健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第11話 銭湯で

待機所に戻って合流した美由紀さんとエイミィさんにアルフ達と夕食を食べた俺達は、ひょんなことから銭湯に来ることとになった。
そして海鳴市内にある『海鳴スパラクーアツー』へと俺達は向かうのであった。










中に入ると、店員が元気よく挨拶をしてきた。

「はーい、いらっしゃいませー! 海鳴スパラクーアツーへようこ……団体様ですか?」

大勢で入ってきた俺達を見て、店員は一瞬驚いたが、すぐに対応した。

「えーと、大人15人と……」
「子供4人です」

はやてとフェイトが人数を店員に言った。
と言うより19人ともなれば団体になるよな、普通は。
ティアナは確認のために子供のメンバーを確認していく。

「エリオと、キャロと……」
「私と、アルフです!」

リインがティアナに手を挙げて自分達をアピールする。

「おー!」

そしてアルフは嬉しそうに返事をする。
しかし、こういった場所に獣耳とかしっぽとかを出してていいのだろうか?

(まあ、コスプレだと思われるか)

俺はそう強引に納得した。

「えっと、ヴィータ副隊長は?」

するとスバルはヴィータに確認を取る。

(おーい、スバル。それ禁句だ)

案の定ヴィータはスバルを睨みつけて一言

「あたしは大人だ!」

と不機嫌そうに言った。

(後で絶対にスバル逆襲されるな)

俺は心の中で手を合わせた。

「あ……はい! では、こちらへどうぞー!」

そんなやり取りを見ていた店員は若干表情が引きつっていた。
この日、この店員はある意味大変な時になったに違いない。

「お会計しとくから、さき行っててな」
「はーい!」

はやての言葉に一同は声を揃えて返事をする。
まるで引率する先生とと生徒のようだ。
まあ、ある意味その通りなのだが。
それはともかく俺達は中の方に進んだ。










「にしても本当にすごいな、ここは」

俺は案内図を見て呟いた。
ここの銭湯は当然だが、男女で分かれている。
そしてすごいのは露天風呂だ。
男女ともにあるのはいいのだが、何と混浴用の露天風呂まであるのだ。
普通の露天風呂もあるが、出る所を間違えれば混浴の目に合うことは必須だ。

(気を付けないと)

俺はそう心に強く決意した。
と、そんな事を考えているとエリオは”男”、”女”と分かれて吊されている暖簾を確認していた。

「……あぁ。よかった、ちゃんと男女別だ」

エリオは心底安心していた。

(そう言えば、エリオは女性用のお風呂に入っているんだったっけ)

俺は思い出した。
だとすればエリオがここまで安心する理由は分からなくもない。
まあ、世の男性どもはものすごい贅沢を言っているように感じるかもしれないが。
とそんな時、キャロが笑顔でエリオに近づく。

「広いお風呂だって。楽しみだね、エリオ君!」
「あ……うん、そうだね。スバルさん達と一緒に楽しんできて」

エリオの言葉にキャロの表情が曇る。

「え……エリオ君は?」

エリオはキャロの悲しげな表情に戸惑いつつも必死に抵抗する。

「ぼ、僕は……ほら一応、男の子だし」
「んー……でもほら、あれ!」

エリオはキャロが指さす方の注意書きに目を通した。

「注意書き? えっと……女湯への男児入浴は、11歳以下のお子様のみでお願い……します」

キャロは笑顔のまま、エリオの逃げ道を狭めていく。

「ふふッ、エリオ君10歳!」
「え!? あ……」

慌ててエリオは逃げ道を探る。

「おい、あれ助けなくていいのか?」
「楽しそうだからもう少し見てる」

俺の元にやってきた執行人の問いかけに、俺はそう答えた。
俺の答えに、執行人は『えげつない』とつぶやいていた。
どうでもいいが、この黒いステッキと言うのは微妙に目立つ。
ちなみにエリオは時よりこっちの方に、助けを求める視線を送って来ていた。

