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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第14話 選曲!

徐々に暑さが増していき、夏真っ只中になろうかというこの季節の、軽音部部室『音楽準備室』
そこには無言緊迫感で満ちていた。

「………」

ギターの弦に指を乗せたまま固まる唯。
それを僕と律は固唾をのんで見守る。

「あぅ!? ゆ、指ぃ~」

つったのだろうか、涙目で左手を抑える唯に僕は呆れた視線を送る。

「本当に全部忘れたんだな」
「えへへ、昔よくおばあちゃんに褒められたんだ~。”唯は一つ覚えると他のことは全部忘れるね”って」

同じく呆れていたであろう律の言葉に、涙目のまま笑う唯。

「それは絶対に褒められてないから」

そのおばあさんはものすごく的を得た事を言っているなと思っている中、いつもよりも乱暴にドアを開けて澪が入ってきた。
その澪は、テーブルにカバンを置くと僕たちに指差して大きな声で宣言した。

「合宿をします!! もうすぐ夏休みだし朝から晩までみっちりと楽器の練習を――」

澪がは話をしている中、合宿という言葉に律と唯が海に行こうか山に行こうかと、話し合っていた。

「人の話を聞け―!!」

澪の叫び声に、二人は話をやめる。
とりあえず開けっ放しのドアを閉めて席に着いて、話を聞くことにした。

「夏休みが終われば学園祭だろ桜高祭での軽音部ののライブは、昔は有名だった――」

そうなのかと思いながら澪の話を聞いていると、突然澪は話すのをやめた。
どうしてかと首をかしげるが、すぐに答えは見つかった。
律と唯の二人は、『メイド喫茶』やら『お化け屋敷』等と出し物の話をしていたからだ。
終いには、どっちをやるかという言い争いを始めるし。
それを聞いていた澪の肩が、小刻みに震えだした。
これは、噴火の前兆だ。

「おーい、二人とも。そろそろやめておかないと澪に――」

僕が二人に忠告しようと口を開くが、言い切るよりも前に鉄槌が下った。
……律に。

「なんで私だけ」
「私達は軽音部。ライブやるの!」

律のボヤキをスルーしてぴしゃりと言い切った時、再びドアが開いた。

「遅れちゃってごめんな――――」

中に入ったムギ(さん付けをやめろとこの間言われたため、呼び捨てになった)は正座する二人と呆れている表情をしているであろう僕、そして腕を組んでいる澪の姿を見ると、言葉を失った。

「マドレーヌ、食べる?」

そして出た言葉はそれだった。
その後、ムギの用意したお菓子に舌鼓を打ちながら、澪は事情を説明した。

「いくら慌てずにやって行こうって言っても、もう三か月にもなるのにまだ一度も合わせたことがないんだよ」

唯のコードを全部忘れるという騒動で、慌てずにやって行こうということになった。、
とは言え、練習の成果などは全く出てもいないこの状況にしびれを切らしたのだろう。
ムギも合宿に賛成したことで、合宿自体が決定ということになったわけだが、問題はあった。

「合宿はいいとして、金銭面はどうする気だ?」
「そうだぞ、きつくないか?」
「う゛!?」

僕と律の言葉に、澪は言葉を詰まらせる。
経験論から言うと、別荘を使う場合は、そこのレンタル代やら食費、光熱費等々を合わせると10万以上かかったことがある。
つまりは、最低でも一人当たり万単位での出費は覚悟しなければいけない。
僕はバンドなどで稼いだお金があるのでまだ大丈夫だが、一女子高生にはかなり厳しいだろう。

「む、ムギ。別荘とか――」

本人はない物ねだりのつもりで聞いたのだろう。
だが、僕にはその質問の答えは目に見えていた。

「ありますよ」

予想通りの答えだった。
前に特殊なネットワークを使い琴吹家を調べた結果、いくつもの別荘を所有していることや、楽器店等の社長令嬢であることが判明したのだ。
とは言え、そのようなことはすべて忘れるようにしているが。
ただの興味本位で得た情報は、覚えておく必要はないという理由もあるが、仲間の事をこそこそ嗅ぎまわることへの罪悪感というのがかなりを占めていた。
金銭問題の方はクリアした。
こうして二泊三日での合宿と相成った。

「いっその事、何か曲を使って練習しない?」

という僕の提案に四人も賛同したところまでは良かった。
だが、どの曲を使うのかというところで躓いてしまったのだ。

「オリジナルを2曲、カバーで1曲という感じにしよう。この中で、作曲とかが得意な人はいるか?」
「あ、それでしたら、私が」

僕の問いに名乗りを上げたのがムギだった。

「それじゃ、ムギに作曲は任せる。でだ」

僕はカバンの中から一枚のレポート用紙を取り出すと、それをムギに差し出した。

「こんな感じの曲を作ることはできるか?」
「えっと……ちょっと時間が掛かりますけど」
「それじゃ、悪いけどこれで一曲頼む」

僕が差し出したのは、オリジナル曲のコンセプトが記された物だった。
これから作曲をする作業はかなりの難易度を誇る。
何せ、人の音楽への感覚を把握するのは、非常に難しいのだから。

