健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第37話 臨時査察

ヴィヴィオが管理局に来てから少し経ったある日。
部隊長室内は緊張に包まれていた。

「いよいよ今日が臨時査察の日や」

はやてが、静かに切り出す。
そう、地上本部の臨時査察の日がやってきたのだ。

「とはいっても、いつも通りにすればいい。後は俺が何とかするから」
「……本当に大丈夫なのやな?」

はやての”大丈夫”は部隊の事ではないことは俺でもわかった。
はやては腹黒いが根は優しい。
おそらく俺の立場を案じてくれているのであろう。
地上本部のスパイの俺が、六課に肩入れする。
それの意味が分かっているからこその心配だろう。

「大丈夫だ。なんとかなるさ」

俺ははやてにそう答えるしかなかった。










機動六課のエントランス。
俺は査察団の人物たちを出迎え、査察の手伝いをする。
それがはやてから言い渡された俺の役割だった。
健司はと言えば、その間の俺の分のデスクワークを代わりにしてくれるとのこと。

(まるで足腰が弱いみたいだ)

ふと、今の自分の姿を見てそう感じてしまう。
一番の原因は、右手にあるステッキだが。
そんな時、ついにオーリス三佐を引き連れた査察団が姿を現した。

「ご苦労様です!」
「………これより、機動六課の臨時査察を始めます」

俺の姿を見ると、先頭に立っていたオーリス三佐はいつもの表情で淡々と事務的に告げると、後ろにいた人たちに指示を出す。
次々と査察団の人が奥の方に入って行く中、オーリス三佐は俺の前に立ったまま動かない。

「場所を移しましょうか?」

その意図を組んだ俺の提案に、オーリス三佐は無言で頷くと俺は人気のない場所へと向かった。










「それで、話は何ですか?」
「山本二等空佐の任務遂行の放棄に関することです」

人気のない場所に移動した俺の切り出しに、オーリス三佐は鋭い視線を送りながら答えた。

「自分も人間です。感情くらいはあります」
「………何が言いたいのですか?」
「つまり、自分の友人を蹴落とすようなことを、俺は平然とするなんてことは出来ないと言う事です」

俺は屁理屈かもしれない意見をオーリス三佐にぶつける。

「なるほど………よく分かりました。ですが私たちは組織です」
「ええ、個人個人で勝手に動いたら組織としては成り立たなくなる。オーリス三佐の仰るとおりです」

人としては正しくとも組織の人間としては、俺のやっていることは間違いだ。
そのことは重々承知だ。
と、その時だった。

「いい加減にしたらどうだ? オーリス・ゲイズ」
「あ、あなたは!?」
「執行人!」

突然出てきた執行人にオーリス三佐は一歩後ずさる。
どうでもいいことだが、彼女は執行人の事が苦手とのこと。

「何だかんだまともな事を言っているようだが、スパイもどきの事をさせるのが任務だとでも言うのか? スパイをすることでこの世界が平和になるとでも言うつもりか?」
「そ、それは……」