「うん。せっかくだし、一緒に入ろうよ」

と、フェイトはキャロに援護射撃を送った。

「フェイトさん!」

キャロは嬉しそうにフェイトを見るが、エリオはまさかフェイトがキャロの援護射撃をするとは思ってもいなかったようで、動揺していた。

「い……あ……い、いや、あ、あのですね……それはやっぱり、スバルさんとか、隊長達とかアリサさん達もいますし!」

エリオは必死に断ろうとするが、その言い方だとあまり断っている風には感じない。

「別に私は構わないけど?」

エリオの抵抗もむなしくティアナはあっさりと承諾した。

「てゆーか、前から、『頭洗ってあげようか?』とか言ってるじゃない」

そしてスバルもだ。

「う……」

エリオは段々逃げ場が無くなってきていた。

「私等もいいわよ。ね?」
「うん」
「いいんじゃない?仲良く入れば?」

アリサ、すずか、なのはと、次々にエリオの女湯入浴許可がおりてくる。
そしてフェイトは『男の言われたい言葉』ベスト10に入っていそうな言葉を言って、止めを刺した。

「そうだよ。エリオと一緒にお風呂は久しぶりだし……入りたいなぁ……」

とうとうエリオは抵抗することが出来なくなった。

(頃合いか)

いままで面白そうだからと黙っていた俺は、助け舟を出すことにした。

「まあまあ、フェイト、俺も男同士の親睦を高めたいなと思ってたんだから、ここは男女別に入りましょう」

そんな俺の言葉に、エリオは非常に喜んだ。

「「えー」」

そしてフェイトとキャロは不満そうな声をあげる。
だが、俺の方も対策を取ってあるのだ。

【後で、エリオをそっちに行かせるので、それでいいでしょ?】
【うーん。それなら】

俺の説得に、フェイトは渋々頷いた。

「それじゃあ、失礼します」

俺はそう言うと男湯の方に向かった。

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第12話 触れ合う心

男湯でキャロが乱入してくるというハプニングもあったが、エリオとキャロの二人で仲良く子供用の露天風呂の方に出て行った。

「まさか本当に忘れてるとは思ってもなかったぞ」
「全くだ」
「面目ありません」

男湯に入った俺は、ある重要な事を忘れていたのだ。
それが、ステッキがないと歩けない事だ。
では、なぜそんなことになったのか。
普通のお風呂の時、俺はステッキを防水魔法をかけてお風呂内に持ち込んだり、執行人をメインに権限移動させたりなどしていたのだ。
だからこそ、いつもの感覚で入ろうとしたら、思いっきり止められたのだ。
だからと言って魔法文化のないこの世界で、人前で執行人とユニゾンをするという事も出来ず俺は健司と執行人に支えられるようにして入浴する羽目になったのだ。

「しかも眼への魔力供給を続けていただなんて。笑い話にもならないぞ」
「言い返す言葉もございません」

さらに、俺は目への魔力供給を続けた事による疲労によって、強制的に目に魔力を供給できなくなってしまったのだ。
これも1時間ぐらい放置していれば回復はするが、さらに健司たちに迷惑をかける羽目になった。
つまり、俺は今何も見えず、そして歩けないという数年前に逆戻り状態と言う事だ。

「そこで、そんな馬鹿なお前に素晴らしい光景を見せてやろう」
「素晴らしい光景って……今の俺はそんなことできないんだぞ?」

執行人の言葉に、俺は首を傾げながら問いかけた。

「そんなの、俺とユニゾンをすればいいだけだ。何案ずるな。今ここのあたりは湯気が濃い。静かにやれば誰にもばれまい」

俺の心配を見透かしたように執行人は言うと、強引に俺とユニゾンをしてきた。
その為、俺は全ての感覚がシャットダウンされた。

(一体何をする気だ?)

