「はぁ……はぁ!!」
俺は急いでいた。
突然襲った地震。
それが襲撃だと言う事を悟った俺は、即座に合流地点へと向かっていた。
だが、そこに立ちはだかったのは、大量のガジェット。
(いくらなんでも侵入が早すぎる!!)
俺は心の中で愚痴をこぼしながら、ガジェットを蹴散らして進んでいく。
先ず俺がするべきなのは、スバルからクリエイトを受け取ることだ。
それをしなければ、万全な体制で戦うことなどまず不可能。
(スバルの魔力反応は……ここだ!!)
俺は、スバルの魔力反応を探すため、分かれ道の箇所で魔力反応を探し出しながら進んでいた。
その為、襲撃が始まってから既に2,30分は感覚では経っているはず。
そのことが、俺をさらに焦らせる。
「見つけた!」
最後の分かれ道で、より鮮明なスバルの魔力反応を感じた俺は、分かれ道の箇所を左に曲がり全速力で走った。
その先で見たのは、地面に広がる赤い液体と………
「返してよ………ギン姉を返してよぅ!!」
地面に四つん這いになって、誰もいない場所に向けて叫ぶスバルの姿だった。
「スバル! 大丈夫か!!」
「真人………さん」
俺の声に気付いたスバルは、こっちを見た。
「ギン姉が………ギン姉が!!」
スバルのその言葉だけで、何があったのかが理解できた。
おそらくナカジマさんは、何者かによってさらわれたのだろう。
目的は分からない。
考える時間もない。
俺のやるべきことはただ一つだけだ。
「スバル、クリエイトを」
「え?」
「クリエイトだ。俺がスバルのお姉さんを助け出す!」
スバルのお姉さんを、取り戻すことだ。
「本当………ですか?」
スバルの問いかけに、俺は頷いた。
「お願い……ギン姉を助けて」
「分かった。だから、そこで待っててくれ!!」
俺はクリエイトを受け取りながらスバルにそう告げると、すぐに起動させて転移魔法で表に出た。
中はAMFが高い。
だからこそ、それほど高くない表に出れれば、後は相手の魔力反応を追うだけだ。
「クリエイト、ナカジマさんの魔力反応を探しだして!」
『了解………出ました!! ここから北北西の方向で確認。現在移動中!!』
クリエイトの報告を聞いた俺は、即座に空へと飛びあがると、北北西の方向に向かって飛んで行った。
「このあたりのはずだが………見つけた!!」
北北西の方向を飛んでいた俺は、ボードのようなものに乗っている二人の人物を見つけた
そこに向かって俺は急降下すると、牽制用の魔法弾を数発放った。
「何!?」
銀色の髪に、をしている少女の背後に回ると、剣状のクリエイトを首筋に突き付けた。
「こいつが傷つけられたくなければ、ギンガ・ナカジマを解放しろ!!」
「チンクを人質にするなんて、卑怯ッス!!」
赤い髪の少女が非難してくる。
確かに、俺のやっていることは、どこぞの犯罪者と同じことだ。
だが、そもそも向こうが仕掛けてきたことなのだ。
これくらいはやって罰は当たらないだろう。
………処分はあるが。
「生憎とこっちには話し合いとかをしている時間はない。失礼だがこういう手段を取らせて貰った。さあ、早くしろ」
「分かったッスよ」
ピンク色の髪の少女は、仲間が人質に取られたことで、渋々と言った様子で歩き出した。
(よしッ!!)
俺が心の中でガッツポーズをとった時だった。
「ぐッ!?」
突然、俺は背後から何者かに殴リ飛ばされた。
「隙あり♪」
背中の痛みを堪え、背後を見ると、そこには水色の髪をした少女がいた。
どうやら、彼女の仕業らしい。
しかし、一体どうやって俺の背後を?
そして、俺は思い出した。
(地面から……出てきた?)
