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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第1話 衝撃の事実

成田空港に到着し、入国審査を終えた僕は成田空港のロビーである人物を待つ。
その人物は、僕のかけがえのない仲間でもあり、送迎する人物でもある。

「浩介、こっちよ」
「あ、中山さん」

短い黒髪に、整った顔立ちから凛としたオーラを纏う女性が中山なかやま みどりさんだ。

「一月ぶりね」
「ええ。その時は非常にお世話になりました」
「なに、困ったときはお互い様よ」

ボーイッシュな感じだが、根はとても優しい人だ。

「さあ、車に乗りなさい。君の家に送ってあげる」

僕は中山さんの厚意に甘える形で車のトランクに荷物を積むと、助手席に乗り込みシートベルトを締める。

「それじゃ、行くわよ」
「よろしくお願いします」

僕の言葉を受けて、車がゆっくりと滑り出す。
僕は再び車の窓から外を眺める。
たった一月しか経っていないのに、こうも懐かしく感じるというのは、僕は根っからの日本人だということを示しているのかもしれない。

「向こうの方はどうだった?」
「快く送り出してくれましたよ」

中山さんの問いに僕は静かに答えた。

「本当に、未練はないの? あそこにいれば一流企業とかにも行けるんでしょ?」
「そうですけど……でも僕は、日本人ですから」

僕の答えに、中山さんは”そう”と相槌を打った。
それから再び無言状態が続いた。

「まあ、これで私達のバンド”hyperハイパーprominenceプロミネンス”も活動再開というわけね。そうよね、”DK”?」
「ちょっと、勘弁してくださいよ」

中山さんのからかうような口調で言われたことに、僕は苦笑を浮かべる。
そう、彼女は僕が所属するその世界で知らぬ人はいないと言われているほどの有名バンド、hyper-prominenceの一人なのだ。
ちなみにDKと言うのは、バンドで活動している際の僕の名前だ。
DK=僕という事は、バンドメンバーしか知らない。
それにはある理由があるのだが、それはまた別の機会に話すとしよう。

「まあ、冗談は置いといて、浩介のおかげで死にかけていた私達は、一流バンドになれてるんだから。本当に浩介様様よ」
「……」

中山さんの言っていることはある意味正しい。
当時、彼女たちのバンドは言い方は悪いが今とは間反対の環境だった。
それを部外者の僕とバンドメンバーの努力が実り、ようやく一流バンドまで上り詰めたのだ。

「浩介の演奏指導とたくさんの持ち曲やカバー曲。みんな、あなたに感謝してるのよ。だから、メンバーを代表してお礼を言うわ。ありがとう」
「……素直に受け取っておきます。でも、これからはもっともっと頑張りましょう。何せ、僕たちに灯った火は誰にも消せないんだから」
「………ああ、そうね」

僕は中山さんと今後について意気込む。









自宅の前に到着し、トランクに積んだ荷物を取り出した僕は、荷物を取り出すのを手伝ってくれた中山さんに頭を下げてお礼を言う。

「ありがとうございました」
「いいって、いいって」

そんな僕に、中山さんはフランキーに相槌を打つ。

「それじゃあ、良い学校生活を・・・・・・・ね」

そして中山さんは、意味ありげな言葉を告げ、僕が何のことかと尋ねるよりも早く運転席に乗り込んで、そのまま走り去ってしまった。

「何だったんだろう?」

彼女の車を見送りながら首を傾げる僕は、まあいいかと割り切り数年間空き家にしていた我が家に足を踏み入れる。





「さて、こんなもんだろう」

一通り持ってきた荷物の片付けも終え、ついでに食材の買い出しも済ませた僕は、それを冷蔵庫にしまい終えると、自室でくつろぐことにした。

「お、久しぶりだな。このギター」

僕一人にしては広すぎる自室の窓側の壁の近くにあるギター掛けに掛けられたギター”Gibson ES-339”を僕は手に取った。
このギターは甘く軽快な音色で、低音がはっきりと出るという特徴がある。
十数個のギターを試し弾きして、ようやく決めた愛機で、バンドなどでも使っている僕の右腕的存在だ。
僕はギターをリードでアンプにつなぎ、電源を入れる。
ボリュームを徐々に上げて行き、軽く弦を弾く。
すると、軽快な音色が流れた。
その音色を確認した僕は、今度はピック手にして軽くギターを弾く。
曲ではなく、試し弾きの要領だ。
最初はゆっくりなテンポで、徐々に早めにしていく。
ある程度弾いた所で、僕はギターの弦を抑えて音を止める。

