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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第6話 楽器=性格?

平沢さんの入部で軽音部は、何とか廃部を免れた。
大型連休も終え、またいつものように学校生活が始まる。

「ちくしょう、お前はこれからハーレム道に――――」

何やら佐久間が喚きだすが、いい加減構うが面倒になったので無視して部室に向かうことにした。

「あれ? 高月君部活?」
「ああ。基本毎日部活だよ」
「頑張ってね」

クラスの女子とも色々と馴染んでいき、そこそこ充実した高校生活を送っている。
僕はギターケースを背負うと、軽音部の部室でもある『音楽準備室』へと向かうのであった。

「って、聞けよ!」

そんな佐久間の叫び声を背に受けながら。









「あれ? 僕が最後か?」
「うん、そうだよ」

どうやら、僕が一番最後だったようで手をひらひらと振りながら答える平沢さんの目からは、早く食べたいという声が聞こえきそうだ。
僕はとりあえず近くの壁にギターケースを立て掛けると、物置部屋方面に用意された椅子に腰かける。
何だか議長のような位置だ。
正確に言うと、平沢さんとムギさんの机の横の部分が僕の席となっている。
そして待ってましたと言わんばかりに平沢さんはケーキを頬張る。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

ムギさんによって僕の前にも、同じケーキと紅茶が置かれる。
僕は手を合わせるとそれらに手を付ける。
さて、僕が入部したこの軽音部のメンバーは僕を除いて四人だ。

「何で澪ちゃんはベースを弾いてるの?」
「だってギターは……恥ずかしい」

平沢さんの問いかけに恥ずかしそうに俯いて答える黒髪の女子高生が、ベース担当の秋山澪。
恥ずかしがり屋な性格で、H&Pのファンの一人だ。
僕が正体を隠すうえで、最も注意をしなければいけない人物。
というより、なぜに恥ずかしいのだろうか?

「ギターってバンドの中心みたいな感じで、先頭に立って演奏しなくちゃいけないから、観客の目も自然に集まって………自分がその立場になると考えただけで」

想像したのか、秋山さんは力が抜けたように突っ伏してしまった。

「ムギちゃんはキーボード上手いけど、キーボード歴長いの?」
「私、4歳のころからピアノを習ってたの。コンクールで賞をもらったこともあるのよ」

平沢さんの問いかけに、さらりと答える薄い金髪の髪の女子高生が、キーボード担当の琴吹紬。
ぽわぽわおっとり等、彼女を示す単語はいくらでもある不思議な人物だ。
でも、どうして軽音部に入ったのかが謎だ。
紅茶も入れ終わり、各々が口を付け始めた頃、平沢さんがこの部室に置かれているものが充実していることに触れた。
ちなみに、ここに置かれているほとんどの物はムギさんの自前だとか。

(後で琴吹家に関してサーチするか)

僕が保有する特殊ネットワークで調べてみようと心の中で決めた。

「律ちゃんは、ドラムって感じだよね」
「なッ!? 私にも聞けばすごく感動する理由があるんだぞ!」
「へぇ、どんなどんな?」
「それ……えっと……かっこいいから」

小さな声で明らかに本心ではないなと思うことを口にする栗色の髪をカチューシャで留める女子高生が、ドラム担当の田井中律。
元気で明るい、ムードメーカー的存在だ。
まあ、ひっくり返すとやかましいことになるのだが、それは考えないようにした。