俺の心配をよそに、不意に感覚が戻った。
ただ視力と足に力が入らないのを除いて。

「それでは、どうぞごゆるりと」
「は? おい、どういう意味だよ!!」

俺の問いかけに執行人は答えないばかりか、俺から離れていく。

「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」

その時、俺の耳に聞きなれた人物の声が聞こえてきた。

「な、なのは!?」

その声は、なのはの物だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「ふう、いいお湯」

私は、お湯にのんびりと浸かっていた。

「あれ、露天風呂なんてあったんだ」

私は露天風呂という看板が見えたので、そっちに行くことにした。

「うわぁ、いい景色」

そこは、夜空がとてもきれいな場所だった。
そんな時です。

「おい、聴いてるのかよ、執行人!!」
「え、真人……君?」

突然真人君の怒鳴り声が聞こえた。

「な、なのは!?」

そこにいたのは、私のせいで迷惑をかけてしまった真人君の姿だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


(ど、どどどうしてここになのはが?!)

俺は突然の事に混乱していた。

「もしかして、ここって混浴用の露天風呂なのか!?」
「………どういう事か、聞かせてくれる?」

なのはのどすの入った言葉に、俺は怯えながらありのままのことを話した。
今の俺の状況、そしてここがどういう場所なのかを。

「そ、そうだったんだ。私ちゃんと看板を見ない出来ちゃったんだ。ごめんね」
「い、いや。俺の方こそ、色々とごめん」

俺となのはの間で変な空気が漂っていた。

「…………ね、ねえ」
「な、何だ?」

俺は、なのはが突然声をかけてきたので、思わず驚いてしまった。

「一緒に入ってもいい……かな?」
「………へ?」

俺はなのはの言葉に、それしか言えなかった。

「やっぱりダメ……だよね」
「い、いや! ダメじゃない。なのはが嫌じゃなければ……」

俺はそこまで言うと必死に体を端の方へと動かして、なのはが入るスペースを作る。

「そ、それじゃあ………お邪魔します」

なのははそう言いながら、俺の隣の方に浸かった。
俺は内心心臓バクバクだった。
だが、これはもしかしたら、俺がなのはと話をするいい機会なのではないかと悟った。
だからこそ俺は後悔の内容に話をすることにした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


真人が混浴用の露天風呂でなのはと遭遇しているころ、男湯では……

「うまく行ったか?」
「ああ、ばっちしだ」

健司と執行人の二人が悪人のように笑っていた。

「これでなのはと話をする状態になるだろう」
「だな。俺もあいつがなのはとの関係がぎくしゃくしてるのは嫌だし、それにあいつには幸せになってもらいたいしな」

健司の言葉に、執行人は静かに笑った。
それを健司は咎めるように執行人を見る。

「何、今僕は安心しているのだよ。君を消さなくてよかったとな。最初のころのお前は最低な奴だった」
「………俺もあの頃の自分に会ったら殴り飛ばしてやりたいさ。最強の力を手に入れただけで舞い上がっていた馬鹿な俺を」