執行人の鋭いツッコミに、オーリス三佐は言い返すことが出来ない。
執行人の視線はさらに厳しくなっていく。

「部隊を蹴落とす蹴落とさないも結構。だが、それに真人を……マスターを巻き込むな! マスターは貴様らのくだらない茶番の小道具ではない!!」
「執行人!!」

俺は今にも掴み掛らんとする形相の執行人を止めた。
執行人が俺の事を、マスターと呼んでくれたことにも気づかずに。

「執行人がご無礼を……すみません」
「あ、いえ」

いつもの、彼女からは予想もできないほどに怯えているオーリス三佐に、俺は頭を下げた。

「山本二等空佐の件に関しては、不問といたします。そして新たな任を与えます」
「白々しい、今度は何を――――」

再び忌々しげに口を開く執行人に、俺は鋭くにらみつける。
それを見た執行人は何も言わずに一歩下がった。

「山本二等空佐は、この部隊が解散する時まで、出向を続行する。それが新たな任務です」

オーリス三佐のその任務に、俺は驚きを隠せなかった。
出向の続行、それはつまりスパイ活動はせずにここにいてもいいと言う彼女なりの言葉だった。

「山本二等空佐、この命を賭けてでも任務に当たります」
「私からは以上です」

オーリス三佐は俺の返事を聞くと踵を返す。

「オーリス三佐!」

俺の呼びかけに、オーリス三佐は反応しない。

「ありがとうございます!」
「………」

俺の言葉に、一瞬足を止めるが、すぐに歩き出した。

「本当にお人好しだ。お前は」

執行人は吐き捨てるように言うと、俺に背を向けて歩き出す。










その後、臨時査察は滞りなく終了し、問題点も特に見つからなかったとのこと。
これで、機動六課に訪れた小さい危機は去った。

拍手[0回]

PR

第36話 設立の理由

「どうするんだ? これ」
「……どうしよう」

病院から戻ったは良いのだが、部屋を後にしようとした途端に、俺となのはに足にしがみついて泣き始めたのだ。
フォワード陣なら何とかなるかなと思ったが、それもダメでどうしようかと困り果てていた時、部屋にフェイトとはやてが入ってきた。

「八神部隊長」
「フェイトさん」

スバルとエリオが反応する中、はやての表情は笑っていた。

「いや~、エース・オブ・エースにも勝てへん相手はいるんやね~」
(そんなこと言ってないでこの状況を何とかしてくれ)
【フェイトちゃん、はやてちゃん、あの……助けて?】

笑顔でしみじみと言うはやてと、その横にいるフェイトに俺の心の声を代弁するように、なのはが助けを求めた。

「スバル、キャロ。とりあえず落ちつこか? 離れて休め」
「あ、はい」

泣き叫ぶヴィヴィオにどうすればいいかと戸惑っていた二人ははやての指示に従って数歩下がった。
そんな中、フェイトがウサギのぬいぐるみを片手にヴィヴィオのそばに近づくとしゃがんで目線を合わせた。

「こんにちは~」
「……ふぇ?」

ぬいぐるみを掲げながらフェイトが呟くと、今まで泣いていたのが嘘のように泣き止んだ。

「この子は、あなたのお友達?」
「ヴィヴィオ、こちらフェイトさん。なのはさんの大事なお友達」

なのはの紹介に、フェイトは優しく微笑んだ

「ヴィヴィオ、どうしたの?」
【取りあえず病院から連れてきたんだけど、離れてくれないの】
【懐かれちゃったのかな?】

ウサギのぬいぐるみを操りながら器用になのはに念話で答えるフェイト。

【それでフォワード人に相手してもらおうと思ったんだけど……】
【すいません……】
【良いよ、任せて】

なのはの言葉に、フォワード陣が肩を落とすのを見て、フェイトは柔らかい表情を浮かべながらなのはに言った。

「ね、ヴィヴィオはなのはさんと真人さんと、一緒にいたいの?」
「……うん」

フェイトの問いかけに、ヴィヴィオはしがみついたまま頷いた。

「そっか。でもなのはさん、大事なご用でお出かけしなきゃいけないのに、ヴィヴィオがわがまま言うから困っちゃってるよ? この子も、ほら」
「……うぇ」

ウサギのぬいぐるみを操ると、ヴィヴィオが顔をゆがめた。

「ヴィヴィオは、なのはさんを困らせたいわけじゃないんだよね?」
「……うん」

今にも泣きだしそうなヴィヴィオに、フェイトは静かに語りかける。

【な、何かフェイトさん達人的なオーラが】

それを見ていたスバル達は、念話で驚いた様子で話していた。

【フェイトさん、まだ小っちゃい甥っ子さんと姪っ子さんがいますし……】
【使い魔さんも育ててますし】
【あぁ! それに小っちゃいころのあんた達も知ってるわけだしね】

