恋は盲目という言葉を聞いたことはあるだろうか?
一度火がついてしまえば周りのことなど見えなくなる。
つまり、何を言いたいのかというと……。
今目の前を通りかかった短め青色の髪の女子生徒を目で追いかけてしまうのも、仕方ないことだということだ。
「よ、竜介!」
「うわぁ!?」
突然肩に手を掛けられ、俺は驚きのあまり思わず飛び上がった。
「何やってんだよ? お前」
後ろの方に振り向くと、そこには飽きれた表情を浮かべるトサカヘアの男子生徒がいた。
「驚かすなよ、猿山」
「お前のリアクションの方がよっぽど驚くッつーの」
そう言うと、猿山は俺が追って行った視線の先の方に目をやる。
「なんだ、また西連寺の方を見て―――モガガッ!?」
俺は慌てて猿山の口をふさぐ。
いくらなんでも恥ずかしい。
「結城君、何やってるの?」
そんな俺に声をかけてきたのか今話に上がっていた西連寺だった。
「さ、西連寺!? な、何でもないんだよ! あはは」
青紫色のショートヘアーの髪型にし前髪は二つのヘアピンで左右に止められている。
「そ、そう? それよりも、猿山君苦しそうだけど」
怪訝な表情を浮かべたものの西連寺は納得したようで、俺にそう言ってきた。
「ッ! ッ! ッ!」
「……あ」
俺は慌てて猿山の口を封じていた手を放した。
「ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー……死ぬかと思ったぜ」
「わ、悪い」
口と一緒に鼻も一緒に抑えてしまっていたようで、まるでマラソンを走り終えたかのように息を切らしていた。
そんな彼に、俺はただ平謝りするしかなかったのであった。
「はぁ………今日も告白できずか」
夜、風呂の湯船につかりながら、俺はため息を漏らす。
俺は西連寺の事が好きだ。
これは間違いない。
そう、それを伝えることが出来ないだけだ。
今まで何度か伝えようとはしたのだが、そのたびにアクシデントが発生し、結局は言えずじまい。
もはや諦めにも似た気持ちが出てきてしまう。
「はぁ……」
そして再び漏れ出すため息。
(ん? 気のせいか)
一瞬何かの音が……電流の放電音のようなものが聞こえたような気がしたが、そもそもそんな事が起こっていれば俺はただでは済まないだろうと思い、気のせいだと考えることにした。
「な、何だッ!?」
突然目の前が青白い光に包まれる。
そして次の瞬間、風呂が爆発した。
俺はその衝撃から身を守るように両手を前に突き出す。
「ふ、風呂が爆発した?!」
(あ、あれ……柔らかい)
前には柔らかいようなものは一切ない。
それならこの手にある柔らかい感触は何だろう?
それはすぐに分かることになった。
爆発の衝撃で吹き上がった風呂の湯が元に戻った時に。
「うぅーん。脱出成功~」
前から聞こえる少女の物と思われる声、そして手にある柔らかい感触。
もはやこれが何かなど、考えるのは愚問だ。
俺は慌てて掴んでいるであろう”それ”から手を放した。
「ねえ」
「……………」
最初は湯気で見えなかったが、それが徐々に晴れて行き、前にいるであろう少女の姿がはっきりと見えるようになってきた。
問題なのは、いきなり風呂に少女が現れ事ではない。
いや、それもあるのだが。
それよりも問題なのは、少女が衣服などを
一切纏っていないということだ。
「もう終わり?」
そんな俺の心情を理解しているのかしていないのか、追い打ちをかけるように尋ねてきた。
「うわぁぁっ!!!」
そして俺はいつもは出さないであろう大声を上げて風呂場から逃げ出した。
「どうしたの!? 竜介」
俺の叫び声を聞きつけた美柑が慌てて駆けつけてきた。
「ふ、風呂に裸の女の人が!」
「はぁ?」
意味が分からないと言いたげな目で俺を見ると、風呂場の方に向かっていく。
「どこにいるって?」
「だから、そこに……あれ?」
美柑の問いかけに、俺は応えようと恐る恐る風呂場を見るが、そこには誰の姿もなかった。
「確かにいたはずなのに」
「竜介、年ごろなのはわかるけどさ。妄想と現実の区別位、つけようね」
おかしいなと首を傾げる俺に、美柑はからかうような目で注意してきた。
「妹として恥ずかし――あたッ!?」
「俺は妄想少年じゃない。もう一回風呂桶につかる」
とりあえず、美柑にはデコピンをお見舞いして、俺はもう一度お風呂に入り直すのであった。
(何なんだよ。まったく)
俺は本日一番の、深いため息をつくのであった。
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