執行人の言葉に、健司は昔を懐かしむようにつぶやく。

「お前は、転生者の中でのいい見本でもあり真人の親友だ。だからこそ、もう一度頼もう。わがマスターを、よろしく頼む」

執行人の問いかけに健司は

「こちらこそだ。執行人!」

力強く頷いたのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「なあ、なのは」
「な、何……かな?」

俺はなのはに意を決して話し掛けた。

「どうして、なのはは俺と昔のように話してくれないんだ?」
「ッ!!」

俺の言葉に、なのはが息をのんだ。

「もし俺が何か悪いことをしたなら教えてくれ。頭を下げて謝る」
「………」

俺の言葉に、なのはは何も言わない。
だがやがて、なのはは重い口を開いた。

「だって、私なんかが真人君と話すけりなんてないもん」
「………」

俺はなのはの言葉を一言一句聞く。
なぜなら、それがなのはの本心、心の叫びだからだ。

「私のせいで、真人君は歩けなくなって目が見えなくなって。こんなことをした私なんかが真人君と話すなんてこと――「もういい!!」――」

俺は、ついに聞いていられなくなり、なのはの言葉を遮ってしまった。

「なのは、俺はあの時の事で怒ったりなんてしてない。あれは油断しきった俺が悪いんだ」
「真人君のせいじゃない!! 私のせいだよ!!」

俺の言葉に、なのはも頑なに譲らない。

「確かに自分の体調管理が出来ていなかったなのはも悪い。だけどななのはだけのせいじゃない。俺だって油断をしていたんだ。だからお互い様なんだ」

俺は静かに説得するように言っていく。
ここでしくじったらすべてが終わる。
それに、話し合いの場を設けてくれた二人に顔向けができない。

「それに男は女性を守って南畝だろ? 俺にも少しはかっこつけさせてくれよ」
「私は……私はどうすればいいの? ねえ、答えてよ。私はどうすればいいの?」

なのはの言葉に、俺は少しの間考えると、すぐに答えを出した。

「だったら、前と同じように俺に接してくれる……でどうだ? 俺はこっちの方がとてもうれしいな」
「うぅ……うああああああ!!!」

俺の言葉に、なのはは突然泣き始めた。
俺はそんななのはの頭に手を置いて優しく撫でることにした。
どうでもいいが、目の見えない中で良くできたなと思ったのはその後の事だった。









「何だか……心の重荷が無くなっちゃったよ」
「そうか。それは何よりだ」

あれから数十分して、泣きやんだなのはと会話を楽しんでいた。
その会話は、とても楽しくて昔の光景を彷彿とさせるものであった。

「なあ、なのは?」
「ん? 何かな真人君?」

そんな中、俺はもう一つ重要な事を切り出すことにした。

「あの時さ、俺任務に行く前にこう言った事覚えてるか?」
「うん。 『この任務が終わったら、話したいことがある』だったよね?」

なのはの言葉に俺は頷いた。

「今、その話したいことを言うな」
「うん」

俺は深呼吸をした。
そして自分の気持ちを伝えた。

「俺はなのはの事が、一人の女性として好きだ!!」
「ッ!!」

それは、8年来の告白であった。

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第17話 すれ違う心

あの後、ガジェットを全機破壊した俺達は、ガジェットの残証物の回収をしていた。
そんな中、俺はなのはに連れて行かれるティアナを見た。

(………ティアナがなのはの言葉を聞いてくれればいいんだが)

俺は心の中でそう思う。
仲間割れは起こしたくないのが、俺の本心だ。
今俺達がやるべきことは、任務を無事にこなしていくことだ。
ならば………

(なら、俺は何をすべきなんだろうな)

ついつい考えてしまうこと。
俺はスパイ活動をしている。
この活動は平和のためだと思う自分もいれば、はやてへの罪悪感を感じる自分もいる。
ついついはやてのいる目の前で土下座をしてすべてを懺悔をしたくなってしまう。
それが出来れば、俺はどれだけ幸せなのだろうか。

(でも、悩んではいられないんだよな)

俺はなるべく早く、結論を出そうと思うのであった。










夕暮れ時、六課に戻った俺は、森の木に寄り掛かるようにして座っていた。

「ふう……」

そこは、何気に俺の休憩スポットになっていた。

(それにしても、なんでティアナは無茶を……)

俺の感じたティアナの姿からは到底想像もできないミスだった。
ティアナの精密射撃の精度はすごいと言うのは俺も知っている。
だとすれば、あのような凡ミスを犯すだろうか?

