ちゃ―――へぶ!?」
「り、律?!」

浩ちゃんと言おうとしたりつの腹部に容赦のない一撃が浴びせられた。

「次は殺すぞ……佐久間」

寝言のようだが、一体どのような夢を見ているのだと、全員は固まっていた。

「お……ぉ……浩介、恐ろしい子」

しばらくの間律はその場にうずくまって動くことが出来なかった。
その結果、

「本当にごめんなさいね」
「大丈夫です」
「またね、みんな!」

それぞれが申し訳なさそうに頭を下げる中、浩介を残して帰って行った。
寝ている浩介に近づくのは危険という事が、軽音部内で言われるようになったのはそれから少ししてからの事だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


耳に聞こえてきたのは、食器がこすれ合う音にテレビから流れるニュース。
新聞をめくる音などだった。
すぐに違和感に気が付いた。

「うぅ……」

のっそりと起き上がる。
そして辺りを見渡すが、良く知らない場所だった。

「起きたのね。おはよう」
「おはようございまふ」

起き上がる僕を見て、声をかける女性。
どことなく誰かに雰囲気が似ていた。
色々な疑問が渦巻く中、まったく回らない頭で、僕は記憶をたどることにした。

(確か、唯の勉強見るために唯の家に行ってそれで……)

「はっ!?」

視界が一気にクリアになった。
ここはもしかしなくとも唯の家だ。
という事は、この女性は……

「お、おおおおお、お邪魔しましたっ!!!」

僕は慌てて家を出ようと駆けだす。

「あ、危ない――」
「ヘブっ?!」

動転のあまり閉まっているドアに顔面からツッコんだ。

「だ、大丈夫?」
「大丈夫です。丈夫な体が取り柄ですから」

痛む鼻を押さえながら、女性に答える。

「ところで、あなたはどちら様?」
「あ………」

その後、自己紹介をして二回から降りてきた憂たちと朝食を食べさせてもらい、学校へと向かうことになった。
唯の両親に今度ちゃんとお礼を言おうと、心に誓った時だった。










唯の追試から二日後。
僕は地元のそこそこの大きさのライブハウスにやって来ていた。

「お、来たな」
「待たせたな」

楽屋に一番最後に到着したのか、H&Pのメンバー全員が僕を待っていた。

「今日は俺達の独壇場だ」

そういうYJに連れられてステージ袖に向かう。





「た、確かにすごい熱気だ」

袖からでもわかる。
観客席の場所にいる人たちの熱気と期待感に満ちた思いが伝わってくる。

「DK、準備はいいか?」

MRが僕に問いかけてくる。
僕は入る際から掛けているサングラスの位置を少し上げる。

「当り前だ。この私を何だと思っている。私達に宿った炎は決して消えることはない。お前ら、炎は消してないな?」
「当り前だ。俺の中に供っている炎はいまだに激しさを増している」
「僕もだ」
「私もだ」
「私もです」

YJに続いてROやMO、RKが返事をする。

「さあ、始めようか」

僕のその一言に照明係の人が明かりを落とす。
それと同時に、観客席のざわめきは一気に弱まった。
全員の期待感が伝わってくる。
約三年ぶりの公の場での演奏だ。
色々と緊張もするが、一度深呼吸をすると足を地面に叩き付ける。
その時になった音が、YJに曲の開始を告げるリズムコール開始の合図だ。
YJがバチ同士を叩いてリズムコールをする。
YJのリズムコールが終わるのと同時に、ROのキーボードが産声を上げた。
続いてRKのベースとYJのドラムが音に命を吹き込む。
それと同時に明かりがつき、周囲が明るくなる。
次はMRの簡単なギター演奏で曲は始まる。
この曲は僕がボーカルを務め、YJがサブボーカルとなる。
時より弦を弾きながら歌を紡ぐ。
自分がいる場所は、非常に不安定な場所。
いつ何がやってくるかもしれない危険地帯だ。
その緊迫感を兼ね揃えた曲がこの楽曲のイメージだ。
ついにサビだ。
僕は複数のコードを引きながら歌を紡ぐ。
そして紡ぎ切ったところで、間奏が入る。
ここからは僕のギターテクが問われる。
ベースの音とドラムの音を頼りに、音を奏でて行く。
そして間奏の終わりで音を伸ばし、ビブラートを効かせる。
最後のサビも先ほどと同じ要領でギターを弾いていき、一気にフィニッシュへと向かう。
MRと合わせて弾き、同時にストロークをして曲は終わった。
それと同時に、けたたましい歓声が響き渡った。
時より『待ってたぞー!』という声も聞こえたような気がした。

