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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第11話 明暗の理由

「いつつ……酷いじゃないか」
「うるさい。いきなり馬鹿げた事を言おうとする方が悪い」

学園を出て少ししたところで気を取り戻した佐久間が、歩きながら不満を漏らすが僕はそう言って退けた。
あんなこっぱずかしいセリフ、男の僕でさえ寒気がしたほどだ。
言われた本人はたまった者じゃないだろう。
現に澪は恥ずかしさのあまり固まっていたし。
そんな馬鹿げたやり取りをしながら、電車で二駅先で電車を降りてから数分。
今僕たちは、住宅街を歩いていた。

「この俺の最高の告白があれば俺は今頃……ぐへへ」

そう言いながら笑みを浮かべる佐久間だが、一体どんなことを想像しているのだろうか。
はっきり言って気持ち悪い。

「お、ここが俺の家だ」
「………ここか」

一気に正気に戻った佐久間が示した一軒家は、可もなく不可もなくといった感じのごく普通の家だった。

「ただいま」

そう言いながら玄関を開けて中に入る佐久間に、僕は玄関の少し手前で立ちどまっていた。

「ほら、入りなよ」
「ああ。お邪魔します」

佐久間に促らされ、僕は佐久間家へと足を踏み入れた。

「お帰りなさい、慶介……あら?」

奥の方から佐久間の母親なのか、温厚そうな女性が姿を現した。

「慶介のお友達?」
「あ、はい。高月浩介です」

尋ねられた僕は、出来る限り丁寧に名乗りを上げるとお辞儀をした。

「これはご丁寧に。慶介の母の吉江です」

女性……吉江さんは静かにお辞儀をし返した。

「それじゃ、俺の部屋に行くか」
「あ、ああ。お邪魔します」
「後で、飲み物を持って行きますね」

吉江さんのその言葉を背に受けながら、僕は佐久間の自室へと向かうのであった。










「ここがお前の部屋か?」
「そうだぜ。ちょっと散らかってるがな」

部屋に足を踏み入れた僕の言葉に、佐久間が答える。
6畳ほどの広さのある祖の部屋には勉強机と本棚、テーブルなどが置かれている。
それ以外に目立った装飾品はない。
机の上も漫画が数冊ほど混ざってはいるが、殆どが教科書類。
散らかっているとは言えない状況だった。

(何だろう)

そして、そんな部屋を見ている僕は、何となく違和感を覚え首をかしげる。
何かがおかしいような気がするのだ。

「さあ、教えてくれ!」

そんな僕の違和感は、佐久間の催促の言葉によって頭の片隅へと追いやられた。

「まずは何から行く?」
「数学!」

即答だった。
凄まじい決断力だ。

「それじゃ、要点と公式を交えて問題を解いていく。今日の目標はこの科目の勉強を終えること!」
「え゛!?」

僕の上げた目標に、佐久間がカエルを潰したような声を上げる。

「返事は?」

そんな彼に、僕はぎろりと睨みつけながら返事を促す。

「い、イエッサー!」

兵隊のような返事をする佐久間に、ため息を漏らしながら勉強を教えて行くのであった。










勉強を教え始めてから数時間が経過した。
佐久間は呑み込みが非常に早く、教えたことを次々に覚えて行く。

「それじゃ、この演習問題を解いてみて」
「ああ」

教科書に載っている問いを試しに解かしてみた。
問題は二次関数の展開だ。
おそらく関数の問題で一番躓くであろう箇所がここだろう。
それを解いている佐久間の姿を見ながら、僕はふと一人の人物の事を考えていた。

(唯、しっかりと試験勉強しているよな?)

赤点を取って、追試で合格点を取らないと部活禁止=部活廃止という壮絶な条件を与えられた唯だ。
彼女が試験勉強をするところが全く想像できない。
出来るとすれば……

『あはははー、うふふふー』

楽しげにベッドで寝転がりながら端から端まで転がっている唯。
そして、その手には漫画があり、お菓子を口にしてまた転がっている姿だった。

(ないよな。あって欲しくない)

そんな本人にはかなり失礼な妄想を頭の中から消し去る。
ちょうど5分ほどの時間が経った時、佐久間は演習問題を解き終え、僕はそれの答え合わせをした。

「正解だ」
「よっしゃー! これで試験範囲完全コンプリート」

結果を告げると、大きく伸びをしながら喜びをかみしめている佐久間の姿に僕は思わず苦笑してしまう。

「って、もうこんな時間か」

佐久間につられて壁に掛かっている時計に目をやると、時刻は9時を大幅に回っていた。

(みんなに連絡しておいてよかった)

ここに来る前の電車の中で、僕は携帯電話のメールでH&Pのメンバー全員に友人に勉強を教えるから帰るのが遅くなると連絡しておいた。
もし連絡していなかったら、今頃携帯の着信履歴はメンバーの名前で埋まっているだろう。
そして、会った瞬間にお小言の嵐だ。

(何だか背筋がぞくぞくしてきた)