(それに何だか焦っていたような……)

俺は目の前にモニターを展開すると管理局のデータベースにアクセスする。
そして閲覧したのは、ティアナのデータだった。
俺の知りたい答えが、そこにあるような気がしたのだ。

「別にこれと言った点はない……ッ!?」

俺はとうとう見つけた。
経歴の備考欄に書かれていた一文を。

『ティアナ・ランスター氏の兄ティーダ・ランスター死去。享年21』

俺はすぐに彼について調べた。



名前:ティーダ・ランスター
階級:一等空尉
所属:首都航空隊
年齢:21(死去)



「逃走中の違法魔導師を追跡中に殉職か………しかしそれだけでもない様な気が……」

俺はどんどんと詳細データをあぶりだしていく。
やがて………

「これは、音声データ?」

俺は、極秘事項の音声データを見つけ、それを開いた。

『えー、ティーダ・ランスター氏の件に関しては、犯人を追いつめながらも取り逃がすのは、首都航空隊の魔導師ではあるまじき失態であり、たとえ死んででも取り押さえるべきであると申し上げたい所存でございます』

聞こえてきたのは、死人を冒涜するようなコメントだった。
おそらく、彼の上司なのだろう。
しかし、えげつなく冷酷な言葉だ。
他にも『任務を失敗するような役立たずは死んで当然だ』と言う極悪非道なコメントもあった。

「こんな事を言われてたら、ああもなるな」

俺はようやく理解できた。
彼女がそこまで無茶をする理由が。
そして考えた。

(俺の時は、プラス評価だったけど、もしそれが………)

あの事故の後、俺の階級は上がり、そして周りから褒め称えられた。
”エース・オブ・エースを、身を挺して守った騎士のような魔導師”と。
もしそれが、彼のようなコメントだったら、俺はどうなっていたのだろうか。

「………」

俺は目を閉じて考え込むのであった。










「ん………」

俺は不意に意識がはっきりとした。
どうやら考えている時に寝ていたようだ。
すぐさま目に魔力を通して、視力を得る。

「夜……か」

辺りはすでに真っ暗だった。
そんな時、草を踏むような音がしたので、俺は立ち上がった。

「誰だッ!!」
「お、俺だよ」

姿を現したのは、健司だった。

「どうしたんだよ? こんなところで」
「俺はちょっと気になることがあってな。そう言うお前は何でここにいる?」

俺の問いかけに答えながら、健司は尋ねてくる。

「休憩してたら寝ちまったんだよ」
「時々抜けてるよな。お前って」

健司の言葉に、俺は”うっさい”と答えそっぽを向く。
そんな時、三人目の足音がした。

「あれ、山本副隊長に、井上副隊長じゃないですか。どうしたんすか? こんなところで」

姿を現したのは、ヴァイスだった。

「ティアナの様子を見に来たんだ。まだやってるのか?」
「ああ、戻ってからずっとだ。俺の言葉も聞きやしねえ」

健司の問いかけに、ヴァイスがお手上げと言った様子で答えた。
どうやら、ティアナはいまだに無茶をしているようだった。

「だったら、ティアナは俺達に任せてくれないか? これでも上司だし」
「………そんじゃ、よろしく頼むぜ」

俺の言葉にそう言い残し、ヴァイスは去って行った。

「健司、行くんでしょ?」
「ああ」

俺と健司はヴァイスが出てきた方へと向かって行く。
彼女の姿はすぐに見つかった。
白色の球体にただひたすらにクロスミラージュを向けるティアナ。
俺はそんな彼女に声をかける。

「訓練とは精が出るね」
「………山本副隊長」

突然かけられた俺の声に、ティアナは疲労からか息を切らしながら俺の方を見てくる。

「何の用ですか?」
「今日ミスショットしたばかりだろ。悔しいのは分かるがよ、詰め込んでも意味はない。今日は一日ゆっくりとして明日からまた頑張ると良い」

冷たいティアナの声に、俺は明るく話す。

「詰め込んで練習しないと意味がないんです。凡人な物で」
「そうか? 俺は凡人だとは思わねえけど、そんなんでいくらやっても無駄だからやめとけ」

ティアナの答えを聞いた健司が彼女にそう返した。
その瞬間、ティアナがこっちを睨みつけるように見てきた。

「なんですか! 私を見下してるんですかッ!? 山本副隊長はにやにやして、そんなに凡人を見下して楽しいんですか!!」

ティアナが喚き散らす。

「違う! 俺は決してティアナを見下しては――――」
「ええ、そうでしょうね!! あなたのような天才に、私の様な凡人の気持ちなんか分かるわけないですよね!!!」

ティアナの言葉に、俺はショックを隠せなかった。
俺はただ仲間割れを起こさないようにと笑顔で話していただけで、そのようなことはない。

(言葉で通じ合える時代は終わった……か)