「明日、皆で何か曲を持ち寄って演奏する曲を検討しよう」

そう締めくくって、合宿の話は区切りがついた。










「お前ら、馬鹿だろ」
「うぐっ!? 面目ありません」

翌日、僕の言葉に澪はがっくりと項垂れた。
その彼女の前にはいくつかのCDが置かれていた。
その曲目は、『Devil Went Down to Georgia』、『Through The Fire And Flames』、『Leave me alone』の三曲。
律は、『vampire』一曲を持ってきていた。
ちなみに律の持ってきた『Vampire』というのは、ハードロック(もしくはスピードメタルとも言うが)な曲調で、かなり速いテンポなのが特徴だ。
演奏できればかっこいいが、その分難しさも増す。
特にドラムの方でその難しさが出ている。
なに是、ドラムは速いテンポで叩かなければいけない。
はっきり言えば、中レベルの曲だ。
それ以上の難易度を誇るのが『Devil Went Down to Georgia』などの曲だったりもする。
とは言え、この曲のグループの演奏する曲は色々と良曲揃いなので、いつの日か演奏してみたいという願望はあったりするが。

「まだコードもそれほど覚えていないのに、『Devil Went Down to Georgia』とかできるのか?」

完全に向こう見ずの選曲だ。

「唯に限っては、ギターとかベースとか関係ないし」

普通の曲を持ってこられたときは、何かのネタだろと思ってしまった。

「何も持ってきてない奴には言われたくないわッ!!」

律が反論してきた。
確かに、その通りだ。
僕は結局曲を持ち寄ることが出来なかった。
というのも、唯でも演奏できるレベルの曲というのが見当たらなかったからだ。
天辺を超えるまで調べてみたが、結局見つかることはなかったのだ。
そんな中、僕は澪が持ってきたCDを一枚手にする。

「でも、この曲はいいと思う」
「えっと『Leave me alone』?」

僕が手にしたCDを置くと、律たちは興味津々に覗き込む。

「この曲って何?」
「H&Pの曲で、はきはきとした歌声と力強いギターやベースの音が特徴的な曲だよ!」

唯の疑問の声に澪が答える。

「これならば、それほど難易度も高くないし、少し練習すれば僕たちでも演奏することはできるはずだ」

その為、この曲を選ぼうとはしたが、自分たちの演奏する曲を進めるというのは少々憚られたために出来なかったのだ。
そういう点では澪は非常に素晴らしいチョイスをしていると言える。

「でもこれって曲の長さは2分何だろ? ちょっと短すぎないか?」

律が苦言を口にする。
確かに、この曲の問題点は、曲の短さだ。
学園祭のライブで使うには少々短すぎるのだ。
最低でも3分ほどがないと味気なさすぎる。

「だったら、曲の尺を長くすればいい。1番のサビが終わった後にもう一度最初の方に戻れば、3分くらいまでは伸びるだろうし」
「おー、なんだかすごいどすなー」

僕の提案に唯が反応するが、意味は分かってるのだろうか?

「大丈夫なのか?」
「たぶん大丈夫」

澪の”大丈夫”には二つの意味が含められていた。
一つが他人の曲を勝手にいじることに対してのものだ。
これに関してはパロディにぎりぎり分類される可能性がある。
尤も、これを自分たちの曲だと言った瞬間に、アウトになるが。
もう一つが曲の編集が出来るかという事。
よくバンドでも曲のアレンジをしていたりしているため、そういうことをするのは簡単でもある。
だからこそ、大丈夫と返したのだ。

「それじゃ、合宿の日までに譜面の方を作っておくということで、練習を始めようか」
「「「おー!!」」」

こうして、僕たちは練習を始める。
唯も少しずつではあるが、コードを覚えてきている。
とは言え、その覚え方は”感覚”で、だが。

(もしかして唯は、絶対音感とか持ってたりするのか?)

絶対音感は音を聞いただけで、音階にすることが出来るとまで言われているため感覚で覚えて行くというのは、絶対音感である可能性は十分にあるのだ。
とはいえ、それでもまだまだではあるがそのうち僕にも迫るほどのギタリストになるのではないかとも、思えてくるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


合宿前日、平沢家の唯の部屋。

「よしっ! これで大丈夫」

唯は合宿の際に持って行く荷物の荷造りを終えた。
最初唯が自分で荷造りをすると言い出した時、妹の憂は自分がやると言っていたが、唯は押し通すようにして、荷造りを始めたのだ。。
理由としては、姉としての威厳を! ということであったが唯は自ら荷造りをし終えることができたのだ。
その様子を陰から見ていた憂はほっと胸をなでおろした。

「それじゃ、お姉ちゃん。私もう寝るね」
「うん、お休み―」

手を大きく振って憂を見送る唯は、時計に目をやる。
時刻はすでに10時を回っていた。

「よぉし、寝るぞー!」

荷造りをしたという達成感を胸に、唯は眠りにつく。
とは言え、寝つけたのはそれから数時間後の事であったが。


――これが、後にとんでもない騒動をもたらすとも知らず、合宿の日を迎える。

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