「皆、待たせたな!」

マイクを手に取り、僕は会場のみんなに声をかける。

「この三年間、ファンのみんなには長く待たせてしまい申し訳ないと思う」

今まで鳴り響いていた完成はぴたりとやんでいた。

「何がよくなった。何が変わったというものはない。だが、この三年分の待ちわびていた気持ちを、このライブに全てぶつけてほしい。そして楽しんでほしい」

そこで、僕は言葉を区切った。

「さあ、それじゃ次行ってみよう。次の曲名は『Devil Went Down to Georgia』だ! お前ら! 準備はいいか!!」

僕の言葉に答えるように、観客が声を上げる。

「それじゃ、行くぞ!」
「1,2,3,4」

YJの早めのリズムコールが終わるのと同時に、僕は弦を弾く。
そして始まる曲。
この曲は僕がボーカルだ。
今まで止めていたギターの音を鳴らすべく弦を弾く。
すぐさま弦を揺らしてビブラートを効かせると、本格的にストロークを始めた。
リズム良く弦を弾いて行き、最初と同じフレーズを引き終えてもう一度ビブラートを効かせるようにしてピックを振り下ろす。
そこで、またストロークを止めるが、すぐさま速弾きに近い素早さでストロークする。
その後またゆっくり目のストロークになるが、ここからが本番だ。
一気にコードの移動速度が増す。
それをMRと交互に弾いていく。
まるで、一つのギターテクを争うバトルのように。
複雑なコード進行をし終え、再び僕の歌だ。
それと同時に、僕は弦を弾いていく。
ここからが第二ラウンド。
再びMRとの弾き勝負だ。
MRも複雑なコード進行をスムーズに進めて行く。
それに負けじと僕も素早いストロークで観客を魅せて行く。
それを何度も繰り返した頃、音が止まる。
その間、僅か1秒。
それはソロ開始の合図。
最初はゆっくり目で簡単な音を。
だが、徐々になりを潜めていた悪魔が牙をむく。
テンポは一気に早まり、音は小刻みになって行く。
複雑なコード変更をしながらも嵐を乗り切る。
ただ乗り切るのではない。
この嵐すらも自分だというのを表現しなければならない。
ソロの間、観客が歓声を上げる。
それが、ほぼ成功だという証だった。
ソロも最終局面だ。
徐々に晴れて行く嵐の様子に希望を見出した僕は、爽快であることを表現するべくピックを振り下ろすことでソロパートは終わった。
弦楽器類の音はなくなり、僕のボーカルとYJのドラムが響いている。
そして再び弦楽器の音が戻ってきた。
後は比較的簡単なコードのため、失敗する箇所はそれほどない。
僕がストロークをし終えることで、曲は終わった。
そして再び浴びせられる歓声。