「だって、ベースとかキーボードとか指でちまちまちまするのを想像しただけでだぁぁ!!! って感じになるんだよ!」

何となくしっくりくる理由だった。
田井中さんの答えに苦笑しながらも、僕は用意されたお菓子を口に入れる。

「それで、浩ちゃんはどうしてギターなの」
「……………」

今、平沢さんの口から幻聴が聞こえてきた。

「悪い、良く聞こえなかった。もう一回言ってくれるか?」
「う、うん。どうして浩ちゃんはギターを始めたの?」
「………」

空耳でもなかった。

「平沢さん」
「唯でいいよ」
「そんな事はどうでもいいんだよ平沢さん。大事なのは」
「唯!」

は、話が進まない。
どうして名前で呼びたがらせるんだ。

「………唯さん」

僕は結局折れることにした。
これで彼女も納得――

「唯!」
「少しは妥協しろよ!」

しなかったようだ。

「あ、分かった。それでどうして”浩ちゃん”なんだ? 唯」
「え、えっとね。かわいいから!」

顔を紅くさせるんなら言わせるな。
というよりなぜに呼び方に可愛さを求める?
突っ込みたいことは色々あった。
だが、僕が一番言わなければいけないのはたった一つだ。

「浩ちゃん禁止!」
「えー」
「い・い・な?」

頬をふくらませて不満げな彼女に、僕は少々卑怯な手段ではあるが、殺気を放って頷かせることにした。

「は、はい! 浩君!」

あまり変わっていないようにも見えるが、妥協点だと自分を納得させた。
問題なのは……

「こ、浩ちゃんだって。プクク」
「リ、律。笑ったら失礼だろ。ふふふ」

後ろで盛大に笑っている二人の姿だった。

「何がおかしい? ”律”」
「い、いやなにも……って、呼び捨て!?」

呼び捨てされたことに目を見開かせる律。

「目には目を歯には歯を、だ。お前はこれから律だ」
「うぐぐ……だったら私も浩ちゃんって――」

再び浩ちゃんと呼んだ律に、僕は彼女の前に置かれたケーキに目掛けてフォークを投げた。

「ちなみに、次は当てる」
「はい、わかりました。浩介」

ケーキを食べ終え、空になったお皿を構えながら告げると、呼び方を変えた。
とは言え、報復のつもりか呼び捨てだったが。

「ちなみに、そこで他人事のように座っているお前もだ、”澪”」
「っ!?」

あ、固まった。

「な、ななななな何故私まで」
「律と笑ってたから」
「はぅ……」

ものすごく動揺した澪はそのまま脱力したのかテーブルに突っ伏す。

「それで、どうして浩君はギターをやろうと思ったの?」
「三歳のころまで英才教育でバイオリンをやっていたから」

話題を戻すように聞いてきた唯の問いかけに、僕はそのまま答えた。

「待て待て! バイオリンとギターの関係が分からないぞ」
「バイオリンからチェロ、ハーブと行ってもう弦楽器が無くなったからギターの方に手を伸ばしてみたら意外としっくりきてやっているんだ」
「す、すごく手が広いな」

律が顔をひきつらせて突っ込んでくる。

「一度興味を持った事柄は、徹底的に調べたり極めるのが僕のくせだから」
「へぇ」

まあ、裏を返せば、興味のないことに関しては徹底して無関心という事だが。

「楽器選びにも性格が出るんだね」

唯が呟いた一言は非常に的を得ているものであった。





ティータイムが進み和やかな空気が流れる中、口を開いたのは澪だった。

「ところで平沢さん」
「唯でいいよ」
「え?」

唯に話し掛けると、唯は名前で呼ぶように言う。
何でも”澪ちゃん”と呼んでいるからとのこと。

「ゆ、ゆい」

視線をあちらこちらにやりながら、最終的には上目づかいで名前を呼ぶと、唯はそのしぐさにぐっと来たのか胸を抑えた。

「だったら僕の事も律みたいに”浩介”と呼んでみたらどうだ? 僕も澪って呼んでいるわけだし、そうすればおあいこだろ」
「………………こ、ここここ……」

僕は鶏なのか?
どう見ても無理そうだ。

「まあ、呼び方は澪の場合は永久の課題という事で、唯はギター買ったのか?」

話題を変えると、僕は澪が聞こうとしていた(というより僕自身が気になっていたこと)を問いかける。

「え? ギター?」

なにそれと言わんばかりの表情を浮かべる唯。

「あー! そうか、私ギターをやるんだっけ!」

ようやっと気づいたのか大発見した感じに声を上げた。
尤も、僕は呆れていたが。

「ここは喫茶店じゃないぞ」

澪の言う言葉は尤もだ。
まあ、目の前に広げられているティーセットやらお菓子やらがなければの話だが。

「値段はどのくらいするの?」
「そうだな、安いので一万円暗いのがあるけど安すぎてもいけないしな、五万円くらいがいいかも」

澪の”五万円”の言葉に唯の表情が引きつった。

「お小遣い十か月分」

それはかなり痛い出費だ。

「高いのだと数十万円するのもあるけど、あまりケチると僕みたいになるからやめとけ」
「どういうこと?」

ここで僕は切り札を切ることにした。

「僕の使っているギター、露店で2,500円で買ったんだ」
「に、二千五百円!?」

信じられないと言わんばかりに澪が声を上げた。

「露店の人曰く、百倍は下る代物らしいからかったんだけど」
「そんなのインチキだろ」

律が野次を飛ばしてくるが、うまく的を得ている

「買ってみたらネックとかが狂っていてチューニングも合わないし、何故か弦が切れやすいというある意味使えない楽器だったんだよ」
「ネック?」

唯は話そのものよりも単語自体に引っかかっているようだが、説明する暇はないので聞き流すことにした。

「新しいギターを調達するにも金銭的余裕の問題でできないから使い続けるしかないんだ」
「だ、大丈夫なのかよ?」
「まあ、度を超えた速弾きとかしなければ普通に使えるし大丈夫なんだけどね」

勿論、これまでした話は全てうそだ。
あの白いギターは僕が故郷で最初に勝ったギターだ。
それこそ二百万以上はするほどの高価な物だ。
どのような音色にも化ける特性がある、今の僕には非常にぴったりな楽器だ。
それもこの楽器をフェイクで使おうとした理由の一つでもある。

「部費で落ちませんか?」
「落ちません」

律に尋ねるも、バッサリと切り捨てられ唯は項垂れるが、ムギさんがすかさず出したお菓子でテンションが元に戻っていた。

「よぉし、今度の休みにギターを見に行こうぜ」

そんな律の一言で、僕たちは唯のギター選びに付き合うこととなった。

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