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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-Y 第12話 奇跡

ガレットとビスコッティの宝剣を掛けた戦は、魔物の出現を以って中止となった。
魔物は勇者シンクとビスコッティの姫、ミルヒオーレを筆頭にした者達の活躍により封じることに成功した。
魔物が現れた際にパニックとなり怪我をしたもの以外には、特に負傷者は出ずガレットとビスコッティの代表(レオンミシェリとミルヒオーレの二人だが)によっての会見を持ってしてこの騒動は完全に幕を下ろした。
それがフロニャルドの者達が知ることの顛末である。
ただ一つの、事実(・・)を伏せて。
魔物騒動の犠牲者が一名出ているという事実を。









執務室では、ミルヒオーレ姫がいつものように公務に当たっていた。

「………」
「姫様、手が止まっていますよ」
「あ、すみません」

手が止まり悲しげな表情で考え込むミルヒオーレ姫に、アメリタは促すように声をかける。

「彼……渉様の事ですか?」
「はい……あれで良かったのかなと悩んでしまって」
「姫様のお気持ちは分かりますが、あのような事を公表することは大きな混乱をもたらします。どうかご理解を」

アメリタの言葉に、ミルヒオーレ姫は”分かりました”と応える。
ミルヒオーレ姫は情報を告げるまで、事実を伏せることに反対をしていた。
だが、最終的には事実の隠ぺいが強行されることになった。
その理由の一つは渉の正体。
当初はただの巻き込まれた地球人と思われていたが、その際に傍らに置かれていた”杖”が問題だった。
学術研究院主席のリコッタの調査でその杖が”天照”であることが判明したのだ。
なぜ天照に関する記述があったのかは一切不明だが、天照は土地神しか扱うことのできない物であると記されていた。
その記載によって渉の正体は自ずと判明することとなった。
土地神が自らの命を犠牲に魔物を封じるという、真実に何ら問題はないようにも見えるが、この天照が悪用される可能性があること、そして身近に土地神がいることから有識者達の話し合いの結果、隠ぺいという結論に至った。

――ちなみに、この調査は勇者送還関連に関する調べ物と時期が重なってしまったため、学術研究院では慌ただしく動き回っている研究員たちの姿があったとかなかったとか。

かくして、事実を隠ぺいされたわけだが渉は、ビスコッティないしはフロニャルドを救った英雄として召喚台から少し離れた場所に葬られた。
そして、ユキカゼには完全に回復するまで目が覚めても言わないようにするということもリコッタとダルキアン達の話し合いで決められた。
その事実が今、ユキカゼに告げられる時が訪れたのだ。










「お、お館さま、冗談にしては度が過ぎているでござるよ」
「………」

冗談だと受け取ったユキカゼは苦笑しながらダルキアンに返す。
だが、ダルキアンは表情を変えなかった。

「………本当、なのでござるか?」

その表情から冗談ではないと悟ったユキカゼは、すがるような気持ちで再び問う。
その問いにダルキアンは静かに頷いて答える。
その答えを知ったユキカゼは、力が抜けたように地面に崩れ落ちる。

「ちょっと来てほしいでござる」
「………」

ダルキアンの言葉にユキカゼは応えないが、無言で頷いた。
そして二人はセルクル(とは言ってもユキカゼはまだ乗れるような状態ではないため、ダルキアンと一緒のセルクルだが)に乗り風月庵を後にした。





「到着でござる」
「ここは?」

たどり着いたのは勇者召喚と送還の儀の際に使用した召喚台の近くだった。

「渉殿が眠っておられる場所でござる」
「あ……」

ユキカゼの目にいくつかの花束が掲げられている場所が目に留まった。
おぼつかない足取りで近寄ると花束が置かれている場所より少し上の方に、文字が彫られていた。
そこには『フロニャルドを救った英雄 オノワタル』と記されていた。

「……どうして」

それを目の当たりにしたユキカゼはその場にうずくまる。

「どうしてでござる? 一緒にいるって約束したでござるのに、どうしてッ」

答えが戻ることはない。
それを分かってはいても、ユキカゼは問い詰めるのを止めなかった。

「グス……うぅ」

そしてとうとうユキカゼは泣き崩れてしまった。
その様子をダルキアンは離れた場所から静かに見守っていた。
……否、それしかできなかった。










「ユキカゼ、そろそろ戻るでござる。皆も心配しているでござるし」

赤み掛かった周囲の様子を見回しながら、何度目になるかわからない促しの言葉を掛ける。
だが、答えは返ってこなかった。

「………」

ダルキアンは諦めにも似たような気持ちを抱く。

(しばらく一人にさせた方がいいでござろうか)

そう考えていたダルキアンは、渋々といった様子で再びユキカゼに声をかける。

「拙者はそろそろ戻るでござるから、ユキカゼも戻るでござるよ」
「………拙者はもう少し、ここに残るでござる」

その返事を聞いてダルキアンはため息を漏らすと、ユキカゼに背を向ける。
そしてほむら達にこの場に残るように告げてダルキアンはその場を去る。










それから時間は経ち、周囲は薄暗くなっていた。
そんな状態でも、ユキカゼは俯いているだけだった。

(もう一度、ほんの少しでもいいから、渉殿と話したいでござる)

無理だと頭では理解していても、心の中では叶うのではないかと考えてしまう。
だが、そんな時それ(・・)は起こった。

「え?」

一瞬響いた謎の打撃音に、ユキカゼは何が起こったのかが理解できたなかった。
再び打撃音が響き渡る。
その瞬間、花束が軽くではあるが宙を舞う

「ぁ……ぁ」

ユキカゼの脳裏に二文字の言葉がよぎる。
『幽霊』という二文字の言葉が。
徐々に形が変形している目の前の地面に、ユキカゼは後ずさって行く。
そして、最後の一撃で地面が吹き飛んだ。
それに続いて穴の中から伸びる腕らしきものを見た瞬間、ユキカゼの中で何かが崩れた。

「きゃああああああ!!」

大声を上げながらユキカゼはその場から逃げた。










「お化け、でござるか?」
「そうでござる! 渉殿が化けて出てきたでござるよ!!!」

まるで嵐のように戻ってきたユキカゼは、ダルキアンの腕をつかむと嵐のように召喚台の近くへと戻っていた。

「だったらユキカゼは嬉しいのではないでござる? お化けでも渉殿でござるし」
「そ、それは……確かに……でも」

ダルキアンの指摘に、ユキカゼは走っていた足を止めうんうんと唸りながら考えていた。

「誰がお化けだ。誰が」
「え?」
「へ?」

突如響く、少々不機嫌な様子の声に二人はあたりを見回した。
なぜならその声は

「わ、渉殿?」

渉の物であったのだから。
そして今まで雲に隠されていた月が姿を見せる。
それは月明かりとなり、周囲を薄っすらとではあるが灯した。
そこに照らし出されたのは、不機嫌そうな顔で立つ渉の姿だった。

「「……」」
「あの。無視されるのは非常に困るんだが」

固まっている二人に、渉が戸惑った様子で声を上げる。

「「渉殿!!」」
「うわ!?」

真っ先に抱き着いたのはユキカゼであった。
それから数瞬遅れてダルキアンも抱き着く。

「会いたかった! 会いたかったでござる!!」
「………」

ユキカゼの涙交じりの声に、渉はただ無言で二人を抱きしめるだけだった。

―今、こうして奇跡は起こった―

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