それはほんの半年ほど前の事だった。
「はぁ。帰りが遅くなっちゃった」
その日、クラスの用事で学校に遅くまで(とは言え夕方5時ごろまでだが)残っていたため、自宅へと歩いて帰っていた。
(何時もの道を通っていたら夜になっちゃうな)
ほぼ愚痴にも近い言葉だったが、夜になれば親が心配する。
(そうだ! 友達が教えてくれた近道を使おう!)
前に友人が教えてくれた近道の存在を思い出した俺は、足早に歩く。
少し歩いたところにあるけもの道へとつながるわき道に入って行った。
そこを通れば、暗くなる前には家につくはずだ。
そう思って中に入った俺だったが……
(ちょっと怖いな、ここは)
まるで何かが出てきそうな雰囲気が漂うその道に、俺は若干怖くなっていた。
道全体が薄暗いからなのと、時より聞こえるカラスの鳴き声が恐怖心に拍車をかけて行く。
(早く抜けよう!)
そう決めて歩く足を速めようとした時だった。
「ん?」
突然発した光に俺は足を止めると、光ったと思われる場所―地面だが―にしゃがみ込んで見つめた。
そこにあったのは、青色のひし形の石だった。
「何だ? これ」
俺はその不思議な石を手にして立ち上がると、まじまじと観察する。
それは普通の石にも見えた。
だが、どうしてだろうか?
この石にとてつもない力を感じるのは。
その感覚を知っている。
俺ではないオレが。
俺は恐る恐るその石に手を伸ばす。
手にとっても特にこれと言って何も感じない。
(何だろう)
「ッ!?」
目の前にある宝石にも見えなくない石をまじまじと見つめていると、何かが首に当てられた。
「動かないでください」
掛けられるのは低く冷たい声。
俺は従うしかなかった。
「その石を渡してください」
続いて投げかけられた要求は、俺の手にする石を渡せという物だった。
「渡してくれるのなら危害は加えません」
なぜこの声の人物はこの石が欲しいのだろうか?
そんな疑問が脳裏をよぎる。
でも、この石を渡しさえすれば、俺は無事に家に帰ってこれるだろう。
俺は従うことにした。
だが、天はつくづく残酷な物だ。
「沈黙は拒否と受け取ります。力づくで奪わせていただきます」
その声がするのと同時に、俺は駆けだした。
本能が告げている。
この人は危険だと。
「なッ!?」
「逃げても無駄です」
目にも留まらぬ速さで俺の行く手を遮る。
金色の髪に赤い目、手には黒い斧のような杖。
紛れもなく”危険人物”だ。
「フォトンランサー・ファイアー!」
「ッ!?」
突如放たれた金色の弾はただの威嚇だったのか、かろうじて避けることが出来た。
「………フォトンランサー・ファイアー!」
だが、間髪入れずに今度は数十個の弾を放ってくる。
俺はそこから先の記憶がない。
気が付いたら、家の玄関ドアの前で呆然と立ちつくしていた。
どうやって俺はそこまでたどり着いたのか、そして右手に握りしめていた石はどうしたのか。
色々な疑問が残る中、俺はそれを夢だったことにした。
そんなこんなで、今近くにその子がいるのだ。
でも、きっともう敵じゃないのかもしれない
確証はないけど、俺は心のどこかでそう思うことにした。
【さて、そろそろ魔法講義も終わるとしよう】
どうやら師匠の講義も終わりのようだ。
俺は師匠に念話でお礼を言う。
「さあ、教室に戻るわよ!」
それとほぼ同時に、アリサは大きな声でそう告げる。
そして俺達は教室へと戻るのであった。
その間、テスタロッサさんからの視線を感じながら。
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