「よし、腕は落ちてないな」

僕がしたのは、腕が鈍っていないかの確認だ。
少々ギターから離れていたので、心配だったがどうやら大丈夫のようだ。

(まあ、離れていたとしても半年だけだけど)

イギリスに留学する際には、ギターも持って行ってよく弾いていた。
ただ、日本に戻ることを決めてそれを日本に送ったのだ。

「ん? これは制服か」

ギター掛けにギターを掛けると、僕は机の上に置かれた大きな箱に目が留まった。
というよりどうして気づかなかったんだろう?

「サイズは中山さん達の方に伝えたから大丈夫だとは思うんだけど………」

イギリスの方での授業の合間に帰国したため、制服合わせなどをする暇もなく中山さんにイギリスの服屋で採寸してもらったサイズを学校側に伝えて貰うことにしたのだ。
中に入っていたのは冬服なのか、白のTシャツと紺色のブレザーに黒色のズボンといった制服一式が入っていた。
取りあえずそれを試着してみた。

「…………」

ぴったりというくらいにサイズが合っていたが、制服を着た自分の姿を見るとどうも違和感が出てしまう。

(制服を着るなんて何回目だろう?)

昔の事なので良くは覚えていないが、少なくとも3回以上は着ている気がする。
しかし……

「しっくりこないな」

自分の制服姿を鏡で見てみるが、どうもしっくりこない。
ただ単に似合わないというだけなのだが。

「とりあえず着替えるか」

僕は制服を脱ぐとハンガーにかける。

(これは何だろう?)

制服の入っていた箱の横に置かれた大きな紙袋の中身を見ると、教科書が入っていた。
僕は教科書一式を取り出すと、同封されていた教科書リストと照らし合わせて、すべてそろっているかを一冊ずつ確認していく。

「これが入学式のお知らせか」

続いて紙袋に入っていた入学式を知らせる用紙を手にするとそれに目を通す。

「よし……次は、生徒手帳か」

紙袋の中に入っていた最後の手帳のようなものを取り出す。
手帳を開くと高校名と僕の名前に学年、そして顔写真が貼ってあった。

「そうだ。高校の名前見ておかないと」

いつまでたっても高校の名前が分からないというのはまずいだろうと思い、僕は学校名の欄を見る。

「…………は?」

高校名を見た僕は、一瞬固まった。
その理由は学校名の欄に記された文字だった。

「な、なんで桜ヶ丘高等学校なの?」

そう、その学校は”私立桜ヶ丘高等学校”だった。
記事で見た共学化した女子高の名前と同じだった。

「こ、これはきっと同じ字なだけだ」

僕は微かな可能性に飛びつくと、生徒手帳に記載されていた住所を携帯のインターネットに打ち込んで検索を掛ける。
結果はすぐに出た。

「……今年から共学」

無残にも可能性は砕かれた。

「そ、そうだ! これは夢だ!」

僕は頬を引っ張る。

「痛いッ!?」

鋭い痛みが走った。

「……字が変わってない! という事は、これは現実?!」

痛む頬をさすりながら生徒手帳を見るが、やはりそこには”桜ヶ丘高等学校”の文字が記されていた。

『それじゃあ、良い学校生活を・・・・・・・ね』

その時、中山さんの言葉が頭の中に浮かび上がってきた。
きっとこのことだったのだろう。

「………………………………」

信じたくない現実を目の当たりにした僕は、只々立ち尽くすだけだった。

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