「さあ、続いてはデビュー曲『only for you』だ!」

MRの告げた曲名に、会場の盛り上がりは一気に変わった。
YJのリズムコールと同時に、ROのキーボードが産声を上げる。
数フレーズ引いたところで、ベースとドラムが音に命を吹き込んでいく。
これは、ロックではない。
なぜなら、まともにギターを弾くのは間奏くらいしかない。
それを積極的に取り込んだのは、話題性を持たせるため。
当初は、冷ややかな反応だったが、最近はそれが受け入れられつつもある。
それはともかく、MRが曲の合間にギターを弾いていく。
決して歌声を潰さないように、彩るのだ。
この曲のボーカルは僕だ。
歌詞全てが英語という状態だが、一言一句はっきりと紡いでいく。
二番が終わり、ついに間奏に移る。
歌い終えるのと同時に、弦を弾いていく。
一旦緩急を付け、コード進行の速さを早めビブラートを効かしながら音を伸ばして、フェードアウトする。
そこで僕の歌は再開。
一旦キーボードと僕の声のみになるが、再びすべての音は戻り僕は、無事歌い終えることが出来た。
その瞬間渦巻いたのは、歓声ではなく拍手だった。

「さんきゅー。次は『Darling……Kiss immediate』だ! ノッて行くぜ!」

次の曲も前のと同じ感じだ。
YJのリズムコールが終わるのと同時に、キーボードから産声が上がる。
この曲では、ギターは一本の為MRは完全にボーカルだ。
そして基本的にはドラムとベースとキーボードが前に出ている。
時より軽く弦をはじいて僕は、音を奏でて行く。
2番の歌が終わったのと同時に、間奏に入る。
この曲にはラップがあり、それは僕がやることになっていた。
ラップは僕の得意なもの。
手の振り付けを加えながら、ラップパートを終えると続いて弦を弾いていく。
そんなこんなで、4曲目が終わった。

「さあ、最後の曲だ」
「この曲は最後にふさわしい曲だ」

曲名を知らない観客たちはどよめく。
それを見ながら、僕は曲名を告げる。

「曲名は『Through The Fire And Flames』だッ!」

その瞬間、会場中にざわめきが走った。
それはどちらかというと期待に満ちた物だ。

「1,2,3,4」

YJの早めのリズムコールが終わるのと同時に、僕は弦を弾く。
最初は単調だったが、次の瞬間には速弾きの要領でストロークをしていくことになる。
この曲も僕がボーカル。
歌いながら殆ど速弾きに近いストロークをしていく。
そしてサビが訪れた。
ここは音を伸ばしていくのでそれほど難しくはないが1番と2番をつなぐ箇所で再び素早いストロークをする必要があるため、気は抜けない。
2番が終わりしばらく演奏した瞬間、3秒ほど音が消える。
ここから始まるのは壮絶な間奏だ。
MRと僕のギターが一気に存在感を増す。
素早いストロークは徐々に速弾きへと移って行く。
それがどのくらい続いたか、ドラムやベースの音が無くなる。
そして響くのは激しさを増す僕のギターの音色だった。
ここからはさらに険しさを増す。
速弾きだ。
正確なコード進行をして、なおかつ素早く弾いて行かなければならない。
所々難しい箇所があるが、体を前後にゆっくりと揺らせることでそれをもパフォーマンスへと変えて行く。
ついに間奏も終盤。
速いテンポのまま凄まじい速度で弾ききった僕は小休止とばかりに、歌のみに集中をするが、再び小刻みにストロークを始める。
曲もラストスパート。
いよいよ最後の罠、速弾きとなった。
それを引き切った瞬間、観客たちは盛大な拍手と歓声を上げてくれた。

「ありがとう! これで、ライブはお開きだ」

僕の言葉に、そこら中からブーイングの嵐が湧き上がる。

「だがしかしっ! 私たちの――――」

『またライブを開く』と言おうとした時だった。

予想外の乱入者が現れた。

「まだ終わりじゃねえ!!!」
「ッ!?」

その言葉に、会場全体が、僕たちでさえも固まった。
その声を放った人物RKはさらにこう続けた。

「もう一曲行くぞ!」

(あーあ、変なスイッチが入ったよ)