執行人の言葉を思い出した。
それは俺が一番認めたくないものであった。
だからこそ、俺は限界だった。

「おい、ティアナ! そんな言い方はねえだろ! こいつはお前のためを思って――――」
「健司、いいよ」

俺はまくし立てる健司の言葉を遮る。

「だが―――――」
「良いって言ってんだろ!!」
「ッ!?」

健司が信じられないと言った様子で、俺を見てくる。
そう言えば、声を荒げるのはこれが初めてだった様な。

「確かに俺には凡人の気持ちは理解できない。だがな、ティアナ。お前は天才の気持ちは分かるのか?」
「え?」

ティアナが驚いた様子で声を上げた。

「まさか天才だから何の苦悩もないと思ってた? だとしたら相当なバカだよ、お前は。気持ちが分かりっこない? それはそっちじゃねえのか?」

俺は心の奥底でせき止めていた想いが口を出て行く。

「俺が下半身不随の後遺症を負った時の気持ちが、お前たちはわかるのかよ!! 分かるわけないよな、だってお前は俺じゃないもん―――――」
「真人! そこまでにしておけ」

俺の罵声を遮るように体を揺らす健司。

「ッ!! もう良い。好きにすればいいよ」

俺は自分の言っていたことの愚かさに気付き、そう言い捨てるとそのまま二人に背を向けて歩き出す。

(俺も、まだまだ……だな)

今まで言わないようにしていた気持ちがこみ上げてくる自分の未熟さに、俺は情けなかった。

「ごめん」

誰にも伝わらないその謝罪は、俺自身の罪悪感から逃れるための物だったのか、それは俺にもわからない。
そして俺は隊舎に戻るのであった。





『定時連絡。本日、ホテル・アグスタにて警護任務があった。途中ガジェットの襲撃があったが新人や部隊長の活躍で全機撃墜、任務は無事成功した。新人たちの成長をうかがい知るものとなった』

―――俺は何時まで、自分を偽ればいいのだろうか?―――

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第13話 彼のやるべき事と敵

「よ、迎えに来たぞ」
「………」

なのはが上がってしばらくして、時を見計らったかのように執行人がやってきた。

「何だ何だ? その様子だと話せなかったのか?」
「………実は」

俺は事の顛末を話した。

「へぇ、告白までしたか。で、返事は?」
「………」

俺は首を横に振って執行人の質問に答えた。

「そうか……嫌な事を聞いたな、すまない」
「大丈夫だ」

何だか執行人が変な方向に勘違いしている。
まあ、放っておこう。
告白はしたが、俺はなのはから返事を聞いていないのだ。

「隣良いか?」
「………ああ」

俺は執行人の声色から何かを感じ、頷いた。

「お前の体の後遺症だが」
「分かってる。俺の体の中に駆け巡っているAMFもどきの影響……だろ」

俺は執行人のセリフを遮って告げた。
俺の後遺症は、執行人曰く魔力結合を無効化するAMFに似た何かが、体中に張り巡らされているからだという事だ。
つまり、力を入れようとしても入れられずに正常な行動が出来ない。
だから目が見えなくなったり、足が動かなくなったりするのだ。
俺の持っているステッキは、それを無効化する効果があるのだ。

「知ってるなら話が早い。それをやった首謀者はおそらく、転生者だ」
「………そうか」

執行人の言葉に、俺はそう答えた。
転生者。
不正な方法で違う世界に強制的に割り込んでくるイレギュラー。
その存在だけで世界に負荷をかける一種のウイルスだ。
俺の役割は、この転生者を排除すること。
その為に、俺は転生者の能力の高さに合わせて強くなっていったりするのだ。
あの事故の後に魔法の力がさらに高まったのは、その為だろう。