ティアナの言葉に、エリオとキャロが顔を赤くして縮こまった。
どうやら相当恥ずかしかったらしい。

「だから真人さんと一緒に、いい子で待ってよう? ね?」

そう言うとフェイトはぬいぐるみをヴィヴィオに渡す。

「……うん」
「ありがとね、ヴィヴィオ。ちょっとお出かけしてくるだけだから」

俺となのはの足から手を離したヴィヴィオに、なのはは優しく言うと顔を上げて俺の方を見た。

「真人君、ヴィヴィオの事、お願いね?」
「ああ、分かった」

なのはのお願いに、俺は反射的に答えた。
おかしいと気付いたのは、なのは達が部屋を後にした時だった。

「って! どうして俺がここに残ることになってるんだ!!」

問いかけたい人物がいない方向に、俺はそう叫んだ。
こうして、俺が今からやるべきことが決まったのであった。










そして、はやて達が聖王協会に行っている間、俺はと言えば……

「はい、上り」
「………なぜだ、なぜなんだ」

俺は、凄まじい敗北感に苛まれて理た。
俺は、ヴィヴィオにエリオとキャロの四人で、トランプ遊びをしていた。
だが……

「パパ、またビリだよ」
「ちくしょう!!」

ヴィヴィオの止めに、俺は叫ばざるを得なかった。
ちなみにヴィヴィーが俺の事をパパと呼ぶようになった。
最初はやめさせようとしたが、上目づかいでしかも涙を浮かべられたら頷くしかない。
決してロリコンなどではない!!
それはさておき、俺はすでにトランプ遊びで10連敗していた。

(そう言えば、俺ってトランプ駄目だったっけ)

俺は昔を思い返した。
今の今までトランプ系の遊びで勝ったことなど一度もなかった。
良くてビリの一歩手前だ。
クリスマス会でトランプ系のゲームをした時は、ビリになって罰ゲームをやらせられたのは、いい思い出だ。
まあ、完全に悪乗りしていたのは、アリサとはやてに健司に執行人だが。

「お前、まだ弱いのか?」
「仕方がないだろ! 仕方が!!」

執行人がいきなり横に出てきても、俺は動じない。

「よっ! なんだ、楽しそうじゃないか……ん? これはトランプか………お前、まさかまた連敗か?」
「ああ、そうだ! 文句あるのかこの野郎!!」

火に油を注ぐように部屋に入ってきた健司に俺は半場やけくそで叫んだ。

「お、落ち着いてください!」

それを必死に止めるエリオとキャロ………何だか俺が惨めになってきた。

「む、この子が、話題の少女か。こんにちは」

健司は俺の横にいるヴィヴィオに目を付けるとしゃがみこんで挨拶をする。
対するヴィヴィオはなぜか俺の背後に隠れた。

「怖がられてるな。始めまして、よろしくね」

執行人も笑顔で挨拶をする。
そんな中、ヴィヴィオは俺の服を引っ張った。

「どうしたんだい? ヴィヴィオ」
「パパ……この人たち、怖い」
「「ぐさぁ!?」」

ヴィヴィオの言葉に二人は、酷く傷ついた様子で地面に項垂れた

「お、俺が……怖い?」
「この僕が………」

二人はあまりの衝撃に、ヴィヴィオが俺の事を”パパ”と呼んでいたことにも気づいていない。

「あはは、子供にはわかるようだな。二人が同じだってこと」
「「こんな奴(変態)と一緒にするな!!」」

ここぞとばかりの俺の反撃に、二人は声をそろえて反論した。
ちなみに、変態と言ったのは執行人だ。

「って、誰が変態じゃい!!」
「お前以外にどこにいる!!」

二人は、醜い争いを始めてしまった。

「あーはいはい。喧嘩は表でやって頂戴」
「っく! 執行人、こうなったら決闘だ!!」
「上等!!」

呆れ半分の俺の言葉に、健司は執行人を引き連れて出て行った。

『………はぁ~』

その場にいた俺達はため息をつくことしかできなかった。

「……?」

ただ一人、首を傾げているものもいたが。
そして、俺達はトランプゲームを続行するのであった。










………結局この日、俺の敗北数は15回となり、総敗数が100回となったと言うのを、ここに書き記しておこう。

拍手[0回]