「そうだ! どうせだし、夕飯を食べてかないか?」
「え? それはあんたの母親に申し訳ないよ」

さすがに夜遅くに二人分の夕食を作らせるのは、常識の面からばかられる。

「大丈夫大丈夫。作るのは俺だし」
「それはどういう意味?」

自室を後にしながら言う佐久間に、僕は後を追いながらさらに追及する。

「お袋、夜はパートでいないんだよ。だからいっつも夕飯は俺が作ってる」

確かに、佐久間家内に僕たちを除いて人の気配がない。

「という事は共働きか」

最近の家庭はどこも大変なんだなと思いながら、リビングに足を踏み入れた僕に佐久間はさらに衝撃的な事を告げた。

「いや、親父はいねえよ。俺が小学生のころに天国に旅だったから」
「……悪い」

辛いことを思い出させてしまった僕は、佐久間に謝った。

「気にすんなって。俺は別に気にしてねえし」

そう言いながら、包丁で野菜を切って行く佐久間の手つきはかなりのものだった。

「まあ、昔は大変だった。お袋は落ち込んでずっと暗いオーラを纏っているし。俺まで暗くなってたら、今頃真っ黒さ」
「まさか、何時ものあのバカげた言動は」
「本心が4割、演技が6割といった所だ」

佐久間の答えを聞いてようやく、頭の中に浮かんでいた疑問が解決した。
僕が感じた佐久間の自室への違和感の正体は、性格だった。
部屋というのは自ずと性格を表す。
無頓着な(もしくはだらしない)性格だと部屋は散らかっている。
勿論、一元にそうだとは言えないが、僕の抱いている”佐久間慶介としての姿”と、部屋が表現している”佐久間慶介”という人となりがまったく一致していなかった。

「まだ誰にも言ってねえんだぜ。これ」

自信満々に告げる佐久間に、僕は頭を抱えそうになった。

「………僕に言ってもよかったのか? もしかしたら誰かに話すかもしれないぞ?」
「お前はそう言う奴じゃねえだろ?」

佐久間のその一言は、僕の心を揺さぶった。
確かに、僕は人のそう言った部分を積極的に漏らすようなことはしない。
尤も、言うべき時やそれほど重要でない、どちらかと言えばくだらない秘密の場合はこの限りではないが。
だが佐久間は僕という人間を、断片的にではあるが理解している。
目の前の男の観察力に僕は舌を巻いた。

(本当に、こいつは)

そして僕は呆れていた。
自ら嫌われるような性格を演じなくても良い物を。
だが、それがどこかおかしくも思える。

「ほれ、出来たぞ。食べようぜ」
「ああ。いただきます」

テーブルの上に配膳された肉じゃが等の料理は非常においしそうにも見えた。
僕はその中で、肉じゃがに口を付ける。

「美味しい」
「だろ! いやー、食べてくれる奴がいるのは嬉しいもんだ、うん」

僕が口から漏らした感想に、佐久間は嬉しそうに頷いている。
その様子に子供かと思いながら、僕は佐久間が作った料理に舌鼓を打つのであった。










「悪いな、勉強を教えて貰ったり皿洗いまでさせちまって」
「いいって。こっちこそ夕飯までごちそうになったんだし。それ位しないと罰が当たる」

別れ際、玄関先まで見送りに出てきた佐久間の謝罪に、僕は手を振って返した。
皿洗いはさすがに僕がやった。
そうでないと、居心地が悪く感じるような気がしたからだ。

「じゃあな」
「ああ、また明日な。浩介」

僕は佐久間にそう告げて背を向け歩き出そうとするが、足を止めると佐久間に背を向けたまま声をかける。

「佐久間」
「何だ?」
「明日もビシバシと行くからな、覚悟しとけよ慶介・・

僕は、彼にそう告げた。
それは僕にとって彼を真の友人と認めた瞬間だった。

「おう! 望むところだ」

後ろから返ってくる慶介の威勢のいい言葉に、僕は苦笑を浮かべながら手を振ることで答えると、今度こそ歩き出すのであった。

(あと少しで、僕は佐久間慶介という人間を完全に誤った認識をする所だった)

僕もまだまだ未熟だと実感した。

(近いうちに父さんの方に電話でもかけてみるか)

慶介の話を聞いた僕は、無性に父さんの声が聞きたくなったのだ。
僕も十分にも子供だなと思いながら、自宅へと戻るのであった。











ちなみに余談だが。

「おせぇんだよ!!」
「ごめんなさい!!」

家に戻った瞬間、田中さんの罵声が浴びせられることになった。
その場星に、僕はその場で土下座をして謝った。
他にも罵声を浴びせなかったものの、完全に怒っているであろう中山さんや、満面の笑みを浮かべている荻原さんの姿があった。
荻原さんの笑顔はものすごく恐ろしささえ感じさせた。
ちなみに、みんながここまで怒っている理由としては、

「遅くなるとは知っていたが10時過ぎたぁ、度が過ぎるだろうが!!!」

とのことだった。 
この日、青筋を浮かべるみんなによって、ぶっ通しで数時間も練習をさせられる羽目になるのであった。
さらに後日の練習メニューがハードなものになると言われた僕は、崖から身を投げるぐらいの覚悟を決めることにした。
こうして、僕にとって地獄の日々が幕を開けるのであった。



ライブまであと9日。
追試まではあと7日。

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