「俺がメインならそれ自体を無効化できる。だが、お前の場合はあの杖がなければ無効化できない」
「分かってるさ。これを解消する方法が神化するか、解毒剤を作ってもらうしかないことくらい」

神として格上げする”神化”は、俺の切り札だ。
これをやれば、俺は最強の強さと身体能力を手にすることが出来る。
但し、問題がある

「神化すれば、もう元の人間には戻れなくなり、お前は神として長い時を生きることになる」

執行人の言うとおりだった。
神化すれば、俺の寿命は引き伸ばされる。
だがそれは知っている人たちを次々に失うことを意味していた。
だからこそ俺はその方法に打って出れなかったのだ。

「まあ、じっくりと考えると良い。そうすれば、他に何か名案が思いつくだろうよ」
「……そうだな」

なのはへの告白の返事に重ねて転生者の事と、考えることがたくさんだ。
だが、一つずつこなさなければいけないというのも確かであった。










その後、お風呂から上がった俺達を待っていたのは、ロストロギアの反応を知らせる物であった。

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第15話 出張任務終了と転生者

ロストロギアの封印が完了したとのことで、はやてから正式に出張任務の終了宣言がされた。
そして俺達はミッドチルダへと戻っていた。

【どうだった、久しぶりのここは?】
【……そうだな。気兼ねなくのんびりできた。ただそれだけだ】

俺の問いかけに、執行人が完結に答えた。
それは受け取り方を変えるとやや不満足と言う意味でもあった。

【何が不満なんだ?】
【……愚かな転生者が出たことだ】

俺の問いかけに、執行人はそう答えた。
まさしくその通りだ。
なぜにあのタイミングで転生者が現れるのか、非常にタイミングが悪い。

【真人、あの海鳴市に転生者が何人いると思う?】
【……わからない】

執行人の突然の問いかけに、俺はしばらく考えたが、答えが出なかった。

【千人だ】

俺は、その答えを聞いて愕然となった。
海鳴市の人口が何人かは分からないが、かなりの数だ。

【その中には静かに暮らしたい、前世での間違いを正したいというごくごく普通の目的を持った者もいる。だが……】
【あの男のように不埒な輩もいる。だろ?】

執行人の言葉を引き継ぐ形で、呟いた。

【ああ、今は也を潜めているが、いずれその牙を出すかは分からない。まあ、出てきても消せばいいだけの話なんだが】

執行人の言うとおりだ。
転生者が出てきても、ただ消せばいいだけの話。
口にすれば簡単だ。
だが、消せば消すだけ考えてしまう。

(転生者は、どうして転生しようとするのか)

それほど死に対して恐ろしいのだろうか?
しかし、転生する時点ですでに死は迎えている。
だとしたら、一体何のために転生をするのであろうか。
それが俺がいまだにわからない疑問だった。
転生者、それは俺達の敵でもあるが、案外、人の醜い部分を映し出した存在なのかもしれない。
転生者の考える多くの事は偽善だ。
人を救えばその陰で悲しむ人がいる。
それを理解せずに、理想像を振りかざす。
これが偽善でないとすれば、それば一体なんなのであろうか?

【さあ、分からないな。考えるだけでも無駄だ。転生者如きの事をいちいち考え無くてもいい】

俺の考えが分かったのか、執行人がそう告げた。
確かに、今の時点では、執行人の意見が正しいのかもしれない。

【転生者の考えを理解しなくてもいい。奴らは世界を汚す塵なのだから】

執行人の言葉に納得する俺は、すでに心が壊れているのであろうか?
しかし、何と言われても今の俺には執行人の言葉が胸にしみるのだ。










そんなこんなで、突然湧いて出てきた出張任務は幕を閉じるのであった。

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