第35話 少女との出会い

「申し訳ありません!」
「状況はどうなってますか?」

病院に到着した俺達を、シャッハさんが慌てた様子で出迎えて来た。

「はい、特別病棟とその周辺の封鎖と避難は済んでいます。今のところ、飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていません」
「外には出られないはずですよね?」
「はい」

現在の状況を聞いたなのはは、シャッハさんに訪ねた。

「でしたら手分けして探しましょう。シグナム副隊長」
「はい!」

そして、俺達は逃げてしまった少女を探すこととなった。










俺は今、中庭の方に来ていた。

(ここもいない……か)

大概こういう場所に隠れていたりするのだが………

(それにしてもシャッハさんの対応は大げさすぎじゃないか?)

俺はあたりを見回しながら心の中でぼやく。
いくらなんでも相手は子供だ。
それをまるで重犯罪者の様な対処と言うのは、いかがな物だろうか。
そんな事を考えていた時だった。

「………ッ!?」

突然草むらから音がし、驚く俺の前に一人の少女が飛び出してきた。
その少女は、金色の長めの髪に目の色はオッドアイ、水色のワンピースタイプの服を着ていてウサギのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
そして明らかに警戒した様子で俺を見ている。
俺はなのはに念話を飛ばす。

【なのは、中庭にいた】
【了解、すぐに行くから待ってて!】

取りあえずなのはに報告を済ませた俺は、少女に話し掛けることにした。

「こんなところにいたんだ」

この時に、笑顔で接するのを忘れない。
少しでも警戒心が取れればいいのだが……。

「勝手にいなくなったら、みんなが心配しちゃうよ?」
「………」

俺の言葉に、少女は何も答えないが警戒心は少しだけ弱まったような気がしたので、俺はゆっくりと少女の元に歩み寄る。

「うわ!?」

その時、俺と少女の間にデバイスを構え、バリアジャケット姿のシャッハさんが現れた。
その速度に、俺は驚いてしまった。

「あ……ああ……」

それは少女も同じだったようで、 怖がった様子で後ずさりをしている。

「あ、山本二等空佐……それにシスターシャッハ?」

急いでやってきたなのはは、その状況に固まっていた。
視線を名の刃から少女の方に戻すと、今にも泣きそうだった。

「シャッハさん、ちょっと下がってください」
「ですが! この子は――――」
「下がっていてください、ね?」

俺は執行人から教わった、万弁の笑みで殺気を放つ方法を実践してシャッハさんにお願いした。
シャッハさんは、慌てた様子で横に移動してくれた。

(ちょっとやりすぎたかな?)