エリオを不意打ちのごとく襲撃し、さらには少女を奪い返した人物。
執行人が言っていたのは彼女の事だったのだ。
(これで、振り出しか)
「よくもチンク姉を!」
目の前にいる赤い髪をした少女は、殺気立った様子で、俺を見ていた。
見れば彼女やチンクと呼ばれた、銀色の髪に眼帯のようなものをしている少女は少なからずダメージを負っている。
おそらくは、スバルやフォワード陣のおかげだろう。
ならば、勝率も少しは高くなる。
「それだったら、徹底的に、やってやろうじゃないか!!」
そして、俺は瞬時に攻撃に転じた。
「刃呪縛!!」
俺は、少女たちに向けて複数の魔力刃を放つ。
しかし、それを少女たちは難なく躱した。
だが、やはり赤い髪の少女と、チンクと呼ばれた少女の動きは、ダメージを負っているためかどこかおかしかった。
「はッ!!」
「っと!?」
考え込んでいた隙を狙って、チンクと呼ばれた少女が数本のナイフをこっちに向けて投げてきた。
俺はそれをすべて躱した。
だが……
「IS発動、ランブルデトネイター!」
その呟きと同時に、背中に衝撃波が襲ってきた。
おそらく、避けたナイフが爆発したのだろう。
「でやああああ!!」
爆発の衝撃波を受け、体勢が崩れた隙を狙い、赤い髪の少女が攻撃を仕掛けてきた。
「ッく!! シールプロテクション!!」
それを何とか防御障壁を展開することで防ぐ。
「リフレクション!!」
「ッぐ!?」
反射の付加をかけ、少女の攻撃を、そのまま跳ね返した俺はピンク色の少女から放たれる誘導弾を躱しつつ、次の手を打とうとした。
「ッ!?」
しかし、俺はなぜか地面に倒れていた。
(直撃したのか?)
俺はそう考えながら、立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
いや、足に力が入らないのだ。
(まさか!!)
俺は、いやな予感がして背中にあるはずの、ステッキを手にする。
(やっぱり)
俺が見たのは、煙を上げ時たま火花を散らしているステッキだった。
おそらく、先ほどの爆発の衝撃で、限界までかけていた付加に耐えられなくなり壊れたのだろう。
「地面に倒れたっスね」
「よく分からんが、止めを刺した方がいいだろう。私がやろう」
少女たちの会話が聞こえた。
今の俺では、立ち上がることもできない。
万事休すか?
『諦めるな。諦めたらそこですべては終わる。惨めでも足掻け、元々人は惨めな生き物なのだからな』
執行人の言葉が頭をよぎった。
そうだ、まだ魔力がある。
「うおおおお!!!」
俺は上半身に力を入れると、その場を離れ上空の方へと避難した。
「っとと!!」
下半身の力が入らないため、バランスがとりずらいが、これで急場はしのげる。
「しぶといッスね~」
「悪いな。あきらめが悪いのが俺の悪い癖だからな」
何故かそう言える余裕があった。
(そうだ。俺がやるべきことは、彼女たちを倒すことじゃない。仲間を取り戻すことだ!!)
幸い、俺にはその魔法がある。
「だから、こうさせてもらうよ!!」
「なッ!? バインド?!」
「何時の間に……だが、こんなもの!!」
俺は少女たちにバインドをかける。
速度を優先したため、かなり脆く子供の力だけで簡単に外れるほどの強度しかない。
だが、それでも俺には十分だった。
「天命が告ぐ、眠りを知らぬ民よ、眠りたまえ。スレイン・ヴェネレイア!!!」
弓状のクリエイトを構え、魔力で生成した矢を引く。
目標は、少女たちから離れた場所だ。
そして、それを射た。
「はん! どこを狙って―――――」
誰かがそう言ったが、その声は聞こえなかった。
なぜなら、矢が突き刺さった場所の周辺が眩い光に覆われたのだから。
そして、光が消えると、そこには地面に倒れ伏している少女たちの姿があった。
(間一髪だったな)
光を浴びた者達を一瞬にして眠らせるあの技は、執行人と健司と考えた技だ。
まさか、ここでその効力を発揮するとは思ってもいなかった。
「取りあえず、ナカジマさんを――――」
「へぇ、君があの”転生者殺し”か~」
ナカジマさんの魔力反応がするケースへと向かおうとした俺の声を遮るように、俺の真後ろから男の声がした。
それと同時に放たれるのは、殺気だ!
(まずいっ!!)
俺は慌ててその場を離れようとした。
だが………
「ッがは!!?」
体の左胸辺りに、焼き付けるような痛みが走った。
俺は、痛みをこらえながら、下を見るとそこには俺の平に胸を貫く、一本の黒い剣があった。
「おや、急所がそれたか。さすがは転生者殺し。あいつよりは見ごたえがあるな」
「あい……つ?」
男の言葉から、それが健司だと言うことはすぐに分かった。
「だが、それもここまで。散!!」
「ッ!!!?」
男の声がした瞬間、俺を言葉には言い表せないほどの痛みが走った。
おそらくは、俺に突き刺さっていた剣が、爆発したのだろう。
そして今俺は、地面に横たわっているのであろうか?
「これで、もう邪魔者はいない。これで、我が悲願が成し遂げられる!! ふははははは!!!」
男の狂ったような声がどんどん遠ざかっていく。
目の前も真っ暗になって行きかけている。
(スバル……すまない)
俺は、約束を成し遂げられなかったスバルに心の中でそう謝罪の言葉を上げ、意識を手放した。
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