余程このライブが楽しかったのだろう。
理性が振り切ってしまったようだ。
僕には彼女がどんな曲を選ぶかの予想がついていた。

「曲名は『ラブ』ッ!!」

完全なカバー曲だ。
彼女はアマチュアバンドでもある『DEATH DEVIL』のファンなのだ。
その中でも、この『ラブ』が大のお気に入りらしい。
前にキャサリンに会ったら握手してサインをもらってデュエットするなどと願望を漏らすほどに。
『DEATH DEVIL』の事で調べてみたが、ガールズバンドという事以外情報は出てこなかった。
ただ、どこかの高校のバンドであることは分かったが。
僕たちは、目線でやり取りをしていく。
意見は一致していた。

『やるしかない』と。
「1,2!」

YJのリズムコールが終わるのと同時に僕は一気に弦を振り下ろす。
この曲は、それほど難易度の高くない曲だ。
しばらく進めばMRのギターも合流する。
そして始まったのはRKの歌だ。
完全な”大人”の歌声に、会場はサプライズだということも忘れて、盛り上がりを取り戻していた。
心を込めながら歌っていく彼女の姿に、僕は苦笑しながらも弦を弾いていく。
サビではMRと僕がRKの歌声にハモらせる。
そして2番が終わった時、間奏となる。
間奏では最初に僕が速弾きの要領でストロークをしていくが、そこにRKの歌声が加わった瞬間、主役は交代だ。
MRのギターが火を噴く。
素早いストロークのフレーズも終わり、再びサビへと戻って行く。
最後は、RKの発狂したのではないかというような叫び声の後に、綺麗に音は鳴りやみ演奏が終わる。
こうして、僕たちの復活ライブは幕を閉じるのであった。
ちなみに、正気に戻ることになったRKは、終始謝り続けることになるのだが、それは割愛しよう。










唯の追試から、数日が経過したこの日、とうとう結果が判明するのだ。

「合格点取れてるかな? 唯」

不安を口にしたのは澪だった。
律は雑誌を読んでいる。
そんな中、ドアが開く。
そして現れたのは、この世の終わりのような表情を浮かべた唯だった。

「ど、どうしよう、澪ちゃん」
「え、もしかしてまたダメだった?」

唯の様子から、澪は最悪の事態を想像した。
だが、それは唯の取り出した一枚の紙で完全に打ち破られる。

「ひひ、百点取っちゃった」
「極端な子!」

0に近い点数から一気に満点とは、まさしくその通りだった。
それはともかく、これで廃部の危機は免れた。
そして、練習をすることとなった。
唯は試験勉強中に何度も弾いていたため、かなり進歩したはずだ。

「それじゃ、何か弾いて見せてよ」

澪の横に移動して、唯のコード進行を見ることにした。

「へへへ、ばっちりだから。XでもYでもなんでもごじゃれ」

そう言ってピックを振り下ろして音を鳴らす唯。
その様子に、僕たちは顔を見合わせた。

(いやな、予感がする)

「じゃあ、C,Am7,Dm7,G7って弾いてみて」

出されたコードは多くのヒット曲で行われている循環型のもの。
はきはきとした元気な音が特徴的な物だ。

「ほいほい」

再びピックを二度振り下ろす。
そこで、固まった。
その様子に、僕は嫌な予感を感じていた。

「おい、まさか」
「コード、忘れた」

どうやら予感は的中したようだ。
唯の口から出た言葉に、僕たちは思わずズッコケてしまった。

「ずっとXとかYとか勉強してたから」
「また一から!?」
「お前は単細胞生物か!!」

一つ覚えたら他の事を忘れるとはいかほどに。

「これがXだっけ」
「そんなコード見たことない!?」
「あ、こうだこうだ」

そうやって唯が弦を弾くと、不協和音が鳴びびく。

「これがXだよ、澪ちゃん!」
「これ以上コードを増やすな!!」

もうめちゃくちゃだった。

「えぇー!?」

困惑した唯は、再び弦を弾く。
そして流れるのは間の抜けた音だった。
タイトルはチャルメラだ。

「って、それは弾けるんかい!」

律のツッコミは、とても的を得ているものであった。

(こんなんで、行けるのか? 武道館)

彼女たちの様子を見て、どことなく不安になってくる今日この頃だった。

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