俺はちょっと反省しつつも、今は泣き出しそうな少女の方を優先する。

「はい。大事な物でしょ?」

俺はしゃがみこんで少女の目線に合わせると、地面に落ちているウサギのぬいぐるみを少女に渡した。

「立てる?」

そして俺の横に移動していたなのはが、少女に優しく尋ねる。
それを聞いた少女はゆっくりと立ち上がった。

「はじめまして。俺は、山本真人。それで、こっちのお姉さんは……」
「高町なのはって言います。お名前、言える?」
「……ヴィヴィオ」

少女は俺となのはの顔を交互に見ていくと、小さな声で名前を呟いた。

「ヴィヴィオ……いいね、可愛い名前だ」

名前を聞いたなのはがそう言っていると、一緒に探していたシグナムさんが遅れてやってきた。

「ヴィヴィオ、どこか行きたかった?」
「……ママ、いないの」

寂しげでどこか不安げなヴィヴィオの声に、なのはは一瞬息を飲んだ。

「ああ、それは大変。じゃあ、一緒に探そう?」
「……うん」

なのはの言葉に、ヴィヴィオは静かに頷いた。










その後、検査の結果異常なしと言う事で一時的に機動六課で保護することになった。
こっちの方の問題は一応解決した。
だが、もう一つの問題が残っていた。
それは……

「あの」
「はい?」

俺は謝罪をしようとシャッハさんに声をかけた。

「先ほどはすみませんでした」
「あ、いえ。私も少々大人げなかったので……ところで」

突然話題を変えたシャッハさんに、俺はどうしたんだろうと内心で思った。

「貴方のお名前、伺ってもいいでしょうか?」
「あ………」

俺は、まだシャッハさんに自己紹介をしていないことに今気づいた。
この後、俺は自己紹介をすることとなった。

拍手[0回]

第34話 臨時査察と選んだ道

突然起こった戦いと、謝罪の翌朝。

「ん……」

俺はいつものように”暗闇”の中で目覚めた。
だが外から聞こえる小鳥のさえずりが、今が朝であることを告げていた。

「着替えるか」

俺はベッドの横にあるステッキを手にして立ち上がると、手探りで服をしまってある棚の方に向かう。
ここに来てからもうかなりの日数が経ったこともあり、この部屋の構造は手に取るようにわかるようになった。
服も次の日に着る物を左端に掛けておけばいいだけの話なので、特に問題はない。
そして、俺は制服に着替えるのであった。










「通信………誰からだ?」

着替え終えて少しした時、誰かから通信が掛かってきたことを告げるアラームが鳴った。
さすがに目が見えない状態で通信相手が分かるほど、俺はエスパーではないため目に魔力を通して視界を回復させた。
そしてすぐさま相手を確認する。

「オーリスさんから?」

俺はいよいよかと思い通信に出た。

【おはようございます、山本ニ等空佐】
「おはようございます、オーリスさん」

俺はいつものように挨拶を返す。
オーリスさんの表情はいつもと同じだった。
……いや、少しばかり怒りが見える。

「ご用件は何でしょうか?」
【現在、そちら機動六課への査察の準備をしています。近い内に臨時査察に向かいます】

オーリスさんの用件に、俺は一瞬何のことだったのかが理解できなかった。

「な!? なぜ臨時査察を! それでは自分を派遣したのに、意味がありません!!」
【貴方からの報告がないからです。報告がなければ派遣してないも同じ。貴方の任務不履行については後程じっくりと尋ねさせていただきます。それでは】

俺の意見に、オーリスさんは静かにそう答えるとお辞儀をして通信を切った。

(これはまずいことになったな)

俺はそう思うや否や、すぐに自室を後にした。
向かうのは部隊長室だ。










「はやて!」
「うわ!? どうしたんや、朝っぱらから」

突然部隊長室に入った俺に、はやては驚いた様子で用件を尋ねてくる。

「落ち着いて聞いてくれ。地上本部の方で、ここの臨時査察をする動きが出ている」
「それはほんまなんか!?」

俺の言葉に、はやては驚いた様子で席を立ちあがりながら聞き返した。
それに俺は頷くことで答えた。

「いつやるかは分からないけど、対策は立てておいた方がいい」
「分かった……ありがとな」

俺の意見に、はやては頷くとお礼を言ってきた。

「それでは、これで」

俺ははやてに一礼し、部隊長室を後にした。

(もうこれで後戻りはできない)

はやてに情報を渡した時点で、もう俺には退路はない。
だが、もう後悔しないと誓ったんだ。
だから、俺は選んだ道を歩き続ける。
そんな覚悟を胸に歩いていた時、目の前の通路をシグナムさんとなのはが通りすぎるのが見えた。

「なのは、シグナムさん」
「あ、真人君」
「山本か、どうした?」

俺の声に気付いた二人が俺の方に振り返った。
なのはは柔らかい笑みを、シグナムはいつもの表情だった。

「二人とも、どこへ?」
「私達は昨日保護した女の子の様子を見に病院に行く所」

俺の問いかけに、なのはが答えた。

「あの、俺も一緒に行っていいか?」

昨日保護した女の子の事が少し気になっていた俺は、二人にそう聞いた。

「うん、良いよ。良いですよね? シグナムさん」
「ああ、私は構わない」

こうして、俺達は病院へと向かうことになったのであった。










「すみません、シグナムさん。車出して貰ちゃって」
「何、車はテスタロッサからの借り物だし、向こうにはシスター・シャッハがいらっしゃる。私が仲介した方がいいだろう」

病院に向かう中、なのはの謝罪に シグナムは早期にするなと言う様子で答えた。
俺もなのはも車の免許は取っていない。
俺の場合は目が不自由なのと下半身不随のため、取得資格もないのだが………まあ、それは関係ないからおいておこう。

「しかし……検査が済んで何かしらの白黒がついたとして、あの子はどうなるのだろうな?」
「あー………当面は六課で預かるしかないと思いますね」

先ほどとは違いやや真剣そうな雰囲気でのシグナムの問いかけに、なのはが答えた。

「受け入れ先を探すにしても、長期の安全確認が取れてからでないと……」
「何だか難しいな」

俺は思わずそう呟いてしまった。
そんな時、突然通信が入った。

「騎士シグナム! 聖王教会、シャッハ・ヌエラです!」
「どうされました?」

画面に映し出された紫色の短髪の女性……シャッハさんに、シグナムは用件を尋ねる。

「すいません、こちらの不手際がありまして、検査の間にあの子が姿を消してしまいました」

それは俺達に緊急事態を告げる物であった。

拍手[0回]

第33話 謝罪

「はぁ………はぁ……」

走っていた俺は、ようやく部隊長室前へと到着した。
俺は息を整えながらもう一度覚悟を決める。

(よし!)

俺はドアの横にあるブザーを鳴らす。

「八神部隊長、山本です」
「どうぞ」

はやての返事を聞いた俺は部隊長室に入る。

「真人君、どうしたの?」
「何の用や?」

部隊長室になのはやフェイト、はやてにシグナムさん達隊長、副隊長陣全員がいた。
どうやら、今日の事で話し合いをしていたようだった。
そんな事を考える余裕は俺にはなかったため、俺は一歩前に出ると土下座をした。

『え!?』
「申し訳ない!!」

俺の突然の行動に全員が驚いたような声を上げる。
だが、俺は土下座を続けた。

「ど、どうしたんや!?」
「俺、今までみんなを騙してた。………本当にすまない!」

突然の事に慌てるはやてに、俺は土下座したままだましていたことを告げた。

「と、とりあえず土下座はええから、頭あげてな」
「そ、そうだよ」

俺ははやてとなのは達によって頭を上げさせられた。










あれからしばらく時間が経ち、長い沈黙が部隊長室で続いていた。
その沈黙を断ち切ったのは、はやてだった。

「ほんで、さっきの騙していたと言うことについて説明してもらおか」
「………」

はやての直球の問いかけに、俺は一瞬逃げたくなったが、すぐにその考えを振り払い俺は答えた。

「俺がここに来た理由は、はやて達の考えている通りだ」
「つまり、本局からのスパイ………と言う事か?」

俺の答えに、はやては鋭い視線で俺を見ながら予測したことを答えた。

「ああ」

そのはやての推測を、俺は肯定した。

「向こうの指示は、この部隊のメンバーの調査と、どうして設立されたかの理由を調べよと言うものだった」
「なるほどな………」

俺の告白に、はやてはそう呟き、他のメンバーは無言で俺を見ていた。

「一ついいか?」

突然そう切り出したのは、シグナムさんだった。

「なぜいきなり私たちに本当のことを言う気になったのだ?」

シグナムさんの的を得た問いかけに、俺は正直に答えるべきかどうか迷った。
と言うのも、理由を言うのが恥ずかしいからだが。

「私も聞きたいかな、どうして突然本当のことを話すようになったのか」
「………」

(何も知らないが)当の本人からの要望に、俺は答えることにした。

「なのはの彼氏になったのに、俺はなのはや仲間を騙しているのに耐えられなくなった。それだけだ」
「あ、あぅ………」

案の定なのはは顔を真っ赤にして、はやては獲物を見つけたような目で俺となのはを見て、フェイトは『おめでとうなのは』と純粋な気持ちでお祝いを送っていた。
ちなみにシグナムは顔を赤らめて恥ずかしがっており、ヴィータはそっぽを向いていた。

「ほぅ、なのはちゃんも中々やるね~」
「うぅ~………真人君の馬鹿」

はやてのからかうような言葉に、なのはは顔を赤くしながら俺に言ってきた。

「いやいやいや! なのはだって聞きたいって言ったでしょうが!!」
「それでもだよ!」
「はいはい、そこまでや。まだ私の話が終わっとらんで」

はやての一声で俺となのはの言い合いは終わった。

「ほんで、真人君は今もそれを続けておるんか?」
「いや、ホテル・アグスタ以降はしてない」

はやての問いかけに、俺は正直に答えた。
アグスタの任務報告からは、俺はスパイ活動をやめたのだ。

「そんなのウソに決まってる!!」
「いや、本当や。もし報告をしていたら今頃機動六課(ここ)はただではすんではいないはずや」

ヴィータの言葉に、はやては冷静に反した。

「本当にすまなかった。まさかここの部隊長がはやて達とは知らなかったんだ」
「それだったら仕方ないの……かな?」

俺の謝罪にフェイトが首を傾げた。
仕方がなかった………では済まされないだろうな。
はやて達の感情で言うと。

「さて、真人君をどないしようかな」
「今後、この部隊の諜報活動はしないと誓う。だから信じて……とは言えないけどせめて許してほしい。この通りだ」

俺はもう一度はやて達に頭を下げた。
そしてはやての答えを待つ。
この時ほど時間の流れが遅くなったのは初めてだ。

「まあ、ええやろ。その代り……」

はやてはそこまで言うとにやりと微笑んだ。
その表情を見て嫌な予感がした。

「私の言う事を、何でも一つだけ聞くのが条件や」
「………分かった」

俺は嫌な予感を感じつつも、頷いた。
まあ、元々俺には拒否権はないが。

「だったら、せやな……にゅふふ」

はやては突然笑い出した。

「せやったら、真人君は今ここでなのはちゃんとキスをするんや!」
「ふぇええええ!?」

はやての言葉に、なのはが大きな声を上げて驚く。

「な、なななな何を言ってるのはやてちゃん!?」
「これも罰や。観念せえや」

慌てふためくなのはに、はやては肩に手を置いて切なげに告げた。
だが、そのはやての表情は全く正反対の意味が読み取れた。

「なのは」
「なに? ……んむ!?」

俺は振り返ったなのはに不意打ちでキスをした。

「ん……ちゅ」

しばらくそれを続けて俺はゆっくりと離れた。

「あ………ぁ………ぁ」

なのはは放心状態だった。

「いや~これは面白………いい物を見せてもろうたわ」
「あ、あれがキスなんだ……」
「な、なんとふしだらなんだ!!」

はやてはものすごく良い笑顔で、フェイトは顔を真っ赤にして両手で目を隠していたが、ちらりちらりと見ていた。
シグナムは顔を赤くして今にも飛び掛からんとしていたが。

「真人君と、はやてちゃんの………」

我に返ったのか、なのはは俯いて両手を震わせていた。

「ばかぁ~!!!!」
「「ぎゃあああああ!!」」

この後、俺とはやてはなのはによって地獄を見せられることとなった。
その時の事を一言で言うのであれば………そう、まるで魔王のような恐ろしさだった。

拍手[0回]

カウンター

カレンダー

07 2